第9話 みんな怖いよ……。 by心也
こんばんは、獅子乃です。
今回は割と待たせちゃいましたね、ごめんなさい。
ん? 待ってない? ……ごめんなさい。
さて、今回は暴走に暴走が重なったり新キャラがたくさんです。
では、ごゆるりと行ってらっしゃいませ~♪
「ねぇシンちゃん。どこか行きたいところはある!? 市場とか、闘技場とか、何だったら海でも山でもどこでも、どこが良い!?」
捲し立てる様にして聞くティターニアに若干怯みながら恐る恐る、控え目な感じで心也は意見する。
「どこでもいいの? うんと、お母さん達の、所が良い……」
「そ、そう……(ですよね~…。でもいまさら無理だとは言えないしな~…)」
そもそも、ここと現実の世界は別物。簡単に行き来が出来る訳でもない(ティターニアは女王権限で可能)。どうしたものか、そんな風に考えていると黙っていたのが否定とみなされてしまい心也の瞳にだんだんと不安の色と涙が溜まってくる。
「な、泣かないで! だ、大丈夫よ!? お姉さんがしっかり探してあげるから、ね? じゃあ、お母さん達捜しながら色々見て回りましょ? ね、それがいいわ。そう、そうしましょうッ!」
それを見て慌てるティターニア。職業柄あまり小さい子との関わりは多くない。ましてこんなに愛くるしい少年に泣かれてしまったら罪悪感で四回は死ねるだろう。
「じゃ、じゃあ行きましょうね。レ、レッツゴぉ~ッ!!」
「陛下、では外出の支度を。お客様は外で待ってましょうね」
女王付きの給仕が外に促すとまたも心也が不安そうにティターニアを見上げる。それを不審に思い問うと、
「あの、ティアお姉ちゃん……ひ、一人にしないで……」
何かと思えば心細いから一人にしないでほしい、だそうだ。見知らぬ地にただ一人。先程会ったティターニアからも引き離されてしまったらまた一人ぼっちになってしまう。それだけは絶対に避けたい、幼き心也は必至に危機回避したつもりだった。が……飛んで火にいる夏の虫、自分の首を絞めることになった。
「あふっ……(ヤバい、これはヤバい。こんなの卑怯過ぎる。こんな視線で見られたら断れる訳ない、いや、断るわけが無いッ!!)」
「はふぅ……(陛下、この子は一体ッ!? 一通りの護身術を身に付けた給仕である私が、こうもあっさり籠絡されるなんて……)」
女王、及び給仕はその視線によって脳髄に至るまで融かされていたのだった。頬はほんのりと朱に染まり、吐く息は荒く、目はとろんと潤みきっているのだ。6歳の少年でも解った。これはマズイと。
「や、やっぱり僕外出てるッ!!」
そう言って女王の私室を飛び出していくのだった。ちなみにこの事件は給仕から給仕へ、執事から執事へ、衛兵から衛兵へと伝わり、『女王籠絡事件』と城内の噂になったのはまた別の御話である。
「はぁ……はぁ……(危なかった、よく分からないけど、危なかった……)」
一方、逃げ切った心也はティターニアの部屋の前で息を整えていた。何故ここまで息が上がっているのか、と問われれば、あの二人の姿にある種の危険を察知したから全力で城内の廊下をダッシュしたからだと答える事だろう。
「それにしても広いし、おっきいなぁ……」
落ち着いてきた心也はティターニアの部屋の扉から目を移し、廊下、柱と視線を移していく。大理石と言うのだろうか、光沢のある石造りの壁と床は『お城』というイメージにピッタリで、そのスケールの大きさもやはり『お城』の名にふさわしいと言える。
ふと、後ろから視線を感じ後ろ振り向くと銀色の鎧をまとう(恐らく)男がこちらに近づいてくる。兜から覗く目と自分の目が合い心也は怯む。猛禽類、鷹の様な鋭く獲物を狙うような視線を浴びれば誰だって怯む事だろう。だが、鎧の人物は自分の姿が目の前の少年を怖がらせてしまったのだと気づくと被っていた兜を外し、自分は敵ではない、と両手を挙げ無害だと証明する。
