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いつも見ていた世界  作者: 板井虎
第一章
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第9話:子育てに疲れても、育児放棄はしません

 クリスタルを手に取り大事に服の中にしまうと、レイの手が止まっていた。お、髪が乾いてる。私が髪を手櫛で整えると、レイはなんか拗ねた顔でまたかわいこちゃん睨みをしてる。


『沙恵はナユのこと『好き』なの?』

「うん!大好き」

『ナユは沙恵の『特別』なの?』

「うん、特別だよ」


 一番の友達だしね。あ、なんか眉間のシワが増えた。


『どうしてナユは『特別』なのに、私は『特別』じゃないの?』

「どうしてって…そりゃ奈由は私が幼い頃から一緒で、お互い支えあってきたからだよ」


 今度はさらにむくれて目が釣りあがってきたよ!


『じゃあナユはサエを舐めても一緒に水浴びしてもいいの?』

「いや、水浴びは良いけどさすがに舐めないなぁ…」



 なんか空気が冷えてきた。まさかこのワンコがこんなに怒るなんて…!ていうか、この子勘違いしてないか?!


「えーと…レイ?」

『……』


 完璧に拗ねてる、いや怒ってるレイは初めてだよ…。なんか空気がぴりぴりして冷たいもん。


『ナユだけずるい』

「はぁ?」

『私も沙恵の『特別』がいい』


 …やっぱり勘違いしてるし、なんか焼餅やいてるよ。


「ねぇレイ」

『……』


 無視ですか。まぁいいや。


「奈由は特別だけど、今日レイに話した『好き』とは違う『好き』なの」

『…何が違うの?』

「奈由は親愛の情での『好き』で、恋愛じゃないの。だから舐めて良いとかの時の『好き』じゃないんだよ」


 ていうかもう奈由は友達の枠を超えて私の中じゃ『奈由』って枠が出来てるんだよね。それくらい奈由の事が好き。相思相愛さ!


『分かんない』


 とうとうレイは膝を抱えて反対側を向いた。見た目が大人で美人のかわいこちゃんが、こんな子どもみたいな事してると逆に萌えない?

 とりあえずそれは置いておいて、うーん…分かんないよね。『愛してる』って言えば確かにそうだけど、『好き』と『愛してる』の違いは何なのかって言われると説明はできない。

 家族の事や友達の事は『好き』だけど、『愛してる』とも言えるから、恋愛限定じゃないんだよなぁー‥ん?恋愛限定…あ、恋か!だけどその違いも私には上手く説明できないし…愛って難しいね。やっぱり感覚でしかないよ。その感覚がレイにもあれば良いんだけど…レイは恋愛感情が無いみたいだし、仕方ないか。きっとそのうち芽生えるんじゃない?今はそれが分からないから、レイは『特別』が良いのね…ふむ。


「ねぇレイ」

『……』

「レイは私にとっても『特別』だよ?」

『……』


 お、こっちを振り向いたな。そのままで良いから聞いておくれ。


「レイは得体の知れない私を無条件で助けてくれたし、この世界の事を教えてくれた。この世界で一番最初に『好き』になった人だよ。それって『特別』じゃない?」


 だんだんこっちに向き直ってきたぞ。あともう一押し!


『私は、沙恵の『特別?』』

「うん、特別」

『本当?』

「うん、ホント」


 ようやく笑顔が戻ってきたぞ!そうだレイ!その笑顔だ!!


『沙恵も私の『特別』』

「ありがとう」


 あぁーもう可愛いなぁ~にっこにっこしちゃって!!美人さんなのにかわいこちゃんスマイルとかマジやばいよ。目福だ目福。私が男だったら嫁にしてるね!あ、レイは男か。

 レイスマイルの効果で自分の世界に入っていたら、レイが擦り寄ってきた。

 この大型わんこめ、今度は何だよ。幸せそうにすりすりしてるから何にも言えないよ!


『サエは特別』

「うん」

『サエも特別』

「うん、そうだね」


 そんなに特別が気に入ったのかこの子。まぁ間違っちゃいないけどさ、こんなに喜ばれるとなんか照れちゃうよ。


『特別だから、あげる』

「え、」


 何を?って聞こうとしたら…


「うわぁっ!!」


 レイは私の腰を引き寄せ、頭を後ろから抱きかかえると、右耳に息を吹き込んだ。


「ひゃっ!!」


 な、何てことするのこの子!!お母さんはそんなこと教えた覚えはありませんっ!!!しかも耳たぶを食んだ!


