第19話 ちょ、待ちなさいってば! byティターニア
こんにちは、作者の獅子乃でございます。
このお話は旧19話に加筆修正をを行ったものです。
と、いうとアレなのですが、イレギュラーによって未完成だった話を完成させたものでございます。
それでは、ごゆるりと入ってらっしゃいませ~♪
――――幻獣界・???――――
街道を抜け、通りを抜け、民家を抜け。
『ブラウニー』を飛び出した影は打ち出された鉄砲玉の様に疾る。
するともう眼前に見えてくるのは20グラーブ(※1グラーブで1m)を優に超えるだろう城壁。
もちろんそこを一々潜ろうと思うならば格好やこの荷物の所為で門兵に足止めを喰う。
影は駆けながら、あらかじめ用意しておいた切り札を自らの足に貼り付ける。
そして――
「……ふんッ!!」
――反り立つ壁を掛け上がった。
あまりの光景に道行く通行人もざわざわと騒ぎたてる。
その声に門兵が観衆を押しのけて叫ぶ。
「おい、そこの黒装束! 今すぐ降りてこっちに――」
門兵にみなまで言わせる気が無いのか心也を抱えている反対の手を懐に突っ込むとミミズがのたっくた様な符をまっすぐに投げ降ろす。
もちろん鍛えている門兵がそんなチャチな攻撃に当たるはずもなく難なくと避けた――。
『……縛れ』
――遠目からだと口の動きすら分からないくらいにぼそりと告げる影。
「な、これはッ!? くそ、小癪な!」
地面から伸びる無数の蔦。それらが意思を持ったかのように門兵の四肢を絡め取り自由を奪い取る。
「(これで少しは時間稼ぎに……)」
影は腕に抱えた少年をちらり伺うがどうやら気を失っている様だ。この騒ぎだ、あまり騒がれたり暴れられるよりは遥かに良いと、そのまま城壁をすいすいと登り切り壁の向こうへと消えていった。
――――幻獣界・雑貨屋ブラウニー――――
外の喧騒をよそに現場ではアゼルを含む数名の衛兵が現場検証に駆り出された。
「それで。被害状況とか、盗られたモンとか。出来れば全部教えてもらえますか?」
店の奥には赤鬼と手伝い妖精達がアゼルに事情聴取をされている最中。
「……あ、ああ。ここには防犯用の迎撃符を一つ一つに貼ってあるんだがみたところ発動した形跡がない。たぶん何も盗られてない。恐らく狙いは……」
「ああ、きっとあの坊主だな」
割れたガラスの処理をしていた手伝い妖精達がとたんにションボリしたのが分かった。
「……別にお前たちの所為じゃない。彼に何かあればきっと陛下がタダじゃ済まさない筈だから」
「そうだぜ。今に首根っこ捕まえて戻ってくるさ。てか絶対戻ってくる」
「でも、ダンナにオレタチタノまれた。セキニンがトれないコトしてしまったゾ……」
もこもこ動物、もとい誇り高き獣人の三人組の隊長アルがしょんぼりしながら吐露する。
「そうだヨ。ボクタチのセキニンだヨ。きっとシンヤナいてるヨ……」
その優しさと見かけによらないパワーが売りのダウが弱々しくしおれてしまっている。
参ったなぁ、と後頭部を掻き毟るアンドルフを脇目に小さい毛玉がアゼルに向かって走ってくる。
「ウチをツれてって! きっとヤクにタつから、ゼッタイ! シンヤをミつけてヤツにガツンとイれてやるノ!」
紅一点の女の子。三人の中でもしっかりしたカナンが手に細長い糸の様なものを持ってアゼルを見上げるのだ。
「ん? カナン、それはどこで見つけたんだ?」
金色に限りなく近い毛の様なそれは彼女曰く飛び散ったガラスに交じって落ちていたらしい。
もしかすると犯人の手掛かりになる、とそれを丁重に預かると陽にかざして――
『解析ッ!』
――証拠品の鑑定を始めたのだった。
――――幻獣界・『城』――――
鏡の間の大鏡の前をウロウロと歩きまわる三つの影。
一人はメイド服に身を包み頭頂部のヘッドドレスで纏めた肩甲骨まで届く深い藍色の髪の古代霊人。
