第13章 ルシーカの心臓
けもみみたちの日本での2日目。
屋上に戻ってきた辰馬。
「おかえりなのです」
みみをぴくぴく、しっぽをふりふり。
玲のことを話そうと思ったが、けもみみたちにとって一番重要なことは魔女ルシーカの心臓、本題に入ることにした。
「こっちに帰ってくるまでは魔女ルシーカの心臓の気配を感じていたんだけど、今は消えている」
何故か、いきなり気配が消えてしまった。
「どういうことなんです」
首を傾げるココネ。
「魔女ルシーカの心臓がくたばってしまったってことはないか」
「無いだろうな」
「だろうな、そんなうまい話」
ローの指摘に頭を掻くエイダ。
「ただ、この町のどこかなあるのは確かだ」
屋上から、生まれ育った街を見渡す。気配を感じなくなるまで、間違いなく、この街のどこかに魔女ルシーカの心臓の気配感じていた、しっかりと。
時間も時間だったのでココネ、エイダ、ローは近くのビジネスホテルに宿泊。
ローとエイダは慣れているから野宿でいいと言ったのだけど、それではあまりにも忍びないから、手ごろな値段のビジネスホテルをネットで見つけ出す。
ココネ、エイダ、ローはビジネスホテルの部屋に入った。
物珍しいもが幾つもあったが、今夜はすぐにベットに入る。初めて地球の日本に来て、いろんな意味で疲れていたので。
まどろみながら、ここまで起こった出来事をココネは思い出していた。
異世界転移、異世界へ行くための準備、辰馬の故郷に来たこと。
“異世界へ行くための準備”記憶が刺激される、何か重要なことを忘れているような気がする。
「ムムムムム~」
記憶を弄り、頑張って忘れていることを思い出そうとする。
ぼわわわわんと頭に情景が浮かび上がってくる。神殿に女王ティネムに呼び出され、手渡される木箱……。
「にゃー、思い出したのです!」
翌日、これ以上休むわけにもいかないので、辰馬は学校へ。
その間、ココネは思い出した物の準備をしておく。
放課後、公園に集まる辰馬、ココネ、エイダ、ロー。
「これを見てくださいなのです」
取り出した木箱の蓋を開ける、中に入っていたのは一見するところ蝶々のおもちゃ。
「これはティネム様から渡された、魔女ルシーカ探知機なのです」
一同の目が木箱の中の蝶々に注がれた、これが魔女ルシーカ探知機。
「これは魔女ルシーカの気配を感じると、そこまで飛んで行くらしいのです。もちろん、魔女ルシーカの心臓にも反応するのです」
木箱の中の蝶々には、そんな機能があるのか。辰馬たちが地球の日本へ行くことになった際、急遽、ティネムが作り上げたマジックアイテム。
「何故、黙っていた?」
と問うローに対し、
「珍しいものばかりで夢中になって、忘れていたのです」
謝りながら、てへぺろ。
「何はともあれ、動かして見ようぜ」
咎めることもなく、エイダは蝶々を動かすことを促す、今はそれが一番大事。
「はい、解ったのです」
ココネがスイッチを押すと、パタパタと羽を動かし、蝶々は木箱から飛び出す。
くるっと一周回った後、一つの方向に飛んでいく。
蝶々の向かう先に、魔女ルシーカの心臓があるはず。辰馬、ココネ、エイダ、ローは後を追う。
羽を動かして飛ぶ姿は蝶々そのもの、マジックアイテムだと知っている辰馬、ココネ、エイダ、ロー以外は、本物の蝶に見えただろう。
飛んで行く蝶々を追いながら、進んで行く道に辰馬は見覚えがあった。
『この道は……』
何か嫌な予感がする。
パタパタと羽を動かし、蝶々は綾瀬総合病院へ入っていく。
『何でこんなところに……』
嫌な予感がレベルアップ。
蝶々は中庭に入り、ベンチに座る少年の膝に止まる。
少年は顔を上げ、辰馬と目が合う。
「辰馬くん、来てくれたんだね」
笑顔で挨拶する玲、膝の上の蝶々を不思議そうに見つめる。
ローが走る、鋭い爪を伸ばして玲に向け、一気に振り下ろす。
「わっ」
突然のことに玲は驚く。
金属音が鳴り響いた。
瞬時に玲の前に移動した辰馬、出現させた剣で爪を受け止める。
「何のつもりかね、勇者殿」
「玲は俺の親友なんだよ」
状況が掴めない、玲はおろおろ。
剣と爪の鍔迫り合い、辰馬もローも一歩も引く気無し。
何が起こっているのか、辰馬は理解した。経過までは解らなくとも、玲に移植された心臓が魔女ルシーカの心臓なのだと。
つい今しがたまでは魔女ルシーカの心臓は破壊するつもりだった。だが、辰馬にとって一番大事なのは玲。
ルシーカと戦ったのも、玲の心臓を治療するために万能薬を手に入れるのが目的であった。
エイダが動く。
「ココネ、玲を連れて逃げてくれ」
殆ど直感だった。ココネもけもみみ、本来なら魔女ルシーカの心臓を破壊する側。だけど、今、頼れるのは彼女たけ。
「解ったのです、にゃー」
迷いは無かった。戸惑っている玲をお姫様抱っこして走り出す。
「何やってんだ、ココネ」
ココネを追うエイダ。
頑張って走るココネ、追うエイダ。
中庭を駆け抜ける、ココネの足は速いがエイダの足も負けてはいない、猫と蛇の追っかけっこ。中庭にいた看護師や患者、見舞客が2人を見るが、そんな視線にかまっている余裕はない。
何が起こっているのか理解が追い付いていない玲、正しココネが守ってくれようとしていることは解る、辰馬とも信頼しあっているようだし。
今は信じて、ココネに任せる。
必死に走っていたココネではあるが、ついにエイダに追いつかれてしまう。
エイダはココネごと玲に巻き、締め潰そうとする。
「アレルリバーワ、防壁を我らを守れ!」
魔法の防壁を張り、わが身と玲を守る。
ギリギリと締め上げるエイダ、ミシミシと魔法の防壁が軋む。
意識を集中させ、魔法の防壁に力を注ぎこみ、頑張って維持させる。
頑張ったけど、エイダの力は凄まじく、先にココネの限界が来てしまう。
罅がいたるところに入る魔法の防壁、今にも割れそうになった時、慌ててエイダは飛びのく。
足元に刺さっている短剣、飛んできた先を見ればちょい悪兄ちゃん風の服装のバーニーが立っているではないか。
「ルシーカ様の心臓は私が守る」
剣を抜き、向かってくる。
「テメーも、こっちに来ていたのかよ」
毒を吐きかける。
飛んできた毒を剣で払い飛ばすバーニー。
軽くバーニーは顔を横に振る。それが逃げろの合図と理解したココネは、ありがたくそれに従う。
エイダは追おうとしたが、バーニーが許さない。
辰馬、ロー双方の剣と爪の鍔迫り合いは続く。
サイレンの音が近づいてくるのが聞こえた、どうやら誰かが警察に通報したらしい。
やばい、その思いが辰馬の脳裏に駆け巡る。
警察の話を聞いていたローも、このままではやばいことになることを理解。
ほとんど当時に後ろに飛んで距離を取る。
サイレンを鳴らしたままパトカーが止まり、こちらに来る警官の姿が見えると同時、辰馬とローは逃げ出す。
逃げる辰馬、どこへ行くべきなのかは心当たりがあった。
玲が一緒なら、きっと、あの場所へ向かうはず。
今までの味方が敵に、敵が味方に。




