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11話 はじめての依頼

 今日は朝食をとった後、すぐに出かけることにした。


 いつもの習慣なのかは分からないが、クリスティンとエレノアが庭で花に水を与えている。さすがに今日は出かけることは無いと思うが、一日も早くフィン一家に心安らかに過ごせる日が訪れることを願う。


 そういえば、主人公が出かけるときに必ず玄関の前を(ほうき)で掃いている美しい未亡人が出てくる漫画を思い出し、ほくそ笑む。何かプレゼントする機会があったら是非、ひよことPIYOPIYOという文字が書かれたエプロンを送ろうと思ったが、お嬢様にエプロン送ってどうするんだキモッと自分にツッコむ。

 それにここでは使用人たちが掃除をするだろうから、残念ながら箒で掃く姿を見ることはできないに違いない。


 エドワードのおかげで冒険者ギルドでの依頼の受け方から達成の報告までの流れが分かったので、しばらくはギルド通いをしようと思う。無難にペナルティの無い依頼をこなしながらランクを上げる事を目標にしよう。


 冒険者ギルドに着くと早速依頼の掲示板を覗きながら、周りの声に聞き耳を立てる。


「昨日、飛び級でCランク冒険者が出たんだって」


 おっ、早速俺の噂が立っている。


「訓練場での試験は凄かったぞ」


 いや、照れるなぁ。


「綺麗なべべ来た子だろ?」


 綺麗なべべ? そんな綺麗な服装じゃなかったよな、借り物だけど。


「ああ、教会の偉い人が着ていそうな純白の服」


「そうそう、てっぺんが尖った帽子被ってた」


「金持ちの親が頑張って初心者に高級装備揃えてあげちゃったような」


「確かに試験では凄かったが、まだまだ幼い顔した女の子だったけどな」


 俺の事じゃないんか~い! とツッコまずにはいられない。


 過去を振り返らない男こと俺様はそんなギルドの野次馬連中の言葉に心を動かされないぜ、などと考えつつBランクの依頼を受けることにした。もちろんフリーのやつなので、何も手続きすることなく南門に向かった。


 途中で方位磁針の紋章をあしらった看板を見かける。ここはコンパス商会が経営している小売店、コンパス商店があったので冷やかしついでに覗いてみた。

 その店は主に食料品と日用雑貨が売られていた。所謂お惣菜的なものはほとんどないけど、魚以外のものなら結構種類も豊富だ。小麦粉は薄力粉から、中力粉、強力粉まであり、そば粉も売っていた。野菜や果物も沢山の種類が置いてあり、この辺りの人はこの店だけで十分暮らしができるくらい、いろいろなものが売っている。米はさすがにないようだが、パンは結構置いてある。


 店をキョロキョロしていると初めての客と判断したのか店員に話しかけれた。


「何かお探しでしょうか?」


「何か探してるって訳でもないんだけど、ここって魚は扱ってないんだね?」


「王都では魚を食べる習慣があまりないので魚は無いですね。ウォーターフォールや港町の方に行けば魚を売っている店は結構あると思いますよ」


「王都では魚はあまり食べないのか。

 あそこに書いてあるけど、肉は倉庫に入ってるものなの?」


「小売り用で売るものは店頭の冷凍庫に入ってます。だいたい、一日で売り切れるくらいの量です。うちの在庫や、外食店の仕入れ用のお肉なんかは、倉庫の魔法鞄に入れてあるんです。パーティや催し物などで一時的に大量に必要な場合は、言ってもらえば倉庫から出しますので店頭になくても店員に聞いてください」


「冷凍庫じゃなくて魔法鞄なの?」


「冷凍庫は長持ちしますが、魔法鞄は入れたときの状態がずーっと保たれますから。それに魔法鞄は生き物が入れられないので虫が付くこともありませんので、長期保存に向いているんです」


「なるほど、丁寧に答えてくれてありがとう。折角だから何か買おうかな」


「ありがとうございます!」


「何かお勧めの美味しいものある? できれば調理が必要ない物が良いんだけど」


「それならドライフルーツはどうですかね? うちの店舗はそこそこ種類も豊富ですし」


「じゃあ、それをもらおうかな。どんなのがあるの?」


「今あるのは、ブルーベリー、オレンジ、マンゴー、バナナ、ナツメヤシ、イチジクですね。今の時期、ブルーベリーやバナナがお勧めです。生で果物を食べるより甘くて美味しいですよ」


「それじゃブルーベリーとバナナのドライフルーツを合わせて二十クローネ分適当にください」


 店員はそれぞれを紙袋に入れて持ってきた。


「お買い上げありがとうございます!