おろおろと歩きまわりながらああでもない、こうでもないと歩きまわる度に職業に特化したのか否か母性を象徴する膨らみもまたあたふたと揺れているのが解る。
「ああ、どうしましょう……シンヤ様が賊に攫われてしまうなんて、どうしましょう……」
いい加減その行動に煩わしさを感じたのかすぐ脇に立っている女性が抗議の声を上げる。
「落ち着きなよ、チェルシー。陛下が追っかけてるんだから今に連絡してくるさ、後始末のね」
一人は黒の半袖インナーに黒の袖無し(ノースリーブ)レザーベスト、黒のレザーパンツの全身黒尽くめの闇黒霊人。
色素の薄い灰色の頭髪が健康的な褐色の肌と彼女の職業柄か曲線美と言うに相応しいしなやかな筋肉を一層引き立たせている。
その中でも一番目を引くのが爆弾瓜もさながらの胸部だろうか。
彼女の隊に男性の兵がいたのならばきっと訓練どころではないだろう(まぁ、同性でも……ゲフンゲフン)
「たとえ陛下と言えどもシンヤ様を人質に取られてしまっては手出し出来なくなります。ヘルガ、貴方もうちょっと真剣に事を考えなさい」
我らがへんt……給仕長ことチェルシーは給仕らしからぬ興奮した様子で声を荒げる。
それを見た黒尽くめの女性ことヘルガはこりゃどうしたもんか、と首を振る。
その態度にもう一人の女性は起伏の少ない声でボソボソと呟く。
「ヘルガ、軽率。もっと真剣に考えるべき」
「だってヴィヴィーも陛下と旅をした身だろ? だったらアタシらはどっしり構えときゃいいのさ」
別に心配してない訳じゃないけどさ、と2対1の劣勢な状況にそっぽを向きながら答える。
チェルシーは眼前で拗ねているヘルガから視線を逸らし、只ひたすらに部屋中央に鎮座する大鏡をジッと見つめている上位霊人に注目する。
残る一人は金髪碧眼と大いに目を魅了く容姿に眼鏡とどこから拾って来たのか現界の礼服を華麗に着こなしている。
が、無愛想で寡黙。並んで要点しか言わない喋り方が取っ付きにくさを醸し出している。
彼女の名はヴィヴィアン。ここにいる三人とティターニアは幼馴染と言って何ら支障ない関係だ。
ヘルガが言ったヴィヴィーとは彼女の事で、両親と3人以外にはその呼び方を許していないらしい。
常の彼女は国の財政補佐官としてティターニアの手助けをしたり、城の管理をチェルシー率いる給仕隊と共に行ったりしている。
前者が主な仕事なので自他共に認めるティターニアの秘書を務めているのだ。
「(あのヴィヴィーがムキになるなんて……)」
付き合いの長いチェルシーからしても彼女の言動は少し異様に感じていた。
ちょっとやそっとじゃ動じたりしない彼女すらこの状況に危機感を感じているのが容易に見てとれるところがチェルシーの焦燥感に火を付け始めていた。そこに――。
――――ぶく、ぶくぶくぶく、ゴボボボボボボボボボゥゥッ!!――――
突然泡立ち始める大鏡。言うなれば湧きだす源泉の様な光景が目の前で起こっている。
「ほぉ~ら、アタシがさっき言っただろ? お、治まって来た治まって来た」
源泉の様に泡が噴出していた大鏡は段々とその勢いを落ち着かせていく。
泡から揺らぎに。揺らぎから波紋に。波紋から輪郭に。
波紋に変わった辺りから人の輪郭がほんのりと見えてくる。
「あれ、お前……?」
「げ、教官……」
連絡を寄こしてきたのは事件現場に行ったハズのアゼルからだった。
ヘルガは予想外の相手からの通信ときて気の抜けた声をあげてしまっている。
片やアゼルは通信相手が歩兵隊最強にして教官の上司が出てきた事に顔をしかめる。
何せ――
「なんでお前が通信てくんだよ! 陛下はどうした! 手掛かりは見つけたんだろうな!」
――面倒くさい。ただこの一言に尽きるからである。
「あぁ、えと。チェルシーさんいまスかね? 出来れば変わってほしいんですけど……(アンタじゃ話にならないしなぁ……)」
