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『アニマル世界 無敵の五獣勇者』  作者: 三毛猫乃観魂
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第2章 召喚

 異世界に召喚された辰馬くん。本筋のスタート。


 暗転から解放された時、辰馬は見知らぬ場所にいた。

 ほんの数秒前までは綾瀬総合病院の玄関前にいたのに、今は草原に立っている。

「ここは……」

 全く見知らぬ場所。西に傾いていたはずの太陽はほぼ真上にあり、風の匂いは都会のものとは全く違う匂い。

 五つの“何か”が体内に感触があったが、今は何ともない。

「きゃぁぁぁぁぁぁっ」

 突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。明らかに助けを求める声、何が起こったのかここがどこなのかを詮索するのは後回し、助けに向かう。


 声の聞こえてきた場所に辿り着くと、日本ではまず見かけない馬車、小型の馬車と父親、母親、娘の親子。親子と確実に解るのは3人に羊の角が生えているので、耳も羊のもの。

 親子を取り囲むチンピラ集団、その中に1人、グレートソードを背負った男がいた。髪型がおかっぱなのが似合わな過ぎて、逆に目立つ。

 このおかっぱの男が集団のリーダーなのは、立ち位置と他のチンピラの態度で解る。

「けもの共め」

 陰険な笑みを浮かべおかっぱリーダーがグレートソードを引き抜いたのを合図に、手下たちもナイフなどの武器を取り出す。

「ひつじ族の角は高く売れるからな」

「装飾品のいい材料になる」

「ルシーカ様もお気に入り」

 どちらが悪党で被害者なのかは一目瞭然、ひつじ角なぞ気にならない。

 考えるより早く、辰馬の体が動いた。迷うことなく、おかっぱリーダーを目指す。

「あん」

 チンピラとはいえリーダーだけあり、辰馬のことには気が付いたが、

「なんだ“人”か」

 相手が同じ人間なので、仲間になりたいのかと気に留めなかった。

 チンピラたちも、ジロジロと辰馬を見る。

「しかし、変な格好だな」

「あんな服、どこで売ってんだ?」

 学生服であるブレザーを物珍しそうに見ている。辰馬からしてみれば、彼らやひつじ族の親子の服装の方が中世やファンタジー世界の様で珍しいのだけど。

 珍しい服を着ていても人間なので、敵ては無いとおかっぱリーダーもチンピラ集団も判断。

 その隙を突き、おかっぱリーダーの背負っていたグレートソードの鞘を奪い取り、今にもひつじ族の家族に襲い掛かろうとしていたチンピラ集団に殴り込む。

 グレートソードの鞘を木刀代わりに、チンピラ集団を打ち据えて行く。

 奇襲と同じ人間が向ってきたという“この世界”では起こりえない現象に虚を衝く形となり、あっという間にチンピラ全員を叩きのめす。


「テメー、“人”なのになんでけものの味方をしやがる!」

 ひつじ族の親子はいったん置いといて、辰馬にグレートソードを向ける。

「人だろうが獣だろうが、襲われている人を見て見ぬふりするほど、俺は器用な真似が出来ないんでね」

 鞘を構えなおす。

(これは、剣道の試合とは違う……)

 部活での試合は武器は竹刀、防具も着けているので命のやり取りは無し、悪くてもケガする程度。

 だが、今、やっているのは敗ければ死が待っている、命を取り合う決闘なのだ。

 否が応でも緊張感が高まって行く。

(玲、俺に力を貸してくれ)

