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最強ゲーマーが初めて乙女ゲームの攻略に挑みます!

作者: 海坂依里
掲載日:2026/05/05

『アルフレズ様、私……もう……』


 これは、かろうじてR-18手前のレーティング設定がされている乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』……なんかちょっと頭が悪そうなタイトルだなと思ったのは秘密。

 どれくらい売り上げがあったのかも分からないし、転移前の私は存在も知らなかった乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』が舞台となっています。


『声、静かにできる?』


 人が通りかかるような場所で、このような行為に及んでいた1人目の攻略対象。

 言いたいこともたくさんあって、人生初の乙女ゲームがあまりにも過激すぎる内容で頭の中は大混乱。

 せっかく最強ゲーマーの才能を発揮するチャンスが訪れたと思ったら、いきなり最悪のエンディングを迎えたような気持ちになってくる。


「ちょっと、トウマ!」

「なるべく声は小さくお願いしますね」


 攻略対象その1であるアルフレズ・ロォの情事を覗き見している私たちは一体何者か。


「無理、無理、無理! 私、そもそも18歳を迎えていないから!」

「大丈夫ですよ。『エンドレス・エタニティ』は女子高生がプレイできる健全な作品ですから」

「いやいやいやいや、レイティング設定可笑しいから!」


 ひそひそ声で話すような内容ではないことは分かっている。

 分かってはいるけれど、隣でにこやかに事態を説明する彼の心は鋼のようにたくましくできていて正直引いてしまいそうになる。


「リッカは超マイナーゲームの世界ランク1位です。乙女ゲームの1つや2つ、楽勝にクリアしてくれますよね!」


 笑顔が黒い。

 いや、日本語として正しくないような気もするけど、私の隣で爽やかな笑顔を向けてくる彼の屈強な心臓を私に分けてほしいと切に願う。


『ブルネッツェル様、色よいご返事をお待ちしております』


 行為が終わった後、攻略対象1の彼は爽やかな声と清々しい笑顔でこう言った。


『アルフレズ様っ! 私、なんでも言うことを聞きますから!』


 彼がやっていた行為は、いわゆる枕営業というもの。

 体の関係を結んだ対価として、[[rb:プレイヤー > 私たち]]が住んでいる国は安泰ということらしい。


(……枕営業をする乙女ゲーって一体……)


 足音を立てないように、私たちはこの場を後にした。


「はぁ、別に全キャラクターの恋愛フラグを立てる必要はないんじゃない?」

「攻略するキャラクターを1人に絞ってしまうと、破滅エンドに迎えますよ」

「それは、私の前に異世界転移をした主人公ちゃんたちのことでしょ?」

「俺は、ハッピーエンドでクリアする確率を少しでも上げたいんです」


 私、長柄六花(ながえりっか)は数時間までは日本で暮らす女子高生だった。

 ただのクラスメイトでしかなかった国居透真(くにいとうま)の正体は、乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』に登場するトウマ・ルーファーだったという謎な展開を迎えた。


