八話 またね
公園を出て、住宅街へと続く一本道を二人は並んで歩く。
夕闇が完全に街を飲み込み、家々の窓から漏れる暖かな光が、アスファルトの上にいくつもの四角い模様を作っていた。
歩幅を合わせるたびに、手の甲がかすかに触れそうになる。けれど、指先が触れ合う寸前で、どちらからともなくわずかな距離が空く。そのもどかしい空白に、先ほど交わした言葉の熱が溜まっていくようだった。
世界を救うヒーローと、その隣を歩いてる、俺。
並んで歩く二人の影を見ても、やはり実感が湧かない。
隣でクレープの包み紙を丸めているこの男が、人知れず異形の怪物と戦い、この街の平和を背負っているなんて。ファンタジーの登場人物のようなその肩書きと、少し猫背気味に歩く等身大の彼が、俺の中でまだうまく結びつかなかった。
ただ、時折吹く夜風に混じる、あの微かな焦げた甘い匂いだけが、それが紛れもない現実であることを静かに告げている。
「……着いたよ」
見慣れた我が家の門扉の前。昨日のデジャヴのような光景だが、心持ちは昨日とは正反対だった。
リョウは足を止め、街灯の光を背負って俺を見た。
「じゃあ、またね」
「うん」
「またね」という言葉が、こんなにも重く、それでいて救いになるなんて知らなかった。
俺が門を開けようとしたその時、背を向けかけていたリョウが、思い出したように振り返った。
「ユイト」
低く、けれどよく通る声で名前を呼ばれ、俺は肩を震わせて振り向く。
「なに」
ぶっきらぼうな返しに、リョウは少しだけ目を細め、今日一番の、嘘偽りのない柔らかな笑みを浮かべた。
「ありがとう」
何に対しての「ありがとう」なのか。
ノートを写させてくれたことか。クレープに付き合ったことか。それとも、荒唐無稽な彼の告白を、俺が「信じる」と言ったことか。
その意味は、あえて聞かなかった。
ただ、彼が今この瞬間に笑っている。その事実だけで十分だった。
「……おやすみ、リョウ」
俺の声に応えるように、リョウは小さく手を振り、夜の闇へと消えていった。
一人残された玄関先。冷たくなった指先をぎゅっと握りしめると、そこにはまだ、リョウの袖を掴んだ時の感触が、確かな熱を持って残っていた。




