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20話 世界中の誰よりも

 昼食をとったお店から出る。


「コジローさん、なんでヨシノさんを身請けしようと思ったのですか? やっぱり綺麗だからですか?」


「違うよ。ヨシノはレベルが高くて、幻術や魅了が高かったんだ。恐らく、桔梗屋(ききょうや)の主人と一緒に特別な客のところに行って、情報を引き出すのに使われていたと思う。だから、今回の件について、詳しく知ってるんじゃないかと思うんだ」


親父様(おやじさま)、親父様って、大変な境遇なのに育ててくれた人をとても大切に思う良い子なんだなって、ちょっとウルっとしました」


「あれは違うと思うよ。桔梗屋の主人と一緒に裏の仕事をしていたので、その情報が洩れれば桔梗屋の主人同様始末されるかもしれないって考えてるんじゃないかな。何しろ、身請けされないと逃げたり隠れたりもできないからね」


「そういう風には見えませんでしたし、幻術や魅了も使いませんでしたよ」


「だろうね。中庭に入ったときにバニラっぽい匂いがしなかった?」


「なんか、甘い良い香りがしましたよね? その匂いには気が付きました」


「その後、刺激臭のあるお香が来たよね?」


「はい、お香の方はちょっと嫌な感じがしました。ああいう店では、刺激の強い匂いが好まれるのかなって思いました」


「違うよ、幻術や魅了がかかりやすいように補助用に麻薬を使ったんだと思う。たぶんバニラの方は弱めで効きが悪かったので、お香を使って刺激臭があるけど超即効性がある麻薬に切り替えるという二段構えだね。ただ、どっちも効かなかった……どうやってそれが分かったのかは知らないけど、それで幻術も魅了も使うのを中断したんだと思う。つまり、導入用の麻薬の利きが悪かったので、さっきは何もしなかったって事じゃないかな」


「本当ですか?」


「十中八九間違いない」


「それではヨシノさんは悪意を持って私達に接していたのでしょうか?」


「いや、そこは純粋に桔梗屋の主人の仇が誰か調べるためにやってたんじゃないのかな? 目ぼしはつけてるけど、殺害時に現場に居た人に話を聞いておきたいとか、実行犯とか黒幕を調べたいとか、そんな感じじゃないかと思う」


「ヨシノさんが悪い人ではなくて良かった。それで二十万クローネはどうやって作るつもりですか?」


「一応、考えてはいるよ。大金だからうまくいくかは分からないけど。花街(かがい)をうろついてから、冒険者ギルドへ向かおう」


「はい、わかりました」


 ローラは俺の肩からモモフクを奪うと、胸に抱きしめてモフモフしている。


「ピューピュー」


 モモフクに催促されて、ローラがポケットからバナナのドライフルーツを出してモモフクの口許まで近づけて、モモフクと一緒にキャッキャキャッキャと楽しそうに戯れている。俺も仲間に入れてくれ。


 俺とローラは西の門から花街に入る。


 今から帰るのか昼間から遊びに来たのか、それとも冷やかしでここを通ったのか分からないが、二人組の若い兄ちゃんたちの声が聞こえてきた。


「桔梗屋の親父は蔦屋(つたや)の裏で殺されたって話だぜ。しばらくあのあたりには近づかねえ方がいいよ」


「桔梗屋と蔦屋で何かもめごとがあったみたいだしな」


「蔦屋の方はときどき裏口に騎士様みたいなのが立ってたからな、あいつに斬られたんじゃねえのか?」


「あんな目立つ格好のやつがやるかね? あれは用心棒って感じじゃなく、どこかの貴族のボンボンのお守りって感じだったろ」


「そりゃそうだが、金を積まれりゃ何だってするにちげえねえ」


「どっちみち俺たちは別の店に行きゃあいいだけの話だ」


「それにちげえねえ」


 この辺を歩いている男の一番の興味は桔梗屋の主人殺害のようだ。


 なんとなくピンとくるものがあったので蔦屋の方に向かってみる。


「ローラ」


「はい?」


「索敵スキルで蔦屋に居る人を探りたいから、ちょっとの間俺の手を引っ張って誘導してくれないか」


「はい、いいですよ。それでどこまで誘導しますか?」


「いや、行きたいところがある訳じゃないけど、立ち止まると不自然に思われるから周りから自然に歩いているように見えるくらいで、適当に歩いて欲しいんだけど」


「わかりました」


 そういうと左腕でモモフクを抱えたローラが、右手を伸ばしてきた。左手でローラと手をつないだが、モモフクを片手で抱いているのは重そうなので、右手でモモフクを受け取り自分の左肩に乗せる。気持ち、透き通るようなローラの頬がピンク色になる。


