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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
22/57

第21話:そしてプロローグに戻る

 家の裏には庭のように広い空間があり、私達は庭の真ん中に行き、ヤン婆は端に寄った。


「ヤンディール様、お願いします」

「ああ」


 ヤン婆がぶつぶつ呟いている。だけど声が枯れているし小さいからよく聞き取れない。呪文か。しばらく呟いていると地面に魔方陣が現れ光り始めた。どんどん強くなっていき私達を覆うくらい大きくなると、ヤン婆の姿が見えなくなり、一瞬で視界が切り替わった。私は気がつけば石造りの部屋の中にいた。

 すげー…もしかして瞬間移動?全然移動した感覚が無いのに違う場所にいるって不思議な感じだ。だけどするなら目を閉じてからしたいかな。ちょっと目がチカチカする。部屋の中には警備兵のような騎士2人がいた。普通の騎士よりも見た目がシンプルだからそんなに偉くはないのかな?ていうかそんなにそんなに強くなさそう。


「ご苦労様です」

「ああ。バルフによるイセア襲撃の容疑者だ。最下牢に連れて行く」

「…了解しました」


 警備兵は急に緊張した面持ちになった。最下牢ってそんなにやばいとこなんですか?…まぁいいや。行かなきゃ分かんないし。



 私達はしばらくくねくねした石の廊下を歩き、何度か階段を下りていった。道は暗かったが、私達が歩くと通る時に明かりがつき、通り過ぎると明かりが消えた。エコだね。ここじゃ関係ないか。石だし。

 幾つかの牢屋の前を通り過ぎ、歩き続けると重たそうな鉄のドアの前に辿り着いた。すごい頑丈そうなドアだな。中に入るとさらに下に降りる階段があって、その先にまた鉄のドアがあり、そこを開けるとようやく牢屋があった。牢屋は厚い鉄の格子に囲まれているので、力ずくで逃げ出す事は不可能だろう。

 かなり厳重だなぁ…。これじゃあ逃げる気もなくなるね。まぁ元から逃げる気はないけどさ。だけどこの牢屋、入り口が無い。普通だったら必ず格子にドアがあるはずなのにこの牢屋には無い。どうやって入るんだ?不思議に牢屋を見ていると、私の左隣にいる黒騎士が団長に言った。


「なぁガイシス、こいつの見張り番はオレにやらせてくれよ」

「マーリンド」


 なんだこいつ偉そうだな。まだ若そうなのに。何ていうか雰囲気が高校生くさいんだよな。ガイシスって団長の事だよね?平が上司に向かってそんな口調で良いのか?野球とかの厳しい部活だったらぶん殴られるぞ。


「オレなら申し分ないだろ?」

「確かにそうだが…」

「じゃあオレがやる」

「だがお前は‥」

「大丈夫だって!心配すんなよ」


 黒騎士がへらへら明るく言うと、団長は大きく溜息を吐いた。


「分かった。じゃあ見張りはお前に任せる」

「おう」

「いいのか?ガイシス」


 今度は私の右隣にいる黒騎士が言った。…この騎士団って上下関係無いの?


「こいつは言い出したら聞かないだろう」

「それもそうだな」


 団長と騎士がやれやれといったように見張り番をする騎士を見た。この騎士はマイペースというか自己中なんだな。色々と諦められてるっぽい。


「じゃあ決まりな」


 そう言うと番人係を引き受けた騎士は私を引っ張り牢屋の前に連れて行き、牢屋の格子の一本を掴むと小さな声で呟き始めた。至近距離だったので、今回は何を言っているのか聞くことが出来た。


「オレが番人ダ。オレ以外のなニ者にもローに入った者を逃ガス事はデキない。そシてオレの許可なク逃ガスことは許サない。ひラケ、キョーこなるロー獄よ」


 …は?何こいつ。素面で何言ってんの?君は中二病なの?そして何で若干カタコト?外人だからか。だけど今まで普通に喋ってたよね。今更外人ぶられても…。

 痛い台詞を言った後に、牢屋の格子から手を離すと、最初に触れた格子から順番に広がるように消えていった。

 えぇ~、あれで開くの?これは恥ずかしいだろう!ていうか痛い!痛すぎる!!…だけどここは異世界だもんな。私、呪文必要なくて本当に良かった。


「ほら入れよ」


 返事を聞かずに番人係の騎士は私を牢屋の中に引っ張り込んだ。そして騎士は私を離すと麻袋を引っ張った。

 ちょ、急に引っ張んないでよ!!本当にフリーダムだなお前!