「リッカ、お茶が入りましたよ」

「攻略対象の情事を見せられたら、飲めるものも飲めなくなると思うよ……」

「飲んでください。体の健康を維持するためにも」

「……はーい」


 トウマの導きにより異世界召喚……乙女ゲーム転移? をした私は、トウマに『エンドレス・エタニティ』をハッピーエンドで終わらせることを依頼される。


「こっちはもう、バッドエンドもメリーバッドエンドも迎えたくないんです」

「それは承知しております」


 私が異世界転移という展開を迎える前にも、何人もの女性が異世界転移をして『エンドレス・エタニティ』のクリアをトウマに依頼されたらしい。

 けれど、トウマの訴えによると、みんながみんな攻略キャラクターとの両想いエンディングを迎えてしまったとのこと。


「『エンドレス・エタニティ』は、恋愛と世界の平和を両立させてこそ真のエンディングを迎えることができます」

「はい……それも承知済みです……」


 『エンドレス・エタニティ』における恋愛重視のエンディングは、メリーバッドエンドに該当する。

 ハッピーエンドを迎えたかったら、世界を救うという面倒くさい条件が追加されるらしい。


「大量の命が失われるところを、もうかれこれ何百回見せられていることか……」

「……すみませんでした」


 トウマは、世界が滅びるたびにゲームをリセットしている。

 そのたびに現世からプレイヤーを連れて来てゲームのクリアを依頼をするけれど、みんながみんな恋愛街道一直線。つまり、トウマが生まれ育った世界は何百回も破滅を迎えている。


「でも、前向きに考えたら、リセットできる人生って最高……」

「リッカ……」

「すみません、冗談です!」


 ゲームの世界では温厚な性格のトウマの声が、1音下がったような気がした私は彼の機嫌を損ねる前に謝罪という選択をする。


「トウマは同じ人生を繰り返しているってことだもんね……」

「まあ、主人公の選択によって物語が変わるので……完全なループとは違うんですけどね」

「完全なループって言葉、変だね」

「自分でも思います」

「ふふっ」


 現世……日本で女子高生をやっていたときは、国居透真と何1つ接点がなかった。

 そんな彼と笑いながら言葉を交わしているって、なんだか不思議な気分になってくる。


「ねえ、トウマは4人目の攻略キャラクターなんだよね?」

「ゲームの中では、そうなっているみたいですね」


 国居透真は恋愛対象でもなんでもなかったけれど、トウマ・ルーファーは性格がいいと思う。

 十分な恋愛対象になるとは思うけれど、元の暗くて地味な国居透真を知っている私の意識はなかなか恋愛に向いてくれない。


「っていうことは、トウマとの恋愛フラグも立てなきゃいけないってこと?」

「ついこの間まではクラスメイトだった俺と、恋ができますか?」

「できないね」

「ですよね」


 『エンドレス・エタニティ』には各キャラクターごとに4つのルートが用意されている。

 世界を救うことなく、キャラクターとの恋愛を成就させた場合はメリーバッドエンド。

 世界を救って、キャラクターと結ばれなかった場合もメリーバッドエンド。

 世界平和も恋愛も中途半端なかたちに終わると、バッドエンド。


「ということで、アルフレズとの恋愛フラグを立てるのを頑張ってください」

「……嫌だけど、報酬のために頑張る」

「お願いします」


 そして、世界平和と恋愛を両立したプレイヤー(人間)だけが迎えることができる結末をハッピーエンディングと呼ぶ。私とトウマが目指しているのは、このハッピーエンド。


(報酬は、何をもらおうかな……)


 トウマが住んでいる屋敷に聖女として滞在している私は、どこかのご令嬢様が喜びそうな美しい花が咲き誇る庭を探索していた。何が見つかるわけでも、何かと出会うわけでもないけど、1人で考えごとをするにはちょうどいい。


(人1人を異世界召喚できちゃう神能力を持つトウマなら、私を『エンドレス・エタニティ』の住人にすることも可能かな……)


 別に、現実に帰りたくないわけではない。

 でも、現実に帰りたい理由も見当たらない。

 私が元の世界で誇れることと言ったら、超マイナーゲームの世界ランク1位を維持していること。

 でも、その超マイナーゲームの世界ランク1位なんて称号は、私の未来の役になんて立ちもしない。


(マイナーゲームは、一生マイナーなんだよ……)


 大会が開かれて、賞金が稼げるようになる見込みもない。

 いつサービスが終わるかも分からないゲームで最強を誇っていたって、私の人生に加点してくれる人物は現れない。


(私を必要としてくれるのは、トウマだけ……)


