プロローグ
まだ青い正義感が走る。どこまでも。
何が正しいのかなんてわからないし。
未来がなくたって、守るしかないんだよな。
テレビの向こう側、アナウンサーが熱狂した声で彼の勝利を報じている。
『人類の盾』『最強の象徴』。並べ立てられる美辞麗句が、ひどく滑稽で吐き気がした。
玄関の鍵が開く。
帰ってきた「ヒーロー」が持ち帰ったのは、栄光なんて輝かしいものじゃない。
夜の闇を切り裂いた怪異の咆哮の残響と、鼻をつく、消えない死の匂いだ。
「ただいま」
そう言って微笑むリョウの頬には、拭いきれなかった返り血が乾いてこびりついている。
無理に作った笑顔が、咽せた拍子に崩れた。慌てて口元を抑えた彼の手の隙間から、どろりと赤い色が溢れる。
いじめ、戦争、犯罪。人が人である限り終わらない悪意を、なぜ、たった一人の少年が背負わなければならない。
力を持って生まれたことが「宿命」だと言うなら、神様なんて、ろくなものじゃない。
──行かないで。
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
誰もが見て見ぬふりをする。彼がすり減っていくのを。未来が削り取られていくのを。
世界が彼に「死ぬまで戦え」と命じるなら、俺だけは、彼に「生きて隣にいろ」と呪いたい。
バカだな、俺。一番痛いのは、お前なのに。
「今日が最期になるかもしれない。だから、優しくなれるんだよ」
震える指先で俺の服の裾を掴む、その肩は驚くほど細かった。
顔も知らない誰かのために、お前は今日を捧げるのか。
これは、世界を救うお前を救えない、俺の無力な愛の備忘録。
終わりゆく世界で俺らが重ねる、一分一秒の遺言だ。