「怖がらせたか? すまん、俺はここで衛兵やってるんだ。な、大丈夫。何もしないからそんなに怖がるな」
「お兄さんは誰?」
心也は目の前の、まだ青年と言っても差し支えないだろう人物に問う。衛兵をやっているだけあり180㎝はあるだろう長身、鎧越しに見えるがっしりとした体格、だがその表情は人懐っこい感じの顔で恐らく女性に人気があるであろう。髪は紺、瞳は猛禽類のそれと同じ色彩をしている。やっぱりここは僕がいた場所じゃないんだ、と心也はつねづね思った。
「俺か? 俺は……」
「あらアゼルじゃない。どうしたのこんなところで?」
「げ、陛下……」
目の前の青年が名を名乗ろうとしたところに割って入ったのはティターニアだった。彼女曰くアゼルと言う青年はティターニアの飛び入り参加に、苦言を漏らし表情を歪める。
「衛兵隊の副隊長さんがなんでこんなとこにいるのかしら? またサボり? イケない子ね……。シンちゃんに変な事吹き込んでないでしょうね?」
ティターニアは着替えている隙に心也が変な事を吹きこまれてしまったのではないか、とアゼルに疑念と共に問いただす。アゼルの怠け癖は城内、いや城下町でも有名なほど。彼は目付け役やティターニアの目を盗んでは城下町に行って問題を起こしたり、裏通りに行っては遊郭で夜を明かす。そんな人物が心也に接触したのだ、何をされるか分かったもんじゃない。
「な、何もしてませんよ。異界から来た少年がいるって言うから見に来ただけです。そこの少年が異界から来た少年で間違いなさそうですね」
「そうよ、私がこっちに連れて来たの、シンヤちゃんよ。これから私たちは城下に行くから、留守をお願いね。ああ、それと……」
ティターニアが勿体ぶるようにして言葉を止める。何だかすごく気になるアゼルは先を促すために口を開くが、後方から大柄な男が現れてアゼルの首根っこを引っ掴む。
「アゼル!! またお前は練習をサボりよって……ん? これは、女王陛下!? 申し訳ありません、何分こいつはすばしっこくて……」
「ええ、大丈夫ですよシド。その事は私がよく分かってます。それより私たちはこれから城下に行きます。その間のことは任せましたよ」
突然現れた屈強な男はシドと言うらしい。心也の身長で比べるとアレだが、大岩程もある筋肉の塊に白髪交じりのぼさぼさのウルフカット。口の周りにも無精ひげが伸び放題になっているがティターニアを見たときに見せた笑顔は人懐っこそうな表情だった。その笑顔を作る男の顔には目が一つ足りない。こちらに来た時に色々な人種がいる事は聞いた。先天的に目が一つしかないものもいるらしいがこの男には元々二つある。右目、右の眉のすぐ上からまっすぐに何かに引っかかれたような爪跡が右目を通過するようにして付いていた。
その男――シドは女王直々の命令に姿勢を正し敬礼しながら答える。
「はっ! 了解であります。護衛の方は如何しますか?」
「大丈夫よ。私の国だもの、私が一番よく知ってるんだから。それに今回は情報収集も兼ねるからいらないわ」
「しかし、陛下の身に何かあったら……情報収集は諜報部に頼めば」
「気遣いはありがたいけど、私は女王よ? この座にいる私がそんじょそこらのチンピラに劣ると思って?」
「し、失礼致しました。それでは、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
ティターニアの問いに、苦い顔をしながら無礼を詫びる。こちらに来た時もそうだった。守ってあげると撫でられながら言われた。その声は温かく力強いもので、この状況をみるからに実力が伴っているようだ。
