5話 フレッシュ青果店殺人事件
なぜか、エドワードに尋問されることになった。
「これから俺が質問することに正直にこたえてくれ」
「今までだって全て正直に話したし、エドの質問にも正直に答えるよ」
「本当にトニーを殺したのか?」
「ああ、殺したよ」
「スティーブも殺したのか?」
「ああ、さっき言ったとおり殺したよ」
「おめえ、トニーとグルじゃねえだろうな?」
「トニーとグルなわけないし、トニーは殺したよ」
「ふざけるな! お前の実力でトニーを短時間で倒せるわけねえだろ。
何を企んでやがる」
エドワードは怒声を浴びせたときより強い語気で吠えた。
フィンは冷静に俺を見ながらケネスと話しているが、何を話しているのだろうか。
エドワードはお前の実力でと言った……そういうことか。
ケネスを鑑定し、エドワードが抱いている疑念を理解した。
「そういう話か。ケネスさんは鑑定とステータス偽装がレベル9で俺を鑑定したんだろ」
ケネスが鑑定持ちであり、それがかなり上位のスキルであることまでは予測できるだろうが、ステータス偽装のレベルまで正確に言い当てられ、瞬間的にエドワードは腰の剣を抜いて臨戦体勢を取った。
素早くステータス画面を表示し、素早さ強化とファイヤーをレベル10に上げ、素早さ強化を発動し応戦できるように立ち上がる。魔法耐性で自分に魔法は効かなくなったとしても、ファイヤーで家が焼ければ、そのダメージを防ぐ方法はない。剣を持ってない今、ファイヤーは最大の攻撃方法とはいえ、できるだけ使わないで済ませたい。
「待った、待った」
フィンが両手を上げて交差するように大きく振りながら、俺たちの対立を解消しようと二人の間に割って入ってきて、俺の方に向いてエドワードの行為について謝罪しだした。
「コジローさん、エドワードの非礼をお詫びします。エドワード、剣をしまってコジローさんに謝罪しなさい」
エドワードはしまったという表情をしながら素直に剣を鞘にもどした。
「コジロー、済まなかった。どうしても聞き流せない話がでたので条件反射で剣を抜いちまった。恩人に取るべき行為じゃなかった。本当に済まなかった。謝罪を受け入れてくれるか?」
「もちろん謝罪を受け入れるよ。俺もそちらのナイーヴな内情にずかずか踏み込んで済まなかった」
「ありがとう」
そこでフィンが事情を説明してくれた。
「ここに居るケネスは鑑定持ちだ。君が指摘したようにステータス偽装も持っている。ただし、ケネスのスキルレベルについて私達の仲間で知っているのは、本人を含めここに居る三人だけなんだ。
商売ってのは騙し合いでね。どうしても信用できる鑑定スキル持ちに確認をするんだ。君のステータスも実は食事中にケネスに鑑定してもらい、君のステータス情報を三人で共有していたんだ。
一応聞くけど、なんでケネスのスキルレベルが分かったんだい?」
「本当の事を言えばいいのか?」
「できれば、そうお願いする」
「俺がレベル10鑑定スキルをもっているからだ」
俺の言葉に俺以外の三人が三人とも本当なのかそうか、判断しかねてる様子だ。エドワードは思わず疑問を口にせずにはいられないとう感じで、質問してきた。
「コジロー、お前16だろ? その歳でレベル22はかなり高い。冒険者をやっていたとしても、16のお前が簡単に到達できるレベルじゃねえ。お前の話が本当だとするとお前はレベル10鑑定スキルとともに、レベル10ステータス偽装スキルを持ってることになる、そうなるとレベル39以上のはずだが、それで間違いねえのか?」
「ああ、それで間違いない」
そして三人に共通の疑問がわいたようだ。
フィンがその後をつづける。
「ということはコジローさんは勇者様ということでしょうか?」
「いや、俺は勇者じゃない。冒険者を目指している魔剣士、つまり魔法剣士だ」
俺の回答に三人とも拍子抜けしたという表情を見せた。エドワードがフィンに嘘はついてねえと思うから勇者って名乗るほど信用されてないのかもしれないとか言いながら、なにやらゴソゴソと相談している。
「お屋形様、ここはコジローにステータス偽装を解いてもらってケネスに確認してもらうのがいいんじゃねえか?」
「確かにそれが早いな」
フィンが覚悟を決めたようにこちらに向き直った。
「コジローさん、数々の非礼済まなかった。勝手にコジローさんを鑑定したのは私の指示だ、それについては私が謝罪しなければならない。申し訳ない。ただここまできたら恥のかきついでに、コジローさんの本当のステータスをケネスに確認させていただけないでしょうか。そしてできれば、我々にもそれを教えていただけないでしょうか」