 親友のことを思い浮かべると、不思議と気持ちが落ち着き冷静に状況が見えてきた。

 おかっぱリーダーの持っている武器はグレートソード、重量武器、ならば攻撃方法は限られてくる。


 ちょっぴり辰馬が動き、左肩が隙が生まれる。

「馬鹿がッ!」

 振り上げたグレートソードを辰馬の左肩目掛けて振り下ろす。

 しかし、これは辰馬が仕掛けた罠、誘い。それにまんまと乗ってしまったおかっぱリーダー。

 振り下ろされたグレートソードを躱し、手首を鞘で叩く。

 絶妙のタイミングで入った小手、鞘を伝わる感触で骨が折れたことが解る。

 悲鳴と上げ、グレートソードを落としたリーダーのおかっぱ頭を鞘で打ち、気絶させる。


「大丈夫ですか」

 チンピラ集団を1人残らずノックアウトした辰馬は、鞘を捨てひつじ族の親子に近づく。

「“人”め!」

 いきなり父親が短剣を抜き、襲い掛かってきた。

「わっ」

 予想だにしない攻撃だったものの、日頃の鍛錬のおかげで咄嗟に躱すことが出来た。

 初手を躱されてもひつじ族の父親は短剣を振り回し、向ってくる。その眼は憎しみに満ち溢れていた。父親だけでない、妻や娘の眼にも憎しみ。

 まさか助けて相手に襲われるなんて、しかも憎しみまで持たれて。

 素人そのものの攻撃なので躱すのは容易いが、一向にひつじ族の父親は攻撃の手を緩めず。

 このままでは埒が明かない、かと言って下手に攻撃すれば事態を悪化させる可能性がある、何にも状況が掴めていないのだから。

「穏やかなる眠りの風を リボン・オド・マギー」

 森林の香りのする風がひつじ族の親子を包み込んだかと思うと、その場に倒れた。

 何が起こったのか確認する前に、

「心配ない、眠らせただけです」

 答えが解った。

 緑色を基礎としたローブを着た赤い宝石の嵌った杖を持つ、茶髪の少女が立っていた。それも好きな人にはたまらない、ねこみみ少女。

「あたいはココネ、猫族の魔法使い、五獣勇者様」

 にっこり自己紹介。


 取り合えずひつじ族の親子を馬車に入れ、辰馬とココネは近くにある小屋へ移動。

 この小屋は狩人たちが休憩に使うために建てられた。今はシーズンオフなので、誰も使わない。



「なるほど、俺がこの世界を救うため、五獣勇者として召喚されたということか……」

 小屋の中、ココネから一通りの話を聞いた。

 この世界がけもみみたちの住むアニマル世界であること、魔女ルシーカ率いる“人”によって支配されそうになっていること。

 五獣勇者辰馬が、唯一ルシーカを倒せるということ。

 五獣勇者とはアニマル世界を守護する五柱の聖獣を宿す、無敵の存在であること。

 女王ティネムが五獣勇者召喚の儀式を行っている最中、“人”の騎士団の妨害により、召喚位置がずれてしまい、そこでココネが迎えに来たこと。

「元の世界に帰してくれ」

 それが辰馬の出した答え。

「アニマル世界を見捨てるというのですか、そんなの酷すぎます、五獣勇者様~」

 涙目になり、辰馬に縋りつく。

「あんたたちの世界の状況は理解したし、俺に助ける力があるなら、助けてやりたいと思う。だが俺には大切な親友がいる、とても重い病を抱えていて、一年も生きれないかもしれない……。俺にとって一番大事なのはあいつのことなんだ。例え何も出来なくても、せめて傍にいて見守ってやることぐらいはしたい」

 嘘偽りのない真意。

「ああ、それなら何とかなるかもしれないですよ」

 涙は何処へやら、ケロッとココネ。

「魔女ルシーカは、どんな病やケガも治す万能薬を持っているんです、倒した際に万能薬を手に入れれぱばっちりなのです」

 “どんな病やケガも治す万能薬”その言葉が辰馬の心を打った。

「それは本当なのか!」

 聞き間違いではないかと、確かめてみる。

「ハイ、元々、魔女ルシーカはその万能薬を配り回ることで“人”の信頼を得たのですから」

 震える思いだった、心臓移植しか助かる見込みの無かった玲を万能薬があれば助かる。

 自分には見守ることぐらいしか出来ないと思っていたが、やるべきことが見つかった。

「やってやろうじゃないか、五獣勇者」

 正直、五獣勇者と言われてもピンとこないけれど。

「やつたやつた、ありがとうございますなの、五獣勇者様」

 大喜び、尻尾を振り振り、ゴロゴロ喉を鳴らし辰馬に頬ずり。猫好きの気持ちが解った、何となく。



「こちらにありますのが、女王ティネム様が五獣勇者様のために用意してくださった、装備一式なのです」

 落ち着きを取り戻したココネが大きな木箱を引き摺ってきた。

 早速、蓋を開けてみる。中にあったのは青を中心とした色の鎧。あんまりごてごてしておらず、動きの邪魔にならない作り、これこそシンブルオブザベスト。

 もう一つ入っていたのは一振りの剣。手に取り鞘から抜く。

 片刃で反り長さ共に打刀と同じ。重さも手ごろで、手にしっかりと馴染む。

「鎧も着ててください、早く早く早く」

 急かすココネ、興奮しているのか、尻尾が激しく左右に揺れる。

「解った」

 実は辰馬も、ほんの少し興奮していた。やはり男の子はこのような物に惹かれるもの。



 鎧を着て見れば、まるで辰馬のためにあつらえたようににしっくりとくる。おまけに金属製なのに重さを感じさせず、いつも着ている制服の様。

「五獣勇者様、似合っています、ぱっちぐーです」

 尻尾を振り振りで拍手。

「そうか」

 そう言われて、悪い気はしない。

「これもどうぞ」

 ココネが取り出したのはねこ耳の付いた鬘。

「えっ、それも着けないと駄目ののか?」

 コスプレイヤーならまだしも、ねこ耳など付ける趣味はない。

「ハイ、けもみみではないと碌に町にも入れません」

 先程のひつじ族の親子とチンピラ集団を見れば、この世界では人間とけもみみの対立はかなり深いと解る。

 しばらくこの世界で生活するためには、けもみみに成りすました方が得策。

「解った」

 辰馬はねこ耳の鬘を受け取り被る。適度に長い髪が本当の耳を隠してくれて、見た目は猫族そのもの。

「よしよし、これで“人”とは解りません、五獣勇者様」

 満足なココネ。

「――それと、俺のことは辰馬と呼んでくれ」

 五獣勇者なんて中二病満載な呼び方をされると、なんかムズムズしてくる。

「解りました、辰馬様」

「様もいらない」

「おーけー、辰馬」

 ちゃんと受け入れてくれた。

『待ってろ玲、必ず万能薬を手に入れ、戻るからな』

 辰馬は己の決意を新たに固めた。



       ☆



 何もない空間に浮かび上がる画像、映し出されているのは辰馬に叩きのめされたおかっぱリーダー率いるチンピラ集団。

「そう、五獣勇者が来てしまったのね」

 ソファーに寝そべる赤毛の美女、出るところは出てへっこんでるとこはへっこんでいる、色気はムンムン、来ている真っ赤なドレスが盛り立てる。

 彼女こそ魔女ルシーカ、ルシーカ・アミラムス。

 サイドテーブルに置かれた果物から、ぶとうを一つ摘まんで食べる、こんな仕草もエロい。

「私の所まで、来れるかしらね、楽しみにしているわ」

 本当に楽しそうに、微笑む。




 アニマル世界における、けもみみと“人”の対立。

 このアニマル世界で、五獣勇者辰馬くんのけもみみたちを守る戦いが始まります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] むずかしいところもありましたが、辰馬くんがひつじ族の親子をチンピラがら守るところが良かったです。一方のひつじ親子は仕方ないとは言え恩をあだで返してしまいましたが。でもココネちゃんは辰馬くん…
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