「おい、コラ! 無視すんな! アタシはお前の上官だぞんむっ! ぐっ! むふぅぅ!!」
一刻を争うと言うのに、そんな一言を漏らすとチェルシーは沈黙を貫いていたヴィヴィアンに目配せをする。
パチパチと数度瞬きをするとこくり、と頷いてボソボソと呪文らしき言葉を呟くと空中で『一』を描くと途端にヘルガの口が開かなく(・・・・)なったのだ。
「詠唱封じの術ッスか。えげつねェ」
「それより報告を。陛下が追いかけているとはいえこちらで動いておいて損はないハズです」
突然口が開かなくなってパニックになっているヘルガを余所に先を促す。
おっとそうだった、と本来の目的に戻ると同時にさっきまでのへらへらした姿勢を正す。
「現場で犯人の物と思われる毛が見つかった。俺の瞳で解析したんだが……」
「が、なんですか? もったいぶらずに言いなさい! 手遅れになってからでは遅いのです!」
「あぁ、えと、禁忌の森の奥。霊狐の里の奴だな」
とたんに暴れていたヘルガでさえもが静かにしたからか部屋はシンと静まってしまった。
空気に呑まれて意識がトリップしていたのを頭を振って戻す。
「まひはいはいのは!?」
「間違いないのか、と」
「う、あ、ああ。俺の瞳に狂いが無けりゃ霊狐族が犯人だ。だが連れ去ったのが里とは限らないんだよ」
アゼルの瞳は『解析』が専門であってその先の動向を『探査』したり『予知』には向かない。
ドン、と鏡の向こうから打撃音がするとアンドルフの宥める声が聞こえてきた。
「そこにいるのはアンドルフですか?」
「……ん? あぁ、私だ。君はチェルシーかな?」
「えぇ、でもどうしましょう。貴方のお店に探査用の『魔術装具』はあったかしら?」
「……全て試したんだが抜けた毛一本だけでは効果が薄くて話にならなかった」
がっくりと肩を下ろす三人を余所にあっ、と気が付いた様に声を上げる。
「そう言えば、チェルシーさんは指導中の犬獣人がいましたよッスよね?」
ああ、そう言えばと一同首を縦に振る。追跡班の中にも何人か犬獣人が混じってはいたが給仕長が直々に指導をしている者はいなかった。
「それじゃあアイツを陛下の所に転移って……今どこにいるんだい?」
脳味噌まで筋肉キャラ(?)に似合わぬもっともらしく的を射ている発言に一同はギョッとする。
何だよ、アタシだってなぁ! とまた暴れ出すヘルガを余所にヴィヴィアンはチェルシーの裾をくいっと引いて手に持っている直径0.1グラーブ程の球体を見せる。
手に持っていたのは念話用水晶と呼ばれる携帯型の魔術装具だった。
これを見ろ、と言わんばかりにズイッと押し付けてくる水晶はすでに通話中の様だが――
「チェルシー今の本当なのよね!? 追跡、ハァ、ハァ、出来るのね!?」
水晶の向こうから聞こえるティターニアの息遣いは荒く、さらには騒々しい何かの音がすることから街中を疾走しているようだ。
「は、ハイ! こんな事態があった時の為に内のフォドには過酷な訓練をさせておきま」
――――バァァンッ!!!!――――
「良いからさっさとその犬を呼びなさいッ!」
壊れてしまったのではないかと錯覚するような大きな音を出して開かれたドアに立っていたのは走ったのと焦りと何かで肌蹴たローブを着た紛れもなくこの『幻獣界』の女王ティターニアだった。
――――同時系列・数分後 禁忌の森――――
鬱蒼とした、という表現を具現化すればきっとこんな森が出来上がるのだろう。
奥に進めば進むほど深みに嵌って行くような感覚に陥る。きっとこれに臆した旅人達が誰となく呼び出したのが『禁忌の森』の由来だろうか。
そんな森を疾走する二組の影。もちろん先を行くのが誘拐犯であるのは言うまでもない。
「(もう追ってきたか、鼻の効く奴でも連れてきやがったか?)」
誘拐犯は焦っていた。内心口汚く悪態をつくところに大きな焦りが。