そうなるか、ステータス偽装が下手過ぎたか。なかなか難しいもんだ。
「それはもちろん構わないけど、いくつか見せたくないスキルがあるので、それについては偽装したままで構いませんか?」
「当然です。本当に偽装しようと思えばコジローさんの思いのままですから。私達に知られては困るものについては、寧ろ偽装しておいてください。私達自信が知らなければ、どこかで口を滑らすという事もありませんから」
「後、いろいろ知りたい事があるので、あとで質問してもいいですか? クリスティンでも知っていて当然な事を聞くかもしれないけど」
案内役の人と話した時は必要なことは聞いたって感じたけど、実際に転生して生活すると次から次へと疑問が湧いてくるもんだ。
「何か事情があるといことでしょうか? 私達に答えられるものであれば何でもお答えしましょう」
「ありがとう、感謝します。ではステータス偽装を解きましたので、ケネスさん鑑定してください」
鑑定をしたのか、ケネスは驚いた表情で質問してきた。
「コジロー様は本当に勇者様ではないのですか?」
「違います。勇者っていうのは生まれたときから勇者って知っているのかな?」
「伝説では生まれたときから他の者とは全然違うようですが、あくまでも伝説ですので、実際の勇者様はそれとは違うのかもしれません」
「そうですか、少なくとも今は勇者じゃないのは間違いない、もしくは自分にはそういった認識はありません」
そう言うと、少し焦れていたエドワードがケネスに催促する。
「では私が鑑定した結果をお伝えします。
名前はコジロー、年齢は16歳、種族は人間、性別は男性、レベル95、力強さAAA、器用さAA、丈夫さAAA、素早さAA、賢さAA、精神力AA、運AA、魅力AAA、レベル10索敵、レベル10素早さ強化、レベル10剣術、レベル1踏み込み、レベル10縮地、レベル6力強さ強化、レベル10鑑定、レベル10ステータス偽装、レベル10魔法耐性、レベル10ファイヤー、レベル10テレポート、レベル1暗闇、レベル1重力、以上になります」
エドワードが品の無い口笛ではやし立てる。
フィンがエドワードを睨みつけ、行儀の悪さを注意する。
「エドワード、行儀が悪いぞ」
「へい、済みませんでした」
エドワードがばつの悪そうな顔を見せ、両手を合掌させて軽く謝罪をしてくれる。
「気にしてないよ」
俺は元々気にしていなかったので、本心を伝える。
「コジロー、これから俺が言う事を良く聞いてくれ」
「おう」
エドワードがちょっともったいぶりつつ、畏まった感じで話してくるので気圧される。
「俺は36歳で元S級冒険者だ。レベルは51で、このレベルはS級冒険者が引退する頃のレベルに相当する。
自分で言うのもなんだが、まだまだ現役で冒険者をやれる年齢でこのレベルなのはS級冒険者の中でもトップクラスと自負している。
ケネスは28歳でレベルは19。これはBランク冒険者レベルなんだ。これもただの番頭の仕事をしていただけではなく、時には日の当たる場所では言えないような事をしてきたから、ここまでレベルが上がっているんだ。
お屋形様は42歳でレベルは25。Aランク冒険者レベルだ。
コンパス商会といやあ王都で1、2を争う商会で、その会長と番頭だ、このくらいレベルが高くても、ある意味当然と言えるかもしれねぇ。だがコジロー、おまえは16かそこらで、これから冒険者になろうって話だろ? そいつがレベル95ってのは普通じゃねぇんだよ。95ってレベルは勇者が魔獣をガンガン倒してるようなレベルなんだよ」
なぜこうなったかは言えないが、非常識な状態であることは認識した。
「コジロー、スキル偽装していたお前の判断は正しい。そうだ、スキル偽装を戻しておいてくれ。お前みたいに索敵と鑑定の両方を持ってると、ステータスでも検索できるようになるだろ? お前の突出したステータスは、他人に見せない方がいい」
フィンもケネスもエドワードの意見に頷いて肯定する。
鑑定のスキルを取得したおかげで、索敵の検索能力が上がるのは有難い。
そしてエドワードに言われた通り、ステータス偽装を設定変えてで発動しておいた。
レベル35に上げて、ステータスを力強さAA、器用さA、丈夫さAA、素早さAA、賢さB、精神力B、運AA、魅力Bとした。
スキルや魔法は、レベル8索敵、レベル5剣術、レベル1踏み込み、レベル3縮地、レベル3素早さ強化、レベル3力強さ強化、レベル3魔法耐性、レベル3ファイヤー。
