最深部の守護者
「よくぞ、ここまでたどり着いた……」
空間に響き渡る声は、深く、重く、まるで古い岩が擦れ合うような音だった。レオは周囲を見回したが、声の主の姿は見えない。
「誰だ……?」
レオが警戒しながら問いかけると、声は再び響いた。
「我は、この迷宮の守護者……古より、この場所を守り続けてきた者……」
その瞬間、祭壇の背後から、巨大な影が現れた。それは、巨大な竜だった。しかし、その体は、生身の肉体ではなく、無数のクリスタルが組み合わさって構成されていた。クリスタルの一つ一つが、微かに光を放ち、幻想的な光景を作り出している。
「クリスタルの竜……!」
レオは息を呑んだ。それは、これまで見たどの魔物とも違う、神々しいまでの存在感だった。
クリスタルの竜は、ゆっくりと口を開いた。その口からは、声ではなく、光が放たれた。光は祭壇の宝玉に注ぎ込まれ、宝玉は眩い光を放ち始めた。
「汝らは、この宝玉を求めて来たのか……?」
クリスタルの竜の声は、空間全体に響き渡る。
「そうだ……僕たちは、この迷宮の最深部に眠る力を見届けに来た……」
レオは覚悟を決め、クリスタルの竜に向かって答えた。
「愚かな……この宝玉は、強大な力を持つと同時に、強大な災厄を封じ込めている……汝らに、その力を制御することは不可能だ……」
クリスタルの竜は、低い唸り声を上げた。
「それでも……僕たちは諦めない……アレンさんのように、この迷宮を攻略し、その力を制御してみせる!」
レオは、幼い頃から憧れていた伝説のテイマー、アレンの名を口にした。
クリスタルの竜は、一瞬静かになった。そして、再び口を開いた。
「アレン……か……かつて、この場所に挑んだ人間の中で、唯一、我を認めさせた男……」
クリスタルの竜の声には、僅かながら敬意のようなものが含まれていた。
「だが、アレンとて、この宝玉の力を完全に制御することはできなかった……汝らに、それができると思うのか……?」
「わからない……でも、僕たちは、アレンさんの意志を継ぎたいと思っている……この力を使って、世界を救いたい……」
レオは、力強く答えた。
クリスタルの竜は、再び静かになった。長い沈黙の後、重々しい声で語り始めた。
「……ならば、試練を与えよう……もし、その試練を乗り越えることができれば、宝玉の力を受け取る資格を与えよう……だが、もし失敗すれば……この迷宮から二度と出ることはできない……」
クリスタルの竜の言葉に、レオは身を引き締めた。ついに、最後の試練が始まったのだ。
クリスタルの竜は、巨大な爪を振り上げた。その爪が空間を切り裂くと、レオたちの目の前に、巨大な扉が現れた。扉は、黒く、重々しく、中から不気味な気配が漂っている。
「その扉の先に、汝らを試す場がある……そこで、己の力と覚悟を示せ……」
クリスタルの竜はそう言い残し、再び祭壇の背後に姿を消した。
レオは、目の前の扉を見つめた。それは、暗く、底知れぬ闇へと続く入り口だった。
「プルン……行くぞ……最後の試練だ……」
レオはプルンに語りかけ、扉に向かって歩き出した。
扉を開けると、そこは、これまで通ってきた迷宮とは全く異なる空間だった。
そこは、広大な闘技場だった。周囲は高い壁で囲まれ、天井は遥か高く、空が見える。闘技場の中心には、巨大な岩でできた舞台があり、その上には、一体の魔物が待ち構えていた。
それは、巨大なゴーレムだった。全身が岩でできており、その体には、無数の傷跡が刻まれている。ゴーレムは、レオとプルンを睨みつけ、低い唸り声を上げた。
「あれが、最後の試練……!」
レオは、覚悟を決めた。プルンと共に、最後の戦いに挑む。