第8話 喜劇の始り、ようこそ『幻獣界』へ byティターニア
こんばんは、割とお待たせしました。
今回のお話は、前話の後書きに書きました通り。
旧7話の後半部分です。
では、ごゆるりと行ってらっしゃいませ。
「まぁ、こんな感じ。事故についてはね」
とりあえず事故までの話はひと段落。これまでに乾いたのどを少しぬるくなった牛乳で潤す心也。ふとこれまでに話を聞いていた二人は黙りこんでいた。当然人の死が絡んだ話し、しかも実体験を話されたのだ、この状況でニコニコしている人はまずいないだろう。そして、その二人に呼応するかのように部屋の空気はどんよりして通夜みたいになっていた。
「そう、鈴美ちゃん最後まで……」
「ママ、もう、私ダメ……」
二人はやはり泣いていた。瑞穂はハンカチを目に当てて静かに、何だかとっても様になっていた。一方のほたるは目を真っ赤に腫らし、鼻水までもが垂れ流しになっていた。近くに置いてあったティッシュボックスを引っ掴むと何枚も何枚も使って涙と鼻水を拭いていた。この話をして泣かなかったのは師匠くらいだろう。どちらにせよ悲しいのはここまでだしいっか、と心也は完結させてしまった。
ちなみに、瑞穂が言った鈴美と言う名の人物。その人物こそ心也の実母である。彼女と瑞穂は幼馴染同士でこの事故の後、色々あった先に昔から仲が良かった瑞穂に心也は預けられるのである。
「そうねぇ……。あんな事故で心也だけでも生き残れたのはやっぱり鈴美ちゃんが守っててくれたのね。出来る事なら今のあなたを見せてあげたいわ、立派になったでしょ、って。もちろん積もる話もある訳だからね……」
「あれ、お兄ちゃん? で、そのあとはやっぱりママに預けられるんだよね?」
心也は鼻水の所為で少々鼻声になっているほたるの質問に首をかしげつつ悩んだような顔をして答える。
「最終的にはそうなんだけど、最初はお婆ちゃんのとこにいて、お葬式の時にお義母さんがお婆ちゃんと話をして、でそれからこの家に来たんだよね」
瑞穂は遠い目をしながら懐かしそうな顔をしながら心也を見つめた。にっこりと微笑まれた心也も自然と笑顔になりながら話を続ける。
「その頃にはもう真くん達と一緒だったからいくらかマシだったけどその前は相当荒んでたな……。ご飯はのどを通らないし、眠れなかったんだよね。目を閉じる度にあの時の映像が目の奥に浮かんで、お母さんのあの顔が浮かんで……」
過ぎた事なんだけどね、そんな風に締めくくったが心也の目にはうっすらと涙が浮かんでいて、少し辛そうな顔をした。悲しいものは悲しい。その顔に心配そうな顔を二人はするが、それに気がつくと心配しないで、と笑顔を作ってみせる。
《あんときゃ本当にへこんでたからな》
《仕方ないでござる、殿はご両親の事が本当に好きだったのでござる。しかしそれが無ければ拙者達も殿に会う事はなかったでござる》
心也の中では真たちがあの時を思い出しながら語り合っていた。もちろん悲しい出来事である。だが、それが無ければ今の幸せはないのだ。結果オーライ、と言って良いのかは分からないがつまりはそういう事である。
「さて、あんまりこのお話ばっかりしてると悲しくなるから、続きを話すよ?」
このままだと最後まで語らずに日付が変わってしまう。そう思った心也は先を話そうと二人に声を掛ける。
「続き? あ、そっか。まだ真お兄ちゃん達が出てきてないもんね」
いまさらながら、真達がまだ出てきていない事に気づくほたる。折角出てまで話しのきっかけ作ったのに、と心也の中で小さく真がぼやいたのは心也と臣しか知ることはないだろう。
「昔ちょっと聞いたけど、今度はもっと詳しく聞かせてくれるんでしょう?」
瑞穂も話に乗ってくる。瑞穂は以前にこの話を心也自信から聞いている。だが、ピカピカの一年生同然の少年に聞くのと今聞くのとでは話の厚み、表現、全く違うに決まっている。そんなことを思いながら義理ではあるが我が子同然の我が子の話を餌を待つ子犬のように目を輝かせてまっている。
「うん、それじゃ続き。その事故から何だけど……」
――――暗い……。
――――ここはどこ……?
黒。真っ黒。辺り一面真っ暗な闇の中、そう表現するのだろうか。まるで宇宙空間の様な、暗くて限りなく広いと錯覚してしまう様な空間に心也はいた。辺りはどこを見ても黒。明らかにいましがたいた山でないのは確かだ。そう、5歳の少年である彼にも分かった。
――――お母さん!! お父さん!! ……どこにいるの!?
