ヤンデレ乙女ゲーに転生してしまった天才魔術音楽家の苦悩
正体不明の天才魔術音楽家、ハウシュキ。
魔術と音楽を組み合わせ珍妙なメロディを奏で、貴族や平民、身分を超えて人々から絶大な指示を得ているが、その正体は謎に包まれている。
………はずなのに!
「ペネロペ!そなたがハウシュキだと言う事は余はわかっておるのだぞ!大人しくつかまらんかぁぁぁい!!」
「ペネロペ!僕と一緒に来て!」
「止まるんだペネロペ!俺についてこい!!」
「人違いですって!!こっちこないでぇぇぇ!」
現在逃走中。
私は前世の記憶なるものを持っている。
そしてこの世界は、私が前世でプレイしていたヤンデレ乙女ゲーム「〜乙女と闇のイケメンたち〜」略して“おとやみ”の世界だ。
前世での私は動画サイトに自作の曲をupするくらい音楽が大好きで、音楽とゲームが大好きな幼なじみに“乙女ゲームながらBGMが素晴らしい”とオススメされてプレイしたのが、この“おとやみ”だった。
だがこの乙女ゲー、かなりキツイのだ。
暴力描写や性的描写がとても多く、なんといっても3人の攻略対象達の闇が深すぎる。
そしてあるバッドエンドだと攻略対象3人の魔力が合わさって国が滅びたりなんかもする。なんだよそれ、規模が壮大すぎるだろ!と初プレイ時はツッコミを入れざるを得なかった。
某動画サイトでBGMだけ聴けばいいやん!と言われたが、やはりゲームのBGMというのはゲームをプレイしながら聴くから感動したり印象に残ったりするのだ。……という精神の元、きついストーリーも精神をすり減らしつつ執念で全ルートをクリアした。
ちなみに、胸糞8割幸せ2割だった。
正直BGMが良くなければ絶対にプレイはしない類のものだ。BGMは素晴らしかった。「このBGM作ったやつ誰だよ、マジで出て来いなんでこのゲームに参戦しようと思ったんだよ」と思ったくらいには。
「おとやみプレイ終わったよ〜BGMはマジでよかった!」と、私の幼なじみとコンビニにアイスを買いに行った帰り道で話をしていた時だった。
幼なじみが前から信号を無視して迫ってくるトラックに気付かずに横断歩道に歩いて行ってしまった事に気付いた私は、咄嗟に幼なじみの腕をつかみ力いっぱい引っ張った。
幼なじみが見たこともないくらい焦った顔で私を見ていた…それが、前世での最期の記憶だった。
そして私は気付いたらこの世界…“おとやみ”の世界に、孤児として転生していたのだった。
私がこの世界に転生したと気付いたのは5歳前後の時。鏡に映る自分の顔と、孤児院の友達から呼ばれる名前に違和感を感じ、何かがおかしいことに気付いた時から徐々に前世の記憶を思い出していった。
そして私が教会で魔力検査を受けた時、魔力が高かったことから王立ミルフィル魔術学園に入学することが決まったことが前世の記憶を思い出す決定打となった。
王立ミルフィル魔術学園…一定数の魔力を持った人は、平民でも貴族でも通うことが義務付けられている学園。乙女ゲーム、“おとやみ”の舞台である。
ちなみにこの学園、“おとやみ”のシナリオの中ではだいたい50%の確率で攻略対象たちが見るも無惨な姿に学園の校舎をぶち壊している。
「こんな金かかった学園壊すとか正気…?」と思ったことも何度か。
そして私は今、学園をぶち壊しているような危険人物に全力で追いかけ回されているのだ。一応言っておくが私はモブだ。乙女ゲームには1回も出て来ないような。
「またんかぁ!余と話をしようではないか!!!」
王太子、オスカー・ミルフィル。
この中世ヨーロッパをイメージしたであろう世界で何故か平安時代の日本人のように喋る。私は大声で叫びたい、なぜ!?!!
金髪なので金髪と呼んでいる。だって名前覚えられないんだもの。
「ぼ、ぼくと話してくれるよねっ…?まって…」
息も絶え絶えになりながら追いかけてくるはこの国の魔術師団 団長の息子、ロイ・ライアン。
キツイならもう追いかけてくんなよ!!
