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13話 お供はモフモフふっくらに限る

 墓地からいったん街道まで出る。王都からそれほど離れていない街道沿いのため、意外と人とすれ違う。


「最近この辺りでアレが出るらしいぞ、聞いたか?」


「聞いたよ、(ぬえ)だろ?」


「この間、ディズィーの野郎が夜中にこの辺で鳴き声を聞いたらしいが、夜は恐ろしいってよ」


「ディズィーの野郎はビビリだからな。

 ただこの辺は昔から変な噂があるから、夜は気を付けろってことだな」


 この辺はおかま帽をかぶった名探偵がいる島なのか? 念のため種族で鵺を探してみたが当然居なかった。この辺は夜になると真っ暗闇になりそうだから恐怖が見せた幻ってところだろう。


「ローラ、ここから入った森の中にビッグボアがいるから、ここから入ろう」」


「わかりました」


 街道を横断する形で逆側の森に入っていく。高さ2mもある草が生い茂っており視線を塞ぐ。その先には鬱蒼とした森が続いている。ビッグボアは街道から30mくらいの所にいるので、草木が無ければ目視できる距離まで近づいている。


「ピューピュー」


 なんとなく獣臭が漂い始めるが、すーっと消えた。その不自然さが気になりステータスのログを確認すると幻術をスキルを使った奴が居ることがわかる。当然、状態異常耐性で無効化し幻術スキルを習得している。ローラも幻術にかかっていることは無く、無効化している。


 するとビッグボアが突然、草木の中から突進してきた。あわてて重力の魔法を唱えビッグボアの動きを止める。ビッグボアが幻術スキルを使ったのか? そんな馬鹿なことを考えていたが念のため鑑定して幻術スキルを持ってないことを確認する。

 索敵スキルで回りを見てみたが、小動物以外発見できなかった。


 体長2mは越えるビッグボアだったが重力の魔法には耐えられなかったようで身動き一つできない。魔法を解除して暴れられるのは嫌なので力づくで……あれっ? それほど力を入れてないしスキルも発動していないのに簡単にビッグボアの腹を横に向けられた。上側になった前足を持ち上げ左右の前足の真ん中あたりから剣を刺す。心臓に達する前に一旦引っこ抜き流れ出した血が全部出るまで待つ。念のため剣を刺した同じ場所に、今度は心臓まで貫くように剣で刺す。死んだことを確認し、剣から血を振り払い鞘に戻す。

 ビッグボアの処置がすんだことをローラに伝えるため、ローラの目を見て首肯する。そして、魔法鞄にビッグボアを入れる。


「ローラ、この奥で何かが起きたことには気が付いた?」


「ええ、幻術を使われたことは分かります。それよりコジローさん、あなた幻術を無効化できるのに、なんでマミー討伐のときスキルを発動しなかったんですか?」


 あのときはまだ状態異常耐性を習得してなかったとは言えないよな。


「マミーについて下調べしてなかったから、スキルを発動してなかったんだよ」


 悪びれることなくローラに伝えると、ローラは呆れてるようだった。冒険者以前に人として、できるだけ防御に役立つスキルを常時発動にするのが当たり前だからだろう。


「三人の賊をあっという間に倒したのに、意外と抜けてるところがあるんですね」


 ローラの罵声をスルーすることにした。

 スルースキルは転生する前からマックスだ。


「一応、奥を確認しておこう。索敵では魔獣も獣もいないようだけど、何かあるのかもしれない」


「そうですね。特にコジローさんは気を付けてくださいね」


 グサッ。


 これ以上この話が続くと、俺が立ち直れないほどの精神的ダメージを浴びてしまうかもしれない。


 一応剣を鞘から抜いて森の奥に進む。ローラの前でこれ以上の失態を演じないために、戦闘に関係あるスキルは発動してある。


 奥に進むと明らかに鬱蒼とした森とは違う空間が広がっていた。イチジクにブルーベリーや野イチゴなど、天然の果実が沢山生っているため、甘酸っぱい良い香りが漂っている。だが、何となく獣臭が強くなる。