 花なんて見ても、美しくない。

 いや、綺麗だなって感情は私にも存在するけど、花を見たところで私の気持ちは喜びを感じない。


「リッカ……だったよね?」


 私には、なんとか令嬢のような華麗なる日々は相応しくない。

 破滅的な毎日だって、絶対に過ごしたくない。

 そんな私を迎えに来てくれたのは、王子様でもなんでもなくて……。


「アルフレズ様……!」


 花を見ても嬉しくないとか失礼なことを思っていたことに天罰が下されたのかもしれない。

 心の準備が整う前に例の人物が現れ、彼は何事もなかったかのように攻略対象1らしい素敵な笑みを振りまいてくる。


「えっと……トウマに用ですよね?」


 落ち着け、落ち着こう。

 私はトウマの力で異世界召喚された聖女ですという挨拶回りをしていたときに、アルフレズにも自分の名前を名乗っている。彼に名前を呼ばれただけのことで、心臓に大打撃を与えるわけにはいかな……。


「一緒に食事でもどうかなと思って」

「……トウマと一緒に……」

「トウマ? 僕はリッカにお詫びをしたいと思っているんだけど」

「…………」


 アルフレズが枕営業を通して、国の平和を維持していたことに関して。

 あのとき、あの場に居合わせたのは私だけだったということになっていて、今更ながらトウマが魔法士という職業だったことを思い出す。


(自分だけ、透明化になる魔法を使うなんて狡い……)


 すべては、トウマの計算で事は進んでいた。

 今度こそ『エンドレス・エタニティ』をハッピーエンドで終わらせたいというトウマの意気込みが伝わってはくるものの、私はアルフレズと食事をする流れになってしまった。

 これが恋愛イベント1というものなのかなんなのか……。


「……こ……これは……!」

「気に入ってもらえたかな?」

「すっごく美味しそうです!」

「それは良かった」


 食欲がなくなっていたことなんて忘れてしまうくらい。

 アルフレズに用意してもらった食事会では豪勢な食事が私を出迎えてくれた。

 さすがアルフレズは国の重鎮に仕える秘書なだけあって、稼ぎがある! 

 貧乏魔法士のトウマとは食事の質が違い過ぎる……。


「いただきます」

「召し上がれ」


 私もトウマも、乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』をプレイしたことはない。 

 トウマは何百回も似たり寄ったりの展開を繰り返すループ状態に陥っているから、出来事の流れは大体把握している。

 けれど、恋愛フラグを立てるための正しい選択肢は誰も知らない。

 プレイヤー()が鍵を握っているってことは、私も重々承知しているつもり。


「口止め……ということですよね?」

「まあ、そうしてくれると助かるけど無理強いはしないよ」

「……そうですか」


 行為に及んでいたことの口止め料としての食事だと思っていたけれど、攻略対象1のアルフレズはあくまで紳士に私と接してくる。


「……ああいう関係にならないといけないくらい、国は危機的状況なんですか?」

「トウマがやっている世界を守るための戦いと、僕がやっていることはまったく違う。僕がやっているのは、あくまで主人の顔を立てるだけのことでしかないから」

「……そうですか」


 さっきから、そうですかという言葉しか返さない私。

 面白い会話にならないことを申し訳ないと思いつつ、久しぶりの豪勢な食事に私の手は止まるという言葉の意味を知らなかった。


「……美味しいです!」

「国を救ってもらっているお礼になるかな」

「十分すぎます!」


 テーブルの上には、私が食べて美味しいと感じる物ばかりが並んでいる。

『エンドレス・エタニティ』の世界に転移して間もないとはいえ、アルフレズなりに私の情報を集めてくれていたのかもしれない。


「アルフレズ様は、剣技がお得意とトウマから伺っておりますが……」

「元騎士団所属だからね」

「そうですか……」


 アルフレズルートでは、女たらしが更生するまでの物語が描かれるとトウマから聞いている。

 それ以外の情報を得ようと試みるものの、相変わらず『そうですか』で会話を済ませてしまう……。


(……そもそも、実際に喋ってみると女たらしの要素がない気がする……)


