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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
14/57

第13話:村デビュー

「サーイェ、朝よー…」

「うー‥」


 アンヌの眠そうな目覚ましを聞いて私は起きた。くぅあ~眠い。アンヌはパジャマから服に着替え始めたけど、私は恥ずかしいから…とか言ってアンヌに先に行ってもらった。

 だってブラとパンツを見られたらヤバイでしょ。ここに無い下着だし。これから替えが無いからどれくらいもつか不安だな…。





「おはようございます!」


 私が元気良く台所に行くと、すでにアンヌとカカンヌさんが朝食の準備をしていた。


「おはよう」

「おはようサーイェ、身体はもう良いのかい?」

「はい!あ、うん!おかげですっかり元気になったよ。ありがとうねカカンヌさん」

「いいよいいよ。それじゃあ早く起きてきたんだし、朝食の準備を手伝ってくれるかい?」

「うん!」

「じゃあこの野菜を切ってサラダを作っておくれよ」

「うん」


 私はカカンヌさんに頼まれて野菜を切ることになったが…名前が分からない。

 見た目はキャベツ、ニンジン、トマト、タマネギなんだけど、前にリンゴそっくりの果物の名前が『リンゴー』だったから、きっとこの野菜たちも形は似ているけど違う名前なんだろうなー…。

 うーん、今聞いておいたほうが後々役立つよね。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うし。またオブラート(以下略)で色んな事を教えてもらおう。


「あの‥カカンヌさん」

「なんだいサーイェ?」

「この野菜の名前、何て言うの?」

「えぇっ?!」


 アンヌとカカンヌさんは自分の作業を止めて、私を見て目を見開いて大きく口を開けていて固まっていた。…そこまで驚かなくても良いのに。

 だけどこんな顔リアルに見たのは初めてだよ。さすが外人。少し面白い…と、そんな事考えてないで言い訳しなくちゃね。


「覚えて(ないと言うか知ら)ないんだ…」

「……」


 嘘は言ってないぞ、嘘は。ただ全部言ってないだけで、言い方を少し(・・)変えただけさ!


「そうかい…」

「うん、言ってなくてごめんなさい。昨日言った『混乱している』っていうのはこの事だったの。どう言えば分からなくて…。だけど、ここ(の世界)で生活していくんだから、色んな事を知りたいの。面倒かもしれないけど、私に生活に必要な事は教えてください!」


 アンヌとカカンヌさんは私を哀れむように見つめ返した。


「そうだね、記憶が無いなら仕方ないね。きっと怖い目に遭って記憶が飛んじゃったんだろう。私達に出来ることなら何でも手伝うから、遠慮せずに聞きな!皆にも言っておくからさ」

「私も手伝うわ!今日はサーイェのために色んな事を教えてあげる!」


 カカンヌさんは優しい笑顔で私の頭をくしゃくしゃと撫で、アンヌは笑顔で賛同してくれた。嬉しいんだけどなんだか少し複雑な気分だよ…。自分の中で嘘は吐いてないんだけどね、ただ()の中に色々隠れているだけでありまして…。


「ありがとう、二人とも」

「いいよいいよ。それよりまず野菜の名前だね。右からキャべッゾ、ニニジニ、マトマ、タマギネだよ」

「…分かった」


 うわーぉ…。やっぱりそんなに名前は変わらなかったよ。

 キャべッゾ=キャベツ、ニニジニ=ニンジン、マトーマ=トマト、タマギネ=タマネギ…でした。この調子ならすぐに覚えられそうだよ。だけど『沙恵』は言えないのに、ニニジニが言えるのが不思議だな。そっちのが言いにくいわ。

 私の居た世界にもあったもの、包丁や皿とかは同じだった。おそらく前の世界に無い物の名前が違うんだろう。それなら結構楽だわ。

 二人の食材講座を聞いていたけど、その間に二人は朝食を作り終えていた。すごいな二人とも。私は戦力外だよ。


 ダンさんとロン君が起きてくると、皆で朝食を食べ始めた。

 うん、やっぱりカカンヌさんのご飯は美味しいな。お袋の味って感じがするからすごく心がほかほかするよ。

 ちなみにうちのお袋の味は砂糖入りの卵焼き。いつも朝ごはんとお弁当に必ず入ってる。お手軽で弁当の場所を埋めるには最適なんだとか。別に良いんだけどね。ただ何となく理由は聞きたくなかったな!