 ガサッ。


 ステータスのログを確認すると、幻術を無効化したことが分かった。


「ローラ、これから状態異常耐性を止めてわざと幻術にかかるので、20mくらい後ろで様子を見ていてくれ。

 一方的にやられているようだったら、状態異常を回復して欲しい」


「それは危険ではないの?」


「索敵したけど、ここには魔獣も獣もいないんだ。恐らく大丈夫なはず」


「わかりました。

 少しでもダメージを受けたら、すぐに回復させますから」


「ありがとう、そのときは頼む」


 ローラは俺の頬を突然引っぱたいた。


「もういいです。あなたとはここでお別れです」


 ローラはプイッと踵を返し、来た道を戻っていく。


 ああ、そういうストーリーか。

 赤くなった頬を手で摩って世の無常に悪態をつきたくなる。状態異常耐性を止めて様子を伺っていると獣臭が漂いだす。


 すると目の前に突然鵺っぽい魔獣が現れ、俺を睨んでる。顔が猿で虎っぽいんだっけ? そう思うと顔が猿っぽく見えてきた。それとも顔は猫だったっけ? すると今度は顔が猫っぽくなってくる。光学的な迷彩が施されているのか、よくわからない現象が起こる。索敵すると、種族が鵺になっているので間違いはない。


 攻撃型の魔獣っぽいけど、その割には全然攻撃してこない。


 そもそもここに居たのは鵺じゃなかった。

 確かあいつの好物は甘い物のはず。ポケットにいれたドライフルーツを取ろうとポケットを探るがどこにも見つからない。どこかで落としたんだろうか。


「ピューピュー」


 という可愛いらしい鳴き声が聞こえてきた。あれっ、鵺の鳴き声って寒々しい感じだと思ったけど。


 すると一瞬、頭がクラッとし、風景がぼけやる感じがする。その後で目の前に居る可愛いらしい生き物と目があった気がする。すぐさまポケットのブルーベリーのドライフルーツを取り出し、可愛いらしい生き物めがけて下手投げで与える。


「ピューピュー」


 と可愛いらしく鳴いてブルーベリーに飛びつき口でキャッチすることに成功、そのまま口に入れて食べだす。食べ終わるとまたこちらをジッと見つめる。


「もっと頂戴」


 と言われたような気がして、今度はバナナのドライフルーツとりだすと、俺の手のひらに飛び乗りバナナを食べだす。


 いったん離れてもらったローラが戻ってきた。


「コジローさん、幻術にかかっていたようなので祈りを捧げましたが、大丈夫でしたか?」


「ローラのお陰で助かったよ。幻術にかかるって分かってたから何とかできると思っていたけど、幻術から抜け出せなかった。またローラに恥ずかしいところを見られてしまった」


「それは気にしなくて良いですよ。最初から幻術が解けないときは私が回復する作戦でしたから」


 そこは罵声を浴びせてくれないと……俺のドM性癖が満足できない。


「可愛い!」


 ローラの大きな目がよりいっそう大きく見開かれ、その視線は俺の手の上に乗っている小動物に注がれている。


「可愛い!!」


 小動物はうさぎっぽいが耳が垂れているタイプっぽい。タレ目的なタレ耳でより可愛いらしく見える。ただ、うさぎにしては少し耳が短すぎる感じがするし、逆に尻尾は長すぎる感じがする。

 体長は15cmくらいで尻尾は3~4cmくらい、体重は700~800g前後と思われる。片手の手のひらだとちょっと余るくらいの大きさ。全身真っ白でモフモフな見た目と、それを裏切らない最高の触り心地。モフリストでなくても誰もがモフモフして頬ずりしたくなる毛並みだ。

 目が赤いのは白いうさぎと一緒で色素の関係だろうか。


「可愛い!!!」


 いつの間にかローラの目がハートの形に変わってる。


 ローラがずっと俺の顔を期待を込めた目で見つめてくる。今の状況がのみ込めてなければ、思わず告白して撃沈してしまいそうな雰囲気だ。

 ポケットから一つずつ、バナナとブルーベリーのドライフルーツを取り出しローラに手渡す。小動物は俺がやったバナナを食べ終わったところで、ドライフルーツを持つローラの手の方へ移れるよう、ローラの手の横に俺の手を移動させる。


 ローラの手はいつその小動物が飛び乗っても大丈夫なように準備万端整っている。

 ローラがバナナのドライフルーツを持って待っていると、ついにその時がやってくる。

 その小動物は軽やかにローラの手に飛び移り、バナナのドライフルーツに飛びつく。


 ローラは小動物にバナナとブルーベリーを渡すと、バナナを渡して空いた手で小動物の毛並み……モフモフ加減を心から堪能しているようだった。

 小動物は満足したのか大欠伸(おおあくび)を一回すると、俺の肩まで飛び移り毛づくろいを始める。

 ローラを見ると少しションボリしている。所謂モフロスというやつだ。


「こいつが幻術で鵺を演じて自分の縄張りに、他の生物が近づかないようにしてたんだろうね。特に悪さをしないようだから、このままこの場所でリリースしよう。たぶん、食べ物が無くなれば別の場所に移動すると思うし」


「えっ!!!」


「どうかした?」


「コジローさんはこんな可愛い子を捨てるって言うんですか?」


「捨てるっていうか、元々ここで暮らしていたから特に害が無ければ、退治する必要はないじゃん」


「退治ですって!!!

