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8話 魔獣討伐依頼に挑戦

 王城の北門の方に歩いていく途中で、今回の依頼について説明を受ける。


「今回の依頼は通常の依頼で何の制限もない。この場合は早いもん勝ちで誰かが依頼の魔獣が狩ったらそこで終了、後から行ってもしょうがない代わりに失敗も無い。失敗があるって言うのは、何か物を運んだり、誰かを護衛したり、つまり決まった組数しかできない依頼は大抵失敗のペナルティがつくことが多い。失敗した場合でも冒険者が全滅した場合はお咎め無しだ。無しっていうより、ペナルティの払いようがないって感じだな。ペナルティが過剰だと誰も依頼を受けないから、結局は依頼者も困るしな」


 エドワードがそう言いながら話をつづける。


「今回の依頼はトロールで王都から10Km(キロ)くらい離れたところだ。ところでコジロー、おまえがテレポートを使えるのは何回だ?」


 エドワードがテレポートの性能を聞いてきたので答える。


「だいたい20回くらいだと思う」


「そりゃ化け物じみた回数だな」


「俺を化け物呼ばわりしないでくれ」


 エドワードの不当の評価に抗議した。


「わりぃわりぃ。テレポートっていやあ普通は2、3回が限度だ。コジローは規格外すぎるな」


 それならエドワードの評価もしかたなしってところか、いやいや、賢者ならこれくらい簡単にできる……に違いない。リッツは1回テレポートしただけでMP切れをおこしてたからな。


「今日はパーティでの狩りになるから、コジロー、ギルド証を出してくれ」


 エドワードがギルド証を要求したのでギルド証を差し出すと、エドワードもギルド証を取り出し俺のギルド証の下に重なる位置に差し出した。


「こうするとメニューが出せるからパーティ作成をして、俺をパーティーメンバーに入れてくれ。その後で俺が参加を許可するとめでたくパーティの出来上がりだ。今回はコジローがパーティリーダーでコジローはパーティを解散したり役に立たないメンバーをキックできたり、リーダーをパーティメンバーの誰かに変えることもできる。パーティメンバーの方はパーティから抜けることができる」


 エドワードがパーティの作り方を教えてくれたので、言われた通りに操作しパーティメンバー一覧に俺とエドワードが表示されるのを確認した。


「これでOKだ。城門での確認もパーティリーダーだけで良くなって、パーティメンバーは頭数さえあっていれば確認なしで通れる。それと戦闘時の経験値はパーティを組んでないと、魔獣が倒されたときにダメージを多く与えた者ほど多くの経験値が入るんだ。そうなると回復役の経験値が少なくなってしまうが、パーティを組めば経験値は平等に分けられる。それによって自分の役割を果たしやすくなり結果パーティがうまく機能する。


 それから相手がかけてきたデバフやそれをレジストしたかどうかや、ダメージ、状態変化、逆に相手にかけたデバフ、ダメージ、状態変化などを共有できるんだ。これにより回復役、弱体役、強化役などが仕事をしやすくなるし攻撃役、守備役の立ち回りのタイミングもはかりやすくなる。


 ま、それを悪用して貴族どもは金で雇った冒険者に戦闘をさせて自分は何もせずに経験値を得ているが、あれはダメだ。レベルばっかあがって使えない奴が増えるだけだ。ギルドでの試験を思い出してみろ。スキルでは差が無かったのに、一方的にお前がダメージを浴びる結果になった。戦闘はスキルやレベルだけじゃねえ。あそこでお前には怪我をさせちまったが、気を抜けばレベルが高くても殺されることもあるって知ってほしかったんだ。どんなにステータスを上げても、首を刎ねられれば俺たちは死ぬ。だから絶対、油断しちゃならねえ」


 エドワードは真剣にあの試験のときに俺に教えたかったことを説明してくれた。


「大丈夫、ステラやクリストフは俺の事を褒めたり、他の冒険者が言っていたという良い評判を教えてくれたけど、エドが身をもって教えてくれたことは十分伝わったよ。ありがとう、エド」