ここまでのをダイジェストに纏めてしまうと――――。
1.禁忌の森まで逃げ切ると追跡する者がいない事に気づく。
2.不穏に思ったが追手を捲く事に成功したのだと思い、慎重にではあるが里に戻ろうとする。
3.帰路の最中、目前に二つの人影を見つける。
4.思案する暇もなく転移呪文によって呼ばれた超獣により襲撃される。←今ココ
後方には3つの首を持つ巨大な番犬で有名なケルベロスと、それに跨る女王と犬獣人の姿が見える。鬼の形相を浮かべた女王に追われる人なぞきっと自分だけだろう、と皮肉まじりの笑いが込み上げてくる。
前方に障害物が無いか気にかけながら後方の追跡者達の動向にも注意しなければならない。正直言えばこの状況は精神的に良くない。里一の健脚とか伝令者とか言われてた事からこんな任務に抜粋されたがこれじゃ命が幾つあっても足りやしない。
「(一度隠れて立て直すか? いや、純粋なスピードなら負ける訳ないが……)」
超獣相手ではあるがスピードさえ落とさなければ追いつかれる事はない。
だが、ケルベロスの真価を発揮されるようなことがあれば自分も傍らの子も無事では済まない。
ん、待てよ……? この子がいる限り大規模な殲滅術式どころかケルベロスの攻撃を凌げるんじゃないか? ならば残る一人。犬獣人のあの青年の能力が未だ未知数である所を除けばこの逃走劇、こちら側が圧倒的に有利。
黒尽くめの影は脇に抱える少年を一層強く抱きしめると再び懐に手を突っ込む――。
「霊狐の秘薬よ、敵を欺き我が身を隠せ――隠遁の術――」
手に握っていた黒い玉状の塊を地に叩きつける、瞬間――。
「ちょ、アナタ待ちなさい! ケホッ、ケホッ、煙幕使ったって逃げらんないわよ!」
辺り一面は白い煙が一色に染め上げる。ティターニアが咽ている事を鑑みれば作戦は成功に見えたが――。
「陛下、ここは私目に」
初めて口を開いた犬獣人の青年がケルベロスの背中から厳ついトゲトゲの首輪の辺りまで登って行くと何やら耳打ちをする。
「兄さん達、0時、2時、10時の方向に『紅蓮』を撃ち込んで下さい!」
「ワンッ! / ガウッ! / バウッ!」
三つある首を指示された方向を向くと鋭利な牙が覗く顎を大きく開くと口内から急激な熱の本流を感じる。
「(奴ら、何かしでかすつもりか?)」
樹の上に身を隠した影は息を潜めつつ唾を飲み込む。
「陛下、ではどうぞ」
「波○砲、じゃなかった……『紅蓮の咆哮』、発射ッ!」
ケルベロスの口の前に複雑怪奇な魔法陣が一瞬展開されたかと認識した瞬間には大きな口に吸い込まれ変わりに出来たのは炎が渦巻くケルベロス種固有の息吹であった。
『燃やす』『焼き尽くす』と言う表現では文字通り生温い(・・・)。
通り道は元々何も無かったかの様に綺麗に景色が抉り取られ真っ黒に煤けている。
直撃を免れたものの少しでも掠った物質はその部分から溶け出している(・・・・・・・)。
影はこの正体不明な熱の本流に直接に当てられる事はなかったが目の前に広がった光景に冷や汗をかく。
お手製の丸薬で発生させた煙幕が完全に晴れてしまっているのにも気づかずに。
「陛下、上です!」
犬獣人の青年の指差す樹の上にはもちろん黒装束の影。
隠しているハズの顔が大きく動揺の色に染まっているのは見え見えだろう。
「隙アリぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
先程までケルベロスの上で『紅蓮』発射の決めポーズを取っていたティターニアはケルベロス以上のスピードで間合いを詰めると黒装束が小脇に抱える手を伸ばしひったくる。
「くっ……!?」
黒装束は予期せぬ事態に奪われた反動と衝撃を流す為にバク転に側転を交えながら距離をとる。
「やった、シンちゃん! 良かった……って、え、あれ、えっ!?」
