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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
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第11話:捨て人間です、誰か拾ってください



「…い、お-い、大丈夫かー?」



 うぅー、何だようるさいな。こっちはヘトヘトで疲れて眠いんだ。邪魔しないでくれ。


「おーい、死んでんのか?」



 眠たいだけで生きてますよー…。あー、すみません。起きるので顔をぺしぺし叩くのをやめてください。


「ん‥」

「あ、生きてたか」

「どうしたのジャック?」

「あぁ、アンヌか。村の前でボロボロの女が倒れてたんだよ」

「まぁ!大変じゃない!!彼女は大丈夫なの?」

「一応生きてるぜ」


 うっすら目を開くと、二人の男女が私の事を見ている。どうやら村人に発見されたのか。運良いな自分。だけど疲れてるからぶっちゃけ起きたくないんだよね。歩くのもめんどくさいし。あー、このまま村に運んでくれないかなぁー‥。


「あの、大丈夫ですか?」


 栗色の髪をおさげにしていて、少しそばかすのある女の子が心配そうに見つめている。北欧系の外人さんだけど普通の人だ。良かった、もう眩しくないよ。

 外人だから年齢が良く分からないけど、多分10代だろうなぁ。有名な魔法学校に居そうな顔だもん。ちなみに私は大家族の双子と不思議電波な女の子が好きさ。

 あれ?俳優さんたちはもう成人してたっけ?多分主要メンバーはそうなんだろうな。役やって長いからね。

 まぁ私の外人の年齢見極め技術なんて映画やドラマくらいでしか知らないのさ。


 関係ないことを考えてボーっとしていると、アンヌと呼ばれている子は私がよほど重傷だと思ったのかとても有難い事を提案してくれた。


「ジャック、この人を私の家まで運んでくれない?」

「えぇ~?何でだよ」

「こんなにボロボロな子を放っておくなんて可哀想じゃない!」


 お、いいぞアンヌ、そのままジャックとやらに私を家に運ばせるんだ!


「だけどこんな容姿のやつなんて今まで見たことねぇぞ。それにこんなバッグも見たことねぇし。もしかして外国から来たんじゃねぇのか?」


 当たらずとも遠からずかな。外国と言うより異世界から来ました。次元の壁を越えて君に会いに来ましたよ。なーんつってな。


「そうかもね。見たこと無い容姿と持ち物、そして今は傷だらけだけど可愛い顔をしているし…」


 おいおい私が可愛いとか相当目がイカレているな。是非とも眼科をオススメしたい。だけど多分外国人だからそういう風に見えるんだろうね。

 私も外国人の小さい子はどんな子でも天使に見えるわ。にやけが止まらない。傍から見たら変質者だけどね。

 アンヌは神妙な面持ちで考えていたが、分かった!という感じにぱっと顔を上げた。


「きっと外国の貴族様なんだわ!」

「はぁ?!」


 どうしてそこに辿り着くんだ。

 私とジャックが眉間に皺を寄せてアンを見ていると、アンヌは熱を込めて語り始めた。


「国が襲われ、家族は命の危険に晒されながらも、『せめてこの子だけでも逃がさなければ…!!』と、家族が彼女を村娘に扮装させて国から逃がすのよ。そしてこの子が一人必死に逃げている最中に、野党か魔獣に襲われながらも家族のためにも何とか生き延びてようやくこの村に辿り着いたのよ!」



