第15章 襲撃
何とか秘密基地に逃げ込んだ辰馬たち。
しかし、ローとエイダは諦めない。
早朝、枕元に置いたスマホの振動で玲は目を覚ました。
寝ぼけまなこのまま出てみると、
『一体、どこにいるんだ、とても心配しているんだぞ』
相手は父親の正太郎。
「ごめん、心配かけて。今、辰馬くんと秘密基地にいるんだ」
父親は辰馬のことを全面的に信頼している、多少なりとも安心してくれるはず。
『秘密基地? それはどこのことだ』
あれ?とは思いはした、父親なら秘密基地のことは知っているはずなのに。ねぼけてたこともあり、詳しく場所のことを話してしまう。
☆
片手でスマホを持ったまま崩れ落ちる正太郎。
「殺したのか?」
問うてくるローに、エイダは首を横に振る。
「気絶しただけだ、人間でも関係のない奴は殺しはしねぇよ、ここは異世界だしな」
毒で操っただけ。
「まっ、私自身は殺さないさ」
にやりと笑うエイダ。
「これでルシーカの心臓のありかは解った」
場所が解ればすぐに向かうべし、倒れたままの正太郎を放置してローはエイダと共に部屋を出ていく。
☆
朝、ほぼ一緒に目を覚ます、辰馬、玲、ココネ。
昨日、買ってきた缶詰で朝食を済ませ、今後のことを話し合う。
「話し合いで解決できないかな……」
それが叶えば一番いいのだが、
「それは無理なのです」
ココネにはっきり無理だと言われ、がっくりする玲。
辰馬から見てみてもローとエイダのあの様子からして、説得は不可能だろう。2人ともルシーカの心臓破壊が最大の目的。
「何だ?」
秘密基地の外で笛の音が聞こえてくるので、何事かと辰馬は窓から外を見てみる。
そこには多くの人が立っていた、誰も彼も目が虚ろで正気でないのは明白、まるでゾンビ。それぞれの手にはバット、シャベル、つるはし、バールなどが握られているではないか。
笛の音が変わったかと思うと、一斉に襲い掛かって来る。
慌てて窓から離れる辰馬。
バット、シャベル、つるはし、バールを振り上げ、壁、窓、ドアを破壊し始めた。
「何なんだよ、これ」
状況が掴めないままでも、辰馬は怯える玲を守っている。
「これはエイダの人操りの毒だにゃ」
説明しながら、ドアを壊して雪崩れ込んできた人たちを風の魔法で吹っ飛ばす。
「エイダの使える毒の一つで、注入した相手を笛の音でコントロールするのだにゃ」
話しながらも敵をふっ飛ばしていく。
辰馬も玲の前に立ち、振り下ろされるバット、シャベル、つるはし、バールを躱し、ぶん殴っていく。
相手は操られているだけ、その事を踏まえて殴っていく。ココネも理解してくれていて、風の魔法を放つ。
幾ら武器を持ち、数は多くとも動きは鈍く攻撃方法も変化なしなので、短い時間で全員を倒すことが出来た。
何とかなった、後はエイダを見つけるだけと思った矢先、鳴り響く笛の音。
すると、倒れていた襲撃者が次から次へと起き上がり、再び襲い掛かって来る。
「なっ」
驚いている暇などない、辰馬は襲い掛かって来る相手を殴って倒しても、また起き上がって来る。
いわば敵は人形のようなもの、気絶することはなく、何度倒しても起き上がってしまう。倒す方法は殺すしかないのか。
しかしは敵は操らているだけの一般市民、殺す何でまっぴらごめんである。
かといって、このままではジリ貧、先に体力が尽きてしまうのは辰馬たち。
正しく危機的状況。
「くそっ」
思わず辰馬は毒気ついてしまう。
秘密基地からは死角になる路地、横笛を吹いているエイダ。笛の音を辿れば、辰馬たちもこの場所が解るのだろうが、そんな余裕はない。
こうやって肉体的にも精神的にも、追い込んでいく。
突如、衝撃が腹部を貫く。
後ろを見てみれば、そこに立っていたのはバーニー。
「き、貴様」
背後から貫いた剣を引き抜くと、とどめとばかり上から下へ切り捨てる。
カランとアスファルトで舗装た道に、二つに割れた笛が転がる。
今の今まで暴れていた襲撃者たちが、糸の切れた人形のようにバタバタと倒れて行く。
ピクリとも動かない襲撃者たち1人の脈を辰馬は確かめてみる。生きてはいる、どうやら気を失っているようだ。
何が起こったのかは解らないが、助かったことには違いない。
この場所はバレてしまった、もう秘密基地にはいられないだろう。
早々と荷物をまとめ、出ていくことに。
出ていくとっても行く当てがあるわけではないが、幸い地の利はこちらにある。
出来るだけ、街を離れることにした。
秘密基地を出る時、《うふふふ》女性の笑い声が聞こえた気がした玲は振り返ってみたものの、そこには誰の姿も見当たらない……。
バーニーのお陰で危機を出した辰馬たち。
次に向かう先は……。