「レイッ‥!」


 私は身を捩るが全く意味が無い。どこにそんな力を秘めてんだよっ!こんな15歳未満の方は(以下略)な展開はダメだ!!しかもこの体勢は昼間のベロチュー事件と同じじゃないか!!!ん?ベロチュー事件と同じって事はこれも純粋にしている行動なのか!?


「…ちょっ‥!!」


 今度は左耳にも同じ事をしてきた。レイの吐息が優しく耳にかかり、柔らかい唇は耳を食み、耳たぶを丁寧に舐める変な感覚に力が抜けかける。思わずレイの服をぎゅっと握り締めてしまった。

 …私耳は弱いんだよ!そのピアスは舐めないで!!今度は一体何を求めてるの?!

 レイが離れた瞬間に突き飛ばそうと思ったら、逆に両手を取られ、片手で上に括られた。


「レイッ!!いい加減にしなさい!!」

『嫌』


 嫌じゃねぇえよ!!これエロシーンの定番の体勢じゃねーか!

 レイは私の首の部分の服をネックレスが見える所まで服を引っ張ると、胸元に顔を寄せてきた。ネックレスのクリスタルは少し大きめなので、丁度クリスタルが胸の谷間の部分にある。

 ちょっ!!これは真面目に貞操の危機じゃない?!私は身体を捩ってレイから逃げようとするが、レイは強引に顔を胸元に近づけるとネックレスの上から胸元を舐めた。


「っ…!」


 レイの温かな舌を直に感じると否が応でも身体が反応してしまう。あのベロチューとは次元が違うんだよ!今度はネックレスかっ!そのネックレスは奈由から貰ったものなんだよ!!奈由を舐めるな!!!


「レイッ!!」


 レイは丁寧に舐めあげ、最後にそこにキスをすると、ようやくレイは私の腕を解放した。私は急いでレイから離れて胸元を隠した。怒りと羞恥で顔を赤くして思いっきり睨んでいるのに、レイはとっても輝かしい笑顔を向けてきた。


「いきなり何するのよ!!舐めちゃダメって言ったでしょ!!?」


 しかも胸!レイが美形でワンコじゃなかったら強姦で訴えられてもおかしくないんだぞ!!


『沙恵は特別だからおまじないをしてあげた』

「はぁっ?!!」

『沙恵がここから出ても安全に暮らせるように、おまじないをした』


 …なんだよこのエンジェルスマイル!!ゴッドスマイル!!!怒りたくても怒れないじゃないか!

 落ち着け~、落ち着けわたし~。彼に悪気はないワンコなんだ…。私は深く深呼吸をして自分を落ち着かせた。


「…分かった、これはおまじないなのね?」

『うん』

「じゃあどうして最初に言ってくれなかったの?」


 顔が引きつるのは仕方ない。こっちにだってそれなりの心の準備って物があるんだ!言ってくれたら全部外して渡してあげたのに!!


『だって、言ったら沙恵は怒る。おまじないをしている時も怒っていた』


 そりゃ怒りますともぉお!!!


『だから怒られる前におまじないをした』


 何だよこの満足気でしてやったりな笑顔!むしろ褒めてほしいみたいな顔してるよ。おまじないはありがたいけれどもッ!……もういいや。こんなんじゃ怒れないよ。まともに相手していても自分が疲れるだけだな…。


「はぁ…」


 私がおでこに手を当てると、レイは可愛い笑顔をしながら嬉しそうに聞いてきた。


『沙恵は怒っていたけど、少し気持ち良さそうだった。嬉しい?』

「レイッ!!!」


 こんのナチュラルエロスめ!!私はグッと拳を握ったが、それを解くと盛大な溜息を吐き、夜空を見上げた。





 私は異世界に来て一日しか経ってないのに、今までの世界のことがすごく前のことに感じるよ。それは隣にいる神の如く美しく可愛い大型ワンコのせいだ。

 身長も大きくてありえないほど美形なのに、中身が子どもというかワンコみたいなんだよ。彼の本能で動く不可思議な行動にすっっっっごい振り回されて、なんか子育てに疲れたお母さんのようになってしまったよ。お母さん、今までわがまま言ってごめんなさい。今ならお母さんの気持ちがよく分かるよ。


