第8章 不帰の森アウレイ・ブッチ
ついに魔女ルシーカの本拠地に突入します。
心配そうに見ている辰馬とココネの目の前でドアが開き、デューティへの“尋問”を終えたティネムが出てきた。
「魔女ルシーカの居場所が解りました」
笑顔で告げる。
どんな“尋問”をしたかのかは聞かない、聞かないのが正解。
辰馬とココネとは違い冷静に待っていたローとエイダ。すれ違いざまにティネムが小さく呟く。
「“後始末”は任せましたわ」
魔女ルシーカの居場所は不帰の森と知られるアウレイ・ブッチ。
途轍もなく大きく広がる大森林。方向感覚を狂わせる魔法が自然発生で森全域にかかっており、おまけに強力かつ凶暴なモンスターが生息している。
常識のある人なら、まず近づかない場所、それがアウレイ・ブッチ。
2日後には精鋭部隊が結成された。その中には辰馬とココネ、ローとエイダが当然と言えば当然に参加している。
ティネムは参加を強要しなかった、全員が自ら意思で参加を決めた志願兵。
みんな理解している、これが本当に帰ってこれない程の危険な任務であることを。
その覚悟を持って志願した、魔女ルシーカを倒し、アニマル世界に平和をもたらすために。
王都の前に集まる精鋭部隊、その数、500人に達する。
全員の装備が薄く輝いている。それもそのはず、武器も防具もティネムの魔法が込められた特別製。
辰馬の剣も鎧は元のまま、これは五獣勇者専用の装備なのだから。
ココネも新装備、手首には魔力を増幅させるブレスレット。
「この一戦はアニマル世界の未来をかけた決戦だ。我々は必ず勝利し、ここへ帰還する。出陣!」
ローの掛け声とともに、精鋭部隊は自らを鼓舞し馬を走らせる。
馬に乗れない辰馬は、今回もココネの後ろ。
神殿の窓から、けもみみ神官に支えられたティネムは精鋭部隊を見送る。
皆の装備にありったけの魔力を込めたため、顔色は良くなく、ふらふら状態。それでも無理をして見送ることにした。それが女王、否、ティネム自身の思い。
「五柱の神獣様、みんなをお守りください」
夜明けと日の入りを三回ほど見た見終えた頃、アウレイ・ブッチに着いた。
まだ入ってもいないのに、溢れ出てくる妖気で精鋭部隊全員の鳥肌が立つ。
不帰の森と呼ばれるのも納得、一般市民どころか、筋金入りの戦士でさえも近づきたくない。
自然発生の魔法が阻害するため、探索系の魔法を受け付けず。なるほど、隠れてこそこそするには、もってこいの場所。
危険だと解っていても、今から中へ入らなくてはならない。そのために、ここへ来たのだから。
生い茂る木々の中では馬は邪魔になってしまう。全員馬から降りる。
「行くぞ」
シンプルで力強い言葉を言い、トップでローがアウレイ・ブッチに入る。
次に入ったのはエイダ、その後をけもみみ騎士たち、辰馬とココネが入っていく。
中に入ると、妖気の濃度が一気に増す。
ローが懐から取り出した一枚の地図。ティネムの“尋問”によって正確に描かれてもの。
この地図と方位磁石が頼り。この方位磁石はティネム特製の方向感覚を狂わせる魔法を防御するマジックアイテム
誰も地図が間違っているなんて疑いもしない、それだけ女王ティネムを信じているのだ。
これだけのけもみみたちに信じれているなら、辰馬も信じられる。
手入れなど一度もされたことのない森、縦横無尽に生えまくる蔦や雑草が行く手を塞ぐ。
先頭のローが爪が文字通りに道を“切り”開き、その後を精鋭部隊は進む。
湿気は多いが気温は高くも低くもないので不快感は薄い。
けもみみ騎士たちと辰馬、ココネの耳には虹色に輝くイヤリング。これもティネム特製の方向感覚を狂わせる魔法を防御するマジックアイテム。
武器も防具にイアリングを500人分を用意したのだ、ティネムがふらふらになるのも当然である。
森のあちらこちから、聞こえてくる得体のしれない獣の鳴き声。
そんなものを恐れる者は精鋭部隊の中に一人もおらず、そもそも、そんな臆病者ならば最初から志願なんかしやしない。
迷わないよう、最後尾のけもみみ騎士は木にローブを巻き付け、目印を残しておく。
歩いても歩いても同じ景色ばかりで、こうなれば方向感覚も不安になり、もしかして同じところをぐるぐる回っているのではないかとの恐怖に襲われる。
でもローが切り開いた道だけを進んでいるのと、目印のおかげで、それが杞憂であるは確か。
四方を木々に囲まれているため、森の中では日が暮れるのは早い。
幸い開けた場所を見つけたので、今日はここで休息をとることにする。