「パーティは18人まで組める。それから緊急時はパーティを組んでなくったって助けることはできるからな。そういう無駄をしたがらない冒険者もいるが、緊急時はお互い様だ、そんなこと気にしないで助けにはいるような人間になってくれ」


 エドワードは少し照れ臭そうな表情を見せたが試験での俺の話はわざと無視し、パーティや冒険者の心構えについて教えてくれた。


「エドって意外とまともなんだな」


「意外ってのは余計だよ」


 エドワードを褒めるとすぐはぐらかす。きっと彼はそういう奴なんだろう。

 他にも疑問がある。


「このギルド証を作る魔導具って高いんだろうか?」


「なぜそう思うんだ?」


「経験値って目に見えないじゃん。それを平等に分けなおすって、どういう仕組みなのかなって。どんなに考えても答えが出ない気がするんだよね」


「ある意味それが答えだよ」


 エドワードが意味不明なことを言うので聞き返す。


「どういうこと?」


「あれはエルフの魔導具なんだ。ギルド証を作る魔導具、鑑札を作る魔導具、普段は衛兵がチェックするだけだがギルド証や鑑札を確認する魔導具もある。その魔導具は全てエルフ製で人間じゃ作れないんだ」


 エドワードが高度な魔導具について教えてくれた。さすがファンタジーの世界、エルフは目に見えない何かを扱うって事ができるんだな。


「そういえば誘拐をしたあいつらを倒した時に入った経験値は1だったろ? 今日の依頼はBランクで1体の敵だから、二百五十万の半分で百二十五万入るよ。お前のレベルじゃ大したことないかもしれないが、普通の冒険者にとっては結構な経験値だ。レベルを上げるのに効率がいいのはランクの高い魔獣を倒すことだ。パーティに入ってるやつの中には経験値が目的のやつもいるって事は覚えておいた方がいい」


 エドワードの発言で人間を倒した時の経験値についての疑問が解けた。しかし、なぜそんなことになっているのか不思議でしょうがない。


「なんで人間相手だと経験値が1になるんだ? それは誰でもか?」


「ああ、誰でもだ。理由は分からないが同じ種族の場合はレベルや強さに関係なく経験値が1になるって考えられているんだ。もしそうでなければ、何も手強い魔獣を相手にするより、レベルの高い人間を襲う方が楽だからな」


 エドワードに質問したが結局のところ理由は分からなかった。だが人間同士の殺し合いが減るのは有難い。

 そろそろ城門が近づいてきたので隠しにしまっておいたギルド証を出す。若く見える衛兵に渡すとパーティメンバ表を確認して、エドワードがパーティメンバーということに気付いたようだ。


「エドワード様、隊長を呼んでまいりますので少々お待ちください」


 俺のギルド証を持ったまま、衛兵が詰める屯所(とんしょ)の方へ向かって走り出した。ほどなく隊長と呼ばれる、エドワードと同い年ぐらいの年長者を呼んできた。


「よう、クリメント」


「エドワード、どうしたんだ? こんな時間に、今更二人パーティで何やろうってんだ?」


 エドワードからクリメントと呼ばれた衛兵の隊長がエドワードの行動を確認したいようだ。エドワードは冒険者ギルド以外でも有名人なんだろうか。ここでは隊長のクリメントが知り合いというのもあるのだろうが、普段のエドワードはきっと大きな事件が起きないと、わざわざ王都を出かけないとか、何か理由があるのだろう。


「こいつはコジロー、今一番かわいがってる冒険者なんだ。今日冒険者デビューなんで一緒に依頼をこなしに行くつもりなんだ。こんなに若いがCランク冒険者に飛び級で合格したんだ。近いうちに王都で一番有名な冒険者になるから、知り合いになっておいて損はないぜ」


