第21話 私たちでケリをつける! byチェルシー
な~んだぁ、俺からの自己紹介はもういらないのかい?」
突然二人の背後からべったりと張り付くような嫌味な印象を与える声音があがる。
二人の後ろにはなにやら豪奢な装飾のされた毛皮のローブを着た顔色の悪い男が立っていた。
ローブについたフードから見えるニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた唇は真っ青で死人の様でますます気味が悪い。
「チッ……約束の子供だ、盗るもん盗ったら返しに行くから早くしろ」
「はぁ~いはい分かったよ~。ったく霊狐の里の奴ったら気の強い奴ばっかりで可愛くねぇなぁホント。じゃあちょぉ~っとごめんよ~」
声からして男だろう。少し高いが女性特有の高さでない音域。これも気味悪さに拍車を掛けている。
そんな彼が伸ばした手は異様なほどに白く血管まで透けていて日のないところで育ったような印象を受ける。
彼の手が心也のローブの内側へと伸びると目当ての物をすっと取り上げた。
「あ、それ! 返して!」
咄嗟に手を出す心也の手は男の手に触れようかとした瞬間に腕を掴むことなくすり抜けた。
「あ、あれ? 消え、いない? どこにいったの!?」
手に眼を奪われていた心也。腕へと視線を移し胴へと辿る頃にはまさしく霧散していたのだ。
「しっ。ぼうや、これがミストドラゴンだ。奴はまだその辺りにいる。過剰な反応をすれば奴が喜ぶだけだ。平気な顔をしていろ」
「う、うん……」
言われたとおり平気を装いながら気にしないふりをして前だけを見る。
彼らの周囲には不気味な男が撒き散らしたであろう霧が立ちこめ心也からは横に並び立つルミア以外に確認できる人影がない。もちろんこの霧の中に奴が隠れているのではあろうが影は疎か気配すら感じられないのは言うまでもない。
そんななか霧の中から男の声が響きわたる。
「おいおいおいぃ~何でそういうこと言っちゃうかなぁ……折角脅かしてやろうって思ったのにさぁ……ホント、少しは空気読めよなァッ!」
刹那。隣に居たはずのルミアの体は宙に持ち上がりルミア自身縛られているかの様にジタバタもがいている。
「ムカつくなぁ……あぁホントに。んぃヒヒぃヒハぁ~……なぁ? なぁ? 今どんな気持ちだい? 苦しい? 悲しい? 憎い? あぁ、うぜェ。弱い奴らってホントうぜェ。弱いくせに態度ばっかりいっちょ前で。生きてる意味ねぇなァおい! そうおm――」
姿の見えないローブ男が支離滅裂とした一方的会話で勝手にボルテージを上げる。節々に気味の悪い笑い声が混ざり口元しか見えなかったが気味の悪い笑を口元に貼り付けているであろうことは想像に固くない。
こんな聞くに耐えない馬鹿げた会話を子供何かに聞かせるもんじゃない。ルミアは見えない力に占め上げられ宙にぶら下げられている状態で心也に逃走を促す。
「ぼうや……っく、逃げろ! 振りかえ」
「――ヒトが喋ってんだろうがァ!」
自分の言葉を遮られたのが癪に触ったのだろう。
ローブ男がひときわ大きな声を上げるとより一層の力で絞り上げらているのか霧で視界が悪いにも関わらず服の上から何者か、何物かに縛り上げられているような線が浮き上がって見える。
――――ギリギリ、ミシミシ、ギチギチ――――
心也は辺りを見回す。助けてくれるだろうあの人を。どうしようもなく可愛がってくれたあの人を。きっと彼女の事だ、今にここを見つけ出して自分も、ルミアも、そしてこの里すらも。あの気味の悪い男の魔の手を払いのけてくれるはず……。
「ティアお姉ちゃん! ティアお姉ちゃん! 助けて、早く助けて! 僕、僕を助けて!」
この声は届いただろうか。辺りに立ち込める霧の所為も相まってか辺りは自分とルミアの気配以外を感じない。この煙たい霧に吸い込まれて届かなかったのではないか。いや、彼女ならきっと。
「あぁーハハッ。言うの忘れてた。この中だとさ、他の奴にはただ霧が出てるようにしか見えねんだわ。言ってることわかる? さっき叫んでたじゃん、ティアだっけ? ソイツきっと来ねぇよぉ~ハハッハハヒイヒヒヒヒィ……“ティアお姉ちゃん! ティアお姉ちゃん!”だってさぁ……どんな奴が来ようとも霧の中じゃそう簡単に――」
『瞬け!』
手も足も出ない相手をジワリジワリと苦しめていく様に愉快犯めいた薄笑いを混ぜた顔前に特性の符が眼球を焼かんとばかりに光を放つ。放ったのは誰だろうか。今はそんなことどうでもいい。
光に怯んで弱まった拘束を待ってましたとばかりに払いのけると、眼を抑えてうずくまっている心也を再び抱え上げ、霧中から奴の手中から逃れるべく、焼き討ちされた廃屋の一角へと身を潜める為に走り出した。