 このままで大丈夫ですか?」


「魔法鞄を持ってるから大丈夫」


 魔法鞄を取り出し、そこから財布を取り出してお金を渡す。紙袋の中からブルーベリーとバナナのドライフルーツを取り出し数個ポケットに入れ、紙袋は魔法鞄に入れておいた。


「今後とも御贔屓に、ありがとうございました!」


 お店を出ると、さっそくポケットからバナナのドライフルーツを取り出し口に入れる。ん! 甘くて美味しいい。これはいい買い物をした。


 魔法鞄の便利さを考えると、小荷駄(こにだ)隊……いわゆる輜重(しちょう)隊もしくは補給部隊のありかたがこの世界では俺の考えるものとは全然違うはずだ。場合によっては、部隊員の何人かに魔法鞄を持たせておき、戦闘には参加させないなどとすれば、本隊と補給部隊が同じ速度で行軍できることになる。

 補給物資を奪われたり焼かれたりの心配も必要なくなる。と言っても、俺が戦争するシチュエーションはあり得ないわけだが。


 南門でギルド証を見せ城門の外に出たところで索敵マップを見る。おや、とは思ったがとりあえず気にしない。今日は南門から2Kmくらいのところにある墓地に向かった。


 その墓地は、まだ朝だというのに何かでてきそうな鬱蒼と木が生い茂る森の中にあった。背の高い木が朝日を遮断しており、辺り一面はじめじめした感じがする。鬱屈するような気分になる周りの風景に、ここは一人で長くいるようなところじゃないと感じる。墓地に草木が茂るというより、じめじめした森に墓石を置いてる感じだ。


 その中に彼女は居た。清楚なはずの法衣服を着ているのに、なぜか淫靡(いんび)に雰囲気を醸し出している彼女。


 そのエロイ雰囲気を感じるわけは服の上からでも主張してくるその物体。巨乳と書いて男のロマンと読む。その頂きを目指し、あえなく(しかばね)を晒した男は数えきれない。


 そんな俺の中二病的妄は置いといて、彼女に近づいていく。ほんの少し前までは彼女の主張しすぎる物体に視線を注いでいたが、今は無理やり彼女の瞳に視線を合わせる。彼女は生きている人間とは思えぬほど色が白く肌が透き通って見える。髪はプラチナブロンドのショートボブで日中のせいかキラキラ輝いて見え、耳が隠れるほどボリューミーだが重さを感じさせない透明感がある。顔は端正で生きている人間というより、完璧な美を求めて作った石像のようである。ギルドに加入したことを考えれば16歳以上であるが、青い目が大きく見開かれてこちらを覗くその表情は年齢よりかなり幼く見える。被っている帽子が五角形の白い帽子、つまり高さが30cmくらいのミトラのような帽子で、印象として身長が高く見えるが、実際は背は高くない感じだ。高級そうな法衣に対して手にしているのは、ひのきのぼうという初期装備なのは微笑ましい。


「こんにちは、冒険者の方ですよね? 俺はコジローって言います」


「はじめましてコジローさん。私はローラです。昨日、冒険者になりました」


 俺が声をかけると、冒険者になったことを自慢するように嬉しそうに答えた。


「実は俺も昨日から冒険者なんですよ。たぶん、ローラさんと同じCランクの冒険者です」


「そうですか。昨日からの冒険者同士が、こんなところでお会いするなんて奇遇ですね。あと、私のことはローラと呼んでください」


「確かに奇遇ですね。俺の事はコジローって呼び捨てで構わないから」


「コジロー……さん、やっぱりさんを付けないと呼びにくいです」


「ははは……呼び方は好きにすれば良いよ」


 なんとなくスムーズに話が進むので、同じ日から冒険者となり、同じCランク冒険者ということでシンパシーを感じてくれてるのかもしれない。


「ここにいるってことは、Bランク依頼のマミーの討伐をしに来たのですか?」


「はい、そのつもりでここに来ました」


 ここからが本題だ。


「俺は魔剣士をやっています。よかったら一緒にパーティを組んで討伐依頼を達成しませんか?」


「はい、よろこんで」


 こんな美少女が大きな声で、どっかの居酒屋で聞いたようなセリフを吐いた。

 俺はギルド証を出し、ローラの顔を見る。何もしないまま、ローラは不思議そうな顔をして俺の顔を見返してくる。


「ローラ、パーティを組むのにギルド証がいるのでギルド証を出してください」


「あっ、そうなんですか。今、出します」


 ローラはそう言うと空中から魔法鞄を取り出した。ん! 空中から? もしかして魔法によるアイテムボックスを使用しているのかもしれない。アイテムボックスからギルド証を取り出し俺の方に差し出した。俺はそのローラのギルド証の下に重ねるように差し出して、ローラにパーティの作り方を教えた。


