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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
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第14話:嫌じゃない疲労


 おじさん達と別れると私達は再び次の団地に向かい歩き始めた。村の住人は少ないけど、広範囲にぽつぽつと家が固まっているので全部の家に行くのには時間が掛かるみたい。だけど私が分からない事や村の話を聞いていたので全然苦にならなかった。

 私達の住んでいる団地から歩いて約10分、ようやく次の団地に着いた。この団地にはさっき会ったおじさんの娘のミーナって子とジャック君が住んでいるらしい。


「ミーナー!」


 アンヌが洗濯物を干している子を呼ぶと、私達に気づいた女の子は穏やかな笑顔で迎えてくれた。


「おはようアンヌ、ロン。この子は?」

「紹介するね!この子はサーイェ。今日から家に住むことになったの」

「まぁ、そうなの。初めまして、私はミーナ。アンヌとロンの友達よ」


 金髪で少し垂れ目が印象的なミーナは、少しおっとりとした口調で自己紹介をしてくれた。


「はじめまして。ラウム家で暮らさせてもらう事になったので、これからよろしくお願いします」

「えぇ、よろしくね。だけど、どうしてアンヌの家で暮らす事になったの?」


 ミーナは不思議そうにゆっくりと頭を傾げた。


「昨日サーイェが村の近くで倒れているのを見つけたから家で看病したんだけど、サーイェは記憶もあやふやだし、帰る場所が無いから家で一緒に暮らす事にしたんだ」

「まぁ、そうだったの…大変ね。私にもできる事があったら、いつでも言ってね?」

「うん、ありがとね。色々分からない事があったら教えて欲しいのもあるけど、仲良くしてくれるのが一番嬉しいかな」


 少し照れ笑いしながらミーナを見ると、彼女は優しく微笑んで頷いてくれた。あぁ、和み系だ。

とりあえずミーナとはそこでお別れをして、次はジャック君の家へ向かった。ちょうどジャック君は両手にバケツを持ってどこかに出掛けようとしていた。


「ジャックー!」


 ロン君はジャックを見つけると大声で呼んだ。


「あぁ、ロン。アンヌも。あと昨日の…」

「サーイェです。ジャックさん、昨日は運んでくれてありがとうございます」


 丁寧にジャックにお礼を言うとアンヌとロン君が爆笑した。


「…プッ!アハハハ!!『ジャックさん』だって!!!ジャックに『さん』なんか付けなくていいよ!」

「おい、それどういう意味だよ!」

「そのまんまの意味よ!」


 ジャックは怒っているが二人はなかなか笑いならなさそうだった。仲いい友達の中身を知ってると、こういうのウケルよね。


「えと、じゃあ‥ジャック、これからよろしくね」

「…おぅ」

「ジャック、そう少し愛想良くしなさいよ!人見知りが激しいからってサーエに失礼じゃない」

「いーじゃねーか別に!」

「良くない!」

「いや、私は気にしないから…」


 私も基本的に人見知りするからジャックの気持ちは良く分かるよ。だけどこんな事でケンカして欲しくないので私は無理やり話題を変えた。


「そういえばジャックはどこかに出かけようとしてたよね?どこに行こうとしてたの?」

「ん、あぁ。水石(みせき)の残量が少なくなってきたから水を汲みに行くんだよ」

「みせき?」


 何だそれ?早速異世界用語が出てきたね。ジャックは心底驚いていた。アンヌ達は私が分からない事を知っているから苦笑していた。


「お前…水石知らねぇのか?!」

「え、あ…ごめん」

「ジャック、サーイェは記憶がほとんど無いの。だからそんなに言わないで」

「あ、あぁ」


 アンヌが真面目に説明すると、ジャックは私の記憶喪失の重症さを分かってくれてらしい。記憶と言うより知識が無くてすまんね。


「だけどほとんど無いってどれくらい無いんだ?自分の出身地も分かんないのか?」

「うん、本当にほとんど無いの。物や食材、土地とかも全然分かんないんだ」

「だけど私達がこれから教えてあげるからいいの!」

「僕は先生だしね!」

「そうだね」


 アンヌとロン君の頼もしい言葉に、私は安心した。ジャックもその様子を見てやる気を出してくれたらしい。


「よし、俺も手伝ってやるよ。これから水汲みに行くからその後に水石を見せてやるよ」

「うん、ありがとう!じゃあ私も水汲みを手伝うよ」

「じゃあ僕もー!」

「私も手伝うわ」

「おう、助かる」


 私達はジャックの家からバケツを借りて、水を汲みに私達は村のすぐ側にある川に向かった。




 水を汲みに行った川は普通の川だった。周りは緑に覆われ、自然が豊かだからすごくカントリーな感じがする。スナ●キンが釣竿を垂らしてそう。

 さて、水汲みますか。よっこーらせーっと!あー、水を汲んだのは良いけど、両手にバケツは運動不足にはキツイわ。


「サーイェ、無理しなくて良いんだよ?まだ病み上がりなんだから…」

「大丈夫だよアンヌ、ちゃんと持ってくから。それにこれからはここで暮らすんだから、これ位出来なきゃね!」


 心配してくれたアンヌに笑顔を返すと、アンヌは苦笑してそれ以上は何も言ってこなかった。水は重たいけど、やっぱり戦力外は嫌だし、病み上がりって言っても昨日の疲れは全く無いからね。

