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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
13/57

第12話:真実はオブラートの中に


 目が覚めると、もう日が落ちていて星が輝き始めていた。結構寝たなー。おかげで身体もだいぶ楽になったよ。

 私が起き上がって伸びをしていると、ドアのノックオンが聞こえた。


「はい」

「アンヌですけど、入ってもいいですか?」

「どうぞお入り下さい」

「よっと!」


 ドアが開いたと思ったら、薄い赤茶の髪色をしたクセ毛の男の子が元気良く入ってきた。


「あ、こら!」

「いいじゃん僕だって気になってたんだから」

「けどねー、彼女は怪我人なのよ!あなたみたいに煩かったら気が休まらないでしょ!」


 その光景に思わず笑みがこぼれた。微笑ましいなぁこういうの。一人っ子だからこういう兄妹喧嘩みたいなのは少し羨ましい。


「私は構いませんよ」

「ほらね!姉ちゃんは頭が固いんだよ」

「ロン!」


 ロンかー。魔法を使う世界だから、やっぱり丸眼鏡をかけた有名な男の子の親友を思い出しちゃうよ。この子の名字がウィ-ズリーじゃないのが残念だ。あー映画全部見切れてないなぁ。最後どうやってまとめるのか気になるぜー。


「なんだい騒がしくして!怪我人に迷惑が掛かるじゃないか」

「そうだぞ、静かにしなさい」


 プリプリ怒るカカンヌさんと栗色で短髪の男性が二人を注意しながら入ってきた。


「あ、お父さんお母さん」

「おや、起きてたんですね。身体の方は大丈夫なんですかい?」

「はい、おかげ様で随分回復しました。有り難うございます」

「さっきも言ったじゃないですか!困った時はお互い様なんだから気にしないで下さいよ」


 明るく笑うカカンヌさんの言葉が心に沁みた。そしてここの主人であろう男性が私に向かって笑顔で近づいてきた。


「初めまして、ラウム家の主人のダンです」

「初めまして」


 ゆっくりと差し出されたダンさんの手を握り握手をした。ダンさんの手にはマメができていて、節くれだって逞しい手だった。素朴な感じでよく日焼けもしているから、きっと畑仕事でもしているんだろうな。平和な村だし。ダンさんは椅子を持ってくると、私の前に置き、そこに座った。


「体調が良くなったようですし、あなたの事を聞かせてもらってもいいですか?」

「はい」


 皆の視線を浴びながら、私はベッドの上で皆の方に向き直ると自己紹介をした。


「私の名前は沙恵・天野です。今まで名乗らずにいて申し訳ありませんでした」


 一応名前、名字の順番にしておいた。皆そうだし、その事で大分怪しまれるのも…ねぇ?


「いいよ気にしなくて。えーと、サーイェ・アマーノゥで良いのかな?」

「サエ・アマノです」

「サー…イェ?」

「アマノォ?」


 皆頑張って言おうとしているが、なかなか言えない。うーん、やっぱり発音が難しいのかな?私は思わず苦笑がもれた。仕方ないか、外人さんだし。


「サーイェで構いません。お好きにお呼び下さい。それから私に気を使って喋らなくて構いません」

「すまないねぇ。あたしたちはあんまりそういうのに縁が無いから喋りづらいんだよ。それでサーイェはどうしてボロボロで村の側に居たんだい?」



 まずそこからですよねー。さぁ、どうしよう?うーむ、本当の事を話そうかな…。けどレイは異世界に来たのは私が初めてって言ってたし、多分異世界から来たなんて言ったらややこしくなると思う。信じてもらえず頭がイカれていると思われるか、特別な存在だと思われ祀り上げられる可能性もある。

 信じてもらえないのは悲しいが、祀り上げられるのはマジ勘弁だわ。平穏生活が出来なくなる。それだけは絶対に阻止せねば!だけどこんなに親切にしてくれた人達に嘘つくのも心が痛むし…。うーん難しいなぁ。

 私が黙って考えあぐねていると、アンヌが心配してくれた。


「サーイェ、大丈夫?もしかして何か辛いことがあったの?」

「あ、大丈夫です。私自身も混乱しているので、どう説明すればいいのか考えていただけです…」


 うん、嘘は言ってない。じゃあもうこれで行くしかない。定番の記憶喪失設定!

 分からない事があったら『知らない』『覚えていない』『分からない』で通るからな!そしてそれは今の私にとってあながち嘘ではない。実際何も知らないからね。だけどこの人達に嘘を吐くのは良心が痛むので、嘘は吐かない。だけど全ても話さない。それがお互いにとって一番安全なんだよ。名づけて『オブラートで包みまくってクスリ苦くないよ!』作戦!!

 私は意を決すると、皆がだいぶ心配して私を見ていた。ちょっと考える時間が掛かりすぎたね。


「無理しなくてもいいんだよ?辛いのなら私たちも無理して聞くことはしたくないし…」

「いえ、大丈夫です。皆さんにはお話しておきたいので。ただ・・私も(この世界の事は)よく分からない事が多いので、そこはご理解下さい」

「分かったわ」


 よし、作戦開始!!!