「これでメニューからパーティ作成をして、俺をパーティメンバーに入れてくれ。

 それを受けて俺が参加を許可すると、パーティができるからやってみて」


 ローラは嬉しそうに操作しだした。

 俺のメニューの方にはパーティに参加するかどうかの表示がでたので、参加を選んだ。


「これでメニューからパーティ一覧を見たり、パーティの解散もできるから」


 確認の仕方を教えると、ローラは嬉しそうに操作をはじめ、パーティの一覧が確認できたのかより嬉しそうにしている。


「私、パーティ組むの初めてなんです。とても嬉しいです」


 そう言ったローラのニコニコ笑顔が止まらなかった。


「私は聖女をやってます。初めてのパーティで緊張していますが、よろしくお願いいたします」


「へっ? 聖女? 司祭とかじゃなくて?」


 ローラが聖女と名乗ったので、そんな職業はあるのかと疑問に思い聞き返した。


「あっ、ごめんなさい。司祭でした。普段は信徒の皆さんに聖女様なんて呼ばれてるんで間違っちゃいました」


 そういいながら、ローラが自分の頭をコツンと叩いた。テヘペロはないんかいと一応心の中でツッコんでおいた。


 城門で感じた違和感、それはここに誰かがいることは分かっていたが、誰がいるのか鑑定できていなかったため感じていた違和感だった。改めてローラを鑑定すると、やはり何も見えない。


 エドとトロールを討伐した時に、ステータスがいつもと違った事を思い出し確認すると、いくつかのスキルの上限が上がっていて、スキルポイントをさらに振ることができるようになっていたのだ。素早さ強化、剣術、踏み込み、縮地、力強さ強化、鑑定、ステータス偽装、魔法耐性、急所看破、隠密、格闘、ファイヤー、テレポート、暗闇、重力、祝福を上限の一万まで上げたなおした。

 今のところ他に上げられそうなスキルは無かった。


 再度ローラを鑑定する。

 名前オーロラ、年齢16歳、種族エルフ・人間、性別女性、レベル30、状態健康。レベル1ヒーリング、レベル1キュア、レベル1ホーリー、レベル1祝福、レベル1祈り、レベル1黙想、レベル1アイテムボックス、レベル1解呪、レベル1状態異常耐性、レベル1鑑定、レベル13恩寵。

 恩寵はレベル13でアビリティに分類されていた。確かスキルレベルの上限は10って説明されたよな。俺の上限突破は特殊だったとして、ローラのスキルレベルが13ってのはどういう意味があるんだろ? スキルレベル13のアビリティ隠蔽があるので、そうそうアビリティの存在を見破られることはないだろう。

 スキルレベル上限が上がる上に、実際のスキルレベルが上限になるので、彼女の全てのスキルと魔法はレベル11以上と考えていい。

 さらに単体魔法を範囲魔法化できるという凶悪すぎるアビリティである。

 ステータスは全てA以上で、レベルから考えてもステータスから考えてもAランクかSランクの冒険者なみの実力があるだろう。

 エルフ……おそらくハーフエルフであることや、アビリティという普通は持ってないステータス、スキルレベル13という意味の分からないスキルレベル。彼女はかなり特殊な人物かもしれない。


 そして何より、スライム先輩が愛した『エロ……エルフ』であることが判明した。豊かな双丘の原因の一端を垣間見たことで、屍を晒した先人たちの魂を救済した気分だ。


 今まで鑑定できなかった理由が判明した。レベル12のステータス隠蔽アイテム、レリックを所有していた。この子はレリックを沢山もっている。彼女のステータス画面には魔法、スキル、アビリティ、装備とあり、装備を見ると彼女が装着している九つのレリックが一覧で表示されたのだ。そのうちの一つ、右耳にしているピアスがステータス隠蔽装備だった。


 以前、索敵スキルでエルフのオーロラ嬢を検索できたことがあったので、その時は隠蔽のレリックを外していたのだろう。ついでに、この墓地の周りに居たアーティファクトによりステータス隠蔽をしていた3人の情報も得ておく。レリックはレベル12で、アーティファクトはレベル11となっているが、何の違いがあるのか分からなかった。SR(スーパーレア)(レア)の違いのようなものなのだろか?