紫髪でショタのような見た目だ。ショタと呼んでいる。だって名前おぼえ…
「俺と一緒に語ろう…ではっ…ないかっ……!」
我が国が誇る公爵家出身で現宰相様の息子、テオドール・ヴィニー。
私はコイツが1番無理だ。なんてったって正体は人間と吸血鬼のハーフ。危険なんてもんじゃない。あと単純に吸血シーンが苦手すぎる!!!
白髪赤目なので白髪と呼んでいる。だってなま…
「どうぞこの私めなど放っておいてくださいましいいいいい!!!!」
全力で走る。孤児院で小さい頃から追いかけっこしまくって培った体力が生きている。前世の幼なじみの家と自分の家を往復するだけだった私ならきっともうバテて死んでる。
…実は、この攻略対象に追われているのには理由がある。
前世で大好きだった音楽を今世でも諦めきれず、孤児院にたまたまあったピアノを使って曲作りをし、多い魔力を駆使して水晶にその曲を録音し、その曲が再生されるとその曲をイメージしたもの…例えば切ない曲なら桜が降ってきたりとか、楽しい曲なら星が出てきたりとか、ちょっとしたオプションを付けて“ハウシュキ”とだけ名乗り、認識阻害の魔術を自分自身にかけつつ売れればいいな〜と商会に水晶を置いていった。
するとそれが爆発的に売れたのだ。
1週間後に街に出ると、私が商会に置いていった水晶が複製され、街の至る所で私が作った曲が流れていてびっくりした。
それからも私は曲ができると商会へと赴き、“ハウシュキ”として活動してきた。
世の中では天才魔術音楽家ともてはやされ、……まぁぶっちゃけ、調子に乗らなかったと言えば嘘になる。
でもそれでこんな事になるなんて思わんじゃん!?
調子に乗った私はどんどん曲を作った。この“おとやみ”の世界をテーマにした曲や、攻略対象たちの壮絶な人生をテーマにした救いの曲も作ったりした。
………勘のいい人はもう分かっただろう。そう、私、その曲でうっかり攻略対象達の心を救ってしまったらしいのだ。
音楽の力は凄まじい。知っていた。知っていたはずなのに…分かっていたはずなのに…と後悔しても時すでに遅し。
そこから、1度執着したものは絶対に逃さない精神のヤンデレ攻略対象たちの行動は早かった。
まず街に“ハウシュキ”の正体を見つけ出した者には賞金1億円というポスターを張り出した。
そして私が新しい曲を録音した水晶を商会に置きにいこうとすると、商会の扉にはこの国の騎士がたっていた。しかも、王太子直属の。
嫌な予感がした私はそーっと騎士さんの様子を伺うと、なにやら商会に入る一人一人に職質もどきをしているようだった。
これはアカンと思った私はほかの商会へも行ったがどこも魔術師団の魔術師が立っていたり、公爵家直属の騎士が立っていたりした。
そのせいで私は新曲を出せずにいた。
……職権乱用も甚だしいだろ!
と思っていたが、その“ハウシュキ”の正体探しも3ヶ月くらいで終了したため、私は安心してまた新曲を商会に置いていけたし、王立ミルフィル魔術学園へも入学した。
少し気が緩んでしまっていたのは確かだ。確かだったのだけれど…私が新曲を思わず口ずさんだだけで、「お前、“ハウシュキ”だな!?」とはならんやろ!!やはり攻略対象とだけあって都合のいい耳でも付けているのだろうか??
あぁどうしよう。
攻略対象たち、いいか?あんたたちは来年入学してくる予定のヒロインを追っかけるべきなんだよ??ヒロインを血で血を洗う戦いをしながら奪い合うべきなんだよ??
そして私はそれを遠目で見ているはずなんだよ??
…そう思ってももう遅い。やってしまったことは仕方ない。…から!全力で逃げるしかないの!!!
私はできうる最高の速度で走り続ける。
孤児院仕込みの脚力なめんなよ!
でもそろそろきつくなってきた。攻略対象たちも走りが遅くなっては来ていたが、それは私も同じ。
このままでは捕まってしまう!絶対に関わってはいけない危険トリオと関わってしまう!