 トウマに見せられた光景は幻だったのかと疑いが生まれてしまうほど、アルフレズから女性を誘惑して弄ぶような気配を微塵も感じない。むしろアルフレズは、乙女ゲームでいうところの王子様キャラを想像してしまうほど紳士的。


「リッカは、世界を守ることに恐怖を感じない?」

「……この世界で、女性は守られるべき存在だって伺っています」

「古めかしい考えとは言われているけれど、僕も概ねその意見には賛同している」

「元騎士様、ですものね……」


 自分のことを語り出すアルフレズを見て、これはもう恋愛フラグが立っちゃったんじゃないのと過信してしまう自分は乙女ゲーム慣れしていないというのか馬鹿なのか。


「トウマと一緒に戦うことができるから、私は強くいられます」


 ここで、ヒロインっぽい台詞を加えてみる。


「……トウマは昔から魔法士としての才能に優れていてね」


 ん?

 ヒロインっぽい台詞を口にしてみたけれど、アルフレズからトウマへの嫉妬心が生まれてしまいそうな流れになってしまった。


「ア……」

「リッカ?」

「アルフレズ様も、凄腕の騎士様だったと伺っていますよ!」


 そんな話、聞いたこともない。

 けれど、せっかく恋愛フラグが立ちそうなところでミスするわけにはいかない。


「怪我が原因で、騎士をやめたわけではないのですよね?」


 私らしさを出しつつ、健気な女性を装ってみる。

 間違った情報を口にしているかもしれないけれど、アルフレズは結構優しい性格をしていると思う。

 出された食事が、彼の性格を物語っていると信じてみたい。

 会話が可笑しな方向に進んだとしても、アルフレズなら[[rb:プレイヤー > 主人公]]を絶対に救ってくれる。


「それもトウマから?」

「いえ、アルフレズ様の所作があまりにも美しかったので……怪我が原因で騎士をやめたのではないと自身で判断しました」


 少しは乙女ゲームらしくなってきたんじゃない!?

 展開が理想通りのものになりつつあることに、心の中でガッツポーズを決めてみる。

 口元すら緩んでしまいそうになるけれど、さっさと恋愛フラグを立てて私は2人目の攻略キャラクターに会いにいきたい。


(ごめんなさい、アルフレズ……。このゲームはR-18にはなれないの……)


 どこかで、私の心の声は漏れてしまっているんじゃないか。

 そんなことを思ってしまうほどタイミングよく、どこかから人々の悲鳴が聞こえてくる。

 もちろん華やかな食事の場には相応しくない、恐怖と必死さの伝わる悲しい声を私たちの聴覚が拾い上げる。


「アルフレズ様、行って参ります」

「リッカ! 異世界から来た君が、この世界のために力を使う必要は……」


 地位ある人との食事ということで少しはいい恰好をさせてもらったけれど、裾の長いドレスと高さあるヒールの靴は非常に走りづらいような気がしてならない。シンデレラは、よく硝子の靴で走ることができたなと感心してしまう。


「力ある者が力なき者を救うのは、当然の義務ですよ」

「…………」


 こんなにヒロインっぽい台詞を口にしていても、アルフレズと別れたあとに無事走り切れるのか不安だった。


「本日は、お招きありがとうございま……」

「リッカ、僕も行く」


 綺麗に立ち去ろうとするシンデレラを引き留めるのは、やっぱり王子様って存在なのかもしれない。


「しっかり掴まっていて」

「はい……」


 私は自力で走ることなく、アルフレズの愛馬で魔物が人々の平和を脅かしている現場へと駆けつけることができた。馬に不慣れな私を常に心配してくれるアルフレズを見ていると、トウマが教えてくれた女たらしって設定を忘れてしまいそうになる。


