12話 家の外で女性と会って談笑したら、俺はそれをデートと呼ぶんだぜ
マミーの死体が残っているので後始末しなくちゃならない。
「このタイプの依頼はマミーの死体を冒険者ギルドに提出しないといけないから、ローラのアイテムボックスにしまっておいてくれ」
ローラに向かってそういい、自動発動させているラーニングをいったん止める。
「はい、わかりました」
ローラが空中でアイテムボックスを出現させようとするので、ラーニングを発動しローラの指先に集中する。すると空中からアイテムボックスが現れる。アイテムボックスと呼んだが形は巾着袋である。口を開きマミーの死体に向けると、マミーの死体は巾着袋に入っていった。
ステータスのログを見るとアイテムボックスを習得したのを確認した。そしてラーニングを自動発動に切り替えておく。
俺のラーニングは自動発動にしておくと、俺自身に向けられた魔法やスキルを習得できる。俺が相手に攻撃を与え耐性でレジストすると、その耐性を習得できる。それ以外のスキルや魔法については、スキルや魔法が発動するのを盗むように手動で習得ができる。
ただし、習得できないスキル、魔法、アビリティが存在する可能性はある。ローラの恩寵もその一つと思われる。さらにアーティファクトやレリックの特殊効果もラーニングの対象外っぽい。俺のラーニングの習得のルールは概ねこんな感じだろう。
「終わりました」
ローラが明るく作業完了を報告してくれた。
「依頼書には確か三体のマミーの討伐って書いてあったよね?」
「そうですね、三体のマミーとありました」
「あと何体いるか分からないけど、二体以上のマミーを討伐したいね」
「そうですね、私にとって初めての依頼ですから、きっちり達成したいです」
そうこうするうちに墓地の奥の方にマミーが現れる。マミーは律義にも、土のなかから現れた。棺桶から出てくるパターンも想定できるけど、こいつはそうじゃないみたいだ。
なんか周りの空気が変わったので、マミーをさっさと片付けることを決めて剣を抜く。強化スキルや剣術スキルなどを発動する。マミーの動き自体は遅いので、普通に歩いて近づいていき首を刎ねる。案の定、マミーは死なずに首のないまま、歩みを止めない。
痛い目を見たとき同様マミーは肩の高さまで伸ばした両手を上げスキルを発動する。ステータスのログから麻痺・毒・怯み・混乱・呪い・沈黙を無効化したことが分かる。
しかたないので、心臓のあたりを一突きにすると、手ごたえがあり魔導石を割ることに成功。ローラがお金を稼ぐことも目的としていたら申し訳ないと思う。
さらにもう一体のマミーが近づいてくる。
「ホーリー」
ローラのホーリー討つタイミングを見計らい、マミーとローラの間に移動する。
「あっ!」
ローラが驚いたような声をあげた。
背中にホーリーを受けながら、マミーの魔導石を貫く。
「ローラ、大丈夫だから」
ローラに問題ないことをアピール……対アンデッド用浄化魔法なんだからあたりまえだけど。
マミーを二体倒すと、すぐにローラのそばに駆け寄る。マミーの強さは、麻痺・毒・沈黙といった相手を状態異常に陥れるところにある。対策してなければ、少々レベルが高くても勝てない。
ローラがアイテムボックスを出し、マミーの死体を回収しだした。
「魔導石を壊しちゃってごめん」
「魔導石を集めているわけじゃないから大丈夫だけど、なんでそんなことを言うのですか?」
「昨日、一度討伐依頼を達成していて、その証拠に魔獣の死体を持って行ったんだ。なるべく死体に傷をつけないことと、魔導石を壊さないことが、死体を高値で売るコツなんだ。ローラのホーリーで倒せば、何も傷つけずに倒せるからね」
「そうなんですか。一つ勉強にりました」
そう言いながらローラはマミーの死体を回収していた。その横で索敵してみる。
「どうかしました?」
ローラが不思議そうな顔でこちらを覗き見た。
「囲まれてる!」
俺は短く答える。
俺が来たときは、ローラ以外の三人も隠蔽のアーティファクトで素性を隠していた上に身も隠していたが、近づいてきたところを見ると正体をあらわす気になったようだ。三人とも同じアーティファクトを身に着けている。
「何か用ですか?」
声をかけながら右手では剣を抜刀し、左手はローラが杖を持っている右手を掴んでいる。
「おい、坊主。お前はいらねえから、とっととどこかへ行きな」
俺が来る前からローラを張っていたから、たまたまローラをターゲットにしたのか、最初からローラが狙いだったのかは分からない。
