第12章 移植された心臓
玲くんの心臓移植は無事に成功しました、しかし……。
「面白い世界だな、ここわよ」
雑居ビルの屋上、街を見回すエイダの緑の髪が風に靡く。
辰馬が綾瀬総合病院に行っている間、この世界がよく見える場所に行きたいと言ったら、ここを教えられた。
「うん、そうだよね」
ココネも同意。日本へ来る前、話には聞いてはいたが実際に見るとでは大分違う、百聞は一見に如かず。
「本当に平和な国なのだな」
騎士として常に前線に立ち続けたローにしてみれば、戦争のない国は輝いて見える。
アニマル世界の住人たちにとって、珍しいものが多すぎる。
辰馬もアニマル世界に来た時、珍しいものが多くて驚いたんだけどね。
ずっと見続けていても飽きが来ない、こうやって日本のことを学ぶのは良いこと。
屋上のドアが開き、
「差し入れだよ」
辰馬が入って来る。玲の麻酔はしばらく消えそうにないので、様子を見に来た。
コンビニで買ってきた豚まんを買い物袋から出して、みんなに配る。
鼻をヒクヒクさせ、匂いを嗅ぎ食べ物と解ったココネが、早速、かぶりつく。
「ホカホカで美味しいです」
喜ぶココネを見て、エイダとローも食べてみる。
「うんめー、外側はふんわり、中から肉汁が出てきやがるぜ」
「ほう」
どうやら、みんな豚まんがお気に召した様子。
親友の玲が手術をしたこと、万能薬は必要なくなったこと、手術は無事に成功、今は眠っていることを伝えた。
「それは良かったのです」
ココネは我がことのように喜んでくれた。
ローとエイダはあまり関心を示さない、2人にとって一番大切なのは魔女ルシーカの心臓を発見して破壊すること。
辰馬とは親しくなったとはいえ、その友人までも含まれないローとエイダにしてみれば。
ふと腕時計を見てみると、そろそろ麻酔の切れる時間。
「俺、一旦、病院へ戻るよ」
綾瀬総合病院へ向かう。
夢現の中、トックントックンと鼓動が刻む度、“力”が玲の全身を駆け巡り、体を作り変えていくような気がした、健康で丈夫で強固なものへと。
健康になりたい丈夫になりたい、ずっとずっと思っていたことなのに何故か不安がぬぐい切れない。
『ふふふふふふふ』
耳元で女性の笑い声が聞こえたような気がした。妙に色っぽく、嫌な感じをぬぐい切れない。
その笑い声を聴いていると、玲の中にある不安が膨らんでいく……。
ゆっくり玲の目が開く。
「玲」
「玲!」
父親の正太郎と親友の辰馬の声がした。ふとベットの横を見れば、そこには今にも泣きだしそうな正太郎と辰馬が立っている。
「何か体に異常はないか?」
正太郎が聞いてくる。
「うん、全然、異常はないよ」
半身を起こす。正真正銘、異常はない。辛さはなく、以前のような重さもなく、むしろ快適。
これが心臓移植の効果なのだろうか?
「拒絶反応はないようだな。この様子だと、リハビリも早く済みそうだ」
正太郎の父親と医者の混じった微笑み。
「良かったな、玲」
純粋に玲の回復を喜ぶ辰馬の笑顔。
2人とも心の底から、喜んでいる。
病室から出た辰馬。あの様子だと、正太郎に任せておけば心配はないだろう。
ならば、もう一つのやるべきことやる、魔女ルシーカの心臓を見つけ出す。
自分の生まれ育った、この町のどこかにあるのは間違いない。
ココネたちと合流するため、病院を出る。
辰馬も正太郎も出ていき、玲は病室に一人。
テレビでも見ようかとリモコンを探してみれば、ちょつと離れた位置にあり、手を伸ばしてみても届かない。
立ち上がって取ろうとした矢先、ひとりでにリモコンが宙を飛んで玲の手の中に収まる。
「何、これ?」
一体、何が起こったのか理解が追い付かない。
トックントックンと移植した心臓は正常な鼓動を刻む……。
豚まんを発明したのは諸葛亮なんだってね。




