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黒の魔王と黄金の歌姫   作者: 芝村あおい


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15 黄金と白金の月光


 娘は馬車に乗っていた。虚弱体質なこともあって、馬に一日中乗るほど体力があるわけではなかった。戦歌姫であったころも、短距離移動以外は基本馬車だ。

 もっとも、当時はむやみやたらに豪奢な王族の馬車に性奴隷よろしく乗せられていた。今は当時よりも質素な幌馬車だが、隣には従者がいたし、乗り込んだ数名の魔人たちも皆美しかった。地下帝国万歳!


「娘、紹介しておく。今回の遠征に協力してくれる我が眷属だ」


 従者の正面には、白金の髪と藍色の瞳を持つ魔人が座っている。骨格は女型。丈の短いスカートから肉付きの良いスラリとした長い脚が伸びていて煽情的だ。けれど切れ長の瞳がやや吊り上がっていて、媚びた気配は感じない。彫刻というには生気に溢れていて、躍動感のある美貌をしている。


『はじめまして。わたしは皆さまに黄金と呼ばれています。呼び名をお伺いしても?』

「月光よ。話は宵闇から聞いているし、あなたのことは戦場で見たこともある。この化け物!」

『まあ、お見知りおきいただけていたなんて、光栄です』


 にっこりと微笑むと、ものすごく嫌そうな表情をされた。既視感を抱いて、笑みが本物になるのを感じる。


『従者さまのご親戚ですか?』

「人間たちと同じ意味の親族ではないが、似たようなものだな。私よりいくらか生まれが上だが、昔馴染みだ。戦場では私の副官を務める」

『わたし、とっても仲良くなれそうな気がしています』

「アタシはそんな気ないから」


 月光は吐き捨てるように言って、そっぽを向いてしまった。従者がため息を吐き出した。


「……アンタの歌で、部下が何人も逃げ遅れて死んだ。絶対許さない」

『……心に留めておきます』


 魔王城にいるのはほとんど戦場に出ない者ばかりだったので、娘に対する評価は『人間』以上のものではなかった。だが、戦場に出たことのある魔族は違う。一兵卒であるほど、『黄金の歌姫』の姿や声を知っていた。

 娘は、微笑んだ。

 後悔はない。自分は己のしごとを全うしていた。その上で、望むものをつかんだのだ。誰に恥じることも、悔いもない。


「宵闇も宵闇よ。アンタだってアタシと同じはずなのに、どうしてそんな人間なんか!」

「事情がある」

「そのあばずれに絆されたの? どんな手管を使われたのかしら」

『月光さま』


 娘は、微笑んだまま魔人を呼んだ。真っ直ぐに見つめると、月光が唇を引き結ぶ。


『従者さまは……宵闇さまは、捕虜にそのような行為を行う方ではありません。誇り高い、貴方がたの夜の王です』


 隣の従者が息を呑む気配がして、月光の瞳がきりりと釣り上がる。


「──アンタにコイツのなにがわかるってのよ。こちとらこの子が生まれて成人するまで添い寝してんだわぽっと出のオンナがいきがってんじゃないわよ⁈」

『ちょっとそのお話し詳しく聞かせていただけます?』

「お前たち、そこら辺にしておけ。道に捨てていくぞ」


 従者が頭を抱えながら低くうめいた。


「月光。お前はいざという時、この娘を優先的に守れ」

「一度は承諾したけど、マジで嫌! こんな嫌味な女だとは思わなかった!」

『そうですか? わたしは月光さまのこと、結構好きですけれど』

「片思いね、ご愁傷様」

『片思いもいいものですよ? 見返りがなくても自分の感情だけで突っ走れます』

「こっわ。付きまとい系地雷女の脳内垣間見たわ」

「月光」


 従者に遮られて、月光は口をつぐむ。


「──命令だ。この娘の命を守れ。そして有事には娘の命令に従え」

「……………………」

「おい」

「…………御意。我らが夜の王」




/*/



「ほう、それであちらの美しい魔人が同行しているのか」


 昼食のための休憩時。馬車を降りて王や魔族のための食事をつくっている娘のところへ、ソスランが従卒を連れて顔を見せに来ていた。

 月光は鍋の前で忙しなく動き回る娘を、遠目にじっと眺めているだけだ。ソスランが近寄ってもとくに警戒した様子はない。


「お前は昔から同性に嫌われるなあ」

「わたしは別に嫌ったことはないんですが」

「興味がなかっただけだろう」

「少なくとも、月光さまには興味がありますよ」

「この面食いが」

「貴方がそれ言います?」


 軽口の間に、騎士はふと顎をさすった。

「……ああ。あの女……例の殺しに使ったな?」


 例の殺し、と声を潜めるのは、人間たちには絶対に聞かれたくない話だからだ。


「殿下の件は、わたしは提案したまでです。実行者は存じ上げないのですが……」

「テント前ですれ違った。魔術で多少印象は変えていたようだが……あの顔だ。忘れるわけがない」


 従者からは、人選が大変だったと聞いていた。あれだけ美しく気の強い魔人であれば、説得は大変だったに違いない。


「……やっぱり、従者さまは頼りになります」

「ふん。お前がそんなに気の多い女だとは思わなかった」

「ふふん、従者さまが羨ましいのですか?」

「……別に。所詮、彼奴も俺と同じ穴のムジナだ」


 娘は、とっさに口をつぐんだ。藪にいた蛇をつついたかもしれない。


「……食事、されていきます?」

「そうだな。お前の料理は久々だ」



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