第6話 歓迎会と兄ちゃんとッ! byほたる&真
こんにちは、そろそろこんばんわになりそうな時間に獅子乃です。
今回は相当長いです。4000オーバー。いつもの倍はあります。
さて、前回は暴走に暴走が重なったので、今回はしっかり書いたつもりです。
では、第6話。ごゆるりといってらっしゃいませ~♪
食卓。みなさんは、朝ご飯や、晩ご飯を誰と食べるだろうか? 親、兄弟、姉妹。一つ前の世代と住んでいればお爺ちゃんやお婆ちゃん。恋人と同棲していれば彼氏や彼女。いま挙げただけでもこれほどの形態がある。まぁ、一人暮らしであれば当然一人で食べることになるのだが。
食卓を囲って食べる、これは家庭の基本であり、最大のコミュニケーションの場でもある。学校であった事、会社であった事、たくさんの話を出来る場ではあるが、近代社会ではそれもままならず家庭崩壊、とまでは行かないが非常に寂しい環境になっているのは確かである。が、菊川家と言うと――――
「ママ……、これは、やりすぎなんじゃない?」
「そんなことないわ。心也が帰って来たんですもの、お祝いしなきゃ♪」
「いや……、さすがに僕もこれはやりすぎだと思うなぁ……」
――――心也の歓迎会を執り行われていた。が、少々トラブルがあったらしい。
一般家庭のどこにでもあるような四人掛けの椅子とテーブルが置かれたダイニングキッチン。そこは、会社帰りのサラリーマンが思わず足を止めてしまうような香りに包まれていた。
家庭の味代表、味噌汁を始め、数々の料理がテーブルを埋め尽くしていたのだ。味噌汁、肉じゃがなどの和食ゾーン。ムニエルやハンバーグなどの洋食ゾーン。春雨や春巻き、麻婆豆腐などの中華ゾーンの3つが所狭しと並び、非常に食欲を掻き立てるのだが……、その量はどう見ても多すぎる。中高生は育ち盛りだからといった言い訳が出来たとしても、華奢な心也と年頃のほたる。どう考えても無理がある。
「さぁ、席についてどんどん食べて頂戴。おかわりも沢山あるから、遠慮しないで食べてね♪」
《こんな笑顔で言われちゃ食べない訳ないよな。精々頑張ってくれよ、マスター♪》
《進の奴は寝てるでござるからな……。殿に食べて頂く他ないでござる。しかし殿? 折角母君が作ってくれたんでござるから食べなきゃ罰が当たるでござる》
「さぁ、食べようお兄ちゃん♪ ママ、私春巻きが食べたい! お兄ちゃんは何にする?」
「僕は、そうだな……。全部をちょっとずつ貰える? 久しぶりのお義母さんの味だからね、全部食べたいでしょ?」
こうして菊川家の晩御飯はスタートした。
まず心也が口にしたのは味噌汁。家庭の味と言われるそれは食欲を程良く掻き立てる味噌の香りを湯気と共に挙げる。心也は手を合わせた後、一口ゆっくりと啜っていく。
「(美味しい。懐かしい味だな……)」
心也は思わずほのぼのとしてしまう。『味噌汁の魔力』とでもいうのだろうか? 味噌汁を飲むとやけに懐かしい感じやほっとしてしまう、そんな感覚に包まれていると正面に座る義母から声が掛かる。
「どうかしら? お口にはあったかしら? あんまり黙られると美味しくなかったんじゃないかって……」
「ううん。何だか懐かしくなっちゃって……。久しぶりのお義母さんの味、とっても美味しいよ」
その言葉に瑞穂は少女の様な笑みを見せるとドンドン料理を勧めてくる。その姿はまるで、初めて作った料理を褒めてもらった時の女の子によく似ていた。
「そうだ、ほたるちゃんはどれを作ったんだっけ?」
「わ、私の!? えと、その、全部食べちゃったんだよね~……」
「嘘言いなさい、これは誰が作ったんだっけ? 確か、菊川さんちのほたるちゃんよね?」
「うっ…………!?」
