2話 転生後には必ずラッキーな出会いがある
自分自身が大きな光に包まれ、気が付いたときには異世界に転生されていた。パッと現れたはずなのに、周りはまったく気にしていない様子。まあ、他人なんてこんなもんかと思い、まずは周りに溶け込む努力をしよう。
誰もいないところに転送すれば良いものを、なぜこんな街のなかに転送したのだろうかと、ちょっと疑問に思ったが、それもそのうち理解できるようになるかもしれないと気を取り直し、キョロキョロしない程度に回りを見る。
聞こえてくる声は何故か日本語だ。
もしくは、異世界転生にありがちな自分には日本語のように聞こえているだけで、どこかで翻訳されているのかもしれない。そのうち翻訳できない言葉がでてきたときに、誤翻訳されるかもしれない。
街全体が高さ30mくらいの城壁に囲まれており、その城壁は切り出した石を材料に作られている。その城壁にはいくつかの円形の側防塔も見える。このあたりの雰囲気は日本人が想像する中世ヨーロッパ調な感じが漂っている。ただ城壁自体は日本の城の石垣のような効果がありそうで、側防塔を見ると狭間のようなものがあり、ここから弓や鉄砲を撃つのだが、この辺りも日本の城と同じ機能が備わっているのだろう。
中央の方にある城の周りにも同じくらいの高さの城壁があることから、恐らく城壁のある城の周りに城下町ができ、その城下町を守るようにさらに外壁ができたのだろうと思われる。
城を守る内壁と、城下町を守る外壁の2つの城壁に守られているようだ。
俺は外壁の城門の内側に転送されたので、外壁の城門を行きかう馬車や人を眺める。
どうも街に入るときに何等かの許可証を見せたり、お金を払っているように見えた。よく見ると、お金を払ってない人もいるので、街の出身者とよそ者とか、商売をするかしないかとかで条件が違うのかもしれない。出るときは誰も払ってないように見えた。あまりジロジロみて盗賊団の下見と勘違いされるのも嫌なので、そろそろここから離れる。
城門からは2本の石畳の道が街の中心の方に向かって斜めにのび、どちらも遠くの方はよく見えないが多くの建物がありそうに感じた。馬車が通った後の轍が比較的浅いことから、この道はわりとこまめにメンテナンスされているのではないかと思う。ということは大変栄えている街なのだ。
道を進む間に周りにいた人たちに挨拶をしたり、適当に天気の話をふったり、最近の流行りの食べ物の事を聞いて、自分の会話能力が十分機能を果たすことを確認した。
俺が転生した近くにあった城門から見て右側の馬車の轍が残る石畳を進むと、だんだん人が多くなってきた。といっても、馬車や荷車の数も多く石畳の道では基本的に人は端を歩いていた。
石畳の道に交わる道は石が敷き詰められていない土が剥きだしになった道で、こちらにも多くの人が行き交っていた。
城門から数百メートルは歩いてきただろうか、すでに見えなくなった城門からかなりなかに入ったところに噴水があった。この噴水がこの街の中心なのか、環状交差点、つまり噴水を中心としたドーナッツ状の円形の交差点となっている。四方向に放射状に道がのび、どの道も馬車がすれ違うのに十分な幅がある石畳だった。
周りに居た人に聞いたところ、この環状交差点は街の中に四つあり、この交差点は南西に位置する交差点ということが分かった。他にも北西、北東、南東の計四か所に環状交差点があるという話だ。
環状交差点どうしは、90度に伸びた道でつながっており、その道に囲まれた中心部に王城が建っているとのことだ。外壁にある城門は、東西南北の四か所にあり、最初にいたところは西の城門だったらしい。
今いる南西の環状交差点から、西と南の城門に向かって斜めに道がのびていて、城門のところで別の環状交差点からのびた道と合流するようにできている。どの城門にも、二か所の環状交差点から2本の道が斜めに通っているという構造だ。これらの道はいずれも石畳になっており、馬車や荷車などが往来しやすいようにできていて、それ以外の道は舗装されていない路地となっているようだ。
大昔の城壁は城の周りにしかなく、時間が経って城下町ができ現在環状交差点があるあたりに最初の外壁ができたそうだ。それでも、さらに外壁の外まで街が広がったため、現在の位置に外壁を作り直したそうだ。その時、環状交差点付近の外壁は取り壊されたらしい。