「アルフレズ様、もう1つ頼みを聞いてもらえますか?」


 ついこの間まで現代を生きていた女子高生が、血生臭いと表現しなければいけない状況に置かれることになるなんて思ってもいなかった。


「私の魔法が発動するまでの間、人々の安全を確保してください」


 遠回しな言い方をするけれど、要はアルフレズに平和を脅かしている魔物と戦ってくださいと言っているようなもの。


「お願いします」


 恐らくアルフレズが騎士を辞めた経緯やら理由は、アルフレズとの恋愛ルートを確定させる鍵になる話。

 けれど、それらを尋ねる前に事件は起きてしまった。


(アルフレズの傷を抉りまくった結果、恋愛フラグは立たないかもしれない……)


 それでも、この世界を生きる人々の命を優先させなきゃ私は乙女ゲーム……異世界に召喚された意味がない!


「トウマが駆けつけるまでの間で構いません」


 余裕ぶった態度と表情で行動してみたいという気持ちはあっても、初めて見る惨劇を目にして足が竦んだ。

 ドレスの裾が長かったお陰で、竦んだ脚を見せずに済んだのは助かったかもしれない。


「時間を稼げばいいんだね」


 とても情けない主人公像を見せてしまうわけにもいかないと思って気を引き締めようとすると、攻略キャラクター1のアルフレズはプレイヤー()]を助けるために行動を起こしてくれた。


「ありがとうございます、アルフレズ様!」


 何も存在しない空中に、異世界からやって来た私でも魔法を発動させることができるマジックボードを呼び出す。

 液晶画面のようなものが浮かび上がって、私にとってはとても馴染みのなるキーボードが姿を見せる。


(あとは、記憶した呪文を1字1句違えることなく打ち込む……)


 気持ちが悪い。

 人が亡くなっていることに対して、気持ちが悪いって表現が相応しくないことくらい分かっている。

 でも、たくさんの人が死ぬ環境下って、そういうものだと初めて知った。

 犠牲者を出すって、こういうことなんだと初めて学んだ。


(こんなところで、R-18手前のレイティング設定が生きてくるなんて……)


 攻略対象の1人であるトウマは、何度この惨劇を目の当たりにしているのか。

 数えきれないほどのループを繰り返してきて、私を現代から乙女ゲームの中に召喚させるまでに至るとか……崖っぷちに立たされた人間が強いっていうのは本当かもしれない。


(1文字でも打ち間違えたら、魔法は発動しない……)


 トウマから、広辞苑よりも分厚い本を与えられたときの衝撃は大きかった。

 魔法に、こんなにも種類があるという難易度高すぎる乙女ゲームに驚愕もした。

 けれど、『エンドレス・エタニティ』を無事にハッピーエンドで終わらせると決めた。

 超マイナーゲームの世界ランク1位を生かすことのできる場所は、『エンドレス・エタニティ』しかないと思った。


「信頼して、リッカ」

「アルフレズ様……」


 こういうとき、優しい声色の人って得だと思った。

 こんなにも殺伐とした状況下で、人を安心させるための声を出すことができるアルフレズは素直に凄い。

 トウマの声も綺麗だよねと振り返ってはみたけれど、自分はプロの声優さんが声を担当したゲームの中に召喚されたことを急に思い出す。


(私は、超マイナーゲームの世界ランク1位)


 ここは、乙女ゲームの世界。

 バッドエンディングを迎えた時点で、トウマが生きた世界はリセットされる。

 これはゲームだから、亡くなった命が蘇ってしまうループ物語もありかもしれない。

 でも、たとえ記憶を引き継がない世界観だとしても、モブキャラクターだって何度も何度も殺されたらいい気はしないはず。


(最強ゲーマーが、文字を打ち間違えるとかありえないから)


 自分の記憶と技術を頼りに、正確に世界の文字を打ち込んでいく。

 アルフレズが戦っている姿を見ることはできないくらい忙しいけれど、これ以上あなたの手を汚させないためにも[[rb:プレイヤー > ヒロイン]]らしいことをやりきってみせる。


