第3章 宣戦布告
アニマル世界に来て、初めての町。
ココネに案内され、一番、近くにあった町に入る辰馬。
旅行番組で見たヨーロッパの田舎町、もしくはファンタジー作品に出てくる様な町並みが広がる。
町を行きかう人たちは、皆、けもみみが生えていた、中には鹿や山羊などの角を生やした人も。
それが好きな人には、たまらない光景だろう。
屋台や露店が並び、けもみみたちが親しそうに、会話を楽しんている。
牧歌的で平和な町並、辰馬もねこ耳の鬘のおかけで、“人”とはバレず。
「本当にアニマル世界なんだな」
改めて、自分が異世界へ来たことを自覚。
「“人”を許すな!」
いきなり声が聞こえてきた、何だろうかと見て見る。
「“人”を叩き潰しべきだ!」
演説しているのは、いかにも血気盛んな若者と言った感じの青年、耳は馬。
わらわら、けもみみたちが集まってくる。
「そうだそうだ」
何人もけもみみたちが賛同の声を上げる。
「……」
どれだけけもみみたちに“人”が憎まれているか解る光景、“人”である辰馬にとって、あまり気持ちのいいものではない。
「そんな考えはいけませんよ」
異を唱えたのは白い顎髭を蓄えた男性、耳と角は牛。
「何だと、じじい!」
若者けもみみの1人が怒鳴る。
「確かに“人”は私たちを攻撃、支配しようとしています。ですが“人”がこのような行動を起こした背景には、私たちが“人”を差別したことが原因ではないでしょうか?」
怒るのでもなく、諭すように語る。
「だったら“人”を許せと、“人”がオレたちを殺すのを見逃せと」
食って掛かる馬耳の若者、今にも殴り掛かりそうな勢いで。
首を横に振る牛角の老人。
「そうは言っていません、私とて襲われれば戦う、大切な人を守るためには敵を殺します」
偽善なんか語らず、きっぱりと言い切る。
「例え戦うことになっても、相手を知ることは大切なんですよ」
馬耳の若者は何も言えくなる、彼に賛同してしいたけもみみたちも。 場に重い空気、“人”である辰馬にとって、とても居ずらい。
「辰馬、あたい、お腹ペコペコ、ごはん食べに行こう」
辰馬の袖を引っ張る、ココネは気を使ってくれている。
「そうだな」
その気持ちが嬉しい、受け入れ、手ごろな店に入る。
当然と言えば当然のごとく、メニューの文字が読めない。学校での英語の成績は平均点を取ってはいるが、メニューの文字は全くの未知の文字。
「これとこれとこれを2人前、お願いするのです」
注文を取りに来た店員に注文、またもココネが気を利かせてくれた。
店の中には多くの客がいて、賑わいを見せていた。客も店員もけもみみ。
「なあ、“人”が差別されていたというのは本当なのか?」
周囲に聞こえないよう小声で話す。
「この世界では“人”少数民族で日陰もの扱いだったのは本当のことです、悲しいことに差別するけもみみがいることはいました」
辛そうな表情のココネ、耳もぺたんとなっている。
「……そうか」
また一つ、アニマル世界のことが解った。
「お待たせいたしました」
注文した料理が届き、テーブルに並べられる。
料理は鳥の蒸し焼き、豆とトマトのスープ、サラダとパン。
湯気の立つ料理を見たココネの垂れた耳が、ピンと立つ。
お昼に学校の購買部で焼きそばパンを食べて以来、何も食べていなかった辰馬のお腹がきゅーと鳴る。
ふーふー息を何度も吹きかけ冷まし、鳥の蒸し焼きにかぶりつくココネ。
「食べて大丈夫なのか?」
けもみみがけものの鳥を食べている、何ともシュール。
「全然、平気、けもみみとケダモノは違うのです」
正直、よく解らないが、それがアニマル世界の習慣なのだろう。狩人たちの休憩小屋あるぐらいだし。
辺りを見て見れば、肉食系のけもみみは肉料理を食べていて、草食系のけもみみは野菜料理を食べている。