絶望に近い感情が湧き上がった時、私は誰かに腕をぐいと引っ張られたかと思ったら、ある教室に放り込まれた。
何事かと思い目を白黒させていると、そこには先月、同じクラスに転校して来たばかりの男子……ええっと…誰だっけ……誰かが目の前にいた。
「だれ…」
私が言いかけると、その転校してきた男の子はしーっと口に人差し指を当てた。
思わず黙って男の子を見つめる。人の顔も名前も覚えるのが苦手な私は、目の前にいる男の子の顔面偏差値の高さにびっくりした。紺色の髪に水色の瞳。なんだこれ、攻略対象と並んでも引けを取らないんじゃないか?
私を追いかけ回していた攻略対象たちがバタバタと廊下を走る音が聞こえたが、それも暫く経つと静かになって行った。
ほっとして息をつくと、目の前にいる謎に私を助けてくれた転校男子に声をかけた。
「あの…ごめんなさい、名前…分かんないんですけど、助けてくれてありがとうございます。助かりました」
ぺこっと頭を下げると、その男の子は目を見開いた。どうしたんだ?と不思議に思うと、咄嗟に転校男子は喋りだした。
「勝手に助けて迷惑じゃなかったかなーと思ったんだけど、助けになってたようで良かったよ。あ、あと僕の名前はアシェル。アシェル・ジョーンズだよ」
「あ、!私の名前は…」
「ペネロペ嬢、だよね?」
相手は私の名前覚えててくれてたのに私だけ忘れてたってことか、失礼極まりないし少し恥ずかしい。
いい加減人の顔と名前は覚えような、私
「そ、そうです…!孤児なのでファミリーネームはありません」
「そうか、とにかく無事でよかった。…ところで、なんで追いかけられていたんだい?」
う、と言葉に詰まる。聞かれるだろうとは思っていたが、“ハウシュキ”の張本人だからです…とか言えない。もしもこの人が攻略対象に密告してバレたら今度こそ終わる。
「えっと………その…あの人たちが私の事を誰かと勘違いして…それで……追いかけられたので……咄嗟に逃げてたって言うか……」
い、一応辻褄はあってるはず、だよね!?
ちらりとア……アシ…アシェルくんの方を見る。よかった、名前、覚えられた。
「そっか、それは災難だったね。しかもあのこの学園の顔とも言える3人に追われるとは。誰と勘違いされていたんだい?」
言ってもいいものかと少し悩んだが、ここで下手に誤魔化すよりは言っておいた方が良い気がした。
「は、ハウシュキ………魔術音楽家さんと間違えられました……」
「ハウシュキか!僕も知ってるよ。1度で良いからお目にかかりたいものだよね」
「は、はい…」
私ですけどねーーー!なーんて心の中では叫んでいる。絶対に口には出せなくて唇がぴくぴくしてしまう。
「これからも何かあったらいつでも頼ってね!じゃ、僕はこれからちょっと用事があるから失礼するよ」
「あっ、ありがとうございます…!」
私は再度お礼を言って、あし……アシェルくんを見送った。
「はぁ……とりあえずなんとかなった……」
壁に背中をつけてずるずると滑らせながら床に座る。
明日には攻略対象達が私の存在を忘れていますように、と神様に願いながら。
______
翌日 教室内
「昨日はどこに行ったとおもったぞ。余から全力で逃げるような女は初めてだ」
と、王太子金髪。
「逃げるなんてひどいよぅ、きのういっぱい探したんだからねぇ」
と、魔術ショタ。
「俺から逃げるなんていい度胸だな」
と、ヴァンパイア白髪。
…いや、なんとなくこうなることは予想してましたさ。予想してましたよ。でもさ、その予想を裏切ってくれないかな〜って、希望的観測しちゃうよね?人間だもんね?
なにより状況が最悪だ。ここは教室内。もちろんクラスメイトだって沢山いる。この学園の顔とも言える3人のイケメンが芋くさモブ女を取り囲んでるって、マジで異様な光景。
ほら!ほら!あそこのご令嬢見た!?「なんであんな平民…ましてや孤児があの方たちと…?!」って目でガンガン睨んできてるから!