「……できた」


 マジックボードに文字を打ち込み終わると、トウマの説明通り魔法が発動した。

 呪文を覚えることばかりに気をとられていて、肝心のどんな魔法が発動するかまでは記憶に留めていなかった。

 それが原因となって、ここら一帯を支配していた魔物を一掃できてしまうくらいの強烈な魔法が偶然にも飛び出してくれた。


「リッカ!」


 明らかに、聖女と呼ばれる存在が解き放つような魔法ではない威力の光魔法を発動させてしまった。

 勢いある魔法の強大さに誰よりも驚いてしまったのは私で、私の元に駆けつけてくれたアルフレズにふらついた体を支えてもらう。


「ごめんなさい……お借りしたドレスが……」

「そんなのはどうなっても構いません!」


 確かにそうかもそれないけれど、私がトウマの元にいる限りはとても弁償できる気がしない高級ドレスを汚してしまったことを謝罪する。


「気分は?」

「気分?」

「あれだけの魔法を使って、あなたの身に何も起きていないわけが……」


 心配されている。

 心配してくれているんだって、分かった。


「大丈夫です」


 ねえ、アルフレズ。

 何がきっかけでアルフレズが女性と関わることになったのかは分からないけど、多分あなたはいい人なんだね。

 攻略対象1に選ばれる理由が、なんとなく理解できた。


「私は、天才で最強の聖女ですから」


 私は、この日を境に『エンドレス・エタニティ』内での知名度を一気に上げることになる。

 現実世界で名前のなかった私は、この日を境に多くの人たちから名前を呼んでもらえることになる。


『ジェラヴィシティの厄災を救った聖女リッカ』と。


[newpage]

「リッカは何を食べたい?」

「私は、畏まった食事じゃない方が好き」

「俺もリッカと同じで、アルフレズみたいに上品な生活を送っていないもので」


 街中を歩き回ると、子どもたちが私とアルフレズに向かって手を振ってくれる。

 英雄扱い悪くないと思いつつ、これからも子どもたちの期待を裏切るようなことはできないと自分を戒める。


「俺は、こういうときこそ高カロリーの食事を摂取するべきだと思うんですよ」

「トウマ、今日はリッカへの感謝を……」


 そもそも、聖女設定ってものが間違いだったような気がする。

 もちろんマジックボードを通して治癒魔法も使えるらしいけれど、あんな大爆発みたいな現象を起こした人間が聖女を名乗っていいのか疑問。後々に牢獄行きエンドとかありえそうで少し怖い。


「リッカ、顔色が優れないみたいだけど」

「アルフレズ様の好きな物にしましょう! 私、アルフレズ様のことを知りたいです!」

「そう?」


 ここは、乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』の世界らしい。

 攻略キャラクターとの恋愛フラグを立てつつ、世界を守りながら、私とトウマはハッピーエンドを目指していく。


「アルフレズ様!」

「うん、何か嫌いな食べ物とかがあったら……」

「例のことは誰にも言わないので、これからも私にご飯をご馳走してください」


 トウマに聞こえないように、ひっそりとした声でアルフレズに願いを託す。


「ああ、喜んで」

「お願い、成功です」

「リッカには敵わないな」


 脅しとも言えるかもしれないけど、これでアルフレズとの関係を絶たなくて済んだ。

 アルフレズとの関係が続かなければ、私は恋愛フラグを立てることすらできなくなってしまうから。


「俺を除け者にして、内緒話ですか?」

「私たちだけの秘密ですよね、アルフレズ様」

「えー、リッカを召喚したのは俺ですよ?」


 乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』、私が何百週目のプレイヤー(主人公)を担当しているのかは分からないけれど!


「ところで、トウマ」

「なんですか?」

「聖女設定やめたい……」


 私とトウマが望んでいるハッピーエンディングに向かって、今日も偽物聖女を頑張っていきます?

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