30話 Sランク冒険者
ハツメ、ヨシノ、イナリを冒険者ギルドに登録するために冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドに入り受付にステラが居たので声をかける。
「この三人、ハツメとヨシノとイナリをFランクの冒険者として登録したいのだけど、お願いできますか」
「コジローさんとローラさん、いらっしゃいませ。三人のことはコニーに任せるので、お二人はこちらでお待ちください。コニ―、こちらの三人が今日から冒険者に登録するから、よろしくね。コジローさん、お金の方は大丈夫ですか?」
俺は財布から三千クローネを取り出しステラに渡す。
「お金はいただいたので、コニ―、こちらの三人の登録をお願いね」
「わかりました」
「本日登録される三人の方、こちらを来てください」
コニ―に連れられ、ハツメたち三人はギルドの個室の方へ向かう。
「コジローさんとローラさんに、うちのギルド長がお会いしたいと申しておりましたので、ギルド長に会っていただけませんか?」
「ローラ、今から大丈夫だよね?」
「はい、大丈夫です」
「俺もローラも大丈夫だよ」
「それではギルド長を呼んでまいりますので、少々お待ちください」
「ステラ、呼んでこなくても俺たちの方から行こうか?」
「いえ、ギルド長の方から折り入ってお話があると聞いておりますので、ギルド長を呼んでまいります。お心遣いありがとうございます」
そう言うとステラは階段を昇って行った。
「何か頼み事でもあるのかな?」
「二人だけでアレを倒しましたからね、何か特別な依頼とかがあるのかもしれませんね」
ローラと無駄話をしていると、階段からステラともう一人の男性が下りてきた。
ステラと一緒に降りてきた男性はステラとは正反対の見た目だった。ステラが事務の仕事をするために冒険者ギルドで働いている感じなのに対し、ギルド長は冒険者出身にしか見えなかった。今でも何かやっているのか浅黒い肌で、肩幅が広くガタイも良い。身長は160cm程度で決して高くはないが、上下動きやすいラフな服装で決してギルド長の椅子に座りっぱなしのタイプには見えなかった。
「初めまして、ギルド長のカイです」
ギルド長は自然と右手を出してきたので、俺も右手をだす。
「冒険者をやらせてもらっているコジローです」
俺に続いてローラも右手を出し、ギルド長の右手を握る。
「冒険者のローラです」
「コジローさんとローラさんに、折り入ってお願いがございます。お二人とも、お時間があれば少しお話をさせていただけないでしょうか」
「ええ、俺もローラも今なら大丈夫です」
「それでは、個室の方で少しお話させていただきますので、ついてきてください」
カイはそう言うと個室の鍵を持って個室の方へ向かった。
カイが個室のドアを開け、そのドアのところで俺とローラが入るのを待っているようだった。俺は軽く会釈してカイの前を通り席に着く。
ローラは自然な感じで俺の隣に座る。
ローラが入った後カイがドアを閉め、俺たちの向かいの席についた。
「早速ですが、ギルドの職員がコンパス商会の方に確認に行きまして、お二人がファフニールを倒したことを確認しました。見事な倒し方でSランク冒険者の実力に相当すると判定しました。そこでお二人をSランク冒険者に認定することになりました」
「分かりました。僕らがそれを拒否したりすることはできるんですか?」
「拒否と言いますか、話し合いをさせていただいて今回はSランクではなくAランクへの昇格に切り替えるとか、そういう考え方はあります。ただ、お二人がSランク冒険者になることのデメリットはほぼ無いと言っていいものなので、特に拒否するほど心配される必要はありません。メリットは人数が必要な依頼を受けるときに人を集めやすいとか、指名依頼が指名されやすくなるとか、大きな買い物……例えば、家を買ったり借りるときに信用してもらいやすいなどですね。さすがに王城の北にある貴族街などで家を買ったり借りたりは無理ですが、それ以外でしたらほとんどの場所の物件について、簡単に審査が通ると思います。つまり、社会的な信用が上がることで得られるメリットを享受できると考えてもらえれば良いと思います」
「元々Sランク冒険者を目指して冒険者登録していたので、俺の方はSランク冒険者に昇格できるのなら是非お願いしたいくらいです。ローラはどうする?」
「コジローさんと同じが良いです」
「という訳ですので、二人ともSランク冒険者に昇格させてください」
「ありがとうございます。それではお二人とも、ギルド証をお出しください」
俺とローラはそれぞれギルド証をアイテムボックスから取り出し、カイに渡す。
ギルド証を受け取ったカイは、それが本人のものかその場で確認した。
「それではこれからギルド証をアップデートしてきますので、この場で少しお待ちください」
そう言うとカイはギルド証を持って部屋を出て行った。