奪還したかに見えた心也の姿はいつの間にか心也の着ていたローブを纏っただけの丸太にすっかり姿を変えていた。
「フフッ……」
黒装束の顔を隠す仮面の奥から微かな嘲笑の声が漏れたかと思えば心也はすっぽりとその脇に治まっていた。所謂変わり身の術の応用なのだろう。
丸太を大事そうに抱くティターニアはぷるぷると震えながら黒装束の方をキッと睨む。
「アンタと言い、いろはと言い……これだから霊狐の奴らは嫌いなのよッ!!」
唸り声を上げながら地面を思い切り踏み締めたティターニアを余所にその口から出た名前に先程から無言を貫いていた黒装束は態度を豹変させる。
「御館様を悪く言うなッ!!」
大きな動揺を好奇とばかりに気配を消しつつ接近していた犬獣人の青年が黒装束に飛びかからんと腰に差している剣に手を掛けているのがティターニアの方から見えた。
ここは相手の油断を誘って襲撃するのが得策だろう、そう考えたティターニアは視線をすぐに黒装束へと向けると持てる全てのボキャブラリーを罵声につぎ込む。
「そう、いろは様いろは様。御館様、御館様。あのロリババア自分の館から一歩も出ないニートのクセに無駄に悪知恵ばっかり働くから私にちょっかいばっか出して! 良い? 分かってないみたいだから忠告しておくけどシンちゃんに最初に唾付けたのは私だかんねッ!? シンちゃんに指一本でも触れさせたらアンタも里の狐もみんな八つ裂きにして稲荷寿司にして食堂で配ってやるんだからッ!」
途中から言ってる事が可笑しいのはその分焦っているから、これを読んでいる貴方が理解のある方である事を心から祈るばかりだ。
さて、罵詈雑言と言うに相応しい罵声はどうやら黒装束を憤慨させるに至った様だ。
「お前だって対して年齢変わんねェだろォがッ! それに御館様はお前なんかよりよっぽど民の信頼を得ている! 今に見てろ、そっちが来なくともこっちから出向いて里のみんなでお前を鬼火の火ダルマにしてやりゅ……」
「や~い、噛んだ! 噛んだ! もう一回トライする? お願いしたら良いよぉ~♪」
思わず言い返す黒装束も負けじと罵声を浴びせる。所々ティターニアの心中に突き刺さるが最後の最後を噛んでしまう。すかさず上げ足をとるティターニアだが一国の主とは思えないほど大人げない。
「……くそがぁぁッ!! これでも喰ら」
「もらったァァッ!」
逆上。まさにその言葉通り市場に出回れば一枚ウン万シグマ(1シグマ辺り1円)とする霊符を懐からありったけ出し目前のティターニアを親の敵とばかりに睨みつけながら放る。
が、再び出来た好機を息を殺して待っていた犬獣人の青年が黒装束の死角から飛びだし手に持っている霊符を上に弾き飛ばす。
「くぅ……ッ! だが甘いぞ、霊狐の里に伝わる秘儀。腹一杯たんと喰らえ!」
「させるかァ!」
犬獣人の青年は腰に下げてたサーベルを抜刀し、横一線とばかりに黒装束をなぎ払う。
しかしそんな攻撃は見切られた当然再三霊狐の敏捷性について語ったように彼らの動きはまさに忍者のようでいくらスピードに自信のある獣人系の犬獣人と言えども少し部が悪いのだ。
心也を抱えながら追撃をあっさりと避けた黒装束は宙に散らばった霊符を謎の気流によって巻き上げながら片手で印らしきものを結び、術の始動キーを唱え始めるのだった。
「霊狐の里に伝わりし札よ、我が身を映し、血肉となりて敵を欺け――――」
詠唱のほとんどを唱えきった頃には札が白い煙を上げて質量を持ち始める。
高く飛び上がった黒装束に届かない犬獣人の青年。届きはするもののその攻撃範囲のあまりうかつに手が出せないケルベロスとティターニア。
どのような攻撃であろうとも初動をどうにか見切る他ないと身構えるがその場にいた者達の予想は悉く覆された。
「――――超多重分身の術ッ!!」
――――ポポポンッ!!――――