 食事の最中にダンさんとロン君に事情を話したら、二人とも私に色々な事を教えてくれる事を快く承諾してくれたので、私は片づけが終わったらアンヌとロン君と一緒に村を案内してもらう事にした。

 まだこの村、世界の事を全然知らないから、少しでも知識を増やさなきゃ平穏生活は出来ないからね。早くこの村の一員になりたいな。






「サーイェ!こっちこっち!!」

「わぁ!っとと」

「こらロン!そんなに引っ張ったらサーイェが扱けちゃうでしょ!」

「うん、知ってる」

「わざとか!!」


 アハハと楽しそうにロン君に引っ張られながら、アンヌの村紹介が始まった。


「まずこの村はね、【イセア】って言うの。首都の【ライログリア】から大分離れた田舎なの。村人は40人くらいでホント少ないけど、とても平和で良い所よ」

「田舎過ぎてほとんど誰も来ないけどね」

「そうなの?」

「えぇ。だからここの人は国の情勢や、流行とかに疎いのよ。情報が入るのは主に農作物を売りに行く時や、商人が来たときくらいかな」

「へぇー」

「だけど私はこの村が好きよ。自然豊かで平和だもの」

「うん」


 私もそう思う。村は夢で見た通り、中世ヨーロッパの世界観が出ていた。生い茂る森に、どこまでも続いていくような緑の平原、数は少ないけど連なる石造りの家々。それぞれの家に綺麗な宝石のような物がはめ込まれているので、ファンタジーの世界だなぁって思った。

 緑の多いこの村は自然と共存している感じがする。雰囲気的にはイギリスに近いかな?イギリスの田舎に住んでみたいと思っていたけど、こんな形で似たような事が実現するとは思ってもいなかったな。


「それにここは護神の森の麓にあるから、おいしい農作物が良く取れるのよ」

「護神の森が近いのと農作物に何が関係あるの?」

「うん。昨日お父さんも言っていたけど、護神の森の奥にはね、神聖樹海と呼ばれている場所があるの。そこにあるオルガっていう樹がメージを作り、世界を支えていると言われているわ。だから護神の森の近くにあるこの村は、メージが豊富だから良い農作物が取れるの」

「へぇ、そうなんだ」


 メージは野菜の肥料にもなっていたのか。だから樹海の果物も美味しかったんだね。


「ねぇねぇアンヌ。質問なんだけど、イセアは良質な農作物が取れるのにどうしてこんなに村が小さいの?沢山のメージがあるなら、もっと人口が増えてもおかしくないと思うんだけど…」

「普通はそうだと思うんだけど、この村は危険なのよ」

「危険?」

「うん。昨日もお父さんが言っていたけど、護神の森は神聖樹海を守るように出来ているのよ。昔はこの辺りを首都にしようとしたらしいけど、町が活性化し始めると森の魔獣が人を襲うようになったの。多分、人が住むことによって自分たちの住処が奪われると思って襲うようになったんじゃないかって言われているわ。それでここにはほとんど住む人が居なくなり、小さくて少人数の村になったの」


「へぇ、そうなんだ…」


 あの魔獣さん達か。森を守るため‥ていうか、生きるために人を食い散らかしていたのね。そりゃそうか。それが自然の摂理だし。君たちの住処に入ってすまなかった、だがわざとじゃないんだよ。分かっておくれ。


「だからサーイェが森から来たって言うからびっくりしたのよ。私、初めて森から生還した人に会ったわ!」

「僕も僕も~!」

「あー、そうなのね。だけどアンヌ、私が森から生還したって事をあまり言わないでね」

「え、どうして?」

「その…そんなすごい森から出てきたなんて言ったら、きっと珍しがられて色々聞かれるんじゃないかなって思って。私、記憶が無い(って言うより何も知らない)のに聞かれても困るし…」


 何よりそれが崇められる要素になりかねないからな!!!それじゃあせっかくの平穏ライフが台無しだよ!私が俯いて悲しそうな顔をしたら、アンヌは苦笑をして頷いてくれた。良かった…。