 お母さん、私は明日には森を出ます。私はもう異世界戸にトリップした事を理解しているし、これからここで生きていくと言う事を受け止めているからここに居る長居する必要は無いんだよ。ここは居心地いいけど、レイ意外誰も居ない。だからレイに頼りすぎてしまうのが嫌なんだ。

 今までも、周りに頼りすぎていた。独りになった今、自分の力で生きていこうと……ていうかこういう台詞は異世界で何日も過ごして成長してから言う主人公の台詞だよね。三日目でこの台詞ってどうよ。まだどこにも行ってないのに成長の展開早すぎるだろ。

 …まぁもとから考えていた目標を達成するって事で許してよ。明日ここ出て行くから体力温存したいし、疲れたからもう寝よ。 

 私が木の下に寝転がると、レイも寝転がった。子どもってよく親の真似するよね。


「レイおやすみ」

『おやすみ』


 最後まで最高に美しい微笑みだよ。私はころん、とレイに背を向けるように反対側に寝転がったら、レイもころん、と私のほうに転がってきた。


「………」


 そろっと後ろを見ると、レイと目が合い可愛らしい笑顔を見せた。うん、和むけどね。なんで近寄ってくるかな?


『沙恵と一緒に居たいから』


 …最高に可愛いこと言うじゃないか!恋人だったら最高の口説き文句だね!!その美貌で言われたら落ちない女はいないよ!

 だけど残念ながら私は彼がお子様なワンコということを知っているので、女性としてときめきません。むしろ母性本能がくすぐられます。‥ん?それは私が女じゃないって事になるのか?


『沙恵は女』


 レイの笑顔に私は苦笑すると、レイの頭を撫で撫でして再びおやすみを言った。これでいい子なら寝るよ。という訳でおやすみ。寝ようとしたらレイが後ろから抱きしめてきた。どこまで甘えんぼさんなんだ!!


「レイ、寝にくいから離して」

『嫌』


 私が離れようとすると、もっとぎゅーっと抱きしめてきた。


「レイ、ちょっと苦しい」

『……』


 そう言うと少し力を緩めてくれたが、腕を解いてはくれなかった。なんかまた不貞腐れてるっぽい。はぁ…。


「どうしたの?」


 振り向こうとしたらそのままぎゅっとされて向けなかった。本当に何がしたいんだろう…。


『沙恵が森から出て行ったらしばらく会えない』

「……」

『だから沙恵の匂いと感触を覚えておく』


 なんかホント恋人みたいなこと言うけど、動物っぽくもあるよね。可愛いワンコ、本当に甘えん坊さんだね。もう抱き枕だろうがなんだろうが好きにおし。今日だけ特別だよ。

 そのことが伝わったのか、レイは力を緩めると、健やかな寝息をたて始めた。やっぱりお子様だよ。静かに寝てくれ。


 夜の森は冷えると言っていたけど、レイが居るから寒くなかった。暖房代わりだな!

 そのとき何となく、レイに初めて触った時より身体が少し硬くなっているように感じけど、疲れていた私はあまり深く考えずに寝た。






 朝日が昇り始め、周りが明るくなってくると、私は眩しくて目を覚ました。


「‥んー、おはよーレイ…」


 まだはっきりしない頭でレイに朝の挨拶をすると、そこにレイの姿はなかった。


「レイ…?」


 何でレイは居ないんだ?…もしかしてトイレか。あぁ、確かに昨日レイは用を足してなかったからね。そのうち戻ってくるか。お、下着ちゃんと乾いてる!さすが魔法のタオルだ。呑気にそんな事を考えていたけど、しばらく経ってもレイは戻ってこなかった。


 仕方ない、先にご飯を食べるか。私は昨日レイが山ほど採って来た果物を食べ始めたけど、食事が終わってもレイが戻ってくる気配はなかった。日が高く昇るまでオルガの側に居たけど、やっぱり戻ってこない。


「どうしたんだろう?…あ、」



『沙恵が外で暮らすのなら、私もここに居る必要はない』



 昨日レイはそう言ってたじゃないか。もしかしてレイはこの事をもう実行していたのか?

 …別れるときくらいちゃんと言ってよ!なんか寂しいじゃないか!!けどレイは元から色々なところに住んでたって言うし、あんまりそういうの気にしてないのかも‥。また今度会ったらちゃんと教えておこう。



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