4話 執事と言えばセバスチャン
テレポートで悪党のアジトへやってきた。索敵でわかっていたがスティーブとリッツを合わせた六人が、この屋敷の中で一番広い部屋に集まっていた。少なくともスティーブとリッツは殺るつもりだが、抵抗されるか顔を見られれば他の奴らも問答無用で殺るのみだ。
今度はテレポートで逃げられる訳にはいかないし逃がすつもりもないので、テレポートで移動した直後からリッツを探す。
この部屋はこの建物の中の一階にあり、一番広い部屋である。5m×6mくらいある。中央の上部に明かりがあり、先ほどの貴族の地下室よりランクが下がる電灯がぶら下がっている。正確には電気でないもので動いていそうなので電灯ではないが、電球が立体的な菱形のガラスのような形で光っている。この光っているガラスのようなものが濁っているので、なんとなく貴族の家のやつと比べるとランクが低い物のように感じてしまう。
部屋の真ん中には大きなテーブルと8脚の木製の椅子があったが座っている者は居ない。すぐに剣を抜き正眼の構えをとりながら、戦闘に必要なスキルを発動する。
狙い通りリッツのそばにテレポートしたので、こっちに気付き吃驚しているリッツに襲い掛かる。後ずさりするリッツに、縮地を発動して踏み込み一太刀浴びせる。リッツは後ずさった勢いのまま壁際にぶつかった後、壁を背ですべるように地面に崩れ落ちる。
「マーク、こいつは化け物だ鑑定しろ。おい、おまえら! 束になってかかれ」
スティーブが大声で叫び、マークや他の手下に指示を出す。
マークと呼ばれた小男が俺を凝視したかと思うと驚きの表情を見せる。ステータスのログから鑑定スキルを習得したことを確認し、スキルポイントが9あったので鑑定スキルを10まであげた。鑑定を使いマークを見ると、マークが常時発動していたステータス偽装を習得する。
さらにマークがレベル1魔法耐性を持っていることに気付き、レベル1ファイヤーを打つ。マークに当たるがマークが怪我をしている様子はないところを見ると、マークは魔法耐性を発動しているのだろう。すかさず魔法耐性を習得したことを確認し、マークが魔法耐性を常時発動していたことに内心感謝し、俺自身もレベル1魔法耐性を常時発動にする。
ラーニングによるスキルの習得条件ははっきりわかってないが、魔法耐性のようなスキルは魔法を発動し耐性の効果が発揮されないとスキルの習得ができない可能性があると俺は考える。俺のスキル取得方法やレベルの上がり方を考えると、鑑定を持っているやつを残しておくと戦闘が長引けば厄介な事になるかもしれないと判断し、マークも早々に始末する必要がある。
その当のマーク本人は恐怖で顔を歪めて、スティーブに鑑定結果を報告できずにいる。縮地を発動しスティーブのそばに居たマークの目の前まで踏み込む。マークは腰が引けつつもナイフを振るうが、そのナイフ捌きは拙い。マークのナイフの軌跡をかいくぐり、心臓を一突きにするとマークは驚いた表情を見せる。刺さった剣を抜くためマークを蹴ると、俺に蹴られた小柄な死体は勢いよく木製の椅子を倒し、倒れた椅子とともに激しく壁にぶつかる。
周りがざわつく感じがしたので注意を向けると、声を出さずにアイコンタクトか何かで連携を取ろうとしていた三人が俺を取り囲む動きをしたので、後ろに振り向きざま後ろに回った一人を、左肩から右わき腹あたりへ力任せに袈裟斬りにする。相手の体は袈裟斬りに斬ったところから大量の血が溢れ、死体は床に転がる。
スキルの力がなければ、こんなに軽々と剣を振るうことは難しいだろう。
残りの二人の方へ向き直る。
スティーブがこっそり逃げようと扉の方にそろりと歩くのが見えたので、スティーブが進もうとした方向に椅子を蹴り飛ばした。目の前を横切った椅子にビクッとしたスティーブは、驚き冷や汗を垂らしながらその場で固まる。椅子はそのまま扉の横の壁に大きな音を立てて激突する。