「うぅ‥」


 あー‥外れた。髪ボサボサになったけどちょっとスッキリ。マスクしている時と同じで何となく息苦しいんだよね。


「お前…」

「どうかしましたか?」

「いや‥ん?お前耳にピアスか?」

「あ、はい」

「ふーん…」


 『ふーん…』って何だよ。自分で話題振っておいて『ふーん…』で終わらせるなよ。騎士は私の耳についているピアスを触ったりして観察していた。出来れば触って欲しくないんですがね。騎士は一通り観察すると離してくれた。そして騎士が牢屋から出ると自然と先程消えた格子が現れ私を囚えた。自動ドアか。


「ルーカス、もういいぜ」

「ああ」


 番人係の騎士が先程私の右隣に居た騎士に合図すると、私の両腕を拘束していた手錠のような物が消えた。外れてもまだちょっと痺れが残ってる。私が両腕を見ていると、今度は両手首に鎖につながれた枷が表れ始め、姿を完全に現れると重さを感じた。両足にも繋がれている。何で?!


「お前には一晩ここで過ごしてもらう」

「え?」

「先程お前の事を陛下にお伝えしたら陛下との謁見を許された。今夜はもう遅いので明日の午前に陛下と謁見してもらう」

「そう‥ですか…」


 そんな簡単に王様に会えるのか!一般庶民が王に会えるとか滅多にないよ!!えぇー‥。何を話すんだよ。申し訳ないが私は特に話す事ないよ。


「あの、陛下と謁見と申されましたが、一体どのような事をお話すればよろしいのですか?」

「陛下の質問に答えろ。そして真実を話せ。その答えによってお前の処罰が決まる」

「そうですか」


 はぁ…。だよねやっぱり。真実を話せといわれても…話したくないよー!異世界から来ましたなんて信じるわけないし!私だって初対面の人に『私は宇宙人なんです』とか言われたら、ラリってると思うし。


「以上だ。マーリンド、後はまかせた」

「おう」

「あのっ!一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」

「何だ」

「私はもうイセアに戻る事は出来ないんですよね?」

「……」

「ラウム家に私の荷物があります。それを持ってきていただけませんか?」

「何故だ」

「あそこにあっても必要ないでしょう?それにあれを形見のように扱われるのが嫌なんです」


 半分ホントで半分ウソ。あれを残しておくことで皆が私の事を思い出して辛い思いをされるのも嫌だけど、本当はバッグの中にケータイとかmp3とか入ってるんだよ。それを見つけられるとヤバイと思うし。バッグ自体は見つかっても大丈夫な様に布に包んであるんだけどさ、中身見られたらアウトだ。


「お願いします」

「分かった。後で連絡をとってそれをこちらに持ってきてもらおう」

「有り難うございます」


 この団長って何気に融通が利くよね。厳しいけど優しい感じがするし。良い男だな。


「だが、荷物はこちらで中身を確認してから処分する」

「え?」

「以上だ」


 それだけ言うと見張り番以外の騎士達は出ていってしまった。そんな団長ー!酷いよ!!さっきの優しさを見せてくれよー!!鉄のドアが閉まるのを見ると、私は溜息を吐きと、牢屋の壁際に座った。