視線がビシバシ痛い……もうやめて……私の心のHPは既に0だから……
「あの…どなたかと間違っておられるのでは?人違いです…」
おずおずと声に出すと、3人の攻略対象がガバッとくる(物理)
「そんなはずは無い。余の耳を疑うのか?」
金髪が私の髪をひと束掴む。ひいいい、やめて
「そこの王子の耳は置いといても、僕はぜったいに聞き間違えないよぅ」
ショタが私の手をぎゅっと掴んできた。アンタ、パーソナルスペースどうなってんの、、、…?
「俺様が間違うはずがないだろう」
白髪が私の顎をくいっと上に持ち上げる。これが噂の顎クイか。
………マジでやめてほんとに
教室内がざわめく。中には令嬢の悲鳴も聞こえた。
これじゃ私が男を侍らせてるみたいじゃん……
だれかたすけて………と思った時。
「ペネロペ嬢!先生が呼んでいるよ」
その声の主は昨日私を助けてくれた…アシェル!
「わ、わかった!今行く!!!し、失礼します!!」
そう言って私はダッシュで3人を振り切ってアシェルくんが居るであろう教室の外に出た。
あぁ、えらい目にあった。
その翌日
学園が休みなので安心して寮でゆっくりと休んでいると、寮の私の部屋の前に大量のプレゼントが。金髪、ショタ、白髪からのものだった。
どうしようかと考えあぐね、アシェルくんに相談して丁重に返品した。
その翌々日
3人の攻略対象に永遠と話し掛けられ続け、いままでの私の人生について事細かに質問された。産まれた時の体重は?とか聞いてきた奴もいた。誰かは忘れたけど、私は孤児だからその質問はアウトだぞ。知るわけないだろう。
辟易し始めた頃にまたアシェルくんに「具合が悪いみたいだから保健室に…」と救出された。
…アシェルくんが天使に見えたきた。
また別の日
予想していたけど、令嬢達からの嫌がらせが始まった。テンプレだ〜なんて軽く考えていたら、孤児院の先生がわざわざ孤児院の少ない予算で準備してくれた教科書が破かれて流石にキレるかと思った。
魔術でアシェルくんが元通りにしてくれたのが本当に感動した。ありがとうアシェルくん、マジ天使。
1週間後
なにやら攻略対象達が不穏な空気になり始めた。
どうやら私を奪い合っているようだった。バチバチだ。………ヒロイン奪い合ってくれ、頼む。
2週間後
なにやら攻略対象達が放課後にひとつの教室を吹っ飛ばしたらしい。
………そろそろガチで攻略対象たちの争いによる危険を察知した私は、アシェルくんの提案によりアシェルくんと一緒に行動していた。
アシェルくんは魔力防御壁の魔術が得意なので、私が攻略対象に絡まれそうになると防御壁を展開してくれた。
アシェルくんは天使だ。迷惑かけてごめんなさいって土下座したくなるけど、なんでもない顔をしてくれている。もう一度言うね、天使だ。
2週間半後
攻略対象達が段々アシェルくんに敵意を抱き始めた。もうほんとに申し訳なさ過ぎて死にそうだ。
そして私は徐々に攻略対象達へイライラが募り始めていた。
初めは、コイツら壮絶な過去があったんだし…と思っていた。が、なんで私、コイツらに気を遣わなくちゃいけないんだ?と思い始めた。
それに曲作りが全然できない。本当に全然できない。学園ではアシェルくんと一緒にいても四六時中アイツらが追いかけ回してくるし、寮に帰る頃には毎日くたくたで泥のように眠っているため本当に曲作りに割ける時間がない。そのストレスも相まってほんとうにしんどい。
大体私がいじめられてるのにも気付かないのポンコツすぎん?辞めて欲しいって何度も言ってるのに聞く耳持たないし、彼氏でもないくせに束縛もどきしてくるし。