 私達の住む住宅地を出て、次の住宅地に行く途中に村人に遭遇。どうやら畑仕事に出かけるようだった。


「やぁ、アンヌ、ロン」

「おはよう、フェズおじさん、ルエおじさん、シャイクさん」

「あぁ、おはよう。あれ?その子の…」

「少し、変わった容姿をいているね」

「あぁ、今まで見たこと無いな」


 みんな不思議そうに私を見ている。…気まずいな。


「この子はサーイェよ。昨日倒れているのを見つけて、ジャックに運んでもらったのよ。ジャックから聞いてない?」

「あー、聞いた聞いた!へぇー、この子だったのか」


 一人のおじさんが納得したようにこっちを見てきた。‥とりあえず笑っておけ。笑っておけばなんとかなる。


「初めまして。私はサーイェ・アマーノゥと申します。今日からラウム家に住まわせて頂く事になりましたので、どうぞこれからよろしくお願いします」


 私は営業スマイル(…とは言っても実際営業したことないけど)で挨拶すると、おじさん達にぽかーんってされた。昨日アンヌ達にも同じ事されたな。うーん、この喋りがいけないのかな?


「あの…」

「ん、ああ!すまない。昨日ジャックが、アンヌが拾った人の事を勝手に貴族だって呼んでるって言ってたけど…髪の毛が赤いし、もしかしたら王族なんじゃないか?」

「え?」


 巫女じゃなくて王族設定ですか?何そのT●Aみたいな設定。


「ダン達はどう言っているんだ?」

「お父さんもお母さんも、何も分からないなら家にいれば良いって言っていたわ」

「そうか…」


 スマートなおじさんも真面目にアンヌに問いかけた。


「本当に、この子は大丈夫なのかい?」

「ええ、大丈夫!サーイェはきっと外国人なのよ!外国じゃあこれが当たり前なのかもしれないわ」


 アンヌの何故か自信満々な意見に、おじさんは苦笑しながら肩をすくめた。


「分かったよ。ラウム家はお人好しでこういう事には何を言っても聞かないしな」

「確かに」

「うん、そうだね」


 おじさん達は小さく笑い始めた。やっぱりラウム家は特別お人好しなんだね。


「とりあえずヤン(ばぁ)の所には行きな」

「うん!わかった」


 アンヌは明るい笑顔を返すと、私におじさん達を説明してくれた。


「サーイェ、この人はフェズおじさん。あなたを運んでくれたジャックのお父さんよ」

「はじめまして」

「ああ、はじめまして」


 茶髪の髪を中肉中背のおじさんが声を掛けてくれた。私はそれを笑顔だけで返した。フェズさんは目がジャック君に似てるかな。


「それでこっちがルエおじさんで、私の友達のミーナのお父さん」

「はじめまして」


 次に薄い金髪の背の高いスマートなおじさん。きっとミーナは可愛い子なんだろうな。


「ミーナには後で会わせるわね。それでこの人はシャイクさん。私の家のお向かいさん」

「よろしく」


 アッシュがかった茶髪の男性がお向かいさんね。二人に比べて若いシェイクさんを『おじさん』と呼んでいないから、多分そんなに年はとってないんだろう。


「サーイェはどこから来たんだい?」

「それは分からないの。サーイェは記憶が無いから」

「そうなのかい?」

「はい、残念ながら…。しかし、ラウム家の方たちが温かく迎えてくださったので、私は辛くありませんし、彼らのご厚意を本当に有り難く感じています」


 残念どころかむしろ私は幸せ者だよ。ほんとラウム家の方々には頭が上がらない。おじさん達は微笑むと、優しい言葉を掛けてくれた。


「記憶が無くて大変だろうが、これから頑張れ」

「俺たちも力になるから、困ったことがあったら何時でも言いな!」

「他の村人にも言っておくよ。新しい村人が増えたって。きっと皆喜ぶよ」

「はい、皆さん有り難うございます」


 田舎の人達って本当に素朴で、他人に対しての思いやりが他の地域に比べて強いと思う。きっと村人の人数が少ないから、この村全体が家族みたいな気持ちなんだろうね。いいな、そういうの。


「だけど、その喋り方は村の中でしないほうがいいと思うぞ」

「そうだな」

「確かに」

「え?何故ですか」

「「「こんな田舎だとみんな貴族だと勘違いするから」」」


 おじさん達の息ピッタリの言葉に、私達は大声で笑った。


 一応伏字&元ネタ解説


・TOA-テイルズ オブ ジ アビスの略称。赤髪が王族の象徴。

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