「この霧、敵の妨害かしら……」
「くん、くん、くん……妨害、かもしれませんね。辺りの気配が読みづらいうえにシンヤ様の匂いがあっちこっちに拡散して元を辿るのは極めて困なn」
「それ、それよ。そこなのよ」
ん、と首をかしげる犬獣人の彼の正面まで歩み出る。
誘拐犯の分身体に足止めを食らい、その際に寝入ったケルベロスを放置、徒歩にて森林を深部へ向かってあるいたものの辺りは代わり映えすることなく木、木、木。
だがある一点――この立ち込める霧を除いて。
「シンちゃんの匂いがするってことはそこそこ近くにはいるのよね。でも拡散してて中核には辿り着けない。何でかしらね、誘拐犯が逃げ帰るところは分かってるけどなんでわざわざこんな真似を? 真っすぐ里に帰らなかった? 私たち以外の何かに邪魔をされた? ……駄目だわ、まったく分からない」
こめかみを指でなぞる様――俗に言う一休さんの考えるポーズ――にして考えては見るが行動の真意が掴めない。
陛下、と空を嗅ぐ事を一旦止めてティターニアに声をかける。
「陛下、ここは一旦城に戻って準備を整えるか師匠達の応援を待った方が――」
「それは駄目。助けを待つ位なら自分でどうにかするわ。貴方だけココでチェルシーを待つのは構わないけど私は待たないわよ」
「――いや、しかし……疲弊して救出のチャンスを逃がしてしまったらもともこも」
「わ、わかってるわ。でも仕方ないじゃない! シンちゃんについていられるのは私だけ。なのに、舞い上がって、バカみたいに油断してたから……」
「陛下、そんなに気に病まないでください。探知がどんなに上手くいかなくてもきっと手はあるはずです。一つずつ手を尽くしてみましょう」
平時の彼女からはとても想像できない発言に、いたたまれなくなってくるも同情よりも、何よりも、今は要人を見つけるのが先決だ。
懐から取り出したのは、キラキラと光を反射し、銀色に輝く10cmにも満たない細長い筒。両端には穴が空いているので笛の様なものだろうか。
「まずは、一つ目。陛下、もしかすると狙い通りの物が来なかったとき、よろしくお願いしますね」
「ちょ、ちょっと何を――」
――――――――――――――――――。
青年は管の一方に口をつけ、息を吹き込んでいるようだった。
というのも、ティターニアの耳には笛の音が聞こえなかったからだ。
だが、彼は確かに吹いている。
そして、彼らには聞こえているのだ。
「さて、そろそろでしょうか。陛下、聞こえますか?」
「笛の音? は聞こえなかったけど? あれ、何かしら……」
木々をよけながらこちらに向かってくる無数の足音が複数。しかもチラと聞こえていた足音は、既に視覚に迫る狼系の怪獣達の大群として、現れていた。
「ちょっと、これはあなたが呼んだの?」
「ええ、犬笛で召集した使い魔達です。一通りの調教は終えているので、ヒトに襲いかかることもありません。もしかするとこの中に野生のが混じってるかもしれないので油断はしないでくださいね」
続々と集まる狼系の魔獣達。ほとんどが魔犬と呼ばれる小型の魔獣だが、中にはちらほらとその亜種や、大型種が紛れている。
先ずは魔獣の説明をしよう。この世界において魔獣とは、この幻獣界の住人の祖となった生物の進化過程で、分岐したものがほとんどで、多くには理性が存在しない。極稀ではあるが、理性を備えたものもいるがほとんどが高位の物で個体も少ない。種によってはヒトを襲うこともあるので危険視されている。
しかし、魔犬の様な低位の魔獣の場合は、ヒトの手で調教し、飼い慣らすことも可能である。所謂、使い魔という奴だ。
かの彼が召喚した魔獣達は、犬、狼系と分類される低位の魔獣である。群れを成す習慣があるが、単体でならば脅威には成り得ない程度である。飼い慣らすことも容易で、大きさもピンからキリまでだ。
持ってきていた荷物を整理し、何やらゴソゴソとしている青年。そして、それを怪訝そうに眺めるティターニアにようやく気づく。
「さて、では私も行ってきます。陛下をお守りできなくなりますが、何卒ご容赦を」
「あ、あなたも行くの? ならこれを持っていきなさい」
ティターニアは気がついたように懐に手を突っ込むと、連絡用の通信鏡を手渡す。
「これ、ヴィヴィが直接弄ってるから、この中でも十分に通信は出来るのは見ていたでしょ。繊細だから大事に持っていきなさい」
「御意、それでは」
――――――う、ううぅ、ううっ、ウワァオォォォォォォォォォォッ!!!――――――