 これも仕方ないことか…。警察だって家宅捜索で荷物を押収するもんな。うーん、どうしよう…。あ、魔法だ。強くイメージしたら中身を見られないように出来るかも!どんなイメージにしようかな…。よし、私が触れなきゃ布が取れないようにしよ。うーん、石でいいや。カチコチで開かない、みたいな。そうすれば無理やりぶっ壊して開けようとしても開かないだろうし。私は体操座りをしながら俯いて念を送った。バッグよー、布よー、石になれー。…『デューロ』とか言うべきですか?よし、もういいかな。


 謁見ってどんな感じになるんだろう?質問されるのは別にいいんだけど、ちゃんと答えなかったらどうなるんだ?拷問とか尋問されるのかな…。痛いのは嫌だな‥。それならいっその事すぱっと殺してくれ。どうせ異世界から来ましたなんて言っても誰も信じないでしょ。今までそんな人はいないってレイが言ってたし。そうなると私は死刑になるのか?

 だけど私ってここで死んだらどうなるんだろう?死んだら元の世界に戻れるとかそういうオプションだったりして。だけど戻れなかったら死ぬんだよね。…まぁ、それならそれでいいか。



「おい」


 ぼーっと考え事をしていたら見張り番の騎士が声を掛けてきた。


「‥何ですか?」

「お前は何でそんな容姿をしているんだ?」

「はい?」

「だから何でそんな容姿をしてんのかって言ってんだよ」


 騎士は椅子の腕で腕を組み、話しかけてきた。だけど別にそんな高圧的じゃなくて普通にこの人の性格っぽい。いかにもやんちゃ系。


「何でって言われても…生まれつきだからです」

「はぁ?」

「だってそうでしょう?逆に貴方は聞かれたら何て答えるんですか?」

「え?そうだなぁー…生まれつきだな」

「でしょう?」


 騎士は腕を組んだままうーんと唸ってる。この騎士結構アホっぽいな。親近感があるわ。


「じゃあ親はどうなんだ?」

「私にとっては『普通』です」

「普通?」

「はい。普通なんて概念はそれぞれ基準が違うでしょう」

「…じゃあお前はその『普通』の親に似てる訳?」

「そうですね、目が父似で口元が母似です」

「じゃあ髪色も親に似てるのか?」

「えぇそうです」

「ふーん…」


 似てるって言っても黒髪だけどね。日本人だったら頑張ってもちょっと茶色っぽいくらいにしかならないし。お父さんは少し茶色がかってたけど、お母さんが真黒。それが私に遺伝したから、髪を染めた時はお父さんがショック受けてたなぁー。特にお父さんが。それはそれで面白かったけど。

 騎士は頭の後ろに腕を組み、ゆっくりと私の方へ近づいてくると、しゃがんで牢屋越しに私をじっと見てきた。


「お前はさー、皆と違う外見で嫌じゃねぇのか?」

「うーん、好奇な目で見られるのは嫌ですね」

「やっぱり嫌なんだ」

「そうですね」

「…じゃあ、親を恨んだりしなかったのか?」

「それは無いです」

「何でだよ」

「だって親だって私をこういう風に生みたくて生んだんじゃないんですから。自然に授かったんですよ。それに私を大切にしてくれました。だから生んでくれた事には感謝しています。ただ…」

「ただ?」

「…生まれてきて迷惑を掛けた事には常に申し訳なく感じています」

「…………」



 特に病気になってからはひしひしと感じている。常に心配をかけているし、私の居ないところで泣いていることも知ってる。お母さんは『こんな風に生んでごめんね』と泣いて謝ってきた。私のほうが謝りたかった。好きな人との間に授かった子供なのに、こんな風に生まれて、迷惑をかけてごめんなさい。精神的にも経済的にも負担を掛けてるのに、それでも私が退院するたびに嬉しそうにおいしい物を食べさせてくれたし、やりたい事をやらせてくれた。そんな優しい両親に…私は迷惑を掛けてばっかりだ。何も出来ない自分が悔しかった。



「泣くなよ」

「え?」

「泣くなよ」

「…泣いてませんよ」


 気がつけば私は俯いてた。騎士は私が泣いていると思ったらしい。目は潤んでるけど泣いてないよ!