改めて残りの二人を見ると、二人とも緊張した面持ちで片手剣を構えているが、どちらも緊張のためか剣先が大きく揺れている。
右の男が暗闇の魔法を左の男が重力の魔法を唱え、二人同時に正眼に構え俺の方へ向かってくる。二人の魔法はレベル1だったようで俺の魔法耐性で、どちらの魔法も無効化できた。二人の踏み込みに対抗するため縮地で右の男のさらに右側に回り込み、男の首を左一文字斬り……左から右へ剣で斬りつける。
斬った右の男を左の男目掛け蹴り飛ばすと見事命中し、左の男は飛んできた死体の勢いを止めることができず、死体を抱えたまま後ろに倒れる。倒れた勢いで死体が吹っ飛び、無防備になった左の男の心臓に剣を突き刺す。左の男を足で踏みつけて押さえ、剣を抜く。
「殺さないでくれ、頼む。こいつらはならず者のお尋ね者だが俺はただの商人だ。俺を殺せばお前は罰せられる」
「人を攫っておいて善人面か? それにその言い方じゃ、お仲間さんが可哀そうだぜ」
「本当だ、信じてくれ。俺はフレッシュ青果店を経営している商人なんだ。元々実家が林檎農家で俺が青果店を始め、今じゃ食料に限らず生活必需品の卸しや、小売りをやってるんだ。貴族へいろいろな商品を卸したりもしている。
それで今日のような事をたまたま頼まれちまったのさ。話を聞いた後じゃ、断ろうと思っても断れないんだよ。頼む助けてくれ、俺には小さな子供がいるんだよ」
スティーブが今度は被害者面しやがった。
そういや、あの屋敷の持ち主のことも聞いておかなけれならないと思い、質問する。
「たしかパウエル卿とかって言ってたな、誰なんだそいつは」
「男爵のパウエル様だ、俺のお得意様なんだよ。その方から頼まれたら、平民なんて断ることができないんだよ。王都でごろつきになっている、叙爵されない貴族の次男坊三男坊とは違うのさ、本物の爵位を持った貴族様なんだよ」
「叙爵されない貴族ってのは何だ?」
「普通、貴族って言うのは地方に領地を持つ領主なんだが、相続権はだいたい長男一人だ。女は嫁にやれるが男は役に立たない。ときどき長男に子供ができる前に早世してしまったり、長男に子供ができなかったりした場合に次男三男が呼び戻されるってこともあるが、そうじゃない多くの子弟は王都に出てごろつきになってるのさ。
領主から金を貰えるのはまだマシなほうだ。金持ちにたかったり悪党に身をやつしたりだの実家の家名を貶める最低なやつらさ」
なるほど、確かに八男なんかに生まれたら大変だよな。
「貴族からは無理な要求をされ、ごろつき貴族からは金をせびられてんだ。なっ、俺も苦労してるんだよ、金ならやるから見逃してくれよ」
スティーブはそう言った後、金の入った巾着袋を投げて寄越した。
俺が袋を受け取り服の内側にある隠しにしまったところを見たスティーブは少し安心したような顔をした。
「だが、お前が子供を誘拐したことに変わりはない。そんなお前に生きてる価値なんてないよ。死んでもらう」
安心した表情になりかけていたスティーブが不満を口にする。
「金を受け取っておいて、それはないだろ」
話しが終わったところで縮地を使って鋭く踏み込み、スティーブがさらに口を開く暇を与えず強烈な一撃を食らわせる。
スティーブはバタンと倒れ、切り口だけでなく口からも鮮血を垂らしている。このアジトに今いる奴は全て殺したし、スティーブの店の者はここにはいなかった。この件で俺が敵討ちの対象になることはないだろう。
レベルが95まで上がりスキルポイントが43あったので、有効そうなスキルにポイントを振ることにした。
素早さ強化を1から5に上げ、力強さ強化を1から5に上げ、テレポートを9から10に上げ、縮地を8から10に上げ、ステータス偽装を1から10に上げ、魔法耐性を1から10に上げた。
残りのスキルポイントは14となった。