それでは行って来ます、と心也の手を引きながら城の最上階である女王の私室から出入り口のある階まで下りるために階段の方へと向かっていった。
「陛下、私はここまででよろしいのですか?」
そう聞いたのは、先程ティターニアの着替えを手伝っていた給仕、チェルシーさんと言うらしい。彼女は城の入口でその顔を少し不安そうにして聞いている。ちなみに彼女はエンシェントエルフ、と言う種族らしい。何でもこの国にはエルフの派生種が多くいるらしい。あまりよく違いは分からないがエルフの起源となった種だそうだ。ここに来るまでにも二人程彼女の同僚を見たが、一人は黒い肌に朱色の瞳、黒い髪を後ろで一つに纏めた活動的な印象を受けるカッコいい女性だった。もう一人は、金髪に碧眼、黒縁眼鏡を装備した出来る秘書みたいな人だった。
チェルシー同様ティターニアニアの側近らしく彼女に手を振られると恭しく礼をしていた。ティターニア曰く、私の親友よ♪ だそうだ。
ティターニアは彼女が心底心配しているように感じたので部屋の前であった屈強な衛兵にも言った様に同じ事を繰り返す。
「もう、チェルシーは心配性ね。いつもの事じゃない。この国の人達はみんな良い人たちよ。たとえ変なのに絡まれたって私が――」
そう、言って自信満々な表情をチェルシーに向けるティターニアだが、チェルシーの痛烈な反撃で言葉を遮られる。
「陛下は良いんです。お連れのシンヤ様が巻き込まれてしまっては大変でございます。陛下はそういう事に慣れてらっしゃるからこれっぽっちも心配はしてません、むしろ絡んだ相手が心配です。この前だって酒に酔って隣の席の方に――」
「――返り討ちに……ってそれは言っちゃダメぇ!! もう、シンちゃんは命に代えても守るから安心なさい。私だって花婿候補のシンちゃんに傷なんか付けたくないもの」
何やら不穏な単語とティターニアの酒癖の悪さを垣間見たが、自信満々に自分のふくよかなふくらみをぽん、と叩く彼女はこれっぽちも気にしてなどいない。
「――陛下。こんないたいけな子を花婿候補だなんて何考えてるんですかッ!? ご自身の年齢を考えて下さい。陛下の様な老b――」
当然の様に言うティターニアの暴言を見逃すはずが無く、何を考えているのだ、とティターニアの思考を疑う。だが、チェルシーはやりすぎてしまった。彼女は踏んではいけない地雷に自らダイブしてしまった。
「その先を言ってみなさい。雑草に変えるわよ? ……よく言うでしょ、愛に年齢は関係無いの。それにもう10年位待てば、絶対に光ると思うの。だから、今のうちに仲良くなっておけば……」
温かそうな印象が強い彼女の目はスッと細まり肉食獣の如く、その髪の毛は妖気と言うか、闘気の様なものが重力を物ともせずゆらゆらと宙を漂わせる。そして、艶のある唇から放たれる言葉ひとつひとつが呪詛の様に吐き出された。突然始まった口論(?)にキョトンとしていた心也は怯えてチェルシーの後ろに隠れてしまうが気づかずに彼女は乙女の如く手を組んで妄想モードへと突入する。
『ティアお姉ちゃん、……いやティア。君を迎えに来たよ、これからは僕と二人で暮らそう。君となら幸せな家庭を築けると思う、いや築こう! 今までは守られてばっかりだったけど、これからは僕が……さぁ、僕のお姫様――』
「はい……ダーリン♪」
脳内の幻想よりも幾分か、いや相当幼い少年を視界に捉えるとゆらゆらと揺れながら心也に近づいていく。その姿はまるでゾンビ。バイオ・○ザードに出てくるような足取りで一歩一歩近づく。
心也はその動きに恐れをなし、先程から隠れていたチェルシーの給仕服に、より一層強くしがみ付く。しがみ付かれたチェルシ-は、腰にしがみ付く愛玩動物の様な心也に、にへ~っと締りの無い顔を向けながらキュッと抱きしめる。すると自然に胸が――――