そんな歴史の影響で、城のそばに貴族の屋敷や騎士の家があり、さらに昔は北側から侵略される恐れがあったため、それらの屋敷の多くは城の北側に多く建っているそうだ。
さて、どうしたものかと周りを見回すと、大きなつばの帽子をかぶったお姉さんと、そのお姉さんと手をつないだ小さな女の子の二人づれ。
どこかで見た光景だなと思って目で追っていると、デジャヴュかと思う出来事がおき、咄嗟に飛び出し小さな女の子の帽子を拾い上げ、帽子の持ち主のところへ駆けつける。両ひざをついて、小さな女の子に帽子を渡した。
「お兄ちゃん、ありがとう」
おっ、善行をしたことへのお世辞入りか? などと思いながら、お礼に答えた。
「次は風で飛ばされないよう気をつけてね」
女の子の手を引く若いお姉さんからもお礼を言われ、軽く会釈しながらその場を離れていくと、彼女たちも路地へと消えていった。
すると周りの全景色が突然グレースケール化し、その上にポップアップウィンドウが開いた。周りはグレースケール化されながらも、さっきの女の子が笑顔のまま歩いているところを見ると、この現象は俺だけに起きていると断定できた。ポップアップウィンドウ自体は半透明であるが、ゆっくり内容を吟味したいので、そばに居る人に当たらないよう注意しながら通りの外れに移動し、ポップアップウィンドウの内容を確認する。
『レベルが上がりました。経験値1。経験値-1倍のペナルティ。レベル1→レベル26』
そういえば、ステータス画面の出し方を練習したよなと思い、これもステータス画面の一部で別パターンなのだろう。『閉じろ』と念じ、そのポップアップウィンドウをいったん目の前から消去した。『ステータス』と念じ練習したとき同様、ステータス画面を表示させ内容を確認する。
レベル26で、状態は健康。経験値がなんと4,294,967,295になっていた。あわててHPとMPを確認すると、どちらも満タン状態で最初に確認したときと全く同じだったが、値になってないので正直差が分からない。
何故こんなことが起きたかと言えば、この世界の経験値ボーナス、もしくは経験値ペナルティの計算は符号なしの32ビットで計算されているのだ。設定上や表示上は符号付のためマイナスを許すが、計算するときは符号なしなのだろう。つまり、-1倍が4,294,967,295倍になってしまったのだ。経験値の累計値は64ビットか何かで管理されているのだろう。どちらにしろスローライフを送るにはレベルなど関係ないことだが、ラーニングした魔法なりスキルなどを使えこなせそうで楽しみが広がった。
個々のパラメータを見ると力強さA、器用さA、丈夫さA、素早さA、賢さB、精神力B、運B、魅力AAとなっており、平均するとAクラスに上昇したと言えるだろう。他にはスキルポイントが25とあり、これは1レベル上がるごとに1ポイント付いたとみるべきか。スキルや魔法については特に変わりは無かったが、設定のボタンが増えていた。
まずはラーニングの項目を見るとスキルポイントが振れるようになっていた。もちろんスキルポイント全部つっこむつもりで上げていくと、レベル1からレベル10まで上がり上限に達した。使用したスキルポイントは9ポイントで残りスキルポイントは16だ。
ラーニングのガイドメッセージにスキル習得率100%と表示されるようになっていた。やったー、これでスキルを習得できるチャンスがくれば100%、ラーニングが成功するはずだ。いやまてよ、よく考えたらラーニングできる条件て何だろう? ま、分からないことを考えても仕方ない、その時がくれば分かるはずだ。その後で案内役に言われた通りラーニングは常時発動にしておいた。
設定の画面を見てみると、いくつかの項目の中にメッセージをログとして残すとあったので有効にしておいた。他の設定としてはメッセージをポップアップで表示するが有効となっていて無効に切り替えたかったが、最初のラーニングのタイミングを知りたいので設定を変えるのは後でにしよう。
ステータス画面に戻るとログ表示というボタンのようなものが増えていた。ログ表示を選んでみると、レベルが上がったときのメッセージが表示されていた。これで良しと一旦ステータス画面を消す。