「あそこにあるのが蔦屋だよ」


 100mくらい先にある店を顎で指して蔦屋の場所を教える。


「あとは適当にこの辺を歩いてね」


「はい」


 索敵スキルを発動し蔦屋のあたりを確認したがマーキングしている人物は見つからなかった。

 ただ、地下室になぜか人がいて、囚われている感じがした。ステータスから従属首輪をしていることが分かった上に、健康状態もすぐれないようだ。健康状態にはさらに見慣れない言葉が並んでいた。ヴォルフェンビュッテル侯への献上品などと考えているのだろうか、許せない。この子にもマーキングしておく。索敵スキルの発動を停止する。


 ローラと手をつないだままなので、つないでいる手に少し力を込めて索敵が終わった事をローラに伝え、花街の東の門の方に移動する。


「コジローさん、索敵は済みました?」


「うん、ありがとう。探してる人は見つからなかった。そんな偶然はそうそうないだろうし、マーキングはしてあるから向こうが動き出してからでも対応できるよ」


「この後はまだここで何かしますか?」


「いや、そろそろ冒険者ギルドに行ってみよう」


「はい」


 ローラは俺の左手と繋いでいた右手を離し、左手で俺の左手の甲を包み込むように握ってくる。俺はローラの指先だけを軽く握る感じになる。

 ローラの右手の方はというと俺の左手に巻き付けて、俺の左手にしがみついているような状態になる。

 俺の左腕の肘は、ローラの主張しすぎる柔らかい膨らみに密着し、ローラとの会話も上の空で世界最高峰の頂の柔らかさをたっぷり堪能する。

 誰も俺らのことなんて見てないけど、みんなが見ていそうで恥ずかしい。


 冒険者ギルドに入ると掲示板の方へ行ってみる。

 第一候補の依頼は見つけることができなかったが、第二候補の依頼はあった。

 それとは別に面白い依頼があったので指を指してローラに教えてあげる。


「あはははは」


 ローラは小さな声で笑い、モモフクの頭をなでてあげる。


 その依頼書には、王都南街道沿い2Km付近に出現した鵺の討伐をしてほしいと書いてある。

 今後見つかることもないし、依頼が果たされることもないだろう。


 第一候補の依頼は無かったが、目的は変わらないので王都の北門を目指す。


「そういえば、フィンの屋敷であらってもらった白い法衣は教会に返しに行かないといけないでしょ?」


「はい、あれは借り物ですし、もう教会とつながりもないので返さないといけません」


「それじゃ、乾いたら返しに行こう」


「はい」


「一応、俺の索敵で枢機卿がいないタイミングで行って、知り合いの関係者に渡せばいいでしょ?」


「はい、それで構いません」


「教会とつながりがないって、今までみたいに教会で病気や怪我を治したりするのはやめるの?」


「はい、孤児院にいるわけでもないですし、信徒でもないですから、やりたくてもやれる資格が無くなってしまったのです」


「そっか、教会に行って誰かにからまれるよりは、教会に行かない方が良いと思う」


「ファラからも、用事もないのに教会には近づくなって言われました」


「今日は俺のギルド証でパーティを組もう」


 握っていた手や絡めていた手を離し、アイテムボックスからギルド証を出す。

 お互いにパーティコマンドを操作しパーティを組む。それが終わるとローラはアイテムボックスにギルド証をしまった。


 このままだと俺の左手が寂しくて泣きそうなので、勇気をだして左手でローラの右手を握る。

 するとローラは嬉しそうに可愛い笑顔を見せ手を握り返してくる。


 北門まで来ると隊長のクリメントはいなかったが、以前会ったことがある若手のロベルトが居た。

 俺のギルド証を見せる。


「コジローさん、今日はエドワード様とご一緒ではないんですね?」


「エドは忙しいからね。今はこの子、ローラと一緒にパーティを組んでるんだ」


「うわっ、めちゃくちゃ綺麗な人ですね。衛兵のロベルトです、よろしくお願いします」