とにかく来週のパーティーでは何事も起きませんように………と心の中で必死に祈った。
3週間後
パーティー当日。このパーティーは、“おとやみ”では大切な分岐イベントなのだ。好感度が基準以上ならば誰とでもパーティーに行くことができ、ここで選んだ攻略対象を攻略できる。逆にここで選べないとほぼバッドエンド確定。
ということで私はアシェルくんと一緒に行く事にした。
アシェルくんはどこかの貴族のご子息らしく、私にわざわざドレスまでプレゼントしてくれた。
流石にそこまでされるのは申し訳ないと断ろうとしたら、「断ったら捨てちゃうしかないなぁ…」と言われて断れなかった。
私は茶髪の長い髪を軽く結って、ドレスを着た。ドレスなんて前世の七五三以来初めて着るから着方があっているか若干不安だったが、どうやら大丈夫なようだ。
鏡の前でくるっと一周する。レースがたくさん着いたドレスは私には可愛すぎるような気もするが嬉しかった。
「神さま仏さま…どうか何事も起こりませんように………」
私は両手で合掌した。
______
「あ、アシェルくん!おまたせ!まった?」
「さっき来たばっかりだから大丈夫。ドレス1人で着るの大変だったでしょ?」
「思ったより大変だった〜!」
「でもよく着れてるね、それに似合ってる」
さらりとほめるアシェルくん。社交辞令だと分かっていても照れそうだ。
「ありがとう!アシェルくんも今日は一段とかっこいいね〜」
「そう?ありがとう」
なんて2人で喋っていると、もうパーティー入場の時間になった。
……おかしい。あの攻略対象がこない。
私としては嬉しいことこの上ないのだが、嵐の前の静けさという言葉が頭をよぎる。
「今日は絶対来ると思ったんだけど中々こないね、どうしたんだろう?」
どうやらアシェルくんも同じことを考えているようだ。
「実はそれ、私もちょっと考えてた…なんか嫌な予感がするんだよね」
「奇遇だね、僕もだ」
「今日は何事も起きませんようにってお祈りしてきたから、その効果が出てるって思うことにする……」
「はは、それがいいね。純粋にパーティーを楽しもうか」
そう言ったアシェルくんのエスコートを受けて、私はパーティー会場へと入場した。
パーティー会場は豪華絢爛で、前世での学園祭のようなものを想像していた私は度肝を抜かれた。
至るところが金色でキラキラしていて目が痛くなりそうだ。私は会場の豪華さに負けている気がする。
隣のアシェルくんをちらりと見ると、アシェルくんはこの豪華絢爛な会場ととても似合っていた。やっぱり本物のお貴族様はちがうな…と、改めて住む世界が違うと感じた。
学園長、生徒会長の挨拶が終わり、次期生徒会役員任命式に入る。
私は“おとやみ”をプレイしているので知っているが、ここで任命されるのはもちろん攻略対象の金髪、ショタ、白髪も含まれている。
現生徒会長が1人ずつ名前を呼び始める。
「次期生徒会長、オスカー・ミルフィル。次期副会長、ロイ・ライアン。次期会計、テオドール・ヴィニー。〜〜……… 以上だ。代表3名は登壇し挨拶してくれたまえ」
あ〜そんな名前だったな〜とぼんやり考えていると、3人が登壇した。
今日は大人しいじゃんね。なんて思って居たのも束の間。
登壇した金髪王太子が声を上げる。
「余がこの学園の生徒会長になるからには、学園の風紀を正そうとおもう。ゆえにアシェル・ジョーンズ。風紀を乱し余のペネロペにいつも付きまとう貴様をこの学園から追放する!」
ドヤ顔する金髪王太子。ざわめく生徒達。
……………えっと、何?私の聞き間違い?