「そうかよ。けど泣くなよ!オレが泣かしたみたいになるだろ」

「そうですね」


 騎士なりの気遣いに思わず顔が綻んだ。この騎士も何だかんだで優しいね。騎士の方を見ると、騎士がぽかーんと私を見ていた。…なんか久しぶりのぽかーんだな


「どうかしましたか?」

「え?!いや、別に!!…お、お前初めて笑ったよな!」

「へ?あぁ、そう…ですね」


 確かに騎士たちの居るところでは笑ってないな。ていうか笑うところ無かったし。アンヌに向かって笑ったけど麻袋を被ってたからなぁ。見えないわな。


「変、ですか?」

「は?そうじゃねぇよ。ただ女は笑ってた方が良いんだよ!」

「まぁ‥そうですね」


 確かに女の子の笑顔はかわいいな。めざ●しの愛ちゃんの笑顔なんか朝からかなり癒される。私の笑顔なんて冷笑がほとんどだけど。


「だけど私の笑顔は今日で見納めですよ」

「え?」

「明日私は死刑になるんでしょう?」

「…それはまだ分からねぇだろ」

「そうですね。だけどどっちにしろ良い事は無さそうです」

「……」


 そこから騎士は黙ってしまった。


「だけど最後に騎士様と話せて楽しかったですよ」

「…お前さぁ」

「はい?」

「死ぬのが怖くないのか?」


 怖い、かぁ…。


「そうですね。少し怖いです。だけど…このまま生きているよりかマシです」

「何でだよ。お前生んでくれた事に感謝してるって言ってたじゃねぇか」

「ええ、そうですね。感謝はしています」

「じゃあ何で…」

「生きる理由が、意味が無いからです」

「え?」

「私にはもう大切なものは何もありません。だったら生きている意味もありません」

「……」

「それに、死んだらどうなるのか興味があります」

「興味?」

「はい」

「どんなんだよ」

「…内緒です」


 元の世界に戻れるか、なんて言えないよ。


「何だよ教えろよ!」

「だめですー」

「何でだよ!!」

「えー?女は秘密を着飾って美しくなるものなのだからですよ」

「はぁ?何だそれ」

「とある方の格言ですね」

「…お前喋る気ないだろ」

「はい」

「ていうかお前なんでオレのときは敬語で喋らねぇんだよ」

「そうですねー、親近感があるからですよ」

「…そうかよ」

「はい」


 にこにこと笑顔で答えると、騎士は溜息を吐いて椅子に戻っていった。



「はぁ…」


 思わず溜息が出る。そりゃ牢獄の中いきいきしてる人なんていないよね。動くと手足に着けられた重たい枷が鳴る。これを見ると改めて自分が捕まってるんだなぁって思う。別に悪いことしてないのに。

 冷えた牢獄の壁に凭れかかると、格子つきの窓から覗く月を見た。満月じゃないけど綺麗な月だなぁ…。 私はいきいきしてないけど、鬱々もしてないのさ。まぁ、なるようにしかならないよね。お迎えが来るまでのんびりと待ちますか。




 そういえばここって地下だよね?なのに何で月が見えるんだ?


「すみません騎士様」

「…なんだよ」


 なかなか子供っぽいなー。拗ねちゃってるよ。


「ここって地下ですよね?」

「それがなんだよ」

「なぜ地下なのに月が見えるのですか?」

「あー、それはこの牢獄に入ってるやつの精神安定のためだ」

「へぇー」


 確かに一人でずっとこんな所に押し込められてたら気が滅入ってラリッちゃう人がいてもおかしくないか。


「そうなんですか」

「ああ」

「月、綺麗ですね」

「そうだな」


 私は再び窓に目を向けると、最後になるであろう月を目に焼き付けた。







 一応伏字&元ネタ解説

・デューロ-ハリポタで使われた物を石化させる呪文。

・め●まし-朝のニュース番組。

・女は秘密を着飾って…-某探偵マンガに出てくるキャラクターの口癖。A secret makes a women women.


 分かりにくいものがあったらすみません;;


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