正面から声をかけてきたやつは完全な物理攻撃系で、強化スキルで身体能力を上げ、剣術スキルで武器技能を上げるタイプだ。左後ろの奴はデバフ系の魔法使い、右後ろのやつは幻術系の魔法使い。左後ろの奴が何等かの魔法を唱えた。
一応ステータスのログを見て毒魔法を無効化し、習得したことを確認した。
「俺だけなら逃がしてくれるって訳か?」
「まあ、土下座して俺の靴を舐めたら、命だけは取らないでやるよ」
「コジローさん、土下座なんてする必要はありません。私が何とかしますから、その間にコジローさんは逃げてください」
正面の男の屈辱的な要求など飲む必要が無いとばかりに、ローラがなんとか俺だけでも逃げれないかと策を練ってくれているようだ。
「お嬢ちゃん、どこぞの馬の骨とも知れない野郎の面倒を見ることは無いですよ」
「あなたたちは、いったい何者ですか?」
「俺たちですかい? それとも俺たちのバックについてる方についてですかい? どっちみち知らない方が身のためだ」
正面の男は俺たちを弱者と決めつけ、いたぶるのを楽しんでいるかのようだ。
「清人教」
俺が一言発すると正面の男の顔つきが変わった。
「当てずっぽうか? いい勘してるな。それにしてもお前みたいな三下が、うちの宗教の名を口にしただけでも虫唾が走るんだよ」
俺の一言に腹を立てたのか正面の男は俺に向かって大きく踏み込み、目を狙って剣を横に薙ぎ払った。強化スキルは発動しっぱなしだったので、剣の切っ先を軽く躱し持ち上げた剣の柄頭で男の顔面を打ち下ろすように軽く打撃を加える。男の左側の頬が陥没し、男がうずくまる。それほど力を入れなかったのに、人間の顔ってもろいのかな?
ローラは俺の動きに驚いて俺を見ている。
「痛っ! 早く回復しろ!」
正面の男がうずくまりながら叫ぶと、左右の後ろにいた二人が正面の男に駆け寄り魔法を唱える。
「頬が陥没していてヒーリングでは治りませんので、一時的ですが幻術で痛みを和らげます。治すのはもどってからです」
幻術使いがそう言うと、痛みを取るための幻術を唱えているようだった。
今は三人とも前方に居る。
痛みが治まったのか頬を左手で覆いながら正面の男が立ち上がった。
「てめぇは許さねぇ。坊主、そろそろ毒で苦しくなってきた頃じゃねえか? 俺が楽にしてやるよ」
「お頭! こいつ毒が効いてないようです」
「なんだと」
「コジローさんはここから逃げて。彼らは私に用があるみたいだから、きっと大丈夫」
「おっと、そうはいかねえよお嬢ちゃん。もうそいつは逃がしやしねえ」
お頭と呼ばれた正面の男が左右の男たちに合図を送ると、それに合わせ左の男は麻痺を、右の男は幻術を唱える。
ステータスのログで麻痺魔法、幻術魔法を無効化し、それぞれを習得したことを確認した。
「夢を見ている間にあの世へ連れていってやるよ」
そう言いながら正面の男が近づいてくる。
「キュア」
ローラがキュアを唱え、祈りも発動してくれた。状態異常耐性のお陰で魔法で回復してくれなくても大丈夫なんだけど、紳士的にお礼を言っておく。
「ありがとう、ローラ」
ローラは特に言葉には出さず俺を見てうなずいた。
お頭と呼ばれた男は怒髪天を衝く表情に変わり、大声で怒鳴りはじめる。
「お前の仕業か! お前が魔法を使って、こいつの状態異常を回復しやがったな。いくら生きて連れてこいって言われてても、こんだけ邪魔されたらただじゃおかねえ。従属首輪を付けたら、たっぷり可愛がってやるからな。覚えとけよ」
ローラの手を握っていた左手を離しローラを守るよう一歩前に出ながら、左右の男たちには沈黙スキルを発動しておく。
左右の男たちが俺たち二人を取り囲むようにそれぞれ左右に回り込むと、再度正面の男が左右の男たちに合図を送る。左右の男たちがそれぞれ何かを唱え始めるが、ただただ口をパクパクするのみで声がでてない。
口を大きく開けその前で両手の人差し指でバッテンを作りながら、焦った男たちが正面の男に近づく。
正面の男がその意味を理解したのか怪訝な表情を見せ、俺の方を見る。
「お前、マミーに麻痺させられたり呪われたり……並みの冒険者でも下調べしておけば引っ掛からないようなデバフにあっさりかかりやがったくせに、対人戦は得意なのか? てっきり連携の取れたパーティにうまく入り込んで自分が強くなった気になってる、のぼせ上りかと思っていたがどういう訳だ」
やはり見られていたか俺の恥部をさらけ出しやがって。言葉でハッキリ言われると、Cランク冒険者認定が取り消されそうなくらいの体たらくぶりが浮かび上がる。
これ以上の暴露は俺の精神が持たない。
正面の男に縮地で近づき左足を軸に右足で蹴りだす。
