海沿い
先週、妹が死んだ
ー・ー
人によってはGLに見えるかもしれません
寒い冬の日、重い筒を持って堤防の上を進んでいく
遥か先まで伸びる海はどこまで連れて行くつもりなのか私には見当もつかない
砂を払って堤防に腰掛けた、元々が高い堤防である事と今は潮が引いていることが幸いして足が浸ることもない
それに安心してから首の後ろに手を回して二つあるうちの片方だけ金具を外す、小さな音を立てて外れたそれを何周もさせて下の方の髪を束ねた
コートのポケットから新品の鋏を取り出すと冷たい光を反射して銀色は淡い白に色を変えた、未練がましく数秒振り回してそれを後ろに運ぶ
左手で髪を纏めてその下を真っ直ぐに切った、ただそれだけであの子の人生と同じ15年の時間をかけた長髪は簡単に私から離れて行き、一週間前までは愛おしかった重さが一瞬にして感じられなくなった
代わりに同じ重さが左手に乗ってきて、今度は未練も躊躇いもなく腕を伸ばしてダークブラウンのそれをあの目とは違う誰にでも平等に冷徹な深い仄暗さで相対する海に投げ捨てる、あの子もこうだったら良かったのに
投げ捨てると言うよりは供物を捧げるの方が正しいのかもしれないけど投げ捨てるくらい雑な方が私の心が楽だ
そもそも死人に向き合う行為は生者が死への感情に何かしらの方法で区切りをつけるための行動なんだから私が楽になる向き合い方で良い、はず
「と言ってもそう思えてないから15年を捨てたんだよね…」
横に置いた筒を開けながらそう呟く、意図的に強風の日を選んだけれどそのせいで切ったばかりの髪が首筋に刺さって少し痛い
海に向かって座る背に追い風が吹いた瞬間、蓋を開ければ粉が海に躍り出ていった、流石に骨だけあってあの子に似ている
お願いだからそのまま踊って私から離れていって、この首にまだ掛かってる指輪だけは捨てないでおくから
骨が全て海に沈んだのを見届けてその場を立ち去る
あの子の最後は、異常だった
昔からいつも私に倣って従って私を讃えてと過剰なほど好かれている自覚はあったけれど、あんな感情を抱かれてたなんて思っても見なかった
一週間前あの子が、うみが死にかけている病室で看護師はあの子に怯えていた
死にかけている患者に怯えるなんて職務上あってはならないのかもしれないけれど私はあの看護師に感謝したい、あの子が異常と証明してくれたのだから
あの病室には私以外に母も父も居た、県境の近くとはいえ1時間以上かかる距離に住んでいる従姉妹まで予定を押して駆けつけてくれた
でも、あの子が意識を向けたのは私だけだった
「おねえちゃんも一緒にきてくれるんだよね」
そう言って私の腕を掴んだ震える左手には銀色の小さいハートが居た、銀色の細い波が繋がるようにして薄青色のハートを支えるデザインのフリーサイズリング
私がライトのピンキーリングとして嵌めていた物と同シリーズのそれを、あの子はレフトのアニバーサリーリングとして扱っていたらしい
呆然とした私を見つめる目はもう随分と寝たきりだったからかすっかり弱って明るさを失っていて力無くぼんやりとしていた
けれど、その奥には劣情的な執着が溢れていた
なんであの時まで気づかなかったんだろう
思い返せばあの時も、あの時も…
そうやって過去に思いを巡らせながら歩いていると砂みたいな何かが入ってきて目が痛みだす
億劫ながらも目を擦ると指に絡んできたそれは少し白かった
ここはまだ、海沿い
初投稿です、お手柔らかによろしくお願いします




