何言ってんだこのクソ野郎
来る日も来る日も僕は歩き続けた。
砂漠の道は体力の無い魔導士には応えるものがある。
苦労すれば良い事があるなんて大人達は言うけど、全然良いことなんて無い。自分で自分を追い込んでるだけにしか思えない。
故郷に残して来た幼馴染は元気にしているだろうか。
あ、オアシスの街が見えて来た。
ようやく水が飲める。
「ごく!ごく!ぷはぁ、生き返ったぁ!」
魔法で水を作れば良いと思うかもしれない。だけど飲んだ以上に疲れるものは死への片道切符に他ならない。
僕は街の散策を始めた。少しの間野宿をしながらここに滞在しよう。
「露店には良いものはなかったなぁ・・・本も流石に読んだことあるものばっかりだ。」
こんな時でも魔術の勉強は欠かせない。
立派な魔導『師』として王宮に迎えて貰えれば、幼馴染を田舎から呼ぶことも出来るだろう。僕は絶対に諦めない。
「そうか・・・ふむふむ、原理は分かったぞ!次は・・・。」
僕には1つだけ秘密の魔術がある。9才の時から修得に7年かけた魔術。僕の宝物。多分一生使わない、意味の無い魔術。
オアシスの街に着いてから2週間が過ぎた。
長居し過ぎた。次の街までの距離はそう遠くないらしい。僕は重い荷物を魔術で軽くし、また灼熱の道を進む。水も沢山仕入れた、しばらくは待つはずだ。
砂漠を抜け、とある街に着いた。
小さいながらも活気のある街だ。僕は宿を取って本屋巡りを始めた。路地裏に入り口のある隠れた店。そこで僕は素晴らしい出会いを果たした。
「これは・・・間違いない、転移の魔術!」
値段も見ずに即買いした。
「あぁ、最高だ!これが使えるようになれば僕はいつでも故郷に帰れる!」
僕は転移の魔術修得に没頭した。行く日も行く日も行く日も行く日も・・・。
僕は転移の魔術の修得に成功した!これにより、王宮魔導師にもなれた!何もかも順風満帆だ!後は、
「彼女を呼びに行こう!」
僕は早速故郷へ行こうと転移の魔術を使った!
しかし、転移出来なかった。
「おかしい、間違いなく今発動させたはず。他の街への転移は成功したのに。」
僕は転移の魔術について調べ直した。
一度行ったことのある街であること。転移場所がしっかりとイメージ出来ること。多大な魔力を消費すること。何度調べても条件は全て満たしているはず。
原因がさっぱり分からなかった僕は故郷の村の1番近くの村へ転移することにした。
故郷の1番近くの村に転移した僕は歩いて故郷へ向かった。
久しぶりに歩く自然豊かな緑の匂いと柔らかい土の感触。昔と違うところがあるとすれば故郷の村の周辺には妖精も住んでいたはず。ちょっと走り回れば妖精の光が逃げて消えた。それが結構歩いているのに全く見当たらない。転移出来なかった事と何か関係があるのだろうか。
とうとう夢にまで見た故郷まであと一息だ!
期待に躍らせた胸は一瞬で止まった。
「え?」
僕は目を疑った。
無い。
村が無い!
確かにここだ、場所は間違っていない。なのに何故跡形も無いのだ?モンスターの襲撃で滅びたというなら普通、村のあった痕跡が何かしら残るはず!
だが村はおろか本当に何も無い。たった1本の巨大樹が存在感を残しているだけだった。
僕は巨大樹へと近付き、手を伸ばした。
「この木、何故か懐かしい気がする。」
そんな僕の姿を見つけた者がいた。
1番近くの村に住んでいる男だ。
「あれ?お前何でこんなところに居るんだ?」
「ここにあったはずの村について何か知りませんか?」
男は首を傾げて少し考えたが答えた。
「あぁ、そこにあった村は俺が住んでる村と昔合併して無くなったんだ。この1番近くの村だよ。」
なるほど。僕の知らない間にそんなことが。
「そうですか、ご丁寧にありがとうございます。」
僕は先程来た道を帰った。故郷から1番近くにある村に入ると違和感に気づいた。この村にあんな大きな建物あっただろうか。窓も見当たらないとても頑丈そうな建物。道行く村人を呼び止め、尋ねた。
「歩みを止めてしまい申し訳ありません。この建物はなんですか?」
「なんじゃ、お主余所者かの?あの建物はただの倉庫じゃよ。」
なんだ、ただの倉庫か。もう日も落ちかけている。転移の魔術で一度帰ろうかとも考えた。
気になる。
住人が倉庫と言うあの建物、何故か凄く気になる。
そこで取った宿をこっそり抜け出し、建物へと近づいた。入り口には見張りが2人立っている。中に入ることは出来ない、か。建物の周囲を隈なく探してみたがネズミ1匹入れる隙間も無い。
・・・ぁ・・・た・・・。
何か聞こえる。建物の中からか?