「ローラはこんなに早くSランク冒険者になって問題無かったのか?」
「コジローさんと一緒なら問題ありません」
「アルフヘイムに行くのに何か特権的な事があるといいんだけどな。これは正式な国交がないから期待薄だけど、それでも有利にはなると思う」
しばらくしてカイが戻ってくると、手に持っていたギルド証を俺とローラに手渡してくれた。
「事務的な疑問があればステラに聞いてもらうとして、何か問題がおきたら遠慮なく相談してください。Sランク冒険者は少ないですから、場合によって冒険者ギルドもお二人に期待しております。それでは今後とも冒険者ギルドをよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
個室を出てカイとはここで別れる。
三人を探したがギルド内にその姿を発見できなかったので、まだ三人は個室で話しているのだろう。
「ハツメたちは、まだ説明を聞いてるところみたいだね」
「もう少し時間がかかるのかもしれませんね」
「みんな戻ってくるまで依頼の一覧を覗きに行こうか」
「はい」
掲示板の方へ行き依頼書を見る。
「Sランクの依頼って、どんなのがあるんだろう」
「きっと、コジローさんにとっては簡単なやつしかないですよ」
「ははは、いくら何でもそこまで自惚れてはないよ」
「Sランクの依頼が2つしかありませんね。Sランクの依頼って少ないんですね」
どんな依頼があるんだろうか、確認してみる。
一つは伯爵の鷹狩り時の護衛とある。ギルドの出資者とか、影響力がある貴族なんだろうか。
もう一つは、違法な獣人狩りをしている五人組の捕縛。ただし、生死は問わないとなっている。しかもSランク冒険者限定となっている、こいつらが狐耳族の里を襲ったやつらだろうか。いずれにしても、相当な手練れなのだろう。
「Sランクの依頼って結構少ないね」
「そうですね。どうしてでしょうか。Aランクなら、結構ありますけど。ステラに聞いてきますね」
「じゃ、お願いね」
聞きたいってほどじゃなかったけど、何か役に立つような話が聞けるかもしれないから、ローラにまかせる。
ギルドを見回すと、10人のギルド会員が居た。
Bランク依頼書の前に3mくらいの槍を手に持った男が立っている。この男は、銀色に磨かれたプレートアーマーを着ていて、タンク役又はアタッカー役なんだろう。仕事になっているせいか、多くの冒険者は防具の整備を毎日とはやらない、もしくは見た目までは気にしないようだが、この槍を持った男は機能的にはもちろんだろうが見た目にも清潔感を保つようにしており、そこには大変好感が持てる。その隣には長身の法衣を着た男が槍の男の相談役になっている。普段はパーティのヒーラー役を務めているにちがいない。綺麗に輝く宝珠を埋め込んだ杖を持っているところを見ると、ベテラン冒険者のように見える。その後ろには、やや小柄な細身でナイフを装備している、斥候や罠探知、罠解除などを行うサポート系の役割を担っているのだろう。戦闘ではバッファー役やデバッファー役がなども考えられるが、それは持っているスキルによるだろう。さらにその後ろに二人、右側の男はブラックに近いダークグレーの鍔の広いとんがり帽子を被っているので、魔法系のアタッカー役ではないかと思う。左側の男はこのパーティの中で一番背が高く体格も良い。スキンヘッドで軽めの服を着ていて、おそらくモンク……物理アタッカーと思われる。すると、プレートアーマーの男は必然的にタンク役が確定する。自分たちの実力や装備、スキル、依頼の難易度、アクセスなどを考慮して、どの依頼を受けるか話し合っている所と思われる。
掲示板で一人で依頼書を眺めている女は、そのままソロなのか、それとも一人早く来ていたのでパーティ用の依頼を探しているってところだろうか。テーブルのところで、男女が話しているが、とても親しそうな雰囲気で話しているので恋人同士なのかもしれない。男の方は大きな斧を背負い髭も濃いマッチョマンで、鎧もプレートアーマーではないが、頭のフードまでついている鎖帷子を着ている所から、アタッカー寄りの一時的なタンクもこなす感じなのだろうか。女の方は洒落た意匠の動きやすそうな皮鎧を着こんでおり、細剣であるカットラス……海賊が持っているイメージがある、少し短めで湾曲した片手剣を腰に帯びていて、そのスタイルの良さと相まって格好よく見える。
残りの二人は若い女の子で、俺らともそれほど変わらない年齢だ。Fランク冒険者だろうか。二人で会話しているところを見ると同じパーティなのではないかと思う。一人はラージシールドを背負い片手剣を帯剣している。もう一人は巨大な両手剣を背負っている。それぞれタンク役とアタッカー役なのだろうと思われる。服装は二人ともお揃いの鎖帷子に、皮のパンツとブーツで、鎖帷子の上に布を羽織っている。
するとローラが戻ってきて話を始める。
「この辺にはSランクの依頼は少なくて、西にあるウォーターフォールの街にはSランクの依頼が多いそうです」
