カレーぶちまけた
初投稿です。
短いのでぜひ読んでみてください。
午後12時30分。
都内のある学校で4限の算数が終わった。
「今日の給食はカレーか」
「濃厚なルーの香りがここまで漂ってきてるぜー」
「んー、いい匂い」
誰だろう、そんな話をしている。
給食当番の何人かが大きな寸胴鍋と米飯缶を教室まで運んできた。
2人がかりでないとあまりの重さに落としてしまうのではないか。それぐらい重そうだ。
寸胴鍋の蓋が開くと、仄かな甘い香りが教室中を包み込む。教室から出ようとする者は1人もいない。みんなの頭の中はカレーで埋め尽くされていた。
「食べたいなー」
「ほんとにな」
口を揃えてそう言っている。
配膳が始まる。
1人ずつトレイを持って、カレーがよそられた皿を順に取っていく。右にルー、左に白いご飯。美しい盛り付けだ。
まあ、皿は丸いから180°回転させれば、右に白いご飯、左にルー、になるんだけどね。
それから、副菜のサラダもトレイに乗せて、それぞれ自分の席に持っていく。
すると、16番目ぐらいの男の子が...。
カッシャーン。
どうやら、カレーが盛り付けされた皿を落としてしまったらしい。
「熱っ」
おや、誰かにかかってしまったのかな。
「わっはっはっはっはっ」
その事故現場のすぐ目の前で誰かが笑っている。
担任の先生がすぐに近寄ってくる。
「大丈夫?」
先生はそう声をかけた。
カレーをぶちまけた男の子に。
「大丈夫です」
男の子はそう答えた。
男の子は謝らない。
教室にいる誰もその男の子を責めない。むしろ、みんな慰めている。みんな優しいな。
「ふざけんじゃねーよ。マジで最悪」
「お前、茶色に染まってるぞ。はっはっ」
「分かってるよ。うるさいなー」
カレーをぶちまけた男の子は雑巾を持ってきて黙って拭き始めた。
「おい、そんな使いかけの雑巾で拭くなよ」
被害者側は文句を言っている。
男の子は何も言わない。
綺麗に拭き終わった。
「手を合わせましょう、いただきます」
日直が大きな声で言う。
「いただきます」
みんなが復唱しさらに大きな声が教室中に響いた。
男の子のカレーはみんなから少しずつ分けてもらったらしい。ほんとに仲のいいクラスだな。
何分か経ち、ちらほら食べ終わった人も出てきた頃。
カレーをぶちまけた男の子が誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「ごめん。『食べたいなー』って言ってたから...」
この学校では、机と椅子がおしゃべりをしていることがあるらしい。
純粋な子どもには聞こえるとか聞こえないとか...。
読んで頂きありがとうございます。
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