 …なんだその設定。そこまで細かに設定付けられるとは、この子もなかなか妄想‥想像力豊かだな。熱く語り一人納得しているアンヌを、ジャックは呆れたように見ていた。


「それなら余計にやっかいじゃねーか。逃がしたって事は罪人の可能性だってあるだろ。外国の罪人を匿っていることがばれたらオレ達も共犯だと思われるんだぜ」


 ジャックは顔をしかめて明らかに嫌そうにアンヌを見た。

 ごもっともです、ジャック君。私が倒れている人を見つけても、素通りするか警察か救急車を呼ぶだけで、その後の事には係わりたくないです。


「そうじゃなかったらきっと物珍しいから外国から売り飛ばされってしまった子よ。可哀相に…」


 そういうパターンもありましたか。アンヌは薄目で白けている私を見ると、意識が飛びかけているように見えたのか、同情した目で私を見ると、ジャックに向き直った。


「どちらにしてもまだ生きているって事は、きっとジース様のお導きよ」

「…じゃあお前最後まで面倒見ろよ」

「もちろんよ!」


 アンヌ、よく頑張った。なんかよく知らないけど神らしき者の導きで私は拾われたのね。この子が信心深くて助かったわ。

 ジャックは深い溜息を吐くと私を背負い、アンヌ家へと連れて行ってくれた。結局きみも面倒見いいんだね。

 私がジャックの背中の上でしばらくぐったりしていると、アンヌの家に着いた。


「ただいま」


 家の中に割腹の良い赤茶色の髪の毛のおばさんが料理を作っていた。多分アンヌのお母さんだろう。台所にガスコンロや水道とはちょっと違うけど、火も水も使っている。

 あれも魔法かなぁ?仕組みが気になる。


「おかえりアンヌ…てどうしたんだい?!その子」

「ジャックが村の前で見つけたの。それで余りにも可哀相だから私の家に運んできてもらったのよ」

「それにしても、ずいぶんボロボロだねぇ」

「きっと国を追われた外国の貴族様なのよ。必死で逃げてきたから怪我しちゃったんだと思う」


 そっちの設定だったのか。そんなの信じられる訳ないと思うんだけどなー。


「まぁ‥可哀想に」


 簡単に信じちゃいますか。さすが親子だね。


「だけどまだ貴族って決まったわけじゃねぇだろ」

「そうだけど、とりあえずジャックはこの人を私のベッドに連れてって」

「‥わかったよ」

「お母さんは何か食べやすいものを作ってくれる?」

「はいよ」


 アンヌはてきぱきと仕切ると、私を自分のベッドに寝かしてくれた。とりあえずお礼を言わなくちゃね。アンヌが立ち上がった時に、私は小声だけどお礼を言った。


「‥ありがとうございます」


 アンヌは一瞬目を見開いて驚くと、はじけるような笑顔を私にくれた。うん、女の子は笑顔が一番だ。

 その後アンヌは部屋を出ると、水桶と布を持ってきて、私の顔や身体に付いている汚れを拭いてくれた。大体の汚れが取れると、アンヌは何かをぶつぶつ言い始めた。

 …もしかして私が汚すぎたとか?ごめんよ汚くて。

 ぶつぶつを言い終わると、アンヌの手がぽわーんと淡く光り始め、その光りを私の手の甲にある切り傷に当てた。

 これ‥魔法だね。前にレイが似たようなことやってくれたもん。

 予想通り傷口はどんどん塞がっていき、最初よりも小さくなった。やっぱり魔法って便利だ。地球の最新医療技術なんて歯が立たないよ。ふぅっとアンヌは一息吐くと、苦笑しながら私に謝った。何で?


「ごめんなさい、まだ私にはこれくらいしか出来ないんです。やっぱり回復魔法は難しいですね」


 あー、傷口を完全に治してないから謝ってんのね。いやいや塞いでくれただけでもありがたいっす。


「お気持ちだけでも嬉しいです。手当てまでしてもらって有難うございます」


 私が笑顔でお礼を言うと、アンヌはぽかーんとしていた。

 一応礼儀正しく言ってみたつもりだけど、敬語の使い方が間違ってたかな?昨今の若者は言葉が乱れてるからなぁー。私もその一員さ!


「あの…」

「あ、何でもないです!ほ、他の傷も治しましょうか!」

「有難うございます」


 アンヌは顔を赤くして慌てて手当ての続きを始めた。そんなにぽかーんってしてたのが恥ずかしかったのか。面白い子だな。

 そんな感じで傷の手当をしていると、アンヌのお母さんが食事を持ってきてくれた。ほんと至れ尽くせりで申し訳ないっす。


「あの、起きられますか?」

「はい…」


 よっこらせ-っと!‥あぁ、節々が痛いよ。昨日は長距離全力疾走したからね。いくら魔法で身体を軽くしていたとはいえ、疲れたしだるい。打撲やら切り傷もキツいっす。

 アンヌは私が起き上がるのを支えてくれた。きっとアンヌは看護士や介護士とかが似合うと思う。


「私はアンヌ。アンヌ・ラウムです。こっちは私のお母さんのカカンヌで、こっちの男の子がジャック・リール。あなたを見つけて運んでくれた人です」

「どうも有難うございました」

「別にいいよ」


 私はジャックにお礼を言ったが、ジャックはふんっ、と無愛想に返してきた。

 そういうお年頃なのかな?アンヌは私の事を貴族だと勘違いしているので、丁寧に話してきた。


「あなたが村の外で倒れているのを見つけたので、私の家に連れてきました。傷だらけでしたけど、大丈夫ですか?」

「はい、アンヌさん達のおかげで少し楽になりました。見ず知らずの私に、ここまで親切にして下さって本当に感謝しています。あなた方に発見されていなかったら、きっと惨めに野たれ死んでいたと思います。助けてくださって本当に有り難うございます」


 私は笑顔でお礼をいうと、アンヌ達は嬉しそうに微笑んでくれた。ほんわかしているとそれを見守っていたカカンヌさんが近づいてきた。


「とりあえず話はここまでで良いだろ?この子も今まで倒れていたんだから疲れているだろうに。アンヌも回復魔法を使って疲れてるだろう?」

「そうね」

「ごめんなさい…」


 魔法ってやっぱり使うと疲れるのか。私なんかのために申し訳ない。MP回復アイテムをあげたいけど、残念ながら持ってないんだ。謝るとカカンヌさんは苦笑した。


「気にしなくて良いんですよ。この子がやりたくてした事なんですから」

「しかし…」

「それよりお腹空かしていると思ってとりあえずご飯を作ったんですが、食べられますかね?」


 カカンヌさんは私に気を使ったのか、話を逸らした。


「はい、大丈夫です。本当に何から何まで申し訳ありません」

「何言ってんですか!困った時はお互い様ですよ。早く元気におなり下さいな」

「ありがとうございます…」

「じゃあ食べ終わったらそこの棚の上に置いてゆっくり休んで下さいね」

「はい」


 そう言ってアンヌ達は静かに部屋を出て行った。

 さっきまで都合の良いことばかり言ってごめんなさい。自分の力で生きていくって決めたのに、やっぱり私は生かされている。ううん、この人達の場合は助けられた、の方が近いかな。私だったらジャックみたいな反応をしてしまうと思う。見ず知らずの人にこんな風に優しくできないよ。


 カカンヌさんの作ったリゾットみたいなものを食べると、身も心も満たされた。

 よし、早く元気になって彼女たちに恩返しをしよう。それが今の私の目標だ。私は食べ終わると目標を達成すべく、静かに休み始めた。



 一応元ネタ解説

・有名な魔法学校-丸眼鏡をかけて額にイナズマ形の傷跡を持った少年の通う学校

・大家族の双子-上の少年の親友の家族

・不思議電波な女の子-上の少年の学校の生徒


他にもありますが、別にネタが分からなくても差し障り無いので解説なしです。笑



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