File.1-2
奈央、大丈夫?」
「うん…。ごめんね、空ちゃん、巻き込んじゃって…。」
「ううん、大丈夫!友達が悪者にされかけてるのにほっとけないよ!」
「空ちゃん…。」
昼休み。僕は空に呼び出され、屋上にいる。今は4月、まだ少し肌寒いくらいだな。
「…で、なにか策はあるのか?」
空は首を横にぶんぶんと振っている。
「…全く。だから満月も呼んだんじゃん…。」
「相変わらず無茶苦茶しやがって。今回だって、秋元が猶予をくれなかったら危なかったぞ。」
「ううう、だってだってぇ…。」
とはいえ、空の友達思いなところはいいところなのだから責めるべきではないな。
「さて、どうするんだ?。正直絶望だぞ。」
明日までって時間なさすぎるだろ、秋元め。
「作戦会議だね!」
能天気すぎる空のことは一旦放置で。
「だけど、正直まずいな。盗った人を見つけ出して、修学旅行費を取り返さないといけないわけだ。目星もついていないし、証拠もないのにみんなを問い詰めるわけにはいかないぞ。」
「そうだよね…。それに私と空ちゃんは疑われているわけだし、誰も協力してくれないかも…。」
にしても、なぜ秋元は群青さんを犯人に仕立て上げようとしているんだ。群青さんは成績優秀、容姿端麗、学級委員でクラスメイトに対しても優しい。ただ妬んでいるだけか?まあそうだとしても、一教師が生徒を妬むなんていけないとは思うが…。
「まあなんにしても、早いこと行動するに越したことはないな。とにかくたくさん情報を集めたほうがいいんじゃない?解決できるかは分からないけど…。」
「そうだよね…。二人で手分けして…。あっ!」
空が満面の笑みでこちらを見ている。これは嫌な予感がするぞ。小さいころから見ているからだろうか、空が何か変なことを思いついたときが分かるようになってきた。
「ぐ、群青さん、空!それじゃあがんばっ…」
「満月いつも推理小説読んでるよね?なんとかできるんじゃない?」
何言ってるんだこいつは。推理小説読んでるだけで事件を解決?そんなのできたら全人類が推理小説を読めば探偵とか刑事が必要ないじゃないか。
「あのな、空。僕はただ…。」
好きで読んでいるだけ。頭もよくないただの高校生だぞ。そう言おうとしたが、
「そうじゃん!こんな時のために満月は推理小説オタクなんだ!これまでもたくさん読んできたんでしょ?なんだっけ…。そうだ!あのシャーロット・ホームズとかいうやつ!」
「シャーロック・ホームズだよ!」
まずい、思わず突っ込んでしまった。突っ込んでる場合じゃないぞ、今すぐ止めないと。こうなると空はブレーキが壊れた暴走列車だ。
「いや、だから…。」
「満月なら犯人を推理できるんじゃない?それに情報を集めるのも人が多いに越したことないしさ!奈央もそう思わない?」
クルっと群青さんの方を向いてそう問いかける。
「え…。でも満月君に申し訳ないよ…。」
「大丈夫、大丈夫!満月なら快く引き受けてくれるよ!満月いつも暇そうだもん!」
おい。人をさんざん暇そうだなんだと、僕のことを何だと思ってるんだ。もう我慢ならん。今までは我慢してきたが、今日こそはガツンと言ってやる。
「おい!空、今回ばかりは…。」
「でも、無理やり巻き込んでるし何か報酬はあったほうがいいよね。うーん、そうだ!最近出た推理小説買ってあげよっか?あの分厚いやつ。」
「え、あの話題になっているやつか?」
しまった、つられてしまった。だが…。あの最新作だと?ほかのやつを買って、今月の小遣い使った後に発売されたから買えてないんだよな。空がフフンと自慢げな顔で、群青さんが困った顔でオロオロしながらこちらを見ている。ええい、この際どうとでもなれ。
「くそ、分かったよ。今回だけだぞ。」
「さすが満月!これで十人力だね!」
「百人力じゃないのかよ。頼りにしてるんだか、してないんだか。」
「それじゃあさっそく情報収集だね!急がないと!」
「おい!もう昼休みは終わるぞ!」
そう言っている間に空は行ってしまった。残されたのは僕と群青さん。あんまり話したことないんだよな。
「じゃあ僕たちも戻ろっか…。」
僕は群青さんに声をかけた。すると、群青さんの目には大きな涙粒が浮かんでいた。
「えっ、待って待って。どうかした?」
なんと、群青さんがぼろぼろと泣き出してしまったのだ。まずい、女の子を泣かせてしまった。
さっきまでと立場が変わって、僕がオロオロとしていると、群青さんが口を開く。
「ごめんね、満月君まで巻き込んじゃって…。」
群青さんは責任感の強く、しっかりとしていてアイドル活動までしている完璧な女の子。だけど、僕たちと同じ普通の高校生なんだよな。そんな普通の女の子が担任やクラスメイトから疑われて…。不安に決まってる。
「大丈夫大丈夫。むしろ朝のホームルームで助けられなくてごめんね。盗んだのが群青さんじゃないのは分かっていたんだけど、何を言ってもあの状況じゃ悪手になると思って言い出せなかったんだ…。」
「ううん、こうして信じてくれていて嬉しい、ありがとう。」
群青さんは飛び切りの笑顔を見せた。
うっ。可愛い…。こりゃ親衛隊もできるわな。あやうく僕も惚れそうになるところだった。
果たして、本当に犯人は見つかるのだろうか。ただの推理小説オタクの僕に解決できるのか?
今回もお読みいただきありがとうございます!
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