宙に舞っていた霊符が子気味のいい破裂音を立てて爆発する。
爆発が白煙を撒き散らしながら辺りを再び白に染める。
宙を見上げていたティターニア達の視界までもが白に染まろうかとしたとき、白煙を切って出てきたのは黒装束と背格好が瓜二つな人物が視界を埋めてしまうのではないかと錯覚してしまうほどに降ってきたのである。
「お前達、頼んだよ!」
『合点承知!』
黒装束――――恐らく本物の――――が小脇に抱えていた心也をもう一度しっかり抱えなおすと自分の分身にティターニア達への足止めを命令する。
号令への返答とばかりにあちこちに散らばっている黒装束が寸分の狂いもない返事が帰ってくるとあたかもどこかの軍隊の訓練を見ているような気すらしてくるほどにぴったりだった。
「こら、待ちなさい! アル、イル、ウル、さっさと焼き払っちゃいなさい! ……あれ、のわっ!」
目の前から再び心也を連れ去られてしまうというのにティターニアが黙っているはずもなく、ケルベロスへの命令をもう一度下すのだが――――。
「ぐぅ~……、すぴぃ~……」
『あんたの番犬には眠ってもらったよ!』
――――知らぬ間に背後を取られていた様で、背後で待機させていたケルベロスが地響きの様な、でも愛嬌があるいびきをかきながら寝ていたのである。
分身軍団はご丁寧にも眠っているケルベロスを起こさないように口やら足を縛っているのでは、当分使い物にもなりそうにはなさそうだ。
こうなれば自分ともう一人の相棒だけでもこいつらを早々に蹴散らしてしまおう、そう考えたのもつかの間。
「へ、陛下! 私目はおいて先を……! やめ、ちょ、尻尾は、ぎゃああああ……!」
どうやらこの珍事件に終止符を打つのにはまだまだ掛かりそうである。
お帰りなさいませ。いかがだったでしょうか?
まぁ感想を聞きたくなるのは物書きの性分ですから、ね。
さて、これを呼んでくださってる方はきっと旧19話も読んで下さってるでしょうからきっと活動報告も読んでくださったことでしょう。
まぁ、その、はい。
すんませんね、いつもいつも。
言い訳だ、逃げただけだ、とか聞こえてこないだけで思ってる方もいることでしょう。
不慣れなんです、色々(苦笑)
大目にみていただけければ何よりなんですがね……。
あ、ノート買いました。最近執筆のチャンスも格段に増えまして嬉しい限りです。
でもやっぱPCは難しいですね、設定とか。
誰か教えてくれたら嬉しいですね。
では、本来のあとがきをしますね。
ティターニア達の追跡劇は失敗でしたね。
まぁ今見直しても矛盾だらけで……。
次へと進むたびに改変が増えちゃって困ります……。
そんなことよりも、あんな中よく目を覚まさなかったな心也www
そのおかげでショタ心也の出番が皆無。
期待してた方はごめんなさい。
次回はきっと、いえ、マジであります。
NPCをフルで活用してできる限りの仕事をしたいと思います。
さて、更新のお話。
次回は……やっぱ未定。
遅くとも月1で出したいんですけどね……。
豆に更新すればするほど多くの人の目にとまりやすいココのシステムが恨めしい。
執筆当初から今までお付き合い頂いている方はいうまでもないでしょうが、
気長に、本当に気長に待っていただきたいものです。
それこそ――――
読者様「お、獅子乃の奴やっと更新したか。どれ、見てやるか」
――――ぐらいに。
どうかよろしくお願いします。
それと、更新状況に関する質問も受付ておりますし、個人的にメッセージを送ってくれてもかまいません(笑)
後は活動報告。豆に更新する方ではないにしてもたまに書いているので遅いなぁと思ったらそちらをご参照ください。
さ、じゃあ今回はここらで。
本日は最後までお付き合い頂きありがとうございました。
またのご来訪心からお待ちしております~♪