 エドワードは俺を持ち上げた。


「そいつはすごいな、俺は昔エドワードとパーティを組んでいたんだ。飛び級でCランク冒険者から始めるなんて、しかも成人したばかりくらいだろ? 本当にすごいな。活躍を期待しているよ」


 初めて会ったクリメントが俺を褒めてくれるので恥ずかしくて穴があったら入りたい気分になるが、エドワードに恥をかかせるわけにはいかないので、できるだけ堂々と自己紹介した。


「本日冒険者ギルドにてCランクの冒険者に認定されたコジローです。初めてなので緊張してますが、Sランク冒険者を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします」


「こいつは俺と一緒に冒険者になってAランク冒険者までずっと同じパーティだったんだ。ある依頼の功績で騎士になって冒険者を廃業したんだ、つまり今じゃ貴族様ってことだ」


 エドワードは古い友人が騎士になったことを茶化すように紹介してくれた。


「俺はAランク冒険者でいっぱいいっぱいだったよ。騎士と言ったって、本物の貴族様からすれば所詮平民上がりだしな。エドワードが王都随一の冒険者にまで上り詰めるとは思ってもみなかったけど、俺があのままエドワードと同じパーティにいてもSランク冒険者まで上がれたかは疑問だな」


 クリメントの言葉には平民上がりの貴族の哀愁が漂っていた。


「クリメント、俺の事は昔と同じエドって呼んでくれよ」


 エドワードはちょっと他人行儀になってしまった昔の友人に不満があるようだった。


「いや、ここでは衛兵隊の隊長だからそういう訳にはいかんよ。また今度飲みに行こう、そこでは昔の仲間に戻れる」


 クリメントもエドワードと同様、まだ仲間意識が残っているかのような口ぶりだ。


「ああ、今度連絡する」


 エドワードが久しぶりの仲間との約束をすると、ギルド証を預けた若い衛兵がやってきた。


「それではパーティを確認しましたのでお通りください」


 若い衛兵がギルド証を返してくれながら、エドワードを憧れの英雄を見るような目で見つめていた。


 しばらく歩いていくがこの辺りは城門から緩やかな下りなのですごく見晴らしがいい。この構造は当然城の守りという意味で重要だ。高いところに城を構えできるだけ遠くまで目が行き届く場所。木々が増えてきたあたりで、城門の入り口から見えないよう横道にそれる。


「ここから北西に10Km(キロ)くらいのところに行きたいから、二度テレポートを頼む」


 エドワードがそう頼むので連続してテレポートをした。誰にも見られることなくテレポートが完了する。道沿いにテレポートしたが、依頼の場所はどこなのかと思ってると、エドワードがまた頼んできた。


「索敵でトロールを探してくれ」


 なるほど、そういうことか。


「ここから西の森の方にトロールが居る」


 索敵で見えたトロールの位置をエドワードに伝える。


 二度のテレポートで着いたところから2Kmくらい森に入ったところにトロールが一匹居た。索敵マップを開きっぱなしにし、索敵したトロールをリアルタイムで監視しながら近づいていく。近づいていくに従い、索敵マップのスケールも変更していく。


 遠目に見えてきたところでエドワードが止まる。トロールは森の少しひらけている場所で何かをしているようだ。いくつかの折れた木の板や壊れた車輪のようなものが見え、残骸から推測すると馬車を襲って荷物をあさっている感じだ。こちらには気づくことなく必死に荷物をあさっている。


「トロールは身長が10mくらいと大きく力があるが、動きは鈍い、ただし再生能力があり中途半端な攻撃力では倒すのが難しいか時間がかかってしまう。俺とコジローで一気に仕留る。油断さえしなければ問題はないと思う。こいつの心臓あたりに魔導石(まどうせき)ってのがあって、こいつはいい金になる。魔獣は魔導石を壊しても死ぬが魔導具に使えることもあって、状態が良いほど高く売れるんだ。トロールなら魔導石を壊さないでも倒せるから、今回は魔導石以外を狙って倒すぜ。倒した遺体は俺の魔法鞄に入れギルドへもっていく。ここまでで依頼は終了だ。


