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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
20/57

第19話:ようやく来たか!

この話には若干グロテスクな表現が含まれています。苦手な方はご注意下さい。



 本当は、怖い。

 心臓はドクドクと脈打つ音がやたらよく聞こえるし、緊張で体も少し震えている。だけどみんなのためにもやらなくちゃ。ただ騎士団が来るまで引きつけていればいい。元から私はここにいなかった存在だから死んでもいいの。今までだって迷惑ばかり掛けてきた。だからそう、死んでもいいの…。

 私は自分に言い聞かせた。死んでもいいと思うと、だんだん気持ちが落ち着いてきた。今なら何でも出来そうな気がする。開き直りってやつか。よし、やるぞ私。

 気合いをいれて前を見ると、低い唸り声と赤い目が暗闇の中でぎらついていた。


「さぁ、来なよ。クソ犬野郎」


 私はニヒルに笑って挑発した。口が悪いのはご愛嬌。もうこれは直んないんだよね。直す気もないけど。巨大バルフは挑発が分かったのか知らないが飛びかかってきた。


「ほらほらこっちだよ!」


 巨大バルフは唸り声を上げながら私を捕まえようとしている。私は村に近づけないように、やつの周りをうろちょろして気を引くことにした。うろちょろする私を捕まえようとするが、私はそれをふわりと交わす。今回のイメージは『羽』。必死に掴もうとすればする程、羽は手をすり抜けてしまう。力ずくで私を捕らえようとする巨大バルフには、私を捕らえることは出来ないだろう。

 だんだん魔法を使う事になれてきた気がする。呪文を唱えなくてもイメージするだけで魔法が使えるなんて便利だよね。普通だったら必死で避けてるところだろうけど、今の羽のイメージではあんまり体力を使うことがないからかなり楽だ。ふわふわふわふわと勝手に避ける。

 傍から見たら犬が一匹でおもちゃで遊んでるみたいな状況だね。巨大バルフもかなり必死だし。さすがチート。ほーれ捕まえてみなさーい。





 かれこれ10分になるかな?体感だから分からないけど結構長い間こいつの相手をしていると思う。だけど騎士団はなかなか来ない。

 何してんだよ騎士団。そんなんで国の平和は守れるのかよ。ていうか早く見たいんですけど。やっぱりヨーロッパっていったら騎士で、日本だったら忍者と侍でしょ。ここまできて来ないとかマジありえないからね!


 余裕こいて考え事をしていたら、巨大バルフは私を捕まえられない事に痺れを切らしたらしく、大きく唸ると私に向かって思いっきり炎を吐き出した。


「うわぁっ!!!」


 危ねぇー!!羽みたいにしておいて良かったー!

 巨大バルフは炎を吐き出したが、熱風も強かったので私は吹き飛ばされて炎が当たることはなかったのだ。だが炎は周りの木々に燃え移ってしまった。うわーどうしよう…。これはマズいぞ。熱いし周りに広がったら危ないじゃん!

 私が考えている最中にも巨大バルフは炎を撒き散らしながら捕まえようとしている。かーなーり不機嫌だね。だけどちょっと鬱陶しいな‥。

 私はジャンプすると巨大バルフも一緒にジャンプした。だけど私はそのまま空中に留まったので届かない。私がさらに届かない場所に移動したため、巨大バルフはより大きな炎を吐きまくって大暴れし始めた。そのせいでより広範囲に炎が広がってしまい、この短時間でもう半径500mくらいに広がっている。このままではみんながいる方にも燃え広がってしまうだろう。

 …もしかしなくともこれは私のせい?やばいな。何とかしないと。まずはこれ以上広がらないように消火を…て、ん?