水がいっぱいのバケツを持ってジャックの家に戻ると、ジャックは台所へ行き水洗い場の下にある棚を開けた。


「これが水石だ」

「はぁ・・」


 棚を開けると、その中には30cm位の高さの薄い水色をした六角柱のクリスタルがあった。ジャックはそのクリスタルを棚から出すと、バケツを一つ手に取り、上からゆっくり水を掛け始めた。


「え?!」


 そんなことしたら水浸しにな………らなかった。なんと水石はバケツの水を吸収していた。まるで喉が渇いているようにどんどん水を吸い上げていく。生き物みたいだ。


「全く…ここまでギリギリまで使わなくても良いじゃない」

「いいだろ別に」

「そうやってまだ大丈夫―とか思っていると、前みたいに夜中に水を汲みに行く事になるわよ」

「うるせぇな」


 ジャックはアンヌにお小言を言われながら次々とバケツの水を水石に掛けていった。全部の水を掛け終わると、水石は最初に比べて青みが強くなっていた。


「まだ5分の1位か…」

「サボっているのがいけないのよ。次は一人でやりなさいよね」

「ね!」

「二人してうるせぇ!」

「あのー‥ちょっといい?」

「あ?」

「水石は、水を貯める石なの?」

「そうだよー。ここに水を貯めると、家の中で水が使えるんだよ!」


 ロン君が得意そうな顔で説明してくれた。つまりこれは貯水タンクな訳ですね。だけどここの流し台には蛇口はあるけどバルブが無い。それでどうやって水を出すんだ?


「ここで貯めた水はどうやって他の場所で使うの?」

「それはこの流動石(りゅうどうせき)に魔力を流して台所や洗面所で使えるようにするのよ」


 そう言ってアンヌは流し台の蛇口の上についている丸い青い石を指差した。


「これ?」

「うん」


 ただの飾りかと思ってたら、それが流動石だったのか。アンヌが流動石に指を乗せると、蛇口から水が出てきた。そしてまた指で流動石に触れると水が止まった。これがバルブ代わりだったのか。ボタン式なのね。私が感心して見ていたら、アンヌに提案された。


「サーイェもやってみて!」

「え?!」

「触ればメージが石に伝わって水が出るの。簡単だから。ね?」

「……」


 ね?って笑顔で言われても…。私メージなんて無いんですけど。人間だもの。


「ここに触って水出ろ~って思えば出るよ」

「…分かった、やってみる」

「あんまり出しすぎるなよー。また水汲みに行くの面倒だからな」

「うん…」


 あー…断りたい。水が出なかったら人間だという事がばれる可能性があるんだよ。多分ないと思うけど、もし皆が人間を差別しているならグッバイ平穏生活、だ。だけどここで断ったら不信に思われるよねー。やるしかないか!私は恐る恐る流動石に触れて念じた。出ろ~、水よ出ろ~!

 私は強く念じながら恐る恐る流動石に触れた。するとものすごい勢いで水が流れ出てきた。


「うわぁあ!!」

「お前何してんだよ!さっさと止めろ!!!」

「え、あ、はい!!」


 私は急いで流動石から手を離すと、水はピタっと止まった。何だ、何であんなに水が出るんだよ!ダムが決壊したような勢いで出てきたよ!!何で?!