ステータスが低すぎると本気を出さざるを得なかった場合に説明がつかなくなってしまう事を勉強したが、高く設定しすぎるのもどうかと、ちょっと控えめにしておいた。
これでよしと。
「お前がどんなに否定しても、正直俺はお前を勇者だと思ってる。ここの二人だって同じ気持ちだろう」
フィンとケネスが再度頷く。フィンがエドワードの後を引き継ぐ。
「我がコンパス商会は勝手ながらコジローさんを支援させていただくことを、ここに宣言します」
フィンは本当に俺の事を勇者と思っているのか、まったく恥ずかしがる様子もなく言い切った。
するとフィンはニコニコしながらケネスに何か頼むと、なぜかケネスは嬉しそうな表情で足取り軽く部屋を出て行った。
「これから行うことは、我々の覚悟を示すもので、決してコジローさんに強要するものではありません。あくまでも我々の意志を示すためものです。特にコジローさんが損をするような話ではありませんので、是非一緒に盃をとっていただきたい」
盃とか持ち出して、親分子分みたいになっちゃうんだろうか?
フィンが少し興奮した面持ちで、熱意のある目を俺に向けてきた。
「コジロー、このしきたりは知ってるか? ワインを一気に飲み干して、グラスを床に叩きつけて割るんだ」
映画でしか見たことがない光景のことを、エドワードが嬉しそうに教えてくれた。
しばらく三人でというか、ほぼ興奮している二人が熱く語っているのを聞いていただけなのだが、ケネスが戻ってくるのを待っていた。
ケネスがワインとグラスをワゴンに乗せてやってくると、ケネスが手早くグラスにワインを注ぎ準備をする。フィンが俺に囁く。
「これはとても大事な門出のときに行うしきたりなんだ。さ、コジローさんもグラスを持って」
今度はフィンは大きな声で、俺に何か話すように催促した。
「それではコジローさん、何か一言お願いします」
フィンにそう言われても、特に話すことなんて何もない。
「なんでもいいんですよ。これからしたいこととか、意気込みとか」
「わかりました」
すーっと息を吸い、はーっと息を吐く。周りの三人はそれをじっくり見守る。三人とも勇者の誕生に胸躍らせるって感じのキラキラした少年の眼をしてる。
「フィンの娘さんを助けたのは俺の善行、それを正しい行いとすれば、そこから生まれた縁は正しい縁のはず。正しい縁は正しい結果に繋がる。そう信じて、前に進みたいと思う」
フィンが何かをかみしめる様に頷き、乾杯の音頭を取る。
「それでは新たなる勇者の誕生と、正しい縁によって約束された正しい未来を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
四人ともぐいーっとワインを飲み干し、勢いよくグラスを叩きつける。床に叩きつけられたグラスは大きな音を立てて割れ、四方にはじけ飛んだ。床には割れたガラスと、ワインの液体が飛び散った。
日本人的には床にわざわざグラスを叩きつけて割るってどうなんだろうと疑問に思ったが、それくらい特別な覚悟をこの三人はしたのだと思うと、危なく勘違いして勇者をやってしまいそうな気分になる。
「コジローさん、先ほど知りたいことがあると仰っておりましたが、今からお時間があればお伺いしますが、どうされますか?」
「俺はいくらでも時間があるので、是非、お願いします」
「わかりました、それでは商談用の部屋があるので、そちらへ移動しましょう」
そうフィンが言い立ち上がると、ケネスが先に扉まで行き扉を開ける。
フィン、俺、エドワードの順で部屋を出た。ケネスが指示を出していたのだろう、割れたグラスを片付けるための雑巾などを持ったメイドが、今俺たちが出てきた部屋に入っていった。きっと、割れたグラスを片付けていることだろう。
商談用の部屋へ入りソファーに腰を掛けると、今度もまたケネスがワゴンを押してきた。人数分のコーヒーを用意しており、各自の前にコーヒーカップを置いた。俺の前には砂糖も置いてくれたので遠慮なく砂糖を入れる。他の三人はブラックだ。
落ち着いたところでフィンが、俺に話しやすいよう水を向けてくれた。
「コジローさん、何かご事情がおありの様子。ここでの話は一切口外しないとお約束しますし、この部屋は声が外に漏れませんので、我々を信じてどうぞ好きなようにお話しください」
「ありがと、フィン」
そう言われてもなお、言いづらかったが意を決して話すことにした。
「実は俺、記憶がありません」
転生の話をするわけにはいかないと思い、苦肉の策として記憶喪失ということにして、話をすることにした。
「わかりました、どういった記憶が無いのか、お話いただけますか」