 なんでこんな可愛い子を退治したりするんですか。それにその子、コジローさんに懐いてますよ」


「ピューピュー」


「ほら、この子だって、こんな場所で捨てられたくないって言ってるじゃないですか」


「ローラって、コイツの話す言葉が分かるの?」


「分かる訳ないじゃないですか。この子の気持ちが分かるんです」


 さっき、コイツが言ってるってローラが言ったのに……という世の不条理は問わないことにしよう。


「そうですか。ローラさんはお、僕がこの子を育てるのが良いとおっしゃってるんですか?」


「もちろんそうです。他に誰がこの子の面倒を見るんですか?」


「そ、そうですよね。僕が面倒みさせていただきます」


「ピューピュー」


 コイツはやけに嬉しそうだな。鑑定したときに知ったけど、コイツは年齢・性別ともに不詳なんだよな。妖精ってのは生まれるとか死ぬとかとは無縁で、つがいにもならない存在なのかもしれない。子孫を残すのとは関係なく、食い意地が張ってるってのはどうなんだろうかと、やはり動物とは違う次元の生き物なのかもしれないと思った。


「それじゃ、王都へ戻ろうか」


「はい、わかりました。ところでこの子は何という名前ですか?」


「名前はないよ。種族が妖精になってて、年齢不詳なんだよね。妖精って全体で一つの生命体だったりするのかな?」


「名前が無いってどういうことですか?」


「鑑定したら個体名が付いてないから名前が無いんだよ」


「そうじゃなくって、コジローさんがこれから面倒を見ていくんですから、コジローさんが名前をつけるんですよ」


「そ、そうなの?」


「そうですよ!」


 そう言うとローラは俺の肩から小動物を自分の腕の中に取り戻した。


「コジローさんに名前をつけてもらいたいよね?」


 ローラはモフモフを堪能しながら、小動物の頭から背中にかけて撫でてやっている。


「ピューピュー」


「ほら、この子もコジローさんに名前を付けて欲しいって言ってますよ」


 たまたま鳴いただけじゃん。なんてことは口にはできずに考える。


 スラリンやホイミンって感じじゃないもんな、ピエールとかゲレゲレなんてつけたらローラが怒りそうだし。


「モフモフのフックラで、喪服なんてどうですか?」


 幼い感じながら端正な顔つきのローラの口がひん曲がって残念な表情を見せる。


 生意気にも小動物の方も耳をより一層垂らし視線を下へ向け、ガクッとした表情を演出する。


「それなら、モをもうひとつ足してモモフクなんてどうかしら?」


「ピューピュー」


 おいこら、尻尾をブンブン振り回して喜ぶんじゃない。心なしか、垂れた耳も元の位置に戻っている感じだ。


「今日からお前はモモフクだからね~。コジローさんに可愛がってもらうんだよ」


 コジローさんにつけられたがってるとか言ってたのに結局自分でつけてるじゃん、なんてことは死んでも言えない。そんな事を考えながらローラを見ると、なぜかローラの今までにない冷たい視線を感じた……ような気がした。


 ローラがモモフクを抱いたまま街道まで戻ってくる。確認のためモモフクを鑑定すると名前がモモフクになっていた。どういう仕組みなんだよコレと自分にツッコんだ。


「王都に戻ったら俺がお世話になっているお宅にいったん寄ろう」


「そこで、何かしたいのですか?」


「シャワーと着替えをしてから、ギルドに報告に行く」


「それなら私は先にギルドに行ってます」


「いや、ローラもそこでシャワーと着替えをした方がいい。その格好のまま教会に戻る訳にはいかないだろ?」


「そうですけど、どうせ着替えを持っていませんから」


「それはお世話になってる先で用意してもらうから大丈夫。この服も借り物の服だし、気にする必要はないよ」


「気にします。コジローさんはそんなにお世話になって、何とも思わないんですか?」


「とにかく、その格好で教会に戻ったら心配されるから、いったん俺と一緒に寄っていこう」


 南の城門をローラのギルド証で通り抜け、王都の中に入ったところでパーティを解散してもらった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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