ほたるは昼間のアレ(前話参照)以来、瑞穂が帰ってくると歓迎会の為の料理の準備を手伝ったのだ。そのうち、春巻きを手伝ったのだが……、少し焦げ付いてしまったり、形が不格好になってしまったのである。食卓に着いた時、それを心也に晒すまいと自分の受け皿に隔離していたはずなのにまだ残っていたらしい。
「(マズイ……。ここで、印象にほたる=料理がダメなんて着いたら私の壮大な計画に傷が付いてしまう……。どうにか打開する方法はないのか……!?)」
「ねぇ、ほたるちゃん。一つ貰っても良いかな?」
「え、えと、少し焦げちゃってるし、きっと美味しくないよ? ほら、そんなのよりママのを食べた方が……」
《あ、こりゃイカン。マスター落ち着け。むきになって食べたら……ってもう遅いか……》
心也は自分の受け皿をとると、瑞穂からほたる作の春巻きを一つもらい口に入れる。やはり口の中に広がるのは焦げ着いた皮の味。中まで影響が無かったのが唯一の救いだったが、当の本人には関係無かったのだ。
「……、十分美味しいじゃないか。僕が初めて師匠のとこで作ったご飯はこんな美味しくは出来なかったよ。だから心配しないで、第一僕の為に作ってくれたんでしょ? それをちょっと焦げた位でそんなものって言っちゃダメ。一生懸命作ってくれたんだ、その気持ちを無駄になんか出来ないよ。ありがとう、ほたるちゃん」
「うっ……、うっ……、お兄ちゃん……、お兄ちゃん~~~~!!!!」
「のわっ!? ちょっと、ほたるちゃん? 泣かなくったっていいのに……、よしよし」
「私も作ったのに……、ほたるちゃんだけ、ずるい……」
「お義母さんも、ありがとね。後付けみたいになっちゃったけど、お味噌汁、本当に美味しかったし、他のも本当に美味しかったよ? ありがとね?」
「心也くん……。心也くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんんん!!!!」
「わわわっ!? お義母さんまで!? ちょっと、待って、放してよぉぉぉぉ!!」
「「嫌だもんね~♪」」
こんな感じの雰囲気で食卓の御馳走達は片っぱしから片づけられて行ったのだった。
1時間後。あれ程の量はさすがに無理があったので、きちんと保存し夕食後のまどろみに三人と二匹(?)は浸っていた。
「心也くん。そう言えば、彼らは元気にしてる? 今日のご飯とかもどうだったか聞いてみてくれない?」
お茶の間向けのバラエティーを見ていると、瑞穂が聞いてくる。
「真くん達ですか? とっても元気ですよ。ただ、今は真くんと、臣くんしか起きてないけど、ご飯も美味しかったって」
ここで少し補足をしておくと、心也の半身である真達の視覚はもちろん、味覚や嗅覚などの五感のほとんどが通じている。つまり、今まで食べていた料理の味だって伝わっている。
「真くん? 臣くん? お兄ちゃん、一体だれの事話してるの?」
「あれ? 話してなかったっけ? 心也くんのもう一つの顔の話」
「やめてよ、お義母さん。玩具じゃないんだ、って真くん達に怒られるの僕なんだよ?」
「何それ、聞きたい!!」
特別幼い知性をしている訳ではないが、今回ばかりはほたるの興味をそそった。何せ愛しの兄に纏わる話だ。聞いておいて損はないだろう。
仕方ないな、と一言呟くと今日の昼間にやったように胸に手を当てて眼を閉じる。
「少しだけだからね? ……、我、女王より賜りし六匹の獣に告ぐ。我が半身にして【真】の字を冠する鷹よ。我に変わりて、彼の者に紡げ――――精神置換――――」
例によって体から発する光によって、瑞穂とほたるは眼を瞑る。そして…………、
「何だよ、また呼ばれたと思ったら……。何だ、兄ちゃんの昔話が聞きたいのか?」