テキパキテントを張り、保存食で食事を済ます。
休息組はテントで休み、見張り組は周囲を警戒。数時間ごとに休息組と見張り組は交代。
辰馬も見張りを申し出たが、最強の戦力で切札ある五獣勇者は休息を強要されてしまう。
いろいろ思うところはあったが、言い争っても仕方がないのでみんなの思いを受け入れ、テントで休むことに。
毛布に包まっているうち、森の探索で思いのほか疲れていたこともあり、早々と辰馬は眠りの中へ。
交代で見張りをしているけもみみ騎士たち。周囲は闇に閉ざされているが夜目が聞くものもいるので、見張りに支障はきたさない。
「ぐあっ」
悲鳴が上がった。小さな悲鳴だったが、耳が利くもみみ騎士は聞き逃さず。
悲鳴を上げたけもみみ騎士は大型の毛むくじゃらの怪物に襲われ食われているいるでないか。
毛むくじゃらは魔女ルシーカの配下ではない、アウレイ・ブッチに生息していモンスター、夜行性の。
毛むくじゃらを斬ろうと、一歩踏み出したけもみみあみ騎士の動きが止まった。
木々の後ろから上から毛むくじゃらが現れた、ゾロゾロワラワラと。
毛むくじゃら共にとってはけもみみたちはご馳走のようで、ダラダラ涎を垂らす。
「冗談は辞めてくれ」
ドン引きで膝が笑っているけもみみ騎士の脇をすり抜け、ローが爪で斬りかかる。
「恐れるな、こいつらはただのケダモノだ!」
その鼓舞はけもみみ騎士たちに勇気を与え、襲い掛かってくる毛むくじゃらを斬り捨てていく。
ココネも魔法で参戦。
ぐっすり眠っていても、いつもも通り早朝になれば自然に目が覚める辰馬。昨夜の毛むくじゃらの襲撃は気が付いてはいない、そうけもみみ騎士たちが気を使ってくれたのだから。
「おは~よう~」
欠伸をしながら、テントから出てくるココネ。
建てる時よりも早く、けもみみ騎士たちはテントをテキパキ片付け、朝食も保存食で済ませ、出発。
その頃には、ココネの目もしっかり覚めている。
太陽が真上に近い場所に来る頃、急に開けた場所に出た。
木々を伐採して、切り開いた空間、その奥に堂々と立つ洋館。
けばけばしいまでにド派手な造り、とてもじゃないがこんな森林の中には不釣り合い。
この悪趣味な洋館が魔女ルシーカの住処、地図もここだと記している。
ついにここまで来た、みんなが感慨に似た感情と決戦に対する高揚感を抱く。
周囲の森で物音がしたかと思うと何かが出てきた、大量に。
それは武装した骸骨。これは毛むくじゃらのようなアウレイ・ブッチに生息していモンスターとは違う、魔女ルシーカの魔法で生み出した兵士。
「準備運動と行こうじゃねぇか」
二股の舌で舌なめずりするエイダ。
「ああ」
ローも爪を輝かせる。
けもみみ騎士たちもやる気満々、辰馬も剣を抜く。
ぶつかり合うけもみみ騎士たちと髑髏兵士たち。髑髏兵士の剣術は中々なもの、多少の腕前の戦士ならば勝てないだろう。
しかし、ここにいるけもみみ騎士たちは精鋭中の精鋭、多少の腕前の戦士レベルではない。
ことごとく髑髏兵士を蹴散らす。
辰馬も髑髏兵士を切り倒していき、ココネは魔法でやっつける。
それでも魔女ルシーカの魔法で生み出されただけあり、何人ものけもみみ騎士たちが倒れる。
それほどの時間をかけず、髑髏兵士を全滅に追いやったけもみみ騎士たち。
仲間の死が重くのしかかるが、こんなところで立ち止まっている場合ではない。
「これだけの警戒、ここがルシーカのアジトであるのは間違いないようだ」
ローはけばけばしいまでに、ド派手な洋館を見上げる。けもみみ騎士たちも洋館を見上げた。
黙って洋館を見る辰馬、決戦が近いことを肌で感じ取る。
率先してローが洋館の玄関を開け、中へ。
辰馬とココネ、けもみみ騎士たちも続く。
中は外よりもけばけばしく、天井から床まで悪趣味この上なし。
玄関ホールにはズラリと魔女騎士が立ち並んでいた、何故かイケメンばかり。
ほぼ同時に剣を抜き、魔女騎士が斬りかかってくる。
こちらも負けてなんていられるものかと、けもみみ騎士たちは鋭い爪で受けて立つ。
魔女ルシーカの護衛を任されるほどの精鋭ぞろいの魔女騎士たち。
対してけもみみ騎士たちも、魔女ルシーカ討伐を任されるほどの精鋭。
精鋭と精鋭がぶつかり合う、斬り斬られ、倒し倒されても、両者、怯まず引かず。
突然、どす黒い竜巻状の渦が巻き起こり、けもみみ騎士たちが巻き込まれる。
巻き込まれたけもみみ騎士たちは悲鳴を上げる間もなく、全身が粉々に砕かれ、跡形もなく、分解されてしまう。
