第9章 決戦 五獣勇者VS魔女ルシーカ
辰馬たちと魔女ルシーカの直接対決。
四天王最強のクーウォムと精鋭の魔女騎士たちを倒した辰馬とココネ、ローとエイダ、けもみみ騎士たちは散らばって、けばけばしい洋館内部を探査を始める。
残る敵は魔女ルシーカのみ。
悪趣味な洋館内部は広くて探索は簡単ではなかったが、敵の襲撃に会うこともなく進む。
正し相手が相手だけに、油断は禁物。
洋館のあちらこちらには美青年や美少年の絵や石膏像が飾られている、中には2人並んだ作品までもあり。
辰馬とココネは一緒になってルシーカを探していると、
「いたぞ、魔女ルシーァグアァァァァァァァ!」
けもみみ騎士の絶叫が聞こえてきた。
声の位置は大体特定できる、辰馬とココネは急ぐ。
ローとエイダ、他のけもみみ騎士たちは声の聞こえてきた部屋へ。
洋館の奥まった場所にある大広間にルシーカはいた、傍はバラバラに引き裂かれたけもみみ騎士2人の遺体。
以前、夢で会った時と同じ真っ赤なドレスを着た赤毛のグラマーボディの美女、こいつが魔女ルシーカ。
夢で見た以上に受ける、嫌な感じ。
「ルシーカァァァァァァァァァァァ!」
ついに魔女ルシーカを見つけた喜びと仲間を殺された怒りで、けもみみ騎士たちが一斉に襲い掛かる。
「よせっ」
ローが止めたが間に合わず、邪悪さが隠されることなく溢れ出ている妖艶な笑み浮かべたルシーカが手を上げると、襲い掛かったけもみみ騎士たちが一瞬でバラバラに引き裂かれた。
「貴様ッ」
普段、冷静なローとは思えないような怒りを表し、爪を伸ばす。
エイダも静かだが怒っている。
ココネの手首の女王ティネムから与えられたブレスレットが輝く、
「敵を貫け、魔撃の矢、アクッロジーマ」
強化された魔法の矢がルシーカに放たれる。
なんとルシーカは魔法の矢を素手で掴み、握り潰してしまう。
死角を狙い、斬りかかるロー。
ローの爪を躱し、襟首を掴んでローを投げ飛ばしたところへ、エイダが毒を吐きかける。
左手に黒く輝く盾を生み出し、毒を防御しながら接近、エイダを蹴っ飛ばす。
生き残っていたけもみみ騎士たちは攻撃を仕掛けるが、右手の一振りでふっ飛ばされる。
一対多数の戦いをものともせず、圧倒して見せるルシーカ。
予想以上の強さ。
起き上がるローとエイダ、けもみみ騎士たち、ダメージは少ない、まだまだ戦える。
邪悪な笑みを浮かべるルシーカは魔法を放とうとする。
あのままではローたちが攻撃するよりも早く、魔法が発動するだろう、ココネの魔法も間に合わない。
ならばと、辰馬は意識を集中させる。
「がおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
力強い咆哮がルシーカの魔法を打ち消す。
最強の四天王、クーウォムを倒したヴェークラレイスの登場に、けもみみ騎士たちの歓声が上がる。
「それが獣王ヴェークラレイス。なるほど、クーウォムを倒しただけはあるわね」
ペロッと舌なめずり、そこには獣王ヴェークラレイスに変じた辰馬を恐れる様子は皆無。
瞬時に間合いを詰め、辰馬は分厚く長い剣で斬りつける。
絶妙のタイミングで行われた攻