『美しい女と速記者の息子』
あるお不動様のお籠もりに、とても美しい女がいた。女を見初めた男がいて、盛んに言い寄ったが、女は、長須太というところに住んでいるということ以外は教えなかった。男のほうは、全く脈がないのなら、何も教えてくれないはずだと考えて、長須太を訪ねてやろうと、全財産を金にかえて、旅に出た。
長須太へ向かう道々、路傍の家に泊めてもらったりしていたが、男が大金を持っていると察した家の者に命をねらわれ、命からがら逃げ出して、助けを求めて飛び込んだ家が、探し求めていた美しい女の家であった。
再会した二人は、夫婦となって、仲よく暮らしていたが、男が薪をとりに山に入ったとき、殺されてしまった。このとき、女は、既に身ごもっており、男の子が生まれた。女は、男の子に、父親の形見となったプレスマンを握らせ、父親の着物でつくったおくるみにくるんであやしていると、一人の僧侶があらわれて、何ということもない話をしていると、一羽の大鷲が飛びかかってきて、男の子はさらわれてしまった。女は、突然のことに呆然としていたが、僧侶は落ち着いたもので、大鷲は人を食べないし、プレスマンが守ってくれるだろうから、いずれ、あの子と再会する日が来るだろう。その日まで、仏に帰依するがよい、きっとあの子は、ほどなく拙僧のもとへ来ることになるだろう。拙僧が無事に育てておくから、そうだ、今から十三年後のきょう、この場所で会おう、と言って別れた。物が見えている人は、信じられないくらいさばけたものである。それで納得する女も、どうかしている。
この僧侶が歩いていると、ついさっきさらわれた男の子が、道ばたの大きな石に乗せられていた。プレスマンを握っているので間違いはない。僧侶は、すぐに戻って、女に男の子を渡そうかとも考えたが、十三年後と言った以上、十三年後がいいだろうと思って、寺で育てることにした。
十三年たって、母子が再会を果たしたとき、息子のほうは、父親の形見のプレスマンを、本来の目的に用いて、一人前の速記者になっていたという。
教訓:昔話には、誰が主役なのかわからない話がよくある。