耳を建物に付け、集中する。
・・だ・・か・た・・て。
「だ、か、た、て・・・『だれかたすけて』!?」
僕は魔術で見張りを眠らせ、中へと侵入した。
すぐに異臭が鼻を突く。
確かに誰かが助けを呼んでいる声が聞こえた。
真っ暗で前が見えない。
ガン!
何か柱のようなものにぶつかった。
この暗い中を闇雲に動くのは無理だ。
「闇に咲く一輪の花の如く、我が手に光をもたらせ・・・ペンディムライト!」
一筋の光が手から放たれた。その光は真っ直ぐ僕の向いている方向を照らし、探していた者を示す。
「大丈夫ですか!?」
鉄格子が行手を阻む。中に居たのは痩せこけた女性だった。
「あ・・・み・ず・・・。」
僕は魔術で水を出し、彼女の手に注いだ。
差し出された水を思うままに口にすると彼女は倒れた。衰弱しきっていたようで水分が身体に吸収することがもはや出来なかったようだ。
ごめんなさい。助けてあげられなくて。
ん?よくよく見ればこの女性は僕の両親とよく話してた向かいの家のおばさんじゃないか。あの時はふくよかでどっしりとしていたので変わり果てた姿に気付かなかった。何故こんな所に。
建物の中は先程の女性以外誰も居なかった。
僕は宿へ帰る途中である物を見つけた。
「これは、手記?このマークは!?」
拾い上げ、宿に戻ると手記を広げた。
〜◯△◯年□の月□の日〜
突然村が何者かに襲われた。
村は焼かれ、賊は村人を拉致しようとした。
僕は村人を守る為に魔術を使って人々を一本の巨大な樹へと姿を変えた。幾人かは既に襲ってきた者達に捕まってしまった。
捕まってしまった人達には悪いけど大事な幼馴染は他の人と一緒に守る事が出来た。
僕はほとぼりが冷めるまで旅に出よう。
いつしかあの樹を村人へ戻すために。
思い出した。僕は今までなんでこんな大事なことを忘れていたのだろう。もしかしたら、僕は辛い事を一時だけ忘れようとしたのだろうか。
いや、今はそんなことどうでもいい。
ここまでのことでようやく分かった。あの賊達の正体は故郷の村から1番近くにあるこの村の住人だったんだ!
許さない・・・。
僕は1つの村を一夜にして滅した。
さぁ、行こう。皆んなの元へ。
巨大樹の根元に手を伸ばし、呪文を逆さに詠唱する。
僕の宝物。人を樹へ、樹を人へ変化させる古代の精霊の魔術。
巨大樹はスルスルと解けるようにして元の村人達へと姿を変えた。村人達は長い眠りに落ちていたかのように身体を伸ばしたり、あくびをしたりした。
その一行の中に再会を待ち望んだ幼馴染は居た。
「ずっと、会いたかった・・・。」
「えと・・・どちら様ですか?」
そう、彼女は当時の姿のまま。僕はあれから20年以上の時をその身に刻んでいた。
遅過ぎたのだ。
「あ、いや、ごめんなさい。つい知り合いの若い時に似ていたもので。」
両親や元友人も居たが同じように当時の姿のまま。僕のことを探してくれてはいるがもう探している僕は居ないんだ。
戻ろう。王宮へ。とはいえ、すぐに帰る気分じゃない。森を散歩してから帰ろう。
「森の妖精達が居なくなったのは村が焼かれて周りの森にも燃え移ったからか。」
僕は子供の頃遊んだ森の奥に来た。あぁ、懐かしい。戻らない時が甦ったようだ。物思いに耽っていると、そこに2人の男女がやってきた。
「あ!お前!!」
「私達の村を滅した悪魔!!」
なんだ、あの村の生き残りか。
私は思わず笑いそうになり、一呼吸置いて言った。
「何言ってんだこのクソ野郎。」
Thank you very much!
全て読んで頂き誠に有難うございます。
如何でしたでしょうか今回の単発ファンタジーは?
初っ端からタイトルとギャップあり過ぎて過呼吸になってしまったかもしれません。
読み返した私自身「え?このタイトルのまんまで良いかなぁ?」と悩みました(笑)
勘の鋭い方は何かに気付いてしまったかもしれません!だけどそれはあなたの心の中に閉まっておいてください!
どうしても気付いたことの答え合わせしたいという方はメッセージを送って頂けると今後の執筆の励みになります!!
ただこの作品のタイトルのまんまは送らないでください!心が更に曲がってしまうので(笑)