表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
16/57

第15話:特殊設定なんかいりません

 次の日、私達はヤン婆の家に訪れた。ヤン婆の家はラウム家から結構離れていたので行くのに時間が掛かり、40分くらい歩いた。ようやく林を出ると、一軒のこじんまりとした家が木に囲まれていた。


「あそこがヤン婆の家よ」

「へぇー」


 なんか7人の小人が住んでそうな家だな。私たちはヤン婆の家のドアの前に行くと、アンヌがドアをノックした。


「ヤン婆―。アンヌだけど入っていい?」

「‥あぁ、お入り」

「お邪魔しまーす」

「まーす」

「お邪魔します…」


 嗄れ声の許可を得ると、私達が部屋に入った。部屋の中は薄暗く、ソファの上には編み物をしているよぼよぼのおばあさんがいた。

 この人がヤン婆か。こげ茶色のローブを着ているので、白く染まった髪が目立っている。うっすら目は開いているんだろうけど、編み物をしているから俯いていて目が閉じているように見える。その手も細くて骨がしっかり浮き出ている位に年老いている。いかにも魔女って感じのおばあちゃんだなぁ。


「久しぶりヤン婆、元気にしてた?」

「あぁ、大丈夫じゃよ」

「そう、なら良かったわ。あ、紹介するわね。この子サーイェって言うの。昨日村の外で倒れていて行き場所が無いから私の家で暮らすことになったの。これからよろしくね」

「どうぞよろしくお願いします」


 ヤン婆は編み物をソファの上に置きゆっくりと私を見ると、ヤン婆は閉じていたような目をいきなりカッと大きく見開いた。何だよ怖いな。目玉飛び出すぞ。

 ヤン婆は目を見開いたまま思い切り眉間に皺を寄せて私を見てきた。



「お前さん…一体何者じゃ?」

「え?」

「赤い髪に黒い瞳…」


 髪と目がどうした。赤い髪は王族って言うのは聞いたぞ。黒もって事はまた特殊設定の追加か。もう勘弁してくれよ…。


「…何か問題でもあるの?」


 アンヌは恐る恐るといった感じでヤン婆に問いかけた。ヤン婆は私から目を逸らさずにその質問に答えた。


「赤は、生の象徴と秩序を司る色」


 何だか随分格好いい意味ですねー。きっと私の世界でそんな意味が知られていたら厨房の人達には赤毛が多かっただろうよっ!


「そのため、赤髪は王族のみに引き継がれている」


 へぇー、だから王族の髪は赤な訳ですか。だけどこの髪は染めたから赤くなっているだけで、そんな意味は無い。伸びれば黒髪が生えてくるけど…ヤン婆のこの反応からするときっと黒は悪いことだろう。邪悪な存在とかなんだとか。


「そして黒は」


 ヤン婆はそこで言葉を区切ると、私を少し恐れているように睨みつけると言葉を吐き出した。


「死の象徴と混沌を司る色」

「え…?」


 その一言で部屋の空気が変わり、アンヌとロン君の顔から笑顔が消えた。

 これも厨房が好きそうな意味だな。まさにカオスだよ!!


「わしはこんな目の色…いや、こんな容姿をしたものは見たことが無い」


 全員が揃って私のほうを見るので視線が痛い。ラウム姉弟は不安そうに私の方を見つめている。私は二人を見ると、視線を落として床を眺めた。

 そりゃこんな得体の知れないやつが同じ家に住んでたら不安だよね。私は皆が怖がるならすぐに家を出て行くよ。迷惑掛けたくないから。はぁ、もう普通の生活は諦めた方が良いか…。


「だけど…」


 アンヌは不安そうにしながらも、しっかりとヤン婆を見つめて言った。


「だけどサーイェは自分の事が何も分からないのよ?それに私達もサーイェの事はよく分からない。私達まだ会って間もないけど…一緒にいて悪い人には見えなかったわ」

「うん、ぼくもサーイェのこと悪いやつには見えないよ」


 アンヌ、ロン君…。まだ会って間もない私の事を信用してくれてるんだね。ありがとう。


「じゃがその者が神聖な存在か邪悪な存在か分からぬ。いずれこの村に何らかの災いを齎すかも知れん。その前に、この村から出て行ってもらったほうが良いじゃろう」


 ヤン婆の枯れた声が諭すように聞こえた。素性も分からず特異な容姿を持っているなら、そう思われても仕方ないよ。


「皆さんに迷惑が掛かるようでしたら、私はこの村を出て行きます」

「サーイェ!」

「だめよサーイェ!」

「だけど…」

「まだ悪い存在って決まったわけじゃないわ!もしかしたら何か呪いが掛けられているかもしれないじゃない」

「そうそう!僕もサーイェが村から出て行くのは反対!!」


 一生懸命私を引き止めてくれる二人の姿に、私の目頭が熱くなった。


「ねぇヤン婆、良いでしょ?」

「……」


 アンヌが必死でヤン婆に頼んでいるが、ヤン婆は鋭い視線で私を見極めようとしている。怖いけど、ここで目を逸らしたら負けのような気がする。私が負けじとヤン婆を見つめていると、ヤン婆は静かにソファに凭れ掛かった。


「聖なる者が邪悪な呪いを掛けられていられるのか、それとも悪しき者が聖なる者に化けているのか、わしにも分からん」

「‥‥」


 ヤン婆は目を伏せそう言うと、編み物に手を伸ばし先程と同じように編みかけの物を編み始めた。


「これから、この村で生活するんなら村人の手伝いを良くするんじゃよ」

「ヤン婆‥!」

「やったねサーイェ!!」

「うん、ありがとね二人とも。ありがとうございます、ヤン婆さん」

「‥…」


 …良かった。私は安堵の溜息を吐いた時、もうヤン婆は私達の方を全く見ていなかった。この人はちょっと・・いや、かなり怖い。私の平穏生活が壊されるかもしれない。あんまり関わんないようにしよ。





 私達は家に戻ると、晩御飯の時ダンさん達にヤン婆に会った事を報告したら、二人とも私がここで生活する事をヤン婆に認めてもらえて安心していた。

 みんな面倒な事に巻き込んでごめん。私もそんなに面倒な設定があるとは思わなかったよ。異世界なら特殊設定はあるとは思ってたけど、いきなりロイヤルファミリーに行くとは思わなかったわ。トリップだったら恋愛結婚とかで王家に入る事はあるけど、まさか元から王家の血筋とかマジない…。

 私、冒険も嫌だけどお城暮らしも嫌なんだよ。どうせ美形に囲まれて優雅な日々の中にしょうもない陰謀に巻き込まれたりするんだろ。

 はっきりと言おう。面倒くさい。

 そんなのは可愛くて純真で守りたくなるような女の子がやれば良いんだ。あ、ちなみに10代ね。やっぱり一般的な萌えって10代かそれ以下じゃないかな。そこでウハウハな青春生活でも送ってくれ。私は自活がしたいんだ。

 そして黒目。『死と混沌』、ねぇ?さらに面倒くさい設定だよ。もし私が髪を染めずに黒髪のままだったら、邪悪な存在として村を追放されてたんだろうな。‥髪染めてて良かった。


 私は溜息を吐くと、無事に平穏生活が送れますようにと普段信じてもいない神に祈った。…困った時は神頼み、だよね?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