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くらげのあし  作者: 海月
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眠れない夜 (赤眼ゾンビ)

眠れない夜

 ふ、と何に起こされるでもなく目が覚めた。悪夢に飛び起きるのでもなく、寒さに耐えきれなくなったのでもなく。

 体力が落ちてしまった今までは、夜に目覚めるのは大抵はこの二つが原因だったのに、と妙に冴えた頭で考える。

 布団を横切る白い光は冷たく、どこか神秘的なほど清らかに見えた。

 それは月明かりで、はっきりと自分の手が見えるくらいに、カーテン越しでも明るく照らしてくれる。きっと目が覚めてしまったのは、この光のせいだ。

 また横になる気にもならず、何となく窓の方を見やると、二つのベッドを仕切るカーテンに黒い影が映っていた。はっと息を呑む。


 彼はどうやら、ベッドに腰掛ける状態で、微かに項垂れているようだった。

 全く身じろぎしない彼は、一体何を考えているのだろう。美しいだろう月と星に見向きもせず、彼が想うことは、きっと。


 ころりと水滴がこぼれ落ちて、私は目を瞠る。止める間もなく流れた涙が、何に対しての物なのか、束の間分からなかった。


 ただ、この胸の痛みを彼も感じているのだと思うと、泣かずにはいられなかったのだ。数日一緒に居ただけで、彼の事を全て理解しただなんて到底言えないけれど、彼だって喪ったものはある筈だ。辛いのは、痛いのは、私だけじゃない。

 彼のお父さんは、お母さんは。きょうだいは居るのだろうか。友人は、大切な人は。

 皆、彼を置いて居なくなってしまったのだろうか。


 その真実が初めて胸に迫ってきて、涙は更にぽろぽろと溢れる。


 私に勇気があれば。


 彼の傍へ行って、励ます言葉を掛けられたのかもしれない。或いはそれが出来なくても、眠れない夜に付き合うことを決心するくらいは出来たのかもしれない。


 でも無理だった。たった数日の関係の浅さと、私の弱い立場がそうさせてくれない。今私は、彼に面倒を見てもらっている、迷惑をかけている立場なのだ。


 この涙が彼のための物だと示せたら、少しは救いになってくれるだろうか。


 一瞬浮かんだそんな考えに、私は震える口元に無理やり笑みを乗せた。

 なんて思い上がり、なんて自分勝手。


 でも、届かなくても良い。泣く事くらいは、許されたって良い筈だ。


 だってこの涙は、いつもよりも暖かく頬を滑っていく。



 暫くして、ようやく涙も収まった頃。

 そうっと彼の方を覗き見れば、少しだけ、体を起こしているようだった。

 それは窓を、――冴えた月を見ているような。


 考えていることは変わらないのかもしれない。

 けれど、彼の目に綺麗な月や星が映っているのかと思うと、それが少し嬉しかった。

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