何となくだけど、アニマル世界の食事習慣が解った。
自分も食べることにして、まずは一口スープを飲んでみる。
「美味しい」
薄味だけど、しっかり調理されていて美味しい。
食事の後、宿を取る。
「えっ、同じ部屋なのか」
ココネは1つの部屋しか取らなかった。
「何か問題あるのです?」
全然、気にしていない。
「それは俺は男で、ココネは女の子だろ」
「それが何か?」
逆に何を気にしているのか、首を傾げる。
「何でもない、気にしないでくれ」
こんなところで話し込んでいても仕方が無いので、受け入れることにした。
アニマル世界に来て、一日も経ってはいない、まだまだ解らないことばかり。
幸い部屋のベットは二つ、ココネは其処は考えてくれていた。
鎧を脱ぎ、ペットに潜り込む。
異世界に召喚され、チンピラ集団との戦闘、いろいろあって疲れた辰馬は、早々と寝息を立ていた。
「ここは?」
宿屋の部屋で寝ていたはずなのに、だだ広い真っ暗な空間に辰馬は立っていた。
「あなたが五獣勇者なのね」
いきなり声を掛けられる。いつの間にか、目の前に真っ赤なドレスを着た赤毛のグラマーボディ美女が立っているではないか。
「お前が魔女ルシーカか」
直感で解った。
「そう私がルシーカ・アミラムス、最高にして最恐の魔女」
何故、こんなところに魔女ルシーカがいるのかの思考よりも、危険信号が灯り、いつでも戦えるよう身構える。
「でも良かったわ、五獣勇者があなたのようなイケメンで。私はイケメン男子には優しいのよ。どう、私のものになれば極上の快楽を味あわせてあげる」
解き放たれる色気、根性が無ければ一発で呑み込まれただろう。
だが、根性なら有り余るほどある辰馬。
「断る」
はっきりと拒否の意を示す。
「あら、それは残念」
口では言いながら、全然残念そうには見えない、むしろ楽しそう。
「何故、アニマル世界を支配しようとする、日陰もの扱いの人間のためか?」
本筋の目的を悟られないよう、まずはジャブ的な質問をぶつけて見る。
「“人”なんて、関係ないわ。私は楽しいからやっているだけ」
「楽しいからだと?」
この時、ルーシカが見せた微笑み、これほどまで恐ろしい笑顔を辰馬は見たことが無かった、玲の笑顔とは天と地ほどの差がある。
「そうよ、楽しいからやっているの。獣どもを殺すのも、世界を支配するのも、私の楽しい楽しいお遊び」
ブチッ、辰馬の何かが切れた。一番の目的は魔女ルシーカの持つ万能薬だが、生理的にと言ってもいいのか、あんなタイプはどうしても許せない、男だろうが女だろうが関係なく。
“ぶっ倒してやる”そんな気持ちが沸きあがてきた。
「たあっ」
気合一閃、斬りかかる、実際、刀を持っているかどうかは解らなかったが、それでも斬りかかった。
「あははははははははははははははははははははははははははっ」
けたたましい笑い声と共に、ルーシカの姿が揺らぎ、消える。
「直接、あなたと戦えるのを楽しみに待っているわ。それまで死なないでね、五獣勇者」
目を覚まし、ベットから半身を起こす。
先程のやりとりは夢かとも思ったが、それにしては生々しすぎる。
床を見れば、目玉に蝙蝠の翅を生やしたような生き物が四つに切り裂かれ倒れていた。
「こいつは魔女ルシーカの使い魔なのです、人の精神に直接、メッセージを送るタイプです」
丁寧に説明してくれるココネ。
ならば先ほどまで、見ていたのは女ルシーカとのやりとりは夢ではなく、メッセージ、否、ろしろ宣戦布告。
煙になって消えて行く使い魔、何が四つに切り裂いたのだろうか?
辰馬は自分の右手を見た。親指人差し指中指薬指小指、何の変哲もない掌。しかし、その掌には何かを斬った感触がしっかりと残っていた……。
より明確になったけもみみと“人”の関係。
魔女ルシーカからの宣戦布告。
次回、本格なバトルの始まり。