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教室に帰る途中、僕たちは職員室の前を通った。すると職員室の扉に近いところに席を構えている秋元がちらっと見えた。
「あ、お昼ご飯食べてる。秋元先生ってお弁当だったんだね」
「ほんとだね。結婚もしていないし絶対買ってきてると思ってたよ」
ったく。こっちはあんたのせいであたふたしてるってのに、のうのうとご飯食べやがって。そんな感じで職員室の前で群青さんと話していると、後ろから声をかけられた。
「おや、珍しい組み合わせですね。誰か先生に用事ですか?呼びましょうか?」
そう言ってきたのは、物理担当の吉田先生。今年でうちの学校に勤めて10年目になるベテランの先生だ。去年から教えてもらっていてよく質問にも行っていたのでこうして声をかけてもらえることも少なくない。ちなみに茶道部の顧問の先生だ。
「よ、吉田先生。こんにちは。コンビニとかで済ましてると思ってた秋元先生がお弁当食べてるの珍しいよねって話してたんです」
すると、吉田先生は少し考えて言った。
「ちょっと前まではコンビニのお弁当とかだった気がしますけどね。えーっと、確か3日前ごろからお弁当でしたかね」
「やっぱりコンビニだったんですね。お弁当なんてガラじゃないですもんね。ははは」
「そんなことないですよ。もしかしたらとても料理がお上手かもしれませんしね。
ああ、ところでお二人に頼みごとが。5限に君たちのクラスの授業があるので、先週提出したノートを教室まで運んでいただけますか」
にこりと笑ってそう言うと、職員室に入っていった。
まぁいつもお世話になってるし、これぐらいはね。にしても、なんで急にお弁当に変えたんだ?秋元ももう30歳だし、料理スキル磨いて相手を探そうとでもしているのだろうか。
そんなこんなで僕と群青さんは教室までノートを運び、昼休みが終わった。
「―――それでここの答えが3番になるわけですね。それでは授業終わりにします。日直の人、号令を」
「起立、礼」
ついに放課後。猶予は明日までとはいえ、ちゃんとした時間をとれるのは今日の放課後だけ。つまり、今日の放課後が最大の山場なのだ。
「奈央!満月!それじゃあ頑張ろう!」
「二人とも…。迷惑かけてごめんね…」
「大丈夫、大丈夫!何とかなるって!」
「ったく。まぁ、やれるだけやってみよう」
さぁ、少しずつ人も帰っていくし、なるべく早めに済ませてしまいたい。
「ところで、空。頼んでいた怪しい人のリストは作ったか?」
「もちのろん!バッチグーだよ!」
たまに思うけど、空って時々言動がおじさんなんだよな。もう少しまともな言葉を話せないものか。まぁ今はそんなことどうでもいい。
「5・6時間目にこっそり頑張っちゃったよ!そのせいで英語と数学のノートとれなかったから今度写させてね!」
お前がノートをとっていないのはいつもじゃないか。今度からジュースでも奢らせてやろうか。そう言いたかったが、僕は胸の中にそっとしまっておいた。
「よし、それじゃあ…。って、意外と少ないんだな」
「うん。そんな盗むような人はうちのクラスにはいないんだよねぁ…」
僕としてもクラスメイトを疑うというのはあまりしたくない。
ただ、修学旅行費を盗むって結構な額を盗まれたんだよな。いくらお金が欲しいとはいえ、そんな大金盗むにも勇気がいるし、バレるリスクが高すぎやしないか?
…と、そんなことを考えていたが、ゆっくりしている暇はない。
―――こうして僕たちは、同じクラスの中で昨日の放課後に学校に残っていた人を中心に何か知らないかを聞いて回った。部活とか委員会とかで急いでいる人たちも多かったからか、めちゃくちゃ嫌な顔されたけど…。
そして、最終下校時間。部活生もみんな帰っていて、外は真っ暗。僕たちは一度教室に戻ってきて成果報告。
本当に全力で走り回った。たくさんの人に話を聞いて回った。
だが、そんな僕たちの努力を裏切るかのように、これっぽっちも情報が集まらなかった。
「はぁ…。全然だめだ…。誰からも情報が集まらないし、疑われているおかげで誰も取り合ってすらくれないな…」
「やっぱり駄目なのかな…。もう明日まで時間もないのに…」
「うぅぅ、どうしようどうしよう…。満月…、どうしたらいい…?」
涙目になりながら空は僕に問いかける。
走り回ったおかげで空も群青さんも、もちろん僕もヘロヘロだ。本当に頭が働かない。これだから巻き込まれたくなかったんだ。
―――でも、ここまで来たからにはそんな泣き言言ってられない。
落ち着け…。絶対他に犯人がいるはずなんだ。
なにか、手掛かりはないか?
そもそも犯人は本当にクラスメイトなのか?他のクラスの生徒だって可能性も…。
だめだ、だいたい他のクラスって何クラスあると思ってるんだ。
もしそうだとしても絶対に時間が足りない。何百人もいる生徒一人ひとりに聞いていくのは、100%なんか軽く超えて1,000%不可能だ。
じゃあ他に盗める可能性があるのは…。
なんて考えていると、廊下から先生たちの話し声が聞こえてくる。こんな時間だし、生徒が帰ったかどうかのチェックだろうか。こんな時間まで残ったの初めてだったから知らなかった。
「はぁー、早く帰りたいよなぁ。見回りを新人に行かせるのやめてほしいよなぁ…」
「ほんとにそうだよな。まぁこんな生徒たちがいないときぐらい楽しかった話とかしようぜ。ほら、昨日のキャバクラの話とかさ」
へぇ、意外と普段しっかりしてそうな先生たちもキャバクラとか行くんだな。なんか教師のこういう話聞くの新鮮だな。
感心してると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おい。お前たち、見回り終わったのか?」
秋元の声じゃないか。くそっ、朝のことを思い出しただけで腹立ってくるな。
「空、群青さん。そろそろ―――」
帰ろうか。そう言おうとした時だった。
「お、秋元先生。お疲れ様です。いやぁ、昨日はごちそうさまでした!」
「ここんとこ毎日行ってるみたいですね。他の先生からも聞きますよ。そんなに通ってて大丈夫ですか?」
「通ってるって言ってもここ1週間ぐらいだがな。よし、お前ら今日も―――」
そんなことを話しながら、秋元を含めた見回りの3人は通り過ぎていった。
走り回って、しばらくたったからだろうか。もう後半は何を言っているか聞いていなかった。だが、その代わりに僕の頭はひどく冴えていた。
「じゃあ、私たちもそろそろ帰ろっか」
「満月―?帰るよー」
「空、群青さん。犯人が分かったよ———」
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