「ふむごっ!? むぅ、むぅ……」
「大丈夫です、シンヤ様は私が命に代えても守ります。だから安心し……!?」
「チェルシー!! そんなものシンちゃんに押し付けないで!! 貴方の胸じゃシンちゃんが満足する訳ないでしょ? さぁ、大きいだけの女はさっさと給仕の仕事でもしてなさい」
そう言って心也の後ろから、大きくもあり、その上柔らかさにも秀でた膨らみが当てられる。板挟みならぬ乳挟み。幸い周りに誰もいないが、いれば大きな人だかりになる事だろう。美人さんが二人。それも間に少年を挟んだ光景などそう滅多には見れない。
そうしているまに心也のうめき声は聞こえなくなり、顔は赤から青くなっていく。酸欠、しかも胸に挟まれてなんて恥ずかしすぎる。が、当の二人は気づかずにフニフニと押し当て続ける。
「う、うう……(僕、疲れたよ……お母さん、お父さん、最後に一度、会いたかったな……)」
「くそぉ~、すげー羨ましいな……。陛下の柔らかさと大きさのコントラスト……。やり手の給仕長チェルシーの大砲の様な果実……。良いなぁ……」
「これ、アゼル。衛兵たるものこういうときは見て見ぬふりをだな……」
「隊長、シンヤの顔青くねーか? もしかして窒息してるんじゃないか?」
息絶える寸前の心也を影から見ていたのは、訓練に行ったはずのアゼルとシドだった。アゼルは指をくわえながら羨望の眼差しを送り、シドはそれをたしなめる。
だが、心也の一大事に気が付くアゼルは心也の救世主となった。
「お~い、陛下ぁ!!」
「これ、アゼル!!」
アゼルはシドを振り切ると乳挟み合戦の中にずんずんと進んでいく。それを大慌てで追いかけるシドは苦笑いと冷や汗にまみれていたに違いない。
「そのままだとシンヤ死んじまうぞぉ? 早く放して代わりに俺を――」
「馬鹿ものォ!! 一言余計だ! 陛下も、早くしないとその少年が――」
「へ? あ、きゃあああ!? シンちゃん!? 死んじゃ嫌ぁぁぁ!!」
余計なひと言をもらす前にガツンと一発アゼルの脳天にこぶしを落とす。アゼル達の注意に我に返ったティターニアは心也の惨状を目にし悲鳴を上げながら心也を揺さぶる。
「しっかり、しっかりしてぇ!! 嫌あぁ、死んじゃ嫌ぁぁぁ!!!」
「て、ティアお、姉ちゃ、や、止めて、気持ち悪、い……」
ガクガクと揺さぶられ窒息を免れたはずが気持ちの悪さに意識が遠のく心也。こんなんでは両親を捜す前に心也自身が死んでしまう。
こうして、お祭り騒ぎの状態から両親捜索は始るのだった。
お帰りなさいませ、ご主人様♪
……ごめんなさい、激しくごめんなさい。
メイドが絡んでいるのでちょっとやってみたくなりまして……(汗)
さて、今回は沢山のキャラとその暴走。
メイド長はまぁ、ティア様の親友的な立ち位置で。
他2名も後ほど出る予定です。たぶん今回の惨劇が再び……。
衛兵のアゼルとシド。
アゼルはシドの部下ですね。
これからです、彼らも。
特にアゼル、あ、なんでもないです(汗)
さ、さあまぁそんな感じで雑談タイム。
皆さまに愛されて早1ヶ月とちょっと。
私も本日で16歳になりました。何かありがとうございます。
PV:7000アクセス突破!
ユニーク:1100アクセス突破!
本当にありがとうございます!
獅子乃はカウンターが回るたびに小躍り、
感想が来るたびに雄たけびを上げて喜んでいます(*^_^*)
こんな稚拙な文を暇つぶしがてらに末永く読んでいただければ幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。
では、次回の更新でお会いしましょう、もちろん感想欄でもお待ちしてます♪