フリーズして動かなくなった私の頭を取り残し、ショタと白髪も金髪に続いて発言をする。
「そうだよぅ!僕のペネロペなのに!」
「俺のペネロペが美しすぎるからと言って、近付きすぎるのもどうかと思うよ?」
そこら辺でもう、私の脳はパンクした。
「………誰のペネロペですって?」
この数週間、ずっと耐えてきたストレスが爆発した。
「あんたらねぇ!!!そういうの職権乱用っていうのよ!?しらないの!?!!だいったいあんたらのせいでご令嬢達からいじめられてるっていうのにあんたらはぜんっっぜん気付かないし!!!!!!いっつも誰が守ってくれてたかわかる!?アシェルよ!!あんたらはやめてっていってもやめてくれないし、自己中がすぎるのよ!!!!」
私は一息ついてから、また大きく息を吸い込んだ。
「アシェルを国外に追放するっていうんなら私もアシェルに着いて行くんだから!!!!」
言いたいことは言い切った。一気に叫びすぎて酸欠だ。ぜえぜえと肩が揺れる。
するとアシェルが背中をさすってくれた。
私はアシェルの方を向く。
「ごめんなさい、アシェル、私のせいで……」
こんなことに巻き込んでしまうなら学園を辞めてでも離れるべきだった、と後悔してももう遅い。
自責の念に苛まれていると、アシェルは私の方を見てにこっと笑った。
「大丈夫だよ、ペネロペ」
するとアシェルは呆気に取られた顔をしている金髪とショタと白髪の方を見た。
「僕は転校してこの学園に来たという名目でしたが、実際のところそれは嘘なのですよ。王太子殿下、意味、分かります?」
「な、何が言いたいのだ!」
「僕は隣国、リリーアル王国の第2王子、アシェル・リリーアルですよ」
先程よりざわめく会場に、ポカーンとなる私。
リリーアル王国というのは、このミルフィル王国の隣にある王国で、はっきり言って国力がえげつない。
「だからなんだって言うんだよぅ!」
状況を掴めていなさそうな怖いもの知らずショタが叫ぶ。
「王太子殿下に宰相のご子息は…僕が極秘で留学したことは知っていたのでは?ミルフィル王国の王族には伝えた筈なのですが。それなのに僕を国外追放すると?これは最近結んだ和平条約も破棄ですかねぇ」
なんでアシェルの留学を金髪や白髪が知らなかったのかは分からないが、もし和平条約が破棄され、戦争が起こればこの国はひとたまりもないだろう。意図も容易くリリーアル王国が勝利するはずだ。
攻略対象は顔面蒼白。流石に自己中でもこの国が崩壊するのは危機と感じたようだ。“おとやみ”ではおまえたち国破滅させてたけどな!!この世界では無いみたいだけど!
いい気味、と思っているとアシェルに手を引っ張られる。
「では!僕とペネロペはこれで失礼しますね!」
「ま…まて!!!!」
トリオの引き留めに目もくれず、私とアシェルはパーティー会場を飛び出した。
______
暫く歩いたところで、アシェルがピタリと止まって背中が震え出す。
「ふふっ……はははっ……あーっはっはっは!!あーおかしい、お前もそう思うだろ?」
アシェルがお腹を抱えて笑い出したと思ったら、急に“おまえ”と言われてびっくりした。あれ…私の天使アシェルくんは…?
「あ、アシェル…?」
「おまえがハウシュキだろ?もー聞いたらすぐ分かったよ、だって曲調が完全に一緒だもんな」
前から私の作った曲を知ってるような口ぶり。それにこの喋り方と笑い方。そこから、私の中の古い記憶が蘇る。
「あ…え…?あんたもしかして、颯…?」
「そうだよ、やっと分かったの?灯里」
颯。美野颯。私が前世で命をかけて助けた幼なじみだ。
「え、嘘でしょ?ホントに言ってる?だって私あの時助けたんじゃ……」
私の命かけて助けたと思うんだけど…と呟く
「助けられたよ、でもそのあとに熱中症?脱水症状?でポックリ」
「は!?!!なにしてんの!?命無駄にしちゃダメじゃん!!」
冗談でしょ!?と言いたくなる。
「1ヶ月くらい灯里がいない世界で過ごしたんだけど、もう退屈すぎて世界に絶望したよな。やっぱり俺の隣は灯里だけだな〜って思ったわ」
「えぇ…えぇ…」
「あと面白いこと2つ教えてあげるよ」
私の理解が追い付かないうちに、アシェル…?いや颯…?がにっと笑う。
「1つ目。実はこのゲーム、俺が脚本とBGM作った」
「!?は!?!!!え、それほんと!?」
「ほら、ストーリーとBGM、凄くあってたろ?」
「そりゃ……そうだけど……」
「ちなみに攻略が基本的に胸糞だった理由は、良いBGMを際立たせるためだ」
通りでBGMが私の好みにドンピシャだったはずだ…
「それと2つ目。実は俺、灯里が死んだ次の日のアプデで追加された隠しキャラ」
「……っは?」
いや…たしかに攻略対象と並んでも引けを取らない容姿だなーとか、極秘で留学した隣国の第2王子とか、設定は山盛りだった………だったな………確かに隠しキャラかもしれない………!!!!!