 俺の心眼(こころのめ)は彼女の双丘にくぎ付けだったことは秘密にし、今後の方針を立てる相談をすることにした。


「この墓地のマミーを討伐しに来たってことでいいよね?」


「はい、ここは私がお世話になっている極光教の墓地なので、ここに出現する魔獣を倒すことは私にとって一石二鳥なんです」


 お世話になっている? そこは信じているとかじゃないのか? ちょっと気になったが今はあえてスルーしとく。


「今は居ないみたいだけど、マミーって昼間はでないのかな?」


「依頼書には、昼間に出現したって書いてありましたよ」


 俺が覚えていなかったことを彼女はしっかり覚えていた。依頼書をしっかり読んでいれば分かる事を聞いて気まずい空気になった。俺のせいだけど。

 そんなことをしている間に魔獣がやってきた。もちろんマミーである。

 俺もローラも余裕のある表情で敵を見る。


 マミーが両手をまっすぐ伸ばしたまま肩の高さまで持ち上げて、俺たちの方に向けてくる。


 な……なんか、し……思考が……とぎれ……とぎれ……に……なる。


「キュア」


 ローラがキュアを唱えてくれ、他にもスキルを発動してくれた。


「ローラ、ありがとう」


 ステータスのログで確認すると、マミーから麻痺・毒・怯み・混乱・呪い・沈黙をかけられていたことが分かった。

 ローラはキュアを唱えてくれた後、祈りと解呪を発動してくれていた。

 スキルにはレベル1麻痺、レベル1毒、レベル1怯ませ、レベル1混乱、レベル1呪い、レベル1沈黙、レベル1キュア、レベル1解呪、レベル1祈りが加わっていた。


「ホーリー」


 ローラはアンデッドを浄化する魔法を唱え、みごと浄化する。


「ローラ、本当にありがとう。はっきり言って、俺、役に立ってないね」


「たまたま私のスキルが魔獣に有効だっただけです」


 ローラは謙遜(けんそん)したが、初心忘るべからずだな。どんな敵でもスキルや相性次第(しだい)で強敵になりうるから、全力でいかないといけない。

 俺一人だったら、どうなっていたことやらと思うと、冷や汗が出てくる。

 俺のHPとMPが10分の1くらいに減っていた。これは呪いによって一度MAXHPとMAXMPが10分の1にされ、ローラの解呪によりMAX値が戻ったので、HPとMPが減ったままの状態になっているのだろう。MPはともかく減ったHPを回復させるために、ローラが一生懸命何度かヒーリングを唱えてくれた。


「それより、ローラはなんで麻痺とかにかからなかったんだ?」


 理由は知っているがすっとぼけて聞いてみた。


「私、状態異常に耐性がありますから」


「ああ、状態異常耐性で麻痺はかからなかったのか。

 俺、麻痺が使えるんだけど、戦闘で咄嗟に出せるか心配だから、ローラで試させてもらってもいい?」


「いいですけど、今回だけですよ。仲間にそんなことされて嬉しい人なんていませんから」


 異常と思える要求に、少し怒りながらも応えてくれてありがとう、ローラ。


 控えめな声でスキルを発動させる。


「レベル1麻痺」


 ステータスのログで確認すると、麻痺が無効化され、レベル1状態異常耐性を習得した。


「ローラ、変なこと頼んじゃってごめんね。今度魔獣がでてきてら、必ず俺も役に立って見せるから」


「本当に二度としないでくださいね」


 ローラはそう言うと、わざと両のほっぺを大きく膨らませて可愛く怒って見せた。


「コジローさんは剣士さんなんですから、今度は剣くらいは抜いてくださいね」


 まさか幼く見えるローラに正論でツッコまれるとは思わなかった。


「次の敵は俺が必ず斬るよ」


 そう言いながら、麻痺、毒、怯ませ、混乱、呪い、沈黙、状態異常耐性、キュア、解呪、祈りのスキルレベルを一万まで上げ、状態異常耐性を常時発動に切り替えた。残念ながら強力なアビリティの恩寵は習得できないらしい。

 ステータス偽装に状態異常耐性と麻痺のスキルを追加しておいた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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