第15章 信念と信念
秘密基地から思い出の地へ向かった辰馬一行。
辰馬たちが向かったのは某城跡公園、小学生の頃、遠足で玲と一緒に来たことのある思い出の場所。
秘密基地を後にして、、自然にここに足が向いた。
観光地なので、鬘さえつけていればココネも目立たない。
エイダの人操りの毒のことを考えれば人の多い観光地はヤバイかもしれないが、人のいない場所に行けば襲撃してくださいと言うようなもの、こちらもヤバイ。
どちらもヤバイなら人のいない所より、いるところの方がいくらかはマシだと考えがまとまった。うまくすれは誰かが警察を呼んでくれるかもしれない、ローたちも警察には来てほしくは無いだろう。
辰馬たちはベンチに座り、缶コーヒーで一服。
「この先、どうするの?」
玲に問われるが何も思い浮かばない、追われての逃亡なんて初めての経験なので。
日が暮れたので、何とか空室を見つけたひなびた宿屋へ。
「ハイハイ、何名様ですか」
1人でやりくりしているお婆さんが人数を聞いてくる。
「3名です」
代表して辰馬が言ったところ、
「えっ。何だって?」
聞き返してきた。これ程、近くで言ったのに聞こえなかった様子、どうやら、かなり耳が遠いみたいだ。
「3名です」
声を大きくして言うと、
「ハイハイ、3名様ですね」
今度はちゃんと耳に届いた。
これなら、多少、騒いでも気が付かれないだろう。騒ぎが起きないのが最善だが……。
何か出てきそうな建物だが、今は休めるだけでもありがたい。
お風呂も食事も宿屋の見た目ほど悪くは無し。
宿屋内はシーンとしていて、どうやら宿泊客は辰馬たち以外にはいない様子。
不謹慎と思いながらも、久しぶりの旅行、玲はドキドキしていた。
ドキドキしながらも布団に入って、一時間もすれば寝息を立ててる。
パタパタと夜の闇の中を羽ばたく蝶々。この蝶々は本物ではない作り物、魔女ルシーカの心臓の位置を察知して飛んで行くマジックアイテム、ココネの置き土産。
蝶々か向かう先にはひなびた宿屋、その後を無言で着いていくロー。
宿屋の庭に入った途端、蝶々は真っ二つに切り裂かれる。
「貴様は――」
そこに立っていたのは剣を握るバーニー。
「魔女騎士団長、バーニー・ナイエト」
静かに爪を伸ばすロー。
「女王騎士、ロー・チェイス参る」
睨み合い、同時に踏み込むバーニーとロー。
騎士と騎士の剣と爪が打ち合される。
異変を察知して、最初に目が覚めたのは辰馬。
今はカーテンで閉ざされている庭に視線を向ける。
『誰かが戦っている』
ココネも気が付き、目を覚ます。
警戒しつつカーテンを開けば、何とローとバーニーが戦っていてはないか。
辰馬とココネが声をかけるよりも早く、
「あの少年を連れ、早く逃げろ、五獣勇者」
何が起こっているのか解らないが、ここはバーニーの指示に従うのが正解。辰馬は玲を起こし、ココネが荷物をまとめ逃げ出す。
ローもバーニーも信じる主君のために戦う、ともに女性なのも同じ。
どちらも攻め守る、そこには善も悪も正義も不義もも正しいも間違っているもない。あのるは信念のみ、己の信念で戦う2人の戦士。
バーニーの剣がローの左腕を斬り飛ばす。その瞬間、腕を失った激痛なぞものともせず、身を屈め爪の一撃を放つ。
爪がバーニーの腹部を貫く。
「右腕を犠牲にするとは……」
「お前相手に、腕の一本なんて惜しくはない」
「……見事だ」
爪を引き抜くと、バーニーの体が崩れ落ちる。
左腕を応急処置を施し、辰馬たちを追う。
辰馬、玲、ココネは逃げていた。だが物凄い速さでローが追いかけてくる、流石は狼。
このままでは確実に追いつかれる。辰馬は立ち止まり、立ち向かうことを決めた。
そんな辰馬の心中を察し、ローは立ち止まる。
「受けて立とう、五獣勇者、我が命を費やして」
目が輝き、全身からこれでもかと覇気が放たれる。
その覚悟、このままでは勝てない、辰馬も覚悟を決めた。
出来るだけなら玲には見られたくなかったのだが、そんなことを言っている状況ではない。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
合成神獣キメラに変身、勇者の剣を出現させる。
ローもまた全ての力を解き放つ。
ローの毛が逆立ち、目は真っ赤に輝き、爪は倍に伸びる。
凄まじいしとか表現の出来ない気迫と覇気、
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
咆哮を上げ、向かってくる。その凄まじいばかりの戦闘力、合成神獣キメラに変身した辰馬が防戦一方を強いられる。
「あれは自分の命を戦闘力に還元しているのです」
ココネも聞いたことがあるだけで、実際に実行した奴を見るのは初めて。
本当にローは自分の命を引き換えにして戦っている。
辰馬が合成神獣キメラに変身したことは玲はびっくりしたものの、ショックはなかった。姿が変わろうが辰馬なのだから。
何より、玲を守るために戦ってくれている。
死ぬこともいとわず攻め込んてくるロー、徐々に辰馬は追い詰められていく。
「このままじゃ、辰馬くんがやられちゃう」
心の底から玲は辰馬を助けたいと思った。
“ねぇ、あなた、あの人を助けたい?”
心の中に声が聞こえてくる、妙に色っぽい声。
“助けたいなら、力を貸してあげるわよ”
それが誰の声か玲には解っていた。それが悪魔の誘惑だと解っていた、それが間違っていることも解っていた。
それでも、辰馬を助けたい気持ちが勝った。
頷く玲。
追い詰められる辰馬、このままではやられる。
「さらばだ」
止めを刺そうと爪を振り上げた時、
「はっ」
玲の両手から衝撃波が放たれる。
「!」
完全に予想しなかった位置からの攻撃はローにクーリンヒット。
仰け反るロー、このチャンスを辰馬が見逃すはずはない、勇者の剣で一刀両断。
斬られ倒れるロー。髪の毛は真っ白、顔も腕も皺が走り、まるで老人、力を使い果たした代償。
正直、何が起こったのかは解らないが、これだけは確信できる、玲が助けてくれたこと。
お礼を言おうと玲を見た時、急に苦しそうに蹲る。
「玲!」
辰馬が駆け寄る。
「ふふふふふ」
蹲った体制のまま、軽い笑い声が聞こえてくる。
「玲?」
再度、近づこうとすると、
「ふふふふふっはっははははははははは」
笑いながら立ち上がる、その顔は玲であって玲ではなかった。
辰馬の脳裏にも、ココネの脳裏にも、嫌な予感が走る。
「ついについに乗っ取れたわ、この体は私の物よ」
悪い予感程、よく当たる。
玲、魔女ルシーカに乗っ取られた玲は辰馬とココネの方を向く。
「駄目ね、まだ攻撃魔法は使えないみたい」
ならば今が倒す最大のチャンス、しかし辰馬の体は動かなかった、ココネも辰馬の親友に手を出せないでいた。
「まぁいいわ、こんな男の子の体が手に入ったんだもの、今は見逃してあ・げ・る」
玲の顔で魔女ルシーカがニヤリと笑うと、何処かへと転移してしまう。
最も避けたかった最悪の事態になってしまった。
「くそったれ!」
辰馬の叫びが虚しく響き渡る。
ついにルシーカに乗っ取られてしまった玲。