序説
初書き 練習兼ねて。
☆序
レスター城はかつて、世界一と言われるほどの強さと豊かさを持った国─ヴァルハジャ─の象徴であったが、ある二人の兄弟が起こした大戦争により、完全にその原型は失われ、国もろとも滅んだ。
ヴァルハジャがまだ貧しかった頃、その国には、ある泉が存在していた。その泉は、10年に一度だけ生命を誕生させ、ヴァルハジャを過疎と餓えから救っていた。人々はその泉を"生命の泉"と呼び、崇めた。
ある日、"生命の泉"は双子の赤ん坊を誕生させた。
人々は彼らを天からの贈り物だとみなで喜び、兄の方を"夜鮫"、弟の方を"ロイド"と名付け、彼らを大切に育てることに決めた。彼らは、たくさんの愛の恩寵を受け、すくすくと育っていった。
そして、まるで彼らの成長を祝うかのように、"生命の泉"は富を生み続け、いつしかヴァルハジャは、どの国にも勝る兵力と豊かさを持つ国となった。人々は餓えや苦しみから解放され、幸福に包まれていた
──だが、その幸福も長くは続かなかった。
ヴァルハジャの王となった兄の夜鮫は、国の全兵力使い、他国を侵略し我が物にしようと考えたのだ。
それに反対した弟ロイドは兄を止めようと説得した。豊かになった今こそ、他国と協定を結び、共に生きていくべきだ、と。
しかし夜鮫は聞く耳を持たず、自身を説得する弟を払い除け、自分の野望を果たそうとした。兄の野望を止めるため、ロイドはたった一人で夜鮫に戦いを挑んだ。
それはもはや戦いの域に収まらず、国民を巻き込み大戦争までに発展した。守るべきはずの国民は、二人の攻撃に巻き込まれ次々と命を落とした...
何百年経つ頃には、ヴァルハジャは跡形もなく消え失せ、二人だけがその地に残されていた。
自分たちを育ててくれた、守るはずだった人々を自分の手で殺したことにようやく気がついたロイドと夜鮫は自分たちの愚かな過ちに後悔し、何百年と続いた無意味な戦争に終止符を打った。
彼らが起こしたのはただの兄弟喧嘩に過ぎなかったのだ。彼らは大切な者たちを殺し、全てを破壊した。
そして二人は、自分たちが死なない体であることを悟り、自分たちの存在を完全に封印することを決意した。ロイドと夜鮫は目覚めることのない深い眠りにつき、地底の底深くまで沈んだ。
そして何千年の時が経ち、ロイドと夜鮫は、それぞれ"生命の泉"として生まれ変わり、自分たちの罪を滅ぼすかのように、奪った生命を誕生させたのだ。
かつて、ロイドと呼ばれた人間だったその泉から生まれた人間は"処刑人"と呼ばれるようになり、夜鮫と呼ばれた人間だった泉から生まれた人間は"死神"と呼ばれるようになった (しかし生まれるのは人間だけでなく、兄弟のかつて争った殺戮意志から生まれた、知能はないが人を襲う骸までも誕生するようになった)。
死神と処刑人は兄弟の意志とは反して、決して合いまみえぬ、互いに恨み合い、争い合う、まるでかつてのロイドと夜鮫のようになっていた..