 何か質問はあるか?」


 エドワードがトロールの特徴や、攻略法を教えてくれた。俺は首を横に振って事前学習は十分だとエドワードに目で答えた。


「じゃ、俺が攻撃したら一呼吸おいてから攻撃しろ」


 エドワードの指示にたいして首肯する。


 常時発動しているラーニング、ステータス偽装、魔法耐性以外の戦闘に有効なスキル、レベル10素早さ強化、レベル10剣術、レベル10縮地、レベル5力強さ強化、レベル10魔法耐性、レベル1隠密を発動し、エドワードの後ろを音を立てないようくっついてトロールに近づいていく。

 かなり近くまで来るとトロールが通ったためにできた獣道のような道ができていて、そこに荷の一部が散乱していることから馬車を引きづってきたのは間違いなさそうだ。

 さすが巨人だけあって力はかなりのものだ。


 エドワードが静かにトロールに近づき、右足のアキレス腱のあたりを切り裂き深手を負わせる。トロールは立っていることができなくなり、尻もちをつき右足首あたりをさするような動作をする。


 レベル1急所看破を発動する。急所のあたりが淡いピンク色で示された。目や首、心臓のあたりが肋骨の隙間を知らせるように点々と色づき、わき腹のあたりもピンク色になっていた。こいつは致命傷を与えられるところを示しているのだろう。

 体格差や所持している武器によっても急所が変わる可能性もあるかもしれないが、トロールは魔獣とは言え人型のため人の急所とそれほど変わらないようだ。


 エドワードはトロールにいきなり致命傷を与えるのではなく、動きを鈍らせてからとどめを刺す方が体格差から安全と考えたのだろう。

 トロールの右足の足首あたりを押させている左手の内側が上を向いていたので、トロールの前方に回り、左手首の内側をできるだけ深く斬りつける。かなり大量の血が飛び散り、人で言えば致命傷に当たる傷を与えたが魔獣なのでまだ気は抜けない。がら空きの顔面までジャンプをすると右目に剣を突き刺し、すぐさま剣を引っこ抜くと後方へ飛んだ。


 トロールはいかにも猛獣のような唸り声をあげ、大きな右手で俺を掴むように俺の逃げた方向に手を伸ばすが、手が届く前にバランスをくずし右側に倒れこむ。

 その巨体が倒れる瞬間、一瞬目の前が巨体で塞がれたのか空まで真っ黒な影に覆われたようだった。


 エドワードはとどめを刺すべく、横に倒れたトロールの首めがけて剣を突き立て、体重をかけて首の真ん中より後ろ側を斬りにいく。俺もトロールの首に近づき、エドワードが斬っている反対側を斬る。

 二人がかりでなんとかトロールの首を落とした。


「これで今回の依頼は完了だ」


 エドワードは依頼完了を宣言し剣をしまうと、巾着型の魔法鞄を隠しから取り出しそのまま巾着を左手で持ち、右手で巾着の口を開けトロールの死体に向ける。するとトロールの巨大な死体は物理的には入りきらないはずの巾着の中へ吸い込まれていった。


 俺も剣にトロールの血がついていたので血振るいして落とし、剣を鞘にもどす。

 エドワードを見ると、隠しに巾着を入れているところだった。


 トロールは居なくなったはずなのに、なぜか空が真っ黒になった。

 すでにトロールの死体は片付けたのでトロールの陰ではない。もっと巨大な何かが空から降りてきてエドワードを捕食しようとする。エドワードがそこから逃げたときにはエドワードの右腕が食いちぎられていた。


「コジローこの場から逃げろ! 町にもどってファフニールが出現したと衛兵に伝えろ!」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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