パウエル卿の顔くらい拝めないかとパウエル邸の門が見えるところへテレポートする。パウエル卿の邸宅は貴族の屋敷に相応しい豪華な造りで、門から入ったところから円形の馬車回しがあり、建物の入り口には屋根付きの車寄せがある。雨の日でも濡れずに建物に入れる構造だ。建物は石で作られ外側には沢山の豪華絢爛な装飾がなされており、パウエル卿の懐具合がうかがい知れる。いや、逆に貴族としてのメンツのために散財していると言えるのかもしれない。
すると一台の馬車がやってきてパウエル卿の屋敷の前で止まる。門番が門を開けると馬車がそのなかへ吸い込まれていく。
テレポートで車寄せを監視できる位置にテレポートする。馬車は馬車回しを回り車寄せ止まる。そこから降りてきたのは恰幅のいい男性でパウエル卿だろうか? そこまではわからない。その後に続いて出てきたのは貴族っぽい服装をした若い男性だ。小柄で細身だが、それより特徴的なのは左目につけられた傷だ。縦に10cmくらいはあろうかという傷が残っている。二人は建物に入り扉が閉まった。念のため二人にはマーカーを付けておく。
馬車の方は馬車回しを回り建物の裏手の方に向かっていった。おそらく馬車庫か馬屋があるのだろう。これ以上ここにいても新しい手掛かりは手に入りそうもないので、パウエル卿の調査はここまでにしておく。
これからフィンの屋敷に戻るが商人なら鑑定スキルを持っているやつを雇っている可能性があるので、どう偽装するのが説得力を持たせられるか。マークはレベル13だったが、一番強かったトニーはずっとレベルも高く、そしてエドワードはどれくらいのレベルなのか。
ステータス偽装を身につけたら最初の画面にステータス偽装のボタンが増えていた。
そのボタンを選ぶと、ステータス画面のコピーのような画面が表示され、ステータスをいじったりスキルや魔法を追加したり削除したりできた。
あまりおかしくないレベルということで22にしておこう。索敵を8、剣術を5、縮地を3、テレポートを9にしておいた。ステータス値はAやBを混在させておいた。まあ、こんなもんだろう。鑑定スキル持ちを連れてくるとは限らないし、あまり考え込んでもしょうがない。
今まではラーニングだけを常時発動にしていたが、これからはラーニングに加え、ステータス偽装や魔法耐性も常時発動にしておく。素早さ強化なども常時発動しておいた方が心強いが、なんとなく疲れがたまりそうな気がするのでやめておく。
そして約束通り、フィンの屋敷の庭にテレポートした。ステータスを見るとMPは13%ほど減っているが、本来なら15%ほど減っていないと計算が合わない。起きていてもMPはこれくらいのペースで自然回復するのだろう。
先ほどのパウエル卿の屋敷は広々とした庭と建物に豪華な装飾をあしらった、いかにも貴族らしい仰々しいつくりだった。こちらは商家だけあって質実剛健な造りで余計な装飾は無いが清潔感にあふれ好感の持てる建物になっている。大店なのか、この屋敷は非常に大きな建物で広さに関しては先ほどのパウエル邸と遜色ないほどだ。
玄関に向かうと玄関の前に人が待ち構えていた。
他の人が中世ヨーロッパ調なのに、このロマンスグレーの紳士は現代風の黒いタキシードを着用している。中のシャツはワイシャツで、黒い蝶ネクタイを合わせている。
「コジロー様、お待ちしておりました。私はこの屋敷で執事を務めさせていただいておりますセバスチャンと申します。本日はコジロー様のお世話をさせていただきますので、何かございましたらお申し付けください。
それではどうぞ中へお入りください」
玄関前で待っていたのは執事のセバスチャンだった。異世界でも執事と言えばセバスチャンだよな。
パウエル卿の屋敷もそうだったが、こちらも外観は石を組んで積み上げている感じなのに対し、内部の主要な構造物は木材で作られていた。全部石でできているのかと思っていたので、ちょっと自分のあやふやなイメージと違い感じがした。城や教会の外観を写真で見たことはあったけれど、一般の建物がどうなっているかなんて見たことなかったもんな。