フィンは驚いてはいたが、俺のことを疑ってはいなかった。記憶が無いという俺を受け入れ、その理由を質問してきた。
異世界転生したことを誤魔化すための記憶喪失という設定なので、この街にやって来たところから話すことにしよう。
「気が付くと、この街の西の城門の内側に立っていました。それ以前の記憶は一切ありません。住むところは無く服装や剣は皆さんが見た通りです。お金は持っていませんでした。
セバスチャンに預かってもらっているお金はスティーブが命乞いをしたときにスティーブから受け取ったものです。
城門のそばで城門を通り抜ける人達を見ていたのですが、入るときに許可証やお金を払う人が居て、外に出る人は基本的に払ってないように見えました。当然俺はお金を払ったかどうかの記憶もありません。
俺自身が、元々この街の住人で、そして記憶をなくして城門のところに立っていた可能性もありますが、俺の感じたことを言わせてもらえば、俺は外から来た人間のような気がします。城門を通ったのか、テレポートしてきたのかは分かりません。
何となく、王都になじみがない気がします。
そして、この街は外壁と内壁があり中央に城があるということは理解しながら、人通りの多い石畳を進みました。その間に言葉を理解することができ、会話ができることも確認しました。
より多くの人が居る場所にいき、より多くの情報を得ようと考えて人が多い方へ向かいました。
そして南西の環状交差点のあたりで、フィンの娘さんを助けたということになります。
あとの行動はみなさんに話した通りです。
冒険者になるにはどうすれば良いのか、お金が必要なのか必要ないのか、他の街でも有効なのかどうか、冒険者は主に何をやって生計を立てているのか。
それ以前に、この街の名前や国の名前、お金の種類や貨幣価値、物価もわかりません。
名前はコジローで間違いないですが、年齢16歳でこちらはステータスに16歳とあるので分かりました。
レベルが高い件については話せないことがあり、ある程度理解していますが答えることはできません。
もちろん過去の歴史も一切知らず、以前の勇者が何者で何をやりとげたのかも知りません」
三人とも不思議なものを見るような顔で俺を見ている。
フィンが最初に声を上げる。
「その落ち着きぶりや、観察力、思考力、知識、注意深さ、慎重さを持ちながらも、正義感が強く、悪に対しては大胆に行動できる行動力、そして突然現れてこの土地の知識はないが言葉が理解でき話すことができるということを考えると、どうしても神がつかわされた者のように感じてしまいます。
年齢は16歳で間違いないと思いますが、精神に関しては十分成熟しているように感じます」
フィンのべた褒めに、確かに16ならそのべた褒めが的を射ていると思うけど、中身42のおっさんなんだから当たり前だよね。
俺が16のときなんて、実際に黒い眼帯を自作するくらいの痛い奴だったんだから。
神様がたまたま俺を見つけて、もう一度人生をやり直すチャンスをくれただけなんて言えないよな。
その後、三人は相談し、そしてフィンが今後どうするかを話してくれた。
「まずはケネスにコジローさんが知りたがっている事をお話させていただきます。話の途中でも話が終わった後でも、質問があれば好きなところでしていただいて構いません。
それから、しばらくは我が家にご滞在ください。いろいろ不憫なこともあるでしょうし、娘を助けていただいた御恩をお返しする絶好の機会でもありますので。
滞在いただいている間に、コジローさんの知り合いがいないかも、私達の方で調べさせていただきます。
冒険者ギルドへの登録ですが、エドワードに任せるので、必要であれば後で手続きをお手伝いさせます」
ケネスとエドワードが首肯する。
「いろいろ良くしていただき、ありがとうございます。助けてもらうにしても、別の伝手あるわけではないので、素直にご厚意に甘えさせていただきます」
俺の方からは彼らの厚意を受け入れることと、感謝を伝えた。
「それでは大陸にある国の成り立ち、この街のことなどについては私の方から説明させていただきます。
何か足りないところがあれば、お二人に補っていただきます。」
そうケネスが言うと、俺は否定したのに、まるで勇者に対して尽くすことができる喜びをかみしめるかのように語りだした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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