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まもののかどわかし  作者: toe
まもののかどわかし
10/66

10.きしさまはひとがいい

「あんたが人がいいのも恨まれてるのも分かってましたけどさぁ」


「うん?」


「この量は異常です」


太陽はすでに夕暮れに沈み始めている。しかし女騎士とシランは未だ砦へ続く街道に面する村にいた。


街を出てすぐ、若い姉弟の二人旅だと油断して襲いかかってきた強盗に襲われた。が、殺気か何か感じたのかいち早く戦闘体制に入った騎士の拳と脚を強烈に喰らわされ、なすすべなく返り討ちにあってのびている。凄まじい拳と蹴り、そして身のこなしだった。そこは素直に感動しよう。なんせ斧や剣を手にした荒くれ者相手に丸腰で制圧したのだ、この騎士は。

しかし彼が引いたのはここからである。容赦なく丸裸にして剣を奪い、持ち物を検め武器になりそうなものは全て奪ってずた袋に入れた。半裸の強盗を彼らの服を裂いたロープでぐるぐる巻きにして拘束する。その鮮やかな手並みに、シランが想像している騎士よりよほど生々しく暴力的で普通に引いた。当の本人はこの後騎士団に突き出すつもりで縄で縛って引きずっている。


続いて腹を空かせて人里に降りてきた狼に追われる村人を救出した。追いつかれ乗りかかられて絶体絶命の状態に騎士が駆けつけて狼を蹴り飛ばし首を切った。それも強盗を引きずったまますっ飛んでいったのである。半裸でごろごろと転がされる強盗には同情したし、大人二人を引きずってそれでも足の速い女騎士にまた引いた。

そんな珍妙な騎士に助けられた村人は当然泡を吹いて気絶したし、目覚めた後も村人は腰が抜けて立てなかったので、女騎士が近くの村までおぶって送って行った。計、大人三人を運んでいる。体力の無尽蔵さにシランはついに理解をやめた。


やっと着いた村ではいかにもつついたら転げ落ちそうなご老人が果物をイルドの市場に納めに行きたいと出発しかけたところに遭遇した。ならば私が代わりにイルドまで駆けてこようと言い出す女騎士は意気揚々と果物を背負ってイルドまで走っていってしまった。流石に荷物は持って行けないのでシランは村で強盗の見張り兼女騎士の帰還待ちである。あの足であれば夕暮れには合流できるだろう。ついにシランはため息を吐いた。


「悪いねぇ色々手伝って貰っちゃって」


「いいです文句はあの人に言うんで」


「どっかいく途中だったんだろ?その……そこの強盗を突き出しにとか」


「予定では砦にはもう着いているはずなんですよね……」


空な目をした見綺麗な少年があまりにも可哀想だったのか、待っている間昼食とデザートを頂いた。宿屋で出るものは違い、ほんの少し薄い味付けにほうと息を吐く。今朝の食事も美味だったけれど、これはこれとして美味である。シランの機嫌は多少治った。


戻ってきた女騎士は牛が引くような輪車に野菜やら働きを終えた村人を乗せて戻ってきた。その光景を見た瞬間シランの顔が無になったのは言うまでもない。


そうして冒頭のセリフに戻るのである。


「しかし困っている人がいる。放っておくわけには……」


「そう言うのは砦の騎士団にぶん投げましょう。まずそいつら突き出さないとずっと荷物です」


「……それは……そうだな」


流石に女騎士も思うところがあったらしい。散々振り回されて泥まみれ血まみれ埃まみれの強盗を見る。目を回しているから立って歩けというのもまた難しいだろう。じゃあいくかと強盗達を抱え上げたところでぐう、と大きな音が鳴った。シランがじとりと視線を向ける。


「……騎士様」


「……弁当は……来る途中に子供がいて……腹が減ってそうだったから全部やった」


「馬鹿なんですかあんたは?!すいません夕飯分けてもらえますーー?!」


こちらの様子を伺っていた村人からは吹き出したような笑い方といいとも!という頼もしいおかみさんの声がした。六人前お願いします!とシランが駆け込んだのは朝の経験を踏まえた結果である。意外そうな顔で用意された六人分の食事は女騎士がきっちり残さず平らげた。健啖家で人がいい騎士は歓迎ムードの中村を送られ出ていった。シランはそれが少し、気に入らない。



結局砦に着いたのはもう夜になってからだった。全く無傷の旅人と半裸で泥だらけの強盗に砦の騎士は些か驚いたようだが、こちらで預かりますとのことにほっと胸を撫でおろす。ちゃっかり剣を持っていったことを何も言わない騎士にシランはまた半目を向けた。視線に気づいた女騎士は片唇をあげて指を立てて見せる。その行為に毒気を抜かれた。疲れたとも言う。


「よければ一晩の宿に。むさ苦しい砦ですが」


「よろしいのです?」


「えぇ、治安維持の協力のお礼です。……ただ客室は一室のみしか現在空いておらず……ご兄弟ご一緒でもよろしいですか?」


「構わない。いいな?」


「休めるならなんだっていいです……」


もっともこの疲労は精神的なものだから休まるかと問われたら微妙だ。散々この騎士に振り回された。自分の寿命忘れてるんじゃないかこの騎士。

そんな悪態をつきながら用意された部屋のベッドに飛び込む。風呂に入りたい。靴を脱ぎたい。先に風呂もらっていいですか、と騎士に聞こうとしてシランは振り返る。その先にいたのは緩めた服の内側、紋に刻まれつつある騎士の姿だった。

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