昼下がり
習作。稚拙ですが読んでいただけると幸いです。
8月日曜の昼下がり、お腹がすいたので昼食を作ろうと台所に立った。家族はみんな外出しているから面倒だが自分で作るしかないのだ。
(...............か?...............)
? 何かが聞こえた気がしたが気のせいだろう。冷蔵庫には何があっただろうか。卵があったらオムライスとか作ろうかな。
(力が...欲しいか......?)
変な声が聞こえる。振り返ってみるが誰もいない。きっと幻聴だろう。放っておくか。
卵はなかった。うーん、では何を作ろう......。
(力...欲しいよな......?)
ちょっと変えてきた。なんで同調を求める。いやそもそもなんでこんな声が聞こえるんだ。最近寝てないからか?
バシンッと顔を叩く。もう昼だしそろそろちゃんと目を覚まさないとな......。
「別にいらない、今は飯が欲しい」
なんで俺も答えてるんだ?幻聴なんだから返事なんてこないはずなのに。今日は早く寝るか。
(そうか。今の若者は力より飯が欲しいのか......。時代の流れだな......)
返事きた。なんだこの幻聴。すげー怖い。怖くてなんか作る気も失せてしまった。なんとなく出していたフライパンを仕舞い、台所の灯りを消す。コンビニにでも買いに行くか。久しぶりにファミチキとか食べるのもいいかもしれない。俺は自室に戻りチャリの鍵を探した。
(えっ我のこととか聞かないの?)
めんどくせえ奴だな。大抵こういう奴は聞いたら聞いたでめんどくさいから無視が一番だ。きっと最近疲れているせいだろう。病院行って安静にしてる方がいいかもしれない。
(我はこんなにもお前のことを待っていたのに......)
なんだよ。お前はヒロインかよ。いやお前のこと1mmも知らんけど。
「そもそもお前誰だよ?」
(気付かないか?我はお前のすぐ側にいるぞ)
「!?」
再び辺りを見回すが俺以外には誰もいない。じゃあどこに......?
(フフフ、人の子よ。我を人間だとでも思っているのか?)
「まぁ、テレパシー?的なモン使える時点で普通の人間ではねーなとは思ってたけど」
(ハハハハハ!やはりこの時代の人間も所詮はそんなものか!)
ムッ。よくわからんが何かよくわからないものにバカにされたことだけはわかる。それはちょっと許せん。
「は?じゃあ姿見せろや」
(我がそんな挑発に乗るとでも? うーむ...じゃあ我を探し出せた暁には挑発に乗ってやろう)
「それ交換条件になってんのか?こう......言うこと一つ聞くとかあんだろ」
(は〜......なんとまあ浅ましい人間よ。ま、よかろう。我を探し出すことなど出来ぬだろうしな!)
そう言って謎の声は高笑いをした。
乗ったはいいものの全く見当がつかない。どこから探せばいいだろうか。
(やはり我を探すのは無謀であったか?ヒントをやってもよいぞ〜?)
なんかコイツさっきから生き生きしてんな。ものすごく腹立つが実際探すのは大変だろう。というか昼飯買いに行きたいし。......そういえば何をしてるんだ俺は?アイツなんか無視して普通に玄関から出てコンビニに行けばいいじゃないか。
そうと決まれば行動しよう。俺はまだ続いてる高笑いをスルーし、財布とスマホも拾い上げ玄関へ向かった。
(あーーーーーー待って待って!我が悪かった!我は白い物だ!)
どんだけ構ってほしいんだ......。今度はその手には乗らないぞ。意を決して玄関のドアノブに手をかけようとした。その時、バチッと音が響いた。
「痛っ!」
こんな時期に静電気か...!?珍しいこともあるもんだ。まあまぐれだろうし今度は大丈夫だろう。
バチッ
「いてっ!」
8月に2回も静電気が起きるとは......。これはもう自然発生的な物ではないのではないか。
(気付いたか!!そう、その静電気は我が起こしてるのだ!!すごいだろう!!!これが嫌なら我を探すとよい!!)
凄くはないが中々な嫌がらせだ。そのおかげで今日一日はドアノブに触りたくない。観念して探すか。
白い物で家にあるもの......。消しゴムとかだろうか。ひとまず自分の部屋に帰って消しゴムを見てみる。
「お前か?」
(ぶ......〜!我じゃ...い......す!我.....べ...のだ!)
そう微かに声が聞こえた。もしかしてコイツが近くほど声も大きく聞こえる仕組みなのか?ならば先程聞こえた台所から探すのがいいか?
うーん、台所にある白い物白い物......。......豆腐か?冷蔵庫を開け豆腐を探して確認してみる。
「お前か?」
(うーん、惜しい!我はそんな軟弱ではない!)
どうやらコイツによると豆腐は軟弱らしい。まあ、確かに。しかし惜しいと言うことは見た目とか何かしらが近いのだろうか。とりあえず流し近くに置いてあった激落ちくんを確認してみる。
「お前なのか?」
(ぶぶー!というかさっきより遠くなっておらんか!?)
どうやらまた違うようだ。先ほどより遠くなっていると言うことはおそらくコイツは白い食べ物なのだろう。多分四角の。んー、白い食べ物...........。
台所のあたりを見回すが白い食べ物は中々見つからない。米かと思って確認したがこれも違うようだ。そうなるとほぼほぼ出尽くした感じがあるのだが......。
徐に台所にある戸棚を開ける。缶詰やレトルトなどが置かれている。氷砂糖や餅も置いてある......これいつ食うんだろ。
ん?餅?もしかしてこれじゃないか?
「......お前は餅か?」
(!!! 正解だ〜!!!!!!)
とても嬉しそうな餅の声が響く。なんだかこっちまで嬉しくなった。
(さあ!我を見つけた記念だ!何でも一つ言うことを聞いてやろう!)
例えばそう...冒険についていくとか...な!と付け加えて期待した目でみてくる。目なんてないけど。
そうだな.......、と考えようとしたときにぐーっとお腹が鳴った。
「.......そうだ」
鍋に水を入れ火にかける。その間に餅を袋から取り出す。
(ええっ我本当に食べられちゃうの!?ここまで仲良くしてたのに!?)
「いやお腹すいたし......」
(今からでもコンビニ行くがよいぞ!!)
「今日中はドアノブ触りたくないし......お前餅だし」
(確かに餅は人間に食われるのが主な目的ではあるが!!それにしても非情ではないか!?)
「そうかな?」
おっと、水が沸騰したようだ。ここで餅を入れる。
(あっっっっっっつ!!!!!!!!!お前!!!せめて我を美味しく食えよ!!!!!)
餅の断末魔が聞こえる気がするが気のせいだろう。さてなんかいい感じのやわらかさになったら取り出してきな粉をまぶして完成。さようならしゃべる餅、こんにちは俺の昼飯。
「いただきます」
もきゅもきゅもぐもぐ............。うん、なんかいつも食べてる感じのと違う気がする。率直に言って美味しくない。おっお前〜!!っていう声が胃の中から聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。そもそも夏に餅を食べているせいかもしれない。
あまりにも8月とは思えぬこの風景。こんなものは幻だったのだと、口直しにアイスに齧り付いた。