 燃え広がっていく炎を目で追っていると、光っている何かが移動している。

 …もしかして騎士団!?ようやく来たのか!来るの遅ぇよ!!あれ、なんか光りが分裂した。‥どうやら消火係と退治係に別れたっぽいな。片方のグループが炎をちまちま消し始めて、もう片方はそのままこちらに向かって進んで来ている。だけどそのまま来るのは危ないよ。焼け死ぬ。それでも平気そうにしているって事は魔法を使ってんのかな…。こういう時魔法は便利だね。騎士団なのに魔法ばっかり使って…ハリ●タか。

 彼らが巨大バルフを退治してくれるなら、私は燃え広がっていく炎の消火をしよう。今のペースを見る限り、消火係の騎士たちでは時間が掛かってしまうだろう。

 どうやって消火しようかな…。火事って言えばやっぱり水かな。大量の水を一気にぶっかければ大丈夫か?けどそれじゃ今度は水害になるか。騎士達が水流に巻き込まれたら、彼らが危ないし。うーん‥じゃあ凍らすか。そうすれば彼等が水流に巻き込まれることは無いだろう。属性的にも火の反対は氷だからね。氷をイメージしなきゃ。イメージはそうだな…『瞬間冷凍』。

 私は周りの炎を見渡し、目を瞑った。

 一瞬で冷凍するんだ。炎だけを。


 ゆっくりと目を開けると、今まで燃えていた場所に炎は無く、焦げて黒ずんでいる痕があった。やった成功!!これでひとまず安心だ。

 私は胸をなでおろすと再び周りを見渡した。騎士団の人達の方を見ると、どうやら戸惑っているようだった。まぁいきなり周りの炎が消えたらビックリするよね。だけど消えた理由が私だと知らない…というかまだ私の存在に気付いてない。

 …まぁいいや。私の事に気付いて揉めるの嫌だし。遠くで最後まで見届けたらヤン婆の家に行こう。私は気付かれないように更に高い場所に浮上した。高さは大体ビルの5階くらいの高さだ。見守るならこれくらいが一番見やすい。


 巨大バルフの方を見るとさっきのように暴れ回っていなかった。急に炎が消えた事に対し警戒しているようだ。炎が消えた事により見通しが良くなったので、騎士団が正確に巨大バルフの位置を捉えた。数人の騎士達が走り出すと明かりと殺気に気付いたのか、巨大バルフも騎士団のいる方角へと体の向きを変えた。

 巨大バルフの元へと辿り着いた騎士達は、果敢に切りかかるが巨大バルフは攻撃が当たる前に騎士たちを凪ぎ飛ばした。そして次から襲い掛かってくる騎士たちに向かって炎を吐き出した。うわー大丈夫かなぁ…あ、大丈夫だ。

 炎が当たったので焼け焦げてしまうんじゃないかと思ったが、魔法が施してあるのかそんなに酷い火傷には至らなかったようだ。また巨大バルフが追撃をしようとした時、数本の氷柱が飛んできてやつに刺さった。おぉー!初ヒット!!

 後から追いついてきた消火係の騎士たちと合流した。騎士達は黒い鎧と白い鎧の騎士と2種類いた。うむ、黒騎士と白騎士か。やっぱり能力が違うのかな?

 黒騎士がバスケットボールくらいの大きさの炎の玉を飛ばすとそのまま巨大バルフに突っ込んでいた。巨大バルフはそれを尾で払い退けると、向かってきた黒騎士に炎を吐きかけた。黒騎士は炎に怯まずそのまま突っ込むと、淡い黄色の光を纏った剣を振り下ろした。斬りつけられた巨大バルフは一瞬体の動きが止まり、背後から別の黒騎士が淡く白い光を放つ剣でやつの体を斬りつけた。奴の傷口はどんどん凍り始め、その範囲はかなりゆっくりだが徐々に広がっていった。巨大バルフは暴れながら炎を撒き散らしていると、奴の足元が急にぬかるみバランスを崩した。

 そこを狙って上から氷柱が降りかかり、巨大バルフが倒れた瞬間に最後一撃、大きな剣を持った黒騎士がそれを振り下ろし、奴の喉元を完全に断ち切った。巨大バルフはくぐもった唸り声を上げると、血飛沫を上げてドスンと地面に倒れた。


 …凄い。それしか言えない。彼等の動きや攻撃を見ていてもゲームのような激しいアクション。だけど一番の違いは、迫力。ゲームじゃ味わえない緊張感。ぞくぞくした。もちろん良い意味じゃない。その光景に残酷に思う反面、仕方がないという諦めが混同している。さっきと同じだ。生きるためだからと言えばそうたけど…何だかやるせない。

