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第一話 勇者

某所の人気の無い夜道。

“伊勢回町”と記された標識が街灯に照らされている。


ふらふらとした足取りの、サラリーマン風の痩せた男(20代前半)が暗い道を歩いている。


勇【ナレーション】:その日はいつも通りの火曜日の夜だった。つまり…いつも通り夜10時まで残業した帰り道ということだ。ヘトヘトになり、地面に倒れ込みたい衝動を抑えながら帰路に着いていた。


勇:「くっあのクソ上司め…俺に沢山仕事を押し付けて…クソみてェな残業させやがって…俺の時間を返しやがれ!」(小石を蹴り飛ばす)


勇:(ナレーション):いつも通りの…筈だった。だがその“いつも通り“は、“アレ”によって唐突に終わりを告げた。


段々と大きくなるエンジンとタイヤの音。

巨大な質量が猛スピードで勇の背後から近づいていく。

その音に気付いた勇は振り返り、咄嗟に身を躱し電柱の影に隠れる。


勇:「うわっ」


勇【ナレーション】:“死”だ。“死”がやってきた。


急ブレーキの音が響き、大型トラックがギリギリで停止する。

勇は尻もちを付き、驚愕の表情のまま動けずにいる。


男:「おいおい、避けるんじゃねェよ」(軽薄な声色)


キャブの窓が開き、運転手(巨漢の中年)が上半身を乗り出し姿を表す。

勇の顔を見下ろし、狂気的な笑みを浮かべている。


男:「まあ安心しろよ。次は…ミンチの刑!にしてやるからよ」


ニタニタと殺意を滲ませた笑みを浮かべた運転手が身体を窓に引っ込める。

トラックが威嚇するかのように身を震わせ、まるで猛獣の咆哮のようにけたたましいエンジン音を鳴らす。


勇【ナレーション】:その鉄の塊が俺が知っているどんな怪物よりも恐ろしいことを俺は知識として知っていた。いつか見た事故現場。肉と血の塊。人間の死に方じゃなかった。車は人を容易く殺す。トラックならばもっと容易いだろう。そして何より最悪なことに…そいつを運転しているやつは、明らかに俺を殺そうとしていた。


勇は背を向けて逃げ出す。

背後からエンジンとタイヤの音が急速に近付いてくる。

ヘッドライトの明かりが段々と大きくなる。  


暗転。

鈍い衝撃音。緩やかなブレーキ音。 そして沈黙。


やがてトラックのキャブドアが開き、運転手が降車する。

地面には原型を留めぬ肉と血の塊が広がっている。 

運転手はその肉塊を、冷めた表情で見下ろす。


男:「あっさり終わっちまったな。こんなひ弱なやつに…本当に勇者の資質なんてあるのかねぇ?」




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