「なんで西のウォーターフォールにはSランクの依頼が多いんだ?」
「それはこの大陸の中央に世界樹ユグドラシルがあり、その周りがミズガルズって呼ばれている土地だということは知っていますか?」
「なんとなく聞いたことがある。確かカルデラだったよな?」
「そのミズガルズというのがS級以上の魔獣が多く生息している地域なのです。ミズガルズはだいたい半径50Kmくらいの範囲なのですが、その外側半径100KmくらいまでがS級魔獣が多くいる地域になります」
「なるほどね、それでウォーターフォールってのは、ユグドラシルから何Kmくらい離れているんだい?」
「世界樹ユグドラシルから120Kmくらい離れているところのようです」
「まずはみんなで冒険ができるようになってからだな」
「そうですね」
イナリだけが少しレベルが低い。低いとはいえAランクからSランク冒険者クラスのレベルはあるし天狐の強力なスキルが使えるって話だから戦闘に不向きということでもないだろう。恐らくハツメも天狐も魔獣と戦ったことがあるだろうけど、ヨシノとイナリはそれほど強い魔獣との戦闘は無いだろうから、あまり高くないレベルの魔獣から慣らした方が良いかもしれない。
個室のドアが開きコニ―の顔が見える。ハツメ、ヨシノ、イナリが出てきて受付の方へ向かう。コニーがステラに何か言うと、俺の時と同じようにステラが魔導具っぽい物が置いてあるところに移動した。定期券サイズのカードを挿入し操作をすると、微かな光が漏れる。ステラはそれを三回繰り返すと受付のところに戻ってくる。
「ハツメさん、ヨシノさん、イナリさんは本日から正式に冒険者ギルドの会員となりました、おめでとうございます。ギルド証をお渡しします。無くされますと再発行に千クローネ必要となりますのでご注意ください。みなさんはコジローさんとパーティを組む予定ですか?」
「我……コジロー殿……一緒」
「コジローさんとローラさんは、冒険者として素晴らしい実績を作られました。これからも大変な功績を残されると思います。コジローさんとローラさんに教えてもらば、みなさんもきっと良い冒険者になれると思います。頑張ってください」
三人とも渡されたギルド証を嬉しそうに眺めている。
「ステラ殿……感謝」
「これでわちきも旦那様と一緒に冒険出来んす。ほんにありがとうござりんす」
「イナリもありがとうなのです」
それぞれがステラにお礼を言った後、俺たちの方に向かってくる。
俺の目の前まで来ると、ハツメがギルド証を水戸黄門の印籠のように見せた。
「我……今日から……冒険者」
「ハツメ、おめでとう」
俺はハツメの頭をなでてやった。
「ハツメちゃん、おめでとう」
ローラはハツメの手を取って、一緒になって喜んでいる。
ヨシノは両手を水をすくうような形で重ね、その上にギルド証を乗せている。
「ヨシノ、おめでとう」
ローラはヨシノの手にあるギルド証をのぞき込むように確認する。
「ヨシノさんもおめでとうございます」
「お二人とも、ありがとうござりんす。旦那様とずっと一緒に居られると思うととてもうれしうざんす」
イナリがとことこ近づいてきて、イナリもギルド証を自慢するかのようにこちらに見せる。
「イナリ、おめでとう」
「イナリちゃんもおめでとう」
「イナリも冒険者ギルドの会員になれたのです。お金まで出してもらって、ありがとうなのです」
イナリの頭を軽く撫でてあげたあと、俺は受付のステラの方へ歩いていく。
「ステラ、俺たち五人でパーティを組むとき、最高でどのランクの依頼を受けて良いの?」
「パーティの場合はパーティメンバー中の最高ランクの冒険者、つまりコジローさんとローラさんが受けれるSランクの依頼まで受けれます」
「なるほど。レベル差やランク差があっても、パーティ内のメンバーは同じ経験値が入るで間違いない?」
「はい、間違いございません」
「ありがとう。それじゃ、これから魔獣を狩りに行ってみるよ」
「お気をつけて、行ってらっしゃい」
ステラに軽く会釈をして受付から離れる。
俺はみんなのところに戻る。
「ローラもギルド証を出して、パーティを作ろう」
俺はみんなにギルド証を出してもらい、パーティを作成する。
「みんな、メニューが表示されたら参加を許可して」
「コジローさん、許可しました」
「我……参加……許可」
「わちきもパーティへの参加を許可したでありんす」
「イナリも許可したのであります」
「ありがとう、これでみんなで五人パーティが組めたよ。それじゃ、これから魔獣を狩りに行こう」
「ピューピュー」
モモフクが自分も一緒に狩りに行くとアピールするので仲間に入れてあげる。
「お前も一緒だな、五人と一匹のパーティで狩りに行こう」
俺は先ほど掲示板で適当な奴を見繕っておいたので、冒険者ギルドを出るとみんなと一緒に東の城門を目指した。
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