「ありがとうセバスチャンさん」
「私の事は呼び捨てにしてください」
セバスチャンが誘導するように俺の少し前歩き、ある部屋の前までくるとセバスチャンが止まり扉を開けた。
「こちらでご入浴ください。お召しになられているお洋服はこちらで洗濯させていただきますし、お着替えもご用意させていただきます。剣もこちらでお手入れできますがいかがいたしましょうか?」
「ご迷惑でなければお願いします」
「わかりました、剣もこちらで大事にお手入れさせていただきます」
剣をセバスチャンに預け、部屋の中へ入ると当然のようにセバスチャンも部屋に入ってきて内側から扉を閉じた。この部屋は脱衣場で、部屋には脱いだ服を入れる籠、籠を置く棚、全身が見れる鏡、鏡などがついている洗面台と至れり尽くせりの銭湯仕様になっている。男同士なんで気にせず服を脱いで籠に入れていく。部屋の中にもう一つ扉があり、その扉を開けると浴室である。
そのまま入ろうとするとセバスチャンから説明を受けた。
「バスルーム内の設備のご利用方法を説明させていただきます。シャワーからは温かいお湯がでますので、シャワーの根元近くの蛇口をおひねりください。下の吐水口は青い蛇口の方が水で、赤い蛇口の方がお湯となっております。お湯の温度がお気に召さない場合は私にお申し付けください。
入浴が終わるまでこちらでお待ちしております」
言い終わると、セバスチャンは浴室へ通じる扉の横に立った。気になったのでセバスチャンに質問してみる。
「お風呂のお湯はどうやって作ってるんですか?」
「魔導石を使った魔導具で、お湯を作り出しています。うちの主人が経営している商会でも取り扱っておりますし、王都に展開しているコンパス商店で小売りもしております」
「ありがとう。それじゃ、ひとっ風呂浴びてくるよ」
「ごゆっくり、おくつろぎください」
浴室に入るとシャンプーは無いようで石鹸だけがあった。シャワーを浴びて固形石鹸を泡立て髪を洗う。なんとなく滑りが悪くなるが他に方法もないのでしかたなくシャワーでシャボンを流す。もう一度石鹸を泡立て髪を洗い、シャワーで洗いなおした。結構派手に立ち回ったので、返り血で真っ赤になっていた。服から出ていた部分、特に顔と手が血糊でベトベトだった。
なんて考えながら鏡を見て驚いた。俺の顔が高校生くらいの時に戻ってるのだ。はっきりした理由は思いつかないがきっと転生時に15歳くらいにされたのだろう。
ステータスを開いて確認してみると16歳となっている……今までステータス画面を何度も表示していたのに気づかなかった。
身長は165cmくらいに見えた。確か16、7歳のころまで170cmを切っていたが、18歳になってから170cmを越えたので、身長も16歳当時にもどされたのかもしれない。この頃は少しずつ腹も少し出始めていたのに比べると、今はまるで高校生当時のようなスッキリした体形に戻っている。
よく考えたら肌もピッチピチだ。今更自分の肌を形容するのにピッチピチを使うとは思わなかった。
風呂場の桶は黄色で……ということはなく木製だった。石鹸と水を使いタオルで泡立てる。いつも通り体を洗っていくが、顔や手以外はそれほど汚れていない。何しろ初日だしな。シャボンをシャワーで流しバスタブに浸かった。こういうときは日本人に生まれて良かったと思う。バスタブから出てシャワーで軽く流した後、タオルで体をふく。
気持ちよくなったとこでバスルームから外に出る。ここでステータスを確認するとMPは完全に回復した。時間以外だとどういった条件でHPやMPがかいふくするのか、おいおい調べておいた方がよさそうだ。
「コジロー様、どうぞ」
セバスチャンがバスタオルを渡してくれる。このバスタオルは肌ざわりがなめらかで吸水性も高く恐らく高級品に違いない。