今思えば容姿も、難しい魔術も意図も簡単にこなしてしまうあたり………!確かに……そうかも……!!!!
なんで気付かないんだよ私……
「っていうか、“おとやみ”の攻略対象ってことは悲惨な目にあってるんじゃ……」
「俺は脚本作ったんだぞ?全部回避してやったわ」
一抹の不安が芽生えたが、即効で否定された。なんか安心したようなしないような……
「えぇ…なんなのよ〜〜………言ってくれれば良かったじゃん!」
「いやだって、面白くて、それにまた灯里に会えて嬉しくて、楽しくて、ついつい忘れちゃってたんだよ、な?」
な?じゃない。私がまだなにか言いたそうにしていると、アシェル…はやてが嬉しそうに笑う。
「この世界に産まれて、あーまた灯里のいない世界かーって思ったら、天才魔術音楽家っていう話を聞いて。音楽好きとしては放っておけなくて水晶を買って聞いたら、聞き馴染みのある大好きな灯里の曲で。そん時の俺の喜びわかる?」
「……」
「それにしても魔術と音楽組み合わせるとか良く考えたよな〜」
「…それは、仕掛け絵本に音がなったら良いのにって、小さい頃の颯が言ってたじゃん…」
「ん〜、あ〜、そんなこと、言ったかも?な」
もう二度と会えないと思ってた颯に会えた。
徐々に驚きよりも嬉しさが勝ってきて、涙ぐんでしまう。
この世界で天才魔術音楽家なんて言われて嬉しかったけど、心にポッカリと穴が空いていた。
どうすればその穴を埋められるかわからなかった。
でも、今ならわかる。凄いな、とか、大好き、とか、その言葉を聞きたい人は決まっていたんだ。
私はつい涙が堪えきれなくなってしまう。
「うぅっ、はやてぇぇぇ、、また会えてよかったよおお、、、」
わんわん子供のように泣き始めると、颯は呆れたように私を見て、ゆっくりと頭を撫でてくれた。
______
その後、結局ミルフィル王国とリリーアル王国の戦争は起こらなかった。が、金髪の王太子と魔術師団長の息子のショタと、宰相息子のヴァンパイア白髪は学園と国王から大目玉を食らい、今は幽閉塔で3人仲良く幽閉されているらしい。
ちなみに、金髪と白髪は父親達からアシェルが隣国の第2王子と言うことは教えられたらしいが聞いていなかったらしい。マジかよ。
私は流石に幽閉はやりすぎなんじゃ?と思ったが、アシェルは「あいつら精神不安定すぎるからいつ魔術暴走起こってもおかしくないし、隣国の第2王子追放させようとしたし、療養と反省を兼ねてだと思うと妥当じゃん?」と言っていた。
それから私と颯…今はアシェル、と私は、とりあえずリリーアル王国に行った。
アシェルは元々王族の身分は捨てて音探しの旅に出ようと思っていたらしく、私はその旅について行くことにした。
もう離れたくはなかったから。
その後2人は旅の最中に劇団を作り、天才魔術音楽家は2人に増え、その劇団のチケットは入手困難と言われるほど人気になった。
そして満を持してアシェルからのプロポーズ受けて夫婦になった2人は、生涯にわたって数多くの曲と脚本を世に出し続け、後世にまで影響を及ぼすようなおしどり音楽家夫婦になりましたとさ。
お読み下さりありがとうございました
感想等お待ちしております。
Twitterもやっているのでよしなに
小話ですが、ペネロペは前世で鬼灯(灯里が由来)という名前で音楽活動をしていました。
ほおずき→はうずき→はうしゅき と無理やりもじっています。
アシェルは前世で、ペネロペの命を無駄にする訳にはいかないと自殺は留まりましたがショックは大きく、それを忘れるために作業に熱中しすぎたため真夏なのにエアコンをつけなかったり水を飲まなかったりで亡くなってしまいました。
アシェルは序盤でペネロペを助けた時はペネロペ=灯里だとは分かっていませんでしたが、名前や顔を覚えられないこと、嘘をつくとしどろもどろになるところが灯里とそっくりだっため、すぐにわかりました。