「私は、気が付いたらあの森の中にいたのです」

「あの森って、【護神の森(ごしんのもり)】にかい?!」


 私の一言にラウム家の皆さんは一斉に驚いた。…そんなにまずいこと言ったのか?ていうかあそこをレイは神聖樹海って言ってなかったっけ?


「…そう、呼ばれているのですか?」

「あぁ。とても深い森でね、最深部にある神聖樹海を守るように広がっているから、そう呼ばれているんだ。あそこの魔獣は強力で、森に侵入した者を片っ端から食い尽くすとそうだ。そこから生還できるなんて…アンタすごいな」

「そうなのですか…」


 ダンさんに褒められて正直困った。あそこってそんなにすごい所だったのか!レイが周りに森が広がっているって言ってたけど、それは護神の森の事を言っていたのね。確かに魔獣に食い殺されるとも言っていたけど、そんな強力な魔物が住んでいたとは…。よく生きて森を出てこれたな私!!きっとこれもレイのおまじない効果だね!


「けど何であそこに?」

「分かりません…。目覚めたらあそこに居たのです。そこで魔物に襲われて無我夢中で逃げていたら…ここに辿り着きました。それでようやく森から脱出することが出来て、村が見えた事に安堵して倒れてしまったんだと思います」

「そうか…。じゃあ故郷や家族の事は覚えているかい?」

「…家族と故郷(の事は覚えているけど、そこに戻れるかという事)も分かりません」


 今でも今まで自分の居た世界の事を思い出すと、何とも言えない気分になる。もうこの世界で行きていく事を決めたから思い出すのが辛いって訳じゃないけど、やっぱり寂しいと思うのは仕方ないよね。

 そんな私の言葉にラウム家の皆さんは同情していた。あー、多分アンヌの設定を信じているんだろうなぁ。


「そうかい…。辛いことを聞いてすまなかったね」

「いえ、気にしないで下さい」


 私が苦笑して答えると、なんだかカカンヌさんに余計複雑そうな顔をされた。だから私はそこまでの小公女じゃありませんよー。


「じゃあ、自分の年齢は分かるかい?」

「……」


 私は黙って俯いた。ここは実年齢言っちゃいけないと思う。レイが魔人は人間より長生きするって言っていたから、実年齢を言ったら人間だという事がすぐに分かってしまう。いくら人種差別が軟化しているとはいえ、ここの人達が人間を嫌っていたらすぐに追い出されてしまう。また黙った私を見てダンさんは苦笑していた。


「覚えてないみたいだね…」

「…ごめんなさい(言いたくないんです)」

「いや、良いよ気にしなくて。見た目からだとー‥」


 どうせ若く見られるんだろう。それが西洋人と東洋人の違いさ。


「多分サーイェは50代だろう」


 …はい?え、私なんか聞き間違えた?私は思わずそのまま固まった。普通外国(北欧系)にトリップしたら若く見られるんじゃ…。いや、落ち着け私。ここは異世界、しかも魔人は長生きなんだから動揺するな!!

 私は何とか不思議そうな顔を装い、ダンさんを見つめた。


「そう‥なのでしょうか?」

「多分ね。ちなみにアンは今72歳で、ロンは32歳だ」

「そうですか…」


 えー・・私の外人年齢見極め技術はかなり未熟ですが、大体の予想だとアンヌの外見年齢は17、8歳位で、ロン君は10歳位かなぁ…。それで私は二人の中間位だから…13、14歳位か?それならまぁまぁ若く見られているな。多分まだ私は子供だと思われているから、子ども設定も付け加えておかなきゃね。だけど子供とはいえ、恩を返さないのはいけないと思う。というか私の気がすまない。


「あの、ダンさん」

「うん?なんだい」

「私に、恩返しをさせて頂けませんか?」

「恩返し?」


 みんな訳が分からないという顔をしている。…そんなもんなのかな?とりあえず自分の気持ちを伝えなくちゃ!


「私は、家族と故郷(の所に戻る方法)が分からないので戻ることもできません。森で魔獣に襲われた時、私はあそこで死んでしまうのではないかと思いました。しかし私は生きて森から出ることが出来、運よくジャックさんに発見されてラウム家の方々が手厚く看護して下さいました。このまま何もせずに出て行くのは忍びありません。お金はありませんが、私にできる事なら何でも致します」