「ローラです、コジローさんとパーティを組ませてもらってます。これからもよろしくお願いします」


「いーなー、コジローさんはこんな綺麗な人とパーティが組めて。もしかして、彼女ですか?」


「……」


「……もう、通っていいですよ」


 ロベルトは微妙な笑顔で送り出してくれた。ロベルトに悪気はない。空気が読めないだけだ。


 門のところまでは手をつないでいたが、ロベルトと話してからは、ちょっと距離を取っている。

 心なしか、さっきまでニコニコしていたローラが怒っているように見えなくもない。


 十分くらい歩き街道から少し外れた木の陰に隠れた所で止まる。


「ローラ、ここからテレポートで移動するよ。どうしたの?」


「さっき、衛兵さんに言われた言葉」


「えっ!」


「返事しなかった」


「彼女ですか? って聞かれたこと?」


「他にありますか?」


「ありませんよね」


「何か私に言うことはありませんか?」


 バニーガールの恰好が見たい! じゃないよな。


「コジローはオーロラを愛してます」


 南ちゃん相手じゃあるまいし何言ってんだよ、俺。

 かぁー、恥ずかしい。悶え死ぬかも。


「私もコジローを愛してます」


 ローラが目を瞑っている。

 両手で抱きしめキスをする。

 ローラが両手を広げ抱きついてくる。

 ローラさん、ローラさんの主張しすぎてるところが当たってますよ。


 機嫌を直してくれたローラの手を握りテレポートをする。一度では移動しきれないので二度に分けてだ。


 第二候補の依頼のターゲットを探す。索敵スキルを発動するとすぐに見つかる。


「ローラ、ターゲットを見つけたからいどうするよ。オーガが五匹居るから気を付けてね」


「マミーのときみたいに、失敗しないでね」


 あいたたたたた。過去は振り返らず行くか。


「テレポート」


 オーガが居るところから50mくらい離れたところにワープする。五匹とも身長が5mくらいあり人間と比べるととても大きい。オーガには二本の角を生やしている者と、一本の角を生やしている者がいて、二本角の方が厳つい感じがする。オーガは鬱蒼と木々が茂った森の中で、獲物の動物を食っていた。

 隠密を発動し剣を抜いて近づいていく。ローラも俺の後ろからくっついてくる。少し離れたところに直径50mくらいの森が開けてるところがあり、今日の目的を考えるとそこに(おび)き出した方が良さそうなので、オーガたちが居る方ではなく森が開けてる方に向かう。


 ローラには木々が無くなっているところの手前で隠れて待っていてもらい、俺はオーガのそばに縮地で踏み込んでいく。背中を見せていた一匹の首を刎ね、残り四匹がしっかり俺を見たのを確認してから、走って森が開けている場所に向かう。開けた場所の中央で待ち構えていると、俺を追ってきた四匹に四方を固められるように包囲される。すると左の一匹が前のめりに倒れる。ローラがひのきのぼうで、頭を強打し倒したのだ。俺は正面のやつの目の前まで踏み込み、右腕を斬る。右腕を失ったオーガは左手で傷を押さえ膝をついた。レバーのあたりを剣で突き、横に薙ぎ払う。オーガは腹から大量の血を噴き出す。残りの二匹が動く前に、右にいたやつの前まで移動し膝のところから両足を切断する。膝から下を失ったオーガはバランスを崩し、横に倒れた。最後のオーガは右手で殴り掛かってきたところを右手首のところで切断する。切断されたところを押さえることもせずに左手で俺を捕まえようとするので、一気に後ろに回り込み、背中を右上から左下へ袈裟斬りにする。


 すぐにローラの手を引っ張って、開けているところから木々が生い茂っている方に走っていって、隠れる。


 すると、大きな影がオーガの死体目掛けて下降してくる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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