こいつは生かしておきたいのでかなり軽めの蹴りだったが、サイドキックを受けた正面の男は軽く20mくらい後方に吹っ飛んだ。
目を白黒させていた二人が何か薬のようなものを取り出し飲み込んだ。二人でタイミングを合わせるように、ファイアとウォーターを唱える。
魔法は俺ではなく俺の手前50cmくらいのところの地面で発動すると同時に、水蒸気爆発のようなものがおきる。
魔法耐性はあるが魔法が作った物体や事象についての耐性は無いので、寧ろ魔法を直撃して欲しかったくらいだが、できるだけローラが爆風にさらされないよう両手を広げる。
ただの冒険者であれば爆風で吹っ飛ばされていただろうが、ステータスが振り切ってる状態の俺にとって、踏ん張りきれないほどじゃない。こういう時のための防御系のスキルなり魔法なりを早く習得したい。爆風の勢いは体で殺せたが結構な量の水が吹き飛んできたので、二人とも水浸しになった。
魔法を使った二人は魔法を唱えたあと、俺に蹴られた正面の男の下に駆け寄り回復をしている。爆風にもふっとばされずに、すぐに俺が近づいたためなのか男たちは焦りの表情を見せ、先に左の男が立ち上がりサンダーの魔法を唱え、指先から俺に雷光が伸びるが、直接の魔法攻撃のため魔法耐性で無力化できた。
縮地で左の男の前に立ち、左肩から右わき腹にかけて袈裟斬りを食らわせてやった。持っていた杖も両断し致命傷を与えることができた。左の男は斬られた後、前方にドサリと倒れた。
右の男は片膝をついて正面の男に魔法を唱えながら、左の男が殺られるのを目をひきつった表情で見つめている。小刻みに震えている所を見ると、恐怖を感じているように見える。ようやく正面の男が立ち上がり、それに合わせて右の男も立ち上がった。
今度は正面の男がまず踏み込んできて、右の男がそれに合わせて幻術を唱えてきた。ローラが祈りを発動するまでのタイムラグを狙った作戦なのだろう。これ以上何度も回復されては面倒なので、正面の男の踏み込みを軽く躱し右の男の前まで踏み込む。抵抗されることもなく心臓を一突きし、口許から血を垂れ流している男を足で押して剣を抜く。俺に足で押された勢いで男は背中から仰向けに倒れ、剣を抜いた傷から大量の血があふれ出てこと切れる。
最後に正面の男がこちらに向かってくるので、後ろに回り込み剣の柄頭で後頭部をコツンと叩くと、そのまま前方にうつ伏せのまま倒れる。
ローラは俺の一連の行動に意外そうな表情を見せる。
「お頭、残りはあんただけだ。なんでこんなことしたのか、話してもらっていいか?」
お頭と呼ばれた男の襟を掴んで無理やり仰向けにし、剣を首にそえると男は突然ナイフを取り出し自分の心臓に突き刺した。
自刃してしまったものは仕方がないが、もっと口が軽そうなやつを残しておけば良かったのか、それとも絶対に事情をしっているお頭を残しておくのが良いのかと、自問自答する。
三人の賊のアーティファクト……つまり指輪を三つとも回収し、幻術使いの男の魔法鞄から従属首輪と支配指輪も回収した。死体も魔法鞄に入れる。
「コジローさん、なんて……」
「司祭様の前で済まないな。俺は悪者には容赦しないことにしてるんだ」
「コジローさんのことを非難してるわけではないのです。ただ人を殺すのに手慣れた感じだから驚いただけです」
「そんなことより、ローラはこいつらを知っているの?」
「いいえ、知らない人たちです」
「それじゃ、なんで襲われたか分かる?」
「それも分かりません」
ローラは首を横に振って、知らないことをアピールする。
なんとなくたまたまローラを狙った可能性は低いだろうから、やはりエルフが関係している可能性が高いよな。そうなると俺を巻き込まないように知らないふりってところか。それとも本当に本人は知らないのか。
「そっか、三人の死体は俺が預かっておいて俺の方で調べてみるよ。ローラは今日の事は誰にも話さないでおいて。それと、念のため常に周りには気を付けてね」
「ありがとう。念のため気を付けるようにします」
ローラをマーキングしてときどき様子をみるくらいはしておこう。
「コジローさん、さっきはありがとうございます」
「マミーに麻痺させられたときはローラに助けられたし、お互い様だよ」
「そう言ってもらえると私も助かります。あと、実は私司祭ではないの」
「へっ?」
「教会には住んでるし、教会で病気やケガの治療をしているけど、司祭じゃないの」
「ああ、女性だから司祭になれないって話?」
「なによそれ、コジローさんは女性蔑視の傾向があるのね」
「ちがうちがう、教会の方で女性は司祭になれない規則でもあるのかなって思ったんだ」