吹き抜けの2階の階段から、まるで地響きを立てていると錯覚されるほどのしぐさで、顎髭を生やした筋骨逞しい大男が降りてきた。
気配で辰馬は解った、ただ者でないと。
顎髭男の登場で、一気に魔女騎士たちテンションが上がる。
「クーウォム様」
魔女騎士の誰かが言った。
魔女ルシーカ四天王の1人にして最強、クーウォム・ケスークン。
「よせ!」
ローの制止も空しく、4人のけもみみ騎士が、顎髭男、クーウォムに攻撃を加える。
再び放たれるどす黒い竜巻状の渦、4人のけもみみ騎士を巻きこみ、分解する。
「1か所にまとまるな、散らばれ」
ローの警告。あの攻撃、1か所にまとまっていれば一気にやられる。
クーウォムの登場によって、形勢は魔女騎士たちに傾く。
次々に放たれるどす黒い竜巻状の渦が、けもみみ騎士たちを分解していく。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ」
気合とともにどす黒い竜巻状の渦を辰馬は叩き切る。
「お前の相手は俺だ」
クーウォムの前に立ち塞がる辰馬、そこに恐れの感情はない。
睨みあう辰馬とクーウォム。
四天王最強だけあり、クーウォムは辰馬が何者であるか解った。
すなわち魔女ルシーカ最大の敵であり、確実に排除しなければならない五獣勇者であることを。
先に仕掛けるクーウォム、瞬時に距離を取り、どす黒い竜巻状の渦を放つ。
自分に向かってくるどす黒い竜巻状の渦を叩き切る辰馬。
容赦なく次々と放たれるどす黒い竜巻状の渦の軌道を読み、辰馬は叩き切っていくが、クーウォムの攻撃が激しく、こちらから攻撃する間が見えてこない。
これではじり貧状態、疲労や一度だけのミスさえ命取り。
辰馬とクーウォムの戦闘は激しすぎて、けもみみ騎士たち、魔女騎士たち、双方手助けができず。
絶え間なく放たれるどす黒い竜巻状の渦を切り捨てて行く辰馬。このままでは体力が尽きるのは辰馬が先であろう。
(何か、奴の攻撃を打ち破る方法を見つけないと……)
そう心の中で辰馬が呟いた時、最後の神獣の“力”が目覚める。
体の筋肉が厚くなっていき、二回りほど大きくなる。鎧も変身に合わせ変形。
上顎と下顎が迫り出し、髪が伸び、こめかみから顎にかけて髭が覆う。
口には牙、爪も鋭く輝く。
「がおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
全身に力が漲り、思わず雄叫び。今や辰馬の姿は鎧を纏ったライオン。
けもみみ騎士の中でも、神職に携わっいる者たちには解った、辰馬の変じ姿に。もちろん、ココネも。
「獣王ヴェークラレイス」
アニマル世界を守護する五柱の神獣の一柱にして、全ての神獣を束ねる獣王ヴェークラレイス。
最強の神獣であり、獅子の姿をしているという。
五獣勇者がけものの姿に変身することはクーウォムも知っている、報告は入っているので。
相手が人でけものであれ、倒してまえばいい。しかも相手はけもみみたちの希望である五獣勇者、倒すことで絶望を与え、抵抗の意思を削ぐことができ、人とけもみみとの戦いも終わる。
クーウォムはどす黒い竜巻状の渦を放つ。一発だけではない、何発も何発も。
次々と襲い来るどす黒い竜巻状の渦を、厚く長く変形した剣で切り捨てる、一発も逃さず。
「!」
数打では勝ち目はない、瞬時に判断したクーウォムは戦い方を変え、特大のどす黒い竜巻状の渦を放つ。
特大のどす黒い竜巻状の渦。あの大きさなら、辰馬だけではなく、背後にいる、ココネ、ロー、エイダ、けもみみ騎士たち全員を巻き込んでしまうであろう。
迫りくる特大のどす黒い竜巻状の渦を目前にしても、避けようともせず、真正面に見据える。
「がおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
力強い咆哮が轟き、特大のどす黒い竜巻状の渦を消し去る。
「!」
必殺の一撃を難なく消され、動揺するクーウォムとの間合いを一気に詰め、獣王ヴェークラレイス辰馬は厚く長く変形した剣で、袈裟懸けに斬る。
体が二つに割れ、倒れるクーウォム、最強の四天王が倒されたことで魔女騎士たちに動揺が走り、高まっていた士気が最下層まで落ちる。
このチャンスをけもみみ騎士たちが見逃すはずはない、一気に魔女騎士たちに向かう。
すでに及び腰になっている魔女騎士たちは勝負にならず、あっさりと全滅。
最強の神獣獣王、ヴェークラレイスの登場。
次回は魔女ルシーカとの決戦になります。