髪がしっかり乾くようよく拭き体からでた汗を拭いバスタオルを腰にまいた。日本人ならここで腰に手を当てて牛乳一気飲みだよな、なんて訳の分からないことを考える。
「こちらにお着換えがございます」
セバスチャンがタイミングよく俺の次の行動を先読みし、今度は着替えが置いてある場所を教えてくれる。ガウンもあったが身に着ける習慣がないので遠慮した。用意してもらった服に着替え終えたところでセバスチャンが今後のスケジュールを教えてくれた。
「昼食をご用意させていただきましたので、お腹が空いているようでしたら、うちの主人と一緒に食事はいかがでしょうか?」
「食事を出してもらえるのはありがたいけど、せっかく子供が帰ってきたのに俺なんかと食事していいのか? いただけるなら俺は一人でもかまわないよ」
「ご一緒にお食事をお取りいただくのは主人の希望ですので、コジロー様がよろしければ是非ご一緒にと言っておりました。その際先ほど会われたエドワード様と、うちの番頭をご一緒させたいのですが、それでもよろしいでしょうか?」
「構わないよ」
「ありがとうございます。それでは、そのように手筈を整えさせていただきます」
そう言うと、風呂の入り口の扉の外で待っていた使用人に何か指示を出した。そしてスティーブからもらったお金が入った巾着袋を大事そうに持ち、それを見せながら質問してきた。
「さきほどお洋服をお預かりしたときに、隠しにあったお財布を私の方でお預かりしておきました。コジロー様がこの屋敷でお金が必要となる機会はございませんが、このお財布は今お渡しした方がよろしいでしょうか? それともお出かけかお帰りのときにお渡しすればよろしいでしょうか?」
「必要な時まで預かっておいてくれ」
「畏まりました。大事にお預かりしておきます。それではお食事をおとりいただく部屋へご案内させていただきます」
セバスチャンは俺を先導するような絶妙のタイミングで歩いた。セバスチャンの後ろをついていくとある部屋の扉の横で止まった。
「ご用意はよろしいですか?」
「ああ、いいよ」
そう答えると、セバスチャンが扉を開き俺に入室するよう手で促してくれた。
「コジローさん、どうぞこちらへいらしてください」
俺を部屋の中へ招き入れると、この屋敷の主人自らホストを務めてくれた。初めての人がいるので自己紹介から始まった。
「コジロー様、お初にお目にかかります、コンパス商会の番頭をしております、ケネスと申します。主人の家族が大変お世話になったとお聞きしております、以後お見知りおきください」
「俺はコジローです。縁あってこの場にいます。俺を呼ぶときは敬称は不要なので、そのまま呼び捨てしてもいいし、せめてさんか君くらいでお願いします」
「そうは参りません、主人の大恩あるお方ですから、コジロー様とお呼びさせていただきます」
これ以上遠慮してもしょうがないので、うなずいて肯定してみせた。
ケネスは身長190cmくらいある大柄な男で、男性としてはずいぶんと痩せた体形をしている。女性のような体重ではないにしても、かなり軽いように見える。白い清潔感のあるシャツにえんじ色のクラヴァットしめ、薄い茶色のジャケットを羽織っていた。
「それでは、うちのものに腕を振るわせましたので、冷めないうちにご一緒にお食事をいただきましょう」
フィンがそう言うと、給仕してくれるメイドが席を用意してくれた。この部屋には食事をする、フィン、エドワード、ケネスと俺に、それ以外に給仕をするメイドが何人かいた。
料理自体はフランス料理のコースのような感じがしたが、人生で片手で余るくらいしか行ったことが無いので、フランス料理っぽい程度しか分からなかった。
異世界転生テンプレ的には、俺も料理します宣言をするところだが、ラーメンはインスタントで、チャーハンは冷凍で、カレーはルーがないと作れないという俺には、この場で俺も料理します宣言をするのはハードルが高すぎる。