身体全体を震わして発声した、大音量の遠吠え。ぶるぶると震える身体は、段々と来ている服を筋肉が押し上げ、ぴちぴちと突っ張り今にも破れそうな程。
その身体には、先程まで見せていた耳や尻尾の色と同じ。
その姿はまるで、というよりは伝説に聞く『狼男』そのもの。
しかし、耳まで裂けているのではないかという程の、鋭い牙が並ぶ大きな口から荒々しく漏れる呼気や、隆々と盛り上がった筋肉を纏う毛むくじゃらの化け物の瞳には、聡明で礼儀正しい彼の魂が篭っているかの様に澄んでいた。
狼男は、ティターニアに向かって深く頭を垂れると、低く唸ったり、何度か吠えた後、もう一度大きく遠吠えをあげる。
そして、彼らは四方に散らばりながら駆け出していった。
――――幻獣界・『城』――――
「じゃあ俺は先行して禁忌の森に行きます。航空隊なんスけど」
「えぇ、貴方の指揮で選りすぐりを少数連れて行きなさい。正体不明の霧が立ち込めているらしいから同士討には十分気をつけるように」
「なぁ、アタシも乗せてってくれよ。あんまり転移って得意じゃないんだってば……」
「魅力的なお誘いッスけど俺が乗せるのは彼女だけって決めてるんで」
「ヘルガ、無念」
「おいコラ待てよ、戻ってこぉ~い!」
『城』の方でも対策と準備が着々と進められていた。
霧については、既にティターニアからの報告があったので少人数での探査向きの獣人や術師を中心に部隊を編成している。チェルシーとのやり取りで分かるとおりアゼルは航空隊を率いて先行する。自身と同じ鳥獣人系と編隊を組み、空からの偵察を担当することになった。
既に犬獣人隊や要人の捜索に向いている獣人は聞き込みや周辺捜査を、半人は術などで遠見を行っている。
チェルシーやヘルガは転移の為の準備と作戦本部を部下のエルフに引き継いでいた。
どれにおいても異例な状況だといえる。やんちゃなティターニアの搜索や、大型の魔獣の接近時にすらここまでの捜索隊や作戦本部が組まれるようなことはなかったからだ。
昔から女王は思いもしれないものに執着心を燃やし、歴代の家臣達に心労を与え続けていた。そして今回は心也の捜索に自ら先陣を切って参加してしまったこと。恐らく黒幕の狙いはあのいたいけな少年ではないはずだ。では何か。ここまで考えてチェルシーは全身の血が抜け出ていったかのように全身から力が抜ける。そんな目眩に襲われた。幾ら強くても何があるかはわからない。あの向う見ずな幼馴染を助けるのはいつでも私達で無ければならないと言ったのは普段は寡黙なヴィヴィアンだった。仕方ねーな、と気合を入れ直しているヘルガも転移がどうのと駄々をこねていたのが嘘みたいに静かに闘志を燃やしているように見える。
「考えても仕方ないのでしょうね。今はただ、彼女とあの子の無事を祈る――いいえ、私達でケリをつけましょう」
転移の間。彼女とあの子が出会った場所。そして今。私たちが思いを抱いて飛び込んだ。
まずはお久しぶりです。
そして長らくお待たせしました。
並びに申し訳ありませんでした。
獅子乃、ただいま戻ってまいりました。
ここにかく前にあれこれ考えておりましたが、もう何か忘れちゃったので冒頭のあの三行にすべての気持ちを載せます。乗せます。
メッセージをくれた方もいました。
感想をくれた方もいました。
黙ってお気に入りしてくれた人もいました。
でもてんでダメな私が散々復活します。必ず来週にはなんて期待させた結果がこれでした。
申し訳ない思いで一杯ですがある意味でこれは作戦なのです。
あんまり長いから途中でダレちゃう。
ならちょっとずつでも追加したり、ある程度で更新した方が結果的には更新できるのだと。
と言いつつまたどっか行っちゃうんでしょ?って思った方。
そのとおりとしか言い様がありません。
獅子乃は現在ASILSと言う団体(?)でモンスターハンターのリレー小説のようなものを書いております。
もうそっちがメインじゃんって感じです。
両立なんてものが上手にできる人間ではないので学校に通いながらポチポチ作業を進めるとなるとやはり長いこと時間がかかってテンションががが。
これもいいわけですね。
わかりやすくまとめてしまいたいと思います。
1。たぶん死ななきゃ更新はいつか、いつまでも続く。
2。長いこと時間かかるから期待はしないでほしい。
3。でも待っててくれたら凄く嬉しい。
これだけです。そう。これまでと同じです。
気が向いて、指が進んで、そしたら何か更新できた。
そんな感じです。はじめからプロットもなく思いつきで始めた小説とその作者の末路です。
もし、そんな私に何か一言いってやりたい人が居たら感想欄でお待ちしております。
この度は、閲覧して下さり誠にありがとうございました。