『索敵スキルを習得しました』
初めてラーニングが成功したメッセージがポップアップ表示された。ラーニングの条件の一つは自分にスキルが使われたときの可能性が考えられる。誰かが索敵スキルを使用したのかもしれない。もちろん他の条件でもスキルを習得できる可能性があるけど。
ポップアップを一旦閉じログ画面を表示し、索敵スキル習得のメッセージが表示されているのを確認して、メッセージをポップアップで表示するを無効に切り替えた。
さっそく索敵スキルを使ってみるが範囲が自分を中心とした直径5m程度だった。ステータス画面やポップアップウィンドウなどと同じで、周りの景色がグレースケール化し、索敵マップを見やすくしてくれている。隣の建物などを含め3D表示されていて、地図としても至れり尽くせりだ。そこに人が光点として表されていた。路地を抜けてきた猫も別の色の光点で表されていて、なかなか使えるスキルではないかと思った。
スキル画面を表示し索敵スキルを見ると、レベル1で自分を中心とした直径5mの球状の範囲の索敵ができることがガイドメッセージを見て分かった。
索敵は便利なのでできるだけスキルレベルを上げることにする。スキルポイントを使いレベル2にすると範囲が10mに拡張された。レベル3にすると範囲が25mに拡張され、レベル4にすると範囲が50mに拡張された。調子に乗って、レベル5にすると、今度は検索できるようになったと表示された。レベル6にすると範囲が75mに拡張され、レベル7にすると範囲が100mに到達した。レベル8にするとマーキングができるようになった。レベル9にし範囲が1000mに拡張され、レベル10で上限となり範囲が5000mになった。これでスキル画面を閉じた。
もう一度索敵スキルを使う。レベルを変えながら検索やマーキングを使用し使い勝手を確認する。検索は、男性、女性、持っているアイテムなどで検索でき複数の条件による絞り込みもできる。マーキングは索敵マップが3D表示されているときに光点の見分けが付くだけでなく、索敵画面をやめても通常視野での方向を示すこともできる。ただしこれは平面での話で高さ方向には展開されない。進む概ねの方角を決めるのには便利だ。
スケールの切り替えは5m~5000mまでを段階的に切り替えることができる。この街の規模を知るために5000m索敵で見ると、この都市は城を中心とした半径2Km程度の都市で、人口は100万人を越えている。外壁の外に農地があるようで、外壁の外にも小さな村が各所にあるようだった。索敵スキル使いがどれくらいいるのか検索したいところだが、そういった情報での検索はできなかった。使い方を確認したところで索敵スキルを停止させた。
石畳の大通りから路地に入り、調理した食べ物を売っている食べ物屋、食材を売ってる店、服や靴を売ったり修繕までする店、武器や防具を売ってる店、さまざまな店が立ち並んでいる前を通り抜ける。
なにしろお金が無いので、冒険者ギルドに行ってクエストを受注すべきか、行っても登録料が払えないから無駄なのか、そもそも登録料など必要ないかもしれないなどと、鶏が先か卵が先か的な思考の迷路に陥っていた。
「人さらいよー、誰かクリスティンを助けてー、妹を助けてー」
と若い女性が大声を張り上げていた。
咄嗟に索敵スキルを使い、叫んでいる女性と攫われた小さな女の子をマーキングする。ふと気が付くと、小さな女の子を脇に抱えたスキンヘッドの大男が、こちらに向かい走ってきた。顔に大きな傷がついている男と、そいつの隣にいるグレーのフード付きマントのフードを目深にかぶった男に声をかける。
「こっちに来るぞ、気を付けろ」
大男はフードのマントの男の方に突進してきたので、なんとか女の子を奪い取れないかと手を伸ばしながらスキンヘッドの男にタックルをかましてやった瞬間、大きな傷の男はフードの男の肩に片手を乗せて、びっくりした表情で俺を見つめる。
「テレポート」
フードの男は魔法を使った。
この場からフードの男、大きな傷の男、スキンヘッドの男、攫われた女の子、それに俺の5人が同時に消えることになる。
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