代わりに出てきたのは真。少し嫌そうな顔をしているが、とりあえずほたるに聞いてみる。が、
「だ、誰? お兄ちゃん? 違う、お兄ちゃんはこんなさばさばしてない!! お兄ちゃんをどこにやったの!? お兄ちゃんを返して!!」
やはり、常の心也の態度、話し方、眼付まで違うとほぼ他人に近い彼を見たほたるは気が動転するが、すかさず瑞穂がサポートにまわる。
「ほたるちゃん、落ち着いて。心也くんが多重人格だって事は小さい頃から知ってるわよね?」
「うん。でもね、それって精神病っぽい感じなんでしょう? お兄ちゃんはそんな感じしないから気にしてなかったのに……。こんなのお兄ちゃんじゃない!!」
「コラコラ。一応、お前にあった時に一緒に会ってたんだぞ? 俺だけじゃない。他にも俺みたいなのが五匹……、もとい5人もいる。だからさ、心也がお前の義兄になった時に俺達も同時にお前の兄ちゃんになったつもりだったんだがな……。第一、俺達の心は深く繋がってるから心也の気持ちは俺の気持ちみたいなもんなんだよ」
「そう言うこと、私が聞いた時はもっと簡易的なものだったから深い事情は知らないけど、いま心也くんの体を動かしているのは真くんなの。ようするに今は真也くんってことかな?」
「だから、心也がお前や、瑞穂の事を大事に思ってるなら、同時に俺達もお前達を大事に思ってるようなもんなんだよ」
少し落ち着いたほたるは警戒を解くと真に聞き返してみる。
「じゃ、じゃあ、真……さんがお兄ちゃんの時もお兄ちゃんと同じ感じで、私達への感情はほぼ変わらないってこと?」
「そういう事だ。理解がはやくて助かる。じゃあ、もう心也に変わるぞ? 良い?」
「う、うん。ありがと、真也お兄ちゃん……」
「おう、またな……♪」
真也の体が再び発光すると、今度は心也が戻ってくる。今までの会話を後ろで見てはいたが、途中で口出しできないのが難点だな、と改めて思った。
「さて、真くんと話してみてどうだった?」
「実際にあったのは久しぶりだったからね。彼、少し性格が丸くなったんじゃない?」
「いや、相変わらずだよ。とっさの時は昔みたいになるし」
「お兄ちゃん。さっきのお兄ちゃん以外にもお兄ちゃんがいるの?」
「そうだよ。あ、でも一人はちょっと…………」
「ふ~ん。でも、どうしてそんな風になっちゃたの?」
当然の疑問。物事には全て原因があり、それらによって現状がある訳である。ならばそれを知りたい。人間はその知的好奇心ゆえに新たな知識を求める。当然ほたるだって知りたくなる。
「うんとね、じゃあ……、とりあえず、お風呂に入って、寝る準備をしてからにしよ? 結構長いから眠くなっちゃうだろうし、時間も掛かるからね」
「さて、だったらすぐにお風呂沸かして来なくっちゃ。ちょっと待っててね」
そう言って、瑞穂はお風呂場へと向かって行った。心也達は再びテレビを見たり先程のことをほたるが質問攻めにしたり。ゆったりとした時間が過ぎて行くのであった。
そしてこの後、このお話の起源であり大本の原因である出来事に触れることになるのは言うまでもない……。
お帰りなさいませ。いかがでしたか?
相当長くてだらだらしていた、といった苦情が飛んできそうですね……(汗)
さて、前話でPV1000突破と言いましたが、もうすぐ2000に……!
いや、ありがたやありがたや……。
皆さまの愛で私は泣きそうです。
最近涙もろくって、本当に泣きそう…。
そして、次回は……、心也の多重人格の原因。
そして、心也の過去に触れる勢いで書きたいと思います。
まだまだ始まったばかりのこの物語を応援して下さっている皆様。
いつも感想をくださる皆さま。
これからも『七人のシンヤっ!』をよろしくお願いします!