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まもののかどわかし  作者: toe
まもののかどわかし
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interlude:まもののかどわかし


昔々のそのまた昔。

とあるところに少女がいました。


ある朝少女は全てを失いました。

家族も、友達も、居場所すら。

全てを無くした少女はたった一人で旅に出ます。

失った全てを探し求めて、もう一度取り戻すために。


昔々のもっと昔。

とあるところに、まものがいました。


まものは何も持っていませんでした。

家族も、友達も、居場所すら。

全てを持たないまものはたった一人で待ち続けます。

いつか出会える誰かと出会うために。


昔々の少し昔。

少女はまものと出会いました。

全てを無くした少女は問います。

「あなたが私から奪ったの?」

全てを持たないまものは言います。

「あなたが私に会いにきてくれたの?」


「一緒にいてよ」

まものは願います。ひとりぼっちは寂しかったから。

「一緒にいようよ」

まものは誘います。自分ならば一人にしないと囁いて。

「一緒にいなきゃ。私たちは同じなのだから」

まものは笑います。少女の小さな手を引いて。

「一緒にいて。ひとりぼっちはもう嫌だ」

それはまものの心からのお願いでした。

それを聞いた少女は、微笑みました。


♢


ぱたんと薄っぺらな絵本を閉じて、彼女は呆れたように息をついた。

外では雨が降っている。しかしこの様子なら明け方にはやむだろう。

ぎいぎいと自身が座る安楽椅子が音を立てた。暖かな暖炉が灯る部屋で、彼女は思考し続けている。それはどこかつまらなさそうで、子供のように無邪気に楽しそうに。


「うーんあと五日?七日?時間がかかるのはわかってたけどちょっと急がせたほうがいいかもね?うん、そうしよう、なんせ彼は一晩でやったんだから!私も負けていられないったらありゃしない!」


ぴょん、と飛び降りると一層ぎいいと椅子がうめいた。それがなんだか扱いの悪い自分に対する抗議のように聞こえた気がして、からからと彼女は明るく笑う。


「いやぁいやぁ悪かった!でもいいこと考えたんだ、だから君はちょっとどいててよ──そうそう。チョークはどこだっけ?インクと血も。髪の毛は……うん、オッケー!じゃあ始めよう!」


ずりずりと椅子を押し除けて、絨毯をひっぺがす。剥き出しになった木の床にはすでに何度も魔法陣が描かれて、使用されたのか焼けついて黒く沈んだ跡があった。その上をチョークで真っ白にぐりぐりと塗り潰して、真っ白なキャンパスを彼女は書き上げる。

右の人差し指をインク壺に浸す。粉が浮いて描きづらいはずのキャンバスに、彼女は踊るような気楽さで魔法陣を描いていく。円に三角。狼の顔。古の呪文の文字。エトセトラ。中央に供物の髪の毛を置いて、これで完成と言わんばかりに彼女は頷き笑った。


「うんうん今回もいい出来だ、やっぱり私は魔法陣の才能もあるなぁ!これを永久保存しておきたいものだけどまぁ使わなきゃ意味がないし何よりご主人様が嫌がるんだよね!人に一室貸し与えておいてそれはちょっとわがままだと思うんだけど君はどう思う?え?私が悪い?君ってばあいつみたいな事言うなぁ!」


部屋には彼女一人である。にもかかわらず彼女の口は滑らかに動き続け、同時に指も止まることはない。インクまみれになった指を汚れたハンカチで拭き取ると続いてナイフを取り出した。


ぶつ、手首に赤い線が走る。

ぽたり、溢れた血が魔法陣の上を滑っていく。

光を纏ってインクの上を走る血が、細かく書かれた陣の上を枝分かれしては交わって昏い赤で染めていく。


「“我は獣を喚ぶ者。我は獣を使役する者。対価にこの血を捧げ、対価にかの者の道程を捧げる。血と贄の体に鉄と石の心臓を与えよう。


──出でよ、我が呪詛で生まれ落ちる使い魔よ”」


一瞬の閃光の後、魔法陣の真ん中には大きな黒い獣が立っていた。ふさふさとしげる体毛は呪詛によってゆらめいていて、その目は爛々と金色に光っている。今にも目に映るもの全てを食いちぎりそうな殺気と猛々しさを前にして、彼女は恍惚と踊り続ける。


「ほらねやっぱり私ってば天才!秀才!鬼才!うんうん、追加で君も思う存分食い荒らして来てくれたまえ!なんせあっちには──シランがいるからね。胡座をかいてたら見つかっておしまいさ!ああ、でも嬉しいなぁ!嬉しいよ、君もわかるだろう?」


雨音がする。窓を開ける。吹き込んでくる雨粒が家具を揺らす。のしのしと歩いて来た呪詛の狼が、流れ込んでくる外の匂いを嗅いで──心地良さそうに遠吠えをあげた。


「そう!シランだよ!私の片割れ、もう一人の最高位の魔術師がきてる!これは全身全霊でお相手しないともったいない!礼儀に反する!なんせ私とシランの仲だもの遠慮なんてするほうが無礼だろう?君ならわかってくれるって信じてたさ──さぁ、行っておいで!出番だ!」


その瞬間、黒い獣は呪詛の残り滓を残して飛び出していた。あっという間に暗闇に紛れていく様に彼女は嬉しそうに笑って送り出す。


その夜、幾人もの人間が悍ましい遠吠えを聞いたとは風の噂である。

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