 私は深く頭を下げた。絶対に、恩は返さなくちゃ。頭の上からダンさんの困ったような声が聞こえる。うーん、ダメかな…。


「サーイェ、顔を上げてくれ」

「…はい」


 ダンさんは苦笑していたけど、優しい声で諭すように話してくれた。


「私達は別に見返りが欲しくて君を助けたんじゃないよ」

「……」

「助けたかったから助けたんだ。だから恩返しなんて考えなくていいんだよ」

「しかし、それでは私の気がすみません!」

「けど特にして欲しい事も無いしなぁー…」


 ダンさんは困ったように頭を掻いていた。私は助けてくれた人にただのお礼だけで済ませたくないんだ。それとも、こういう事が逆に迷惑なのかな…。


「…では、ご迷惑にならないよう、明日にはこの家から出て行きます」

「アンタ何言ってんだい!そんな身体じゃどこにも行けないだろう」

「しかし、いつまでもここに居たら皆さんにご迷惑を掛けてしまいます」


 恩を返したいのに、何も出来ない。迷惑を掛けるだけの存在はもう嫌だ。私が俯いていると、ロン君の明るく提案した。


「サーイェがここに住みこみで働けば良いじゃん!」

「え?」

「あぁ!良い考えじゃないか、ロン」

「いいわねそれ!」

「ロンもたまには良いこと思いつくじゃないか!」

「へへぇ~ん!」


 なんかラウム家の方々は明るく話し合っているけど‥いいのか?


「しかし私が居たら、皆さんの負担になってしまうのでは…」

「私達は君が居ることを迷惑に思っていないさ、なぁ?」


 ダンさんが家族に尋ねると、皆快く同意した。


「うん!」

「もちろんよ!それに一人妹が増えたみたいで嬉しいわ」

「そうだね、歓迎するよ」

「君は帰る所もないなら丁度良いじゃないか。家族や故郷が分からないなら、これからはここを君の家にして生活すれば良い」


 皆さん…。


「建て前は私達の生活の手伝いをする、それが恩返しじゃダメかい?」



 なんて優しい人達だろう。なんで得体の知れない私にこんなに優しくしてくれるんだろう?この世界の人はみんな優しいのかな?それとも私の運が良いだけ?どちらにしろ、この人達が良い人ってことには変わりない。


「どうだい?サーイェ」


 ダンさんの朗らかな笑みに、私も釣られて笑顔になった。


「はい…」

「じゃあこれからよろしく、サーイェ」

「よろしく」

「よろしくね」

「よろしくー!」

「はい、よろしくお願いします!」


 私は涙を堪えてラウム家の方々にお礼を言った。そしてラウム家の方々と和やかな雰囲気を過ごしていると、カカンヌさんに提案された。


「じゃあ早速だけど、その喋り方をやめてくれないかい?」

「え?」

「さっきも言ったけど、私達はそういう喋り方に慣れてなくてね。家の中でもそんな喋り方は堅っ苦しいし、あんたも疲れるだろ?」


 その事には全員賛成のようだ。


「これから一緒に暮らしていくんなら、気を使う必要ないよ」

「…はい、分かりました」

「『分かった』だろ?」

「‥うん、わかった」

「それで良いのさ」


 カカンヌさんの明るく大らかな笑顔はすごく安心する。


「じゃあ今日はもう休みな。明日体調が良いようなら、簡単な事から手伝っておくれ」

「うん」

「じゃあおやすみー!」

「おやすみ」

「おやすみ。ちゃんと休むんだよ」

「うん、おやすみなさい」



 パタンとドアが閉まり、アンヌ以外の人は全員出て行った。皆が部屋から出ていった後も私の心は温かかった。こんな人達と生活することが出来るなんて、私は本当に幸せ者だ。これもレイのおかげなのかな?そうだとしたら感謝してもしきれないよ。また会ったら沢山ありがとうと言おう。

 部屋に残ったアンヌの方を見ると、アンヌは自分の押入れから、服を取り出し私に差し出してくれた。


「これ、私が4、50代の時に着てた服なの。お古で悪いんだけど、これ良かったら使ってね」


 そうだよね。私の身長は162cmだけど、アンヌの身長は私より10cm以上は高いから今の服は貸せないよね。アンヌがくれた服は、ベージュが基調の地味な色合いの服で、シンプルだけど女の子らしい服だった。これ重ね着したら大分可愛くなるだろうなぁー。まぁそのほかの服がないから無理だけどね。


「ありがとねアンヌ」

「良いのよ。こっちが下着ね、はい」


 私がアンヌにお礼を言うと、アンヌは私に下着を渡してくれた。…が、それはただのシンプルな白のレギンスだった。え?これっすか?メイドさんの方がもっといいもの来てないかい?けどあれはフリルとかが付いてるから高級なのかな?勝手につけちゃえばいいのに。それにしても…


「下着ってこれで全部?」

「うんそうよ。足りなかった?」

「え、ううん。こんなにたくさん貰っちゃって悪いかなぁって思って…」

「良いのよもう着ないし」


 アンヌはニコニコして答えてくれたけど、私は苦笑いしか出来なかった。

 だって…ブラが無いんだもん!ブラが無いとかそれこそ乳が垂れる!!まだ若いのに垂れたくない!!!

 …仕方ない、もうこれは洗濯の仕方を聞いて、自分でこっそり洗おう。

 私はばれない様に溜息を吐くと、明日のお手伝いに備えて基、現実逃避のため早く寝た。


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