両手の手のひらをローラに向けて、首と両手を思いっきりブンブン振りながら言った。ローラは最初から俺をからかったつもりだったのか、俺の一生懸命否定するリアクションを見て大声を立てて笑った。
「女性が司祭になれないなんてことはありません。女性でも極光教の司祭になれますが、そんな理由じゃなくて、私は司祭にはなれません。
孤児だった私を女性の司祭様が……当時は助祭でしたが 保護してくれて、教会の孤児院で育ててくれました。教会からは司祭を目指す道を勧められたけど、私を助けてくれた司祭様は私の魔法やスキルがあれば自立できるから、成人してから自分で決めるようアドバイスをいただきました。結局、洗礼も受けてないし、信仰もしてないし、信徒でもない。ただ教義を勉強しただけ。
それで成人する頃には冒険者になりたいなって。冒険者になって、いろいろなところへ旅がしたい。行きたいところがあるから」
「ローラはどこへ行きたいんだ?」
「アルフヘイム王国に行ってみたいです。神秘的で、とても惹かれます」
「なるほどね。
アルフヘイム王国に行くには、もっと冒険者としての腕も上げないといけないな。それから伝手とか、ルートもあった方が良さそうだし。歩いていって、そのまま領地に入るってのは得策とは言えない気がするから」
「確かに、普通の人ならそうですね」
最後は俺にはっきり聞こえないよう小声でつぶやいていた。
「それより、まずはこの状況をなんとかしないとな」
「はい、そうですね」
俺自身は返り血ですごいことになっているし、ローラも純白の服が赤く染まってる。しかもお互い濡れ鼠というありさまだ。
「教会の人間じゃないのに、その服装っておかしくない?」
「私の保護者の女性司祭様が、特別に用意してくれたものです。これだと、極光教の関係者ってことがわかるから、トラブルに巻き込まれにくいだろうって。だって、冒険者って荒くれ者の集まりってイメージだから。コジローさんは優男ですけど」
そう言うと、ローラは自分の言葉に苦笑いをした。
「あの賊どもは、寧ろローラの恰好を見て、お金持ちって判断したのかもって考えると、その恰好は考え成した方がいいかもね。
こんなに赤く汚れることは少ないかもしれないけど、汚れてもいい恰好の方が今後の冒険者生活には合ってる気がする」
「確かにそうですね。帰ったら相談してみます」
「そういえばローラは清人教って名前は聞いたことがある?」
「いいえ、初めて聞きました。清人教とは何のことですか?」
「俺は鑑定もできるんだけど、あいつらがお揃いで持っていた指輪の名前が清人教の指輪って名前だったんだよ。俺自身は初めて知ったし単なる盗賊団などよりはたちが悪そうな名前だし、いずれ調べた方が良さそうな気がする。この名前は信頼できる人以外には話さない方が良いかもしれない」
俺は三人組の話をこれ以上は続けなかった。なんとなく最初からローラを狙ってたんじゃないかと思うし、ローラもそれに気づいていたんじゃないかと思う。ただ、ローラが知らないのか、あえて俺に知らないふりをしたのかは分からないが、どちらにしろローラが三人組について語ることはなさそうだ。
「ローラはこれから、何か予定はある?」
「はっきり予定があるわけではありませんが、討伐依頼を果たしたので冒険者ギルドに行こうかなって思ってるけど、どうでしょうか?」
「パーティメンバーとしてはリーダーの考えに賛成だね。あと良かったら、しばらくの間一緒にパーティを組んで依頼をこなさない?」
「それはうれしいけど……やっぱりダメ。私と一緒にいるとコジローさんがまた危険な目にあうかもしれないから」
「ローラが言うなら仕方ないけど、俺は諦めないよ。気が変わったら、いつでも誘ってよ。あと討伐先でばったり会ったら、またよろしく頼むよ」
「そのときは、こちらこそよろしくお願いします」
索敵スキルで獣を探す。街道を越えた先の森にビッグボアという名のイノシシを見つけたのでマーキングしておく。
「それじゃ帰る前に街道の向こうにいるビッグボアを狩って帰ろうか」
「コジローさんって索敵もできるのね。冒険者を続けていくには、いろいろなスキルを持って判断材料を増やしたり、より正確に判断できた方が断然有利ですよね。ところで、そのビッグボアは今日の食事にするつもりですか?」
「夕食にするかは決めてないけど、城門で返り血の事について聞かれたら、ビッグボアを食事用に狩ったって言い訳にはなるだろ」
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