転生前夜
その日俺は命を失った。でも救われた気がしたんだ。
理由は簡単だ。
この世界に救いがなかったからだ。
超絶可愛い金髪ヒロインに恵まれたり、青髪幼なじみにドヤされたり、そんなアニメみたいな展開はなく、ひたすら毎日を黒く塗りつぶしていた。
ーーーーーー。
俺には何も無かったんだ。
むしろ、人より劣っていることが多かったんだ。
生まれつき、体が弱かった。
右目は見えづらく、心臓も悪い。
それでも五体満足で頭の出来も平均的。容姿は少し良い方だろうか。
だからって人と少し違う存在は普通の人の標的となる。
俺は小中、そして高校と体のことが理由で虐められ続けてきた。
普通であろうと頑張れば頑張るほど、俺はいじめられた。
そして、今も尚いじめられている最中というわけだ。
「死ねよ?いい加減。キモイから。」
言葉が痛い。
でも俺は動じないことで反抗した。
「つまんな。黙りかよ。・・・冷めた。帰ろうぜ。」
クラスの優等生 勇輝 託人。
普段は真面目で誰にでも優しい少年だ。ルックスもよく、誰からも好かれる。みじかくまとめられた赤みがかった黒髪。生まれつきだろうか色素が薄く、赤く見える時もある。
そんな容姿端麗な彼だって裏の顔がある。なにがお気に召さなかったのか、俺は放課後呼び出されボコボコにされる毎日。
クラスでは大きな声で「衛藤くんは、右目が見えないんです。気をつかってあげてください。」などと善人者ぶって俺が目が見えないことを広める。
そして裏ではこれだ。
「まじ、障害。みんなの迷惑なんだよ?」
「優等生が・・・裏だとこんなクズなんだな。1人じゃなにも出来ないくせに。」
俺は負けず嫌いだった。
黙っていられなかった。涙ぐみながら、言い返す。
なんで俺がこんなことを言われなきゃいけない。目が見えない。それの何が悪いんだ。
そのあとボコボコにされたのは言うまでもない。
どうしてだろう。なにか悪いことをしたのだろうか。
俺はいつもベッドに横になり枕を濡らした。
分かってる。もっと上手いやり方があるって。
それでもひとりじゃ、毎日を過ごすだけで精一杯だ。
何度も自殺を試みた。それでも出来なかった。
飛び降りようとした。
それでも親の顔や数少ない友人の顔が浮かぶ。
ある日の事だった。
体育終わりだ。
俺はいつも見学。
球技ではボールが当たる。危ないし迷惑になるからだ。
いても何も出来ないしな。
教室に戻ると俺の数少ない友人が話していた。
「言っちゃ悪いけど、あいつ、入らないから人数足りねーんだよな。おかげで負けるしよ。」
「そう言ってやんなよ?入っても負けるだろ?あいつ障害だし。」
「てかさ、あいつ、ユノと仲良いせいで、タクトにいじめられてるってわかんねーのかな。ま、俺らは障害者どーしお似合いだなって思うんだけどよ。」
「あーあ、また負けたのだりーな。あいつ本当に目見えないのかな。片目でも上手く出来んじゃねーの?」
「しらねーよ。見えてそうだけど思いっきりボール当たってたじゃん。見えねーんじゃねーの?」
「ま、そっか。見えないフリしてもユノとうまくいくぐらいか。・・・もっと上手く溶け込めば・・・」
俺はその日体調が悪いと帰宅した。
仲の良かった友達でさえ、これだ。
カーストには逆らえないのだろうか。
それともただ、俺の前では仲良くしてくれてたのか。
タクトがいじめてきてたのはユノが原因か。
お互い生まれつき体が弱いことで仲良くなった。
それにアニメとかの趣味もあって。
ただの仲の良い友達だった。
ベットに横になっているとブーブーとスマホのバイブが鳴る。
ユノからの通知だ。
ユノ︰リツオくん!お疲れ様!
今日早退したみたいだけど大丈夫??