 私が混乱していると、跳ねた水にぬれたジャックが半切れで怒ってきた。


「お前出しすぎるなって言っただろ!!水浸しじゃねぇか!!!しかも水石の残りも大分減ったぞ!!」

「ご、ごめん!だけどやり方がよく分かんなかったし…」

「ジャック!仕方ないんだからそんなに怒らないでよ」

「それにしてもすっごい水出たね~!あんなに勢いよく出るのは初めて見た~!!」


 怒るジャックをアンヌが宥め、ロン君は呑気にあははと笑っていた。私も一般家庭であんなに沢山水が出たのは初めて見たよ。よく蛇口壊れなかったな…。


普通(・・)はあんなに出さねぇからな!」

「…すみませんでした、また水汲むの手伝います」

「あー、もういい。今度はもう出すなよ!」

「はい…」




 その後、私達は水浸しになった床を拭き、お詫びとしてまた川とジャックの家を何回も往復してジャックの家の水石を満タンにして、お昼ご飯を食べにラウム家に帰った。

 私がしょんぼりしながら帰路についている間、アンヌとロン君は励ましてくれた。


「二人ともごめんね…。水浸しにしちゃうし、二人にも水汲みも手伝わせちゃって…」

「仕方ないわよ、サーイェは覚えてないんだもの。誰にでも失敗はあるわよ」

「そうそう!それに水浸しになったのは面白かったし」

「これからはもっとちゃんと使えるように頑張るよ」

「うん、帰ったら色々練習しよ?」

「うん、ありがとね」




「「「ただいまー」」」

「おかえりみんな。‥どうしたんだいサーエ、何だか疲れた顔をしているけど大丈夫かい?」

「…うん、なんとか大丈夫だよ」

「?」

「サーイェが水石の流動石を使ったんだけど、ちょっと失敗しちゃってジャックの家の台所を水浸しにしたから落ち込んでんの!」


 カカンヌさんは私を哀れむように見てきた。何度こんな目で見られる事になるんだか…。


「どうやら石も使い方も覚えてないようだね…」

「ごめんなさい…(知らないんです)」

「謝る事じゃないよ。じゃあ家で練習しな!」

「いいの?」

「これからここで生活するんだろ?人様の家で迷惑掛けるよりかずっと楽だと思うんだけどねぇ?」


 カカンヌさんの温かい目を見ていたら、やる気が出てきた。

 何事も慣れだからね。よっしやるぞ!



 こうして私は皆の力を借りて石の使い方を学び始めた。

 時間が掛かるかと思っていたけど、私はすぐに流動石を使えるようになった。メージがどうとか考えなくて、もうスイッチだと思えば楽勝。流動石(スイッチ)を押してこれ位使いたいって想像したらそれ位の量が出た。

 他には光りを出す光石(こうせき)。これは電灯代わりでした。冷蔵庫には冷やす事ができる氷石(ひょうせき)、そして風石(ふうせき)は風が出るので換気扇や扇風機代わりになっていた。結構そのまんまの効果だよね。

 ジャックの家で水が大放出したのは、私がとりあえず出ろ~出ろ~!って強く念じていたのが原因っぽい。だけどそれって私にメージがあるってことだよね?これもレイのおかげですか。あざっす。

 一通り石の使い方を勉強したら夜になり、私達はアンヌの部屋で寛いだ。


「今日は疲れたー‥」


 私はアンヌの部屋の床に引いた布団の上にぼふん!っとダイブした。マジ疲れた。筋肉痛になりそう。


「お疲れさま、サーイェ。石を使うのがそんなに大変だった?」

「いや、あれは理解すればすぐに出来るから問題ないよ。疲れたって言うのはジャックの家の水汲み。正直しんどかった」

「まぁ、あれは結構量が多かったわね。私も疲れたわ」

「ぼくもー!」

「ほんとに私が失敗せいで付き合わせちゃってごめん…」

「いいのよ。私達が手伝いたかっただけなんだもの」

「サーイェはまだ何にも知らないから仕方ないしね!」

「‥二人ともありがとね」

「「どういたしまして!」」


 二人はキレイにハモると、お互い顔を見合わせてくすくすと笑った。

 あぁ、やっぱり良いよこの雰囲気。なんか久しぶりな感じがする。奈由にも兄がいるからよくそんな光景を見てたんだ。会ってないからこういう事が久しぶりに感じるのか。みんな元気かなー…。


「あ、そういえばヤン(ばぁ)に会ってなかったわね」

「そーだね。ていうかヤン婆の姿を見かけなかったんだよね」

「どこに行ったんだろう?」

「さぁ。もう帰っているかしら?」

「分かんない」

「あのー…」

「ん?」

「ヤン婆って誰?」


 二人ともきょとんと私の方を見ているけど、私のほうがきょとんって感じですよ。


「あぁ、ごめんね。ヤン婆はこの村最高齢のおばあちゃんで、村の長みたいな人よ」

「へー、その人っていくつなの?」

「えーっと、1500歳くらいって言われてるけど、本当かどうかは分からないわ」

「‥‥」


 どんだけ長生きなんだよ。今からその時を遡ったら日本ってまだ古墳時代じゃないか!私はにわと円墳しか覚えてないよ!!


「すごいね」

「うん、みんな困った事があったり何かあると大体ヤン婆のところに相談しに行くんだ」

「へぇー」


 そりゃ挨拶に行かなきゃね。一体どんな人なんだろ?話を聞いてると良い人っぽいけど、村人からそんなに信頼の厚い人だったらそんなに心配しなくてもいいかな…。


「じゃあ明日はヤン婆に会いに行こうか」

「うん」

「明日も色々分からない事があったら教えてあげるね。じゃあおやすみなさい」

「おやすみー」

「うん、おやすみ」


 ロン君が部屋を出て行くと、アンヌが明かりを消して私達は眠りについた。今日子の村を周って思った事は、この村の人達はお互いに強力をして助け合い、日々楽しく暮らしているという事。そんな村に暮らせるなんて幸せじゃないか。こんな日々がいつまでも続くと良いな。


 一応伏字&元ネタ解説


・スナフ●ン-ムーミン・シリーズに出てくるキャラクター。自由と孤独、音楽を愛する旅人。

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