今さっきまですぐ目の前にいた両親を捜して辺りをふらふらと彷徨いながら声を限りに叫ぶ。しかし、その声に返答する両親の声はおろか、その真っ暗闇の中に声は吸い込まれて行くばかり。
――――寒い……、怖いよ……。
――――お母さん……、一人に、しないで……。
暗い中にただ一人、5歳の少年には些か厳しい状況。一人取り残されてしまった自分。光の無いそこは感覚の無い体に寒気を感じさせるほど。最後には涙を流し、不安に駆られながら母を呼ぶ。
その声は、次第に異界を呼んだ。彼が意図的にやったのではない。偶然、ただそこを通りかかった異界のとある人物の耳にその声は届いたのだ。
その人物は、自分専用のその玉座から声のする場所へと赴く。本来ならば、立場上数名の側近を連れていかなければいけないが、そんなことは正直どうでも良かった。まぁ、お忍びって事で許してくれるはず、そんな風に思いながらその人物は玉座を抜け、転移するための部屋――鏡の間へと移る。
そこに移しだされたのは毎朝毎朝飽きるように見る自分の顔。大きな緑色の瞳に、まっすぐに伸ばしたクリーム色の髪。形の良い眉と高い鼻。ふっくらした唇は誰もが釘つけになる。……と前に給仕係が言っていた気がする。そして、最大の特徴は少しとがった耳だろう。所謂、エルフ耳と言うやつである。
そんな人物、いや彼女が鏡に手をかざし何やら呟くと心也の泣き顔が移った。
「私を呼んだのは、君だったのね……。はぁ、なんて可愛いのかしら……。あんなとこにいてもしょうがないから連れて来ちゃってもいいわよね、……うんいいや、連れてこよ♪」
自己完結。彼女は一人で勝手に決めると鏡に手を掛けて、思いっきり鏡の中に飛び込んだ。
一方の心也は、無限の闇の中を未だに彷徨っていた。そもそも上下左右が無いのかどっちの方向に進んでも終わりのない闇が続くばかりであった、が――――
「光……? お母さん? お母さんなの!?」
闇の中に一筋の光。心也の声に呼応するようにどんどん大きくなっていく。
もちろん心也は進んだ。ジタバタしながら無我夢中で進んだ。その光が、暗い闇と違い温かかったから、悪いものじゃないと直感で思った。その温かい光が、最後に見た母のようだったから。
「お母さん、お母さん!!」
スゥーっと光の方に近付き触れた瞬間に心也の目が眩み、何かに手を引っ張られたと思ったら視界を白だけに埋め尽くされた。
「……ねぇ、僕。起きて、目を覚まして」
光の先、それは鏡の間。彼女は心也を捕まえると、自分の自室にて介抱していた。
自室。その言葉はホテルのスイートルームは指さない。精々ベッドと、机があったりのものだがここは例外。
キングサイズの天秤付きの豪華な装飾のされたベッド。金銀で飾られた化粧台。明らかに手の込んだ彫刻が彫られた椅子と机。挙げるだけでも良質な家具やらなにやら。まさにスイートルーム……、いやどこかの王室とでも言った方が良いだろうか。
この部屋の主である先程の女性は心也を優しく揺すって覚醒を促す。すると、少し赤くなった瞳が彼女を捉える。
「お…母さん…? お母さん!!」
心也はそのぼやけた視界に捉えた女性を母だと思い、仰向けに寝ていた状態から、ベッドの端に座っている女性に抱きつく。
女性は、オロオロとしながら少し頬を紅潮させながら心也の頭に手を置き、優しくなでながら言い聞かせる。
「ねぇ、僕。私は貴方のお母さんじゃないのよ? (ああ、本当に可愛らしい……。食べちゃいたいわ……)」
その言葉に心也は顔を上げると目を凝らす。やはり目につくのは瞳の色と、髪、そして耳だった。母はこんなに外国の人の様な顔をしていない。もっと童顔だった気がする。もちろん外国人にここまで人間離れした人はいないが。では目の前の人物は誰だろう、お母さんはどこ、そんな不安にまた駆られ始め不安げな視線を女性に向ける。
「嫌ぁ、そん顔しないで……、泣かないでちょうだい……。そ、そうだ。私に貴方の事、教えてほしいな?」
不安げな視線を送られた女性は、思わず自分も泣きそうになってしまう。こんな経験をした事が無いし、非常に困ったから。出来るだけその事に触れないように、場の空気を一転させるために話を変えてみようと試みる。
一方、目に一杯の涙を貯溜め始めた心也は、優しげな彼女に視線を送ったまま黙っていたが危険が無いと思うとゆっくり、慎重に尋ねた。
「……お姉さんは誰? ここはどこなの? ……お母さん達は?」
やっと警戒を解いてくれた心也にここ一番の笑顔を向けると、心也の問いに応える。
「そうね、まず私の名前からね、私の名前はティターニア。ここ『幻獣界』の女王をやってるの。よろしくね♪ 貴方のお母さん達は、どこにいるか分からないけど、きっと見つけてあげる。だから、ね? 泣かないで」
これが、心也と幻獣たちの女王・ティターニアとの出会いである。
そして、この出会いが今後の人生に大きな転機をもたらすのを彼はまだ知りもしないのである。
はい、おつかれさまです。
…………ですよね(汗)
全然変わってないですよね~。
何故分けよった!!
って聞かれちゃうと非常に困っちゃうな、はは~…。
さて、申し訳ありませんが今回はご勘弁。
次のお話はだいたい頭の中にあるので書き込むだけです。
まぁいつになるか、たぶん休日を利用してがんばります。
では、色々お騒がせしました7、8巻はおしまいです。
次回、心也の身に危険が……!? あるわけないですけど。
とりあえず失礼します。今回も読んでいただいた方、ありがとうございました♪