食事が一段落し、食後のコーヒーをいただいた。俺はコーヒーは砂糖とミルクをたっぷり入れないと飲めないのだが、ミルクは出てこなかったので砂糖はたっぷり入れさせてもらった。
そろそろフィンが事の顛末が聞きたいということなので、俺から見た今回の事件を説明した。
「南西の環状交差点の近くでエレノアさんの叫び声を聞きました。するとクリスティンを脇に抱えたディクスンがこっち向かって走ってきた。俺の横にトニーとリッツがたまたまいて、危ないからどくように言って、クリスティンを奪い返すつもりでディクスンにタックルした。するとリッツが唱えたテレポートに巻き込まれて、パウエル卿の屋敷の地下に空間移動したんだ。確か、奴らはエドがそばにいないのを確認して誘拐を実行したと言っていました」
「ちくしょう、あんな奴らに出し抜かれるとは」
エドワードが悔しそうに唇をかみしめた。
「転送先でも転送前と同じ体勢と勢いだったため、ディクスンにタックルしながらクリスティンを取り戻し、ここから修羅場になると思ってクリスティンを後ろへ向かせました。
その場にスティーブが居て、スティーブの指令で俺を殺すことが決められた。その場には、スティーブ、トニー、ディクスン、リッツの四人が居て、トニーがディクスンに剣を貸し俺を殺せと命じ、ディクスンは俺に襲い掛かってきた。数合打ち合ってディクスンを切り倒し、次にトニーがスティーブの剣でかかってきたが、これも切り捨てた。そこでリッツがMP回復薬を2本飲み干し、スティーブと共にやつらのアジトにテレポートした。
そこで俺はクリスティンと一緒にフィンの屋敷にテレポートして、皆さんと対面したというわけです」
「クリスティンを取り戻してくれてありがとう。だが、どうやってここの場所を突き止めたのですか?」
フィンはお礼を述べた後、疑問を投げかけてきた。
「俺の索敵スキルで、エレノアさんをマーキングしていて、パウエル卿の屋敷を脱出するときにエレノアさんがここにいることが分かったんだ」
「なるほどわかりました。それでは、パウエル卿についてはその後なにかご存じですか?」
「パウエル卿の屋敷の地下室にテレポートされたが、パウエル卿には会わなかったので何もしていない。パウエル卿がどう関わったか聞きださなかったのは失敗だったな」
フィンの質問が続いたが、パウエル邸でのことは不確かな事もあるので何も話さないでおいた。
「パウエル卿のことはこちらで調べますし、おおよそのことは検討がつくので、お気になさらずに。それでは、その先をお話しください」
「その後、俺のテレポートでここまで移動し、ここでの出来事は皆さんご存じのとおりだと思う。
そこで俺はスティーブやリッツにもマーキングを施していたので、そのまま奴らのアジトに乗り込んだんだ。そこには、スティーブ、リッツを含めて6人の男がいた。またテレポートで逃げられるわけにはいかないので、リッツから倒し、マークを倒した。その後の三人は名前も名乗らないうちに倒した。
最後にスティーブと話し命乞いされて巾着袋に入ったお金をもらったが、主犯とも言える男を生かしておくほど俺はお人よしじゃない。以上が俺が知っている全部だ」
「コジローさん、私の家族を救ってくれて本当にありがとう、感謝します」
フィンは納得がいったのか頷きながらお礼を述べる。
「いえ、当然のことをしたまでです」
「ちょっと、いいですかい?」
厳しい表情に変わっていたエドワードが発言を求めると、場の空気に緊張が走った。
「お屋形様と俺は、お前を高く買っているし信用できる男と見込んでいる。だが、それ以上にケネスの情報は確実だ。コジロー、お前何か隠しているだろう」
エドワードは俺に鋭い眼光を向け怒声を浴びせた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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