何かあったら相談してね。
また明日。学校でね。
心がザワつく。
これは本当なのだろうか。
頭をブンブンと振る。
「別に。どっちでもいいか。」
なんだかどうでも良くなってきた。
久莉結望。
体が悪いことで意気投合した。不思議と趣味も合う。
タクトが好きな人らしい。
見た目は幼さが残る黒髪ロングの女の子だ。見るからに病弱そうな白い肌をしている。よく風邪で休む。
きっと俺より体は悪い。それでも明るくいつもカノジョには太陽の光がさす。
「タクト相手じゃかなわないしな。・・・あんなクズでも好きな子には良くしてるんだろうな。・・・俺にも優しくしてくれよ。少しは。」
翌日。放課後。
久しぶりにユノと話せた。
今日はいいことがありそうだ。
二人きりの教室。夕暮れが終わりそうだ。
刹那。教室のトビラが開かれる。
それと同時に大きな雷鳴。
学校のブレーカが落ちる。
あたりは突然、暗くなる。
「て、停電!?」
「おい、今日校舎裏に来いって言ったよな?なに、ユノと話してんだ、この障害がぁ!!!」
「なに、そんなに怒ってんだよ?・・・いい加減、いいだろう!オレはお前の遊び相手じゃないんだ!」
「だ、ダメだよ!2人とも!!喧嘩はダメ!『また起こっちゃうから!』」
俺もユノもそしてタクトも興奮している。
全員が全員、自分の気持ちに整理がつかない。
「そうだ、そうだそうだそうだ。殺せばいいんだよ。どうせなら、俺が!!!リツオ。お前死にたがってたよな?俺が殺してやれるよ!なあ?もしリツオ消えたら、俺のものになるよなあ?ユノ!!全部全部壊してよ!!!俺しか居なくなったらよお!!!寂しぃよなぁ??」
鬼気迫る勢いだ。
頭のネジがぶっ飛んだとしか思えない。
ここで死んでもいい。ただ。ユノは守りたい。
俺はせめてこんなやつから、いや。こんな世界から差別を無くしたい。だれかを守りたい。
「障害なんて言わせない。守ってやるんだ。俺が!!!」
今のタクトはとても普通じゃない。確実に殺しにくる。
どうする?どうしたらーーー。
刹那。
それは唐突に襲ってくる。
時間はとてもゆっくりだ。
タクトがゆっくり走ってくる。
これが分岐点だって俺の本能が言っている。
俺はユノをーーー。
あれ、こんなこと前にも・・・
一瞬思考が鈍る。
『私が!!未来を変える!!!』
間にユノが入る。
タクトの右手にはナイフ。
理解した時
それは終わりを告げていた。
「ち、ちがう!!俺がこわしたかったのは!!!」
タクトが崩れ落ちる。
「なんだよ!!!黙れよ!機械音が!!!あっあああっ!!!」
タクトは頭を抱える。
だがそれよりも
俺は目の前の光景の違和感が拭えない。
「ちが、違う。俺の知ってる、世界じゃ、ない。本当は・・・俺が、俺が、お前を守って・・・あっあああぁっ!!!!」
「私・・・今度は守れた・・よ。」
「や、め・・・ろ。」
頭がおかしくなる。
『私・・・いきたいよ。』
「お、俺はなんのために!!!!」
「あなたなら、やり直せる。ここじゃない世界でやり直せる。・・・ここに居たら・・・ダメなんだよ。しあわせに」
ユノは優しく微笑み息を引き取る。
「守れなかった。」
誰かを守れるようになりたい。
そういつも思っていた。
俺はいつの日か誰かを守れるって。
でも俺にそんな力はなかった。
偶然か。俺にはこの日の記憶が複数ある。
夢か。それとも現実か。
どこかの世界で俺は彼女を守った。
そして命を終える。
そうなるはずだった。
でも、俺にはそんなことは出来なかった。
違う世界。
そんなものがあるのなら。
『俺に全部!!全部!!守る力をくれ!!!』
オレは心からそう叫んだ。
刹那。頭の中で無機質な声が響く。
『久莉結望の死亡を確認。承認。ユニークスキル生成。完了。異世界転生適性確認。完了。救世主ガードナーとしての登録。確認。承認許可、完了。名前参照、これより衛藤立生を改名。リバイア・ガードナーとして生成。生前による記憶を頼りに生成。各種スキル、ステータス獲得。後に確認せよ。準備完了。これより、久莉結望による改変を修正。エラー。リツオ及びタクトには反映除外、承認。死亡確認。』
頭に訳の分からない言葉が連なり続ける。
「俺の頭、バグったのか。」
不思議と冷静だ。
ーーーーーー。
なぜだろうか。腹部に痛みが走る。
「あ、れ。なん、で俺ーーー」
気がつくとオレは血まみれで倒れている。
視界が滲む。
うっすら、ユノが見える。
でも直ぐに姿は消える。倒れたのか。ユノ。
くっそ。さっきから何が起きてやがる。
頭いてえ。
気持ち悪い。
『私ーーー生きたいよ。リツオと・・・一緒に・・・』
ああ。俺もだ。
俺も生きたいよ。
もし、生まれ変わったなら。
今度こそお前を守ってやる。
『最終適性・合格。これより転生。』
ーーーーーー。
リバイア・ガードナー
男。0歳。
ユニークスキル︰バリア
目の前には謎のステータス。
身体は思うように動かせない。
いや、誰かに抱かれている?
というかいつもより視界が変だ。
眩しくて何も見えない。
でもステータスははっきり見える。
なんだこれ、
いや違う。両目の感覚があるんだ。
てか体がスースーする、なんださっきから。
色々起きすぎて気持ちわりい!!!
ベチンベチン
なんだ
いたい!いたい!
体叩くなー!!!
刹那。発したことの無い赤ん坊のような声をあげる。
ええっ!?俺!?赤ちゃんになってるのか!!?
そう、この日俺は命を失い、転生したのであった。
『序章 転生前夜』