 冷めた気持ちを抱えながら私はヤン婆の家に戻ろうとした時、騎士団のもとにダンさんとジャックが走りながらやってきた。


「騎士様ありがとうございます!」


 ダンさんが大きな剣を持った黒騎士に駆け寄った。黒騎士は剣を片手で持って一振りすると、剣は一瞬で消えた。‥すげぇ。持ち運びに不便そうとか思ったけど、それなら全然楽じゃん。


「礼には及ばない。お前達がダンとジャックか?」

「はい。そうですが…」

「お前たちの事はアンヌという娘からヤンディール様の家で報告を受けた」


 ヤンディールってヤン婆の事か?へぇーそんな名前だったんだ。初知り。それよりアンヌが無事にヤン婆の家に着いてよかった。


「あとサーイェという者がいると聞いたんだが…」


 ん?私?


「サーイェ?あの子はアンヌと一緒ではなかったんですか!?」

「ああ。彼女が言うには騎士団が来るまでバルファーを引き付けておくと言っていたらしい」

「そんな!じゃあもしかしてサーイェは…」

「ダンさん、ここにいるよ」


 私は空から声をかけた。ここで出て行かないと心配してるダンさんが可哀相だからね。


「サーイェ!!!」

「おま‥っ!!」


 私が無事だった事に驚いているのか、それとも空から降りてきたことに驚いているのか分からないが、とにかく驚いていた。

 騒つく中に私が降りてくると、騎士達は自然と場所を開けた。‥何か嫌な感じだ。気味悪がり、異様なものを見る視線。確かに私は皆と比べると変わっているかもしれないけど、やっぱり気分が良いものではない。

 私は内心ため息を吐き、それを無視して私はダンさんとジャックの元へ向かった。


「二人とも無事でよかったよ」

「あ、ああ。サーイェもな…」

「お前‥なんで空に?…」


 二人は驚きと戸惑いが入り混じったような顔をしていた。あー‥もしかして武空術はここでは無いんですかね?


「…お前がサーイェ・アマーノゥか?」


 背後から低く落ち着いた声が聞こえた。振り向くと、さっき巨大バルフを倒した黒騎士が立っていた。背が高く多分190㎝以上で、顔は冑を被っているから分からない。だけど多分団長かなんかだろう。鎧が他の黒騎士に比べて装飾が多くてかっこ良い。できれば素敵なおっさんがいいな。だけど声的にはおっさんじゃない。良い声だけどおっさんじゃない。仕方ないからイケメンで妥協してあげるよ。ていうか私、真面目に質問している団長に対して色々と失礼だな。


「はい、そうです」

「捕らえろ」

「はっ!」

「はぁ?!」


 何だそれ!関係ないこと考えてた罰ですか!?

 後ろに控えていた騎士は命令を受けるとすばやく私を取り押さえた。両腕を後ろで取り押さえると縛られた。手首がなんかぴりぴりして軽く麻痺している。そして首も押さえつけられるとひんやりとした感覚がした。金属か何か付けられたみたいだった。‥すごい厳重だな。


「騎士様!一体これはどういうことなんですか!?」

「ヤンディール様から命令を受けている。彼女を発見したら捕らえるように、と」

「どうして彼女が!」

「詳しい事はヤンディール様から伺え」

「そんな!」


 ダンさんは必死で団長に詰め寄るが、黒騎士はそれ以上答えようとしなかった。


「ダンさん、私なら大丈夫です。戻りましょう、ヤン婆さんの家へ」

「サーイェ…」


 私が落ち着いて笑顔を返すと、ダンさんはそれ以上何も言わず大人しくなった。


「行くぞ」


 これからどうなるんだろう。けど捕まえるって事はあんまり良いことじゃないよね。さっきのヤン婆の態度から見ても分かる。期待しないほうが良いだろう。

 私は溜息を吐くと、黒騎士の指示に従って私達はヤン婆の家に向かった。



一応伏字&元ネタ解説


・●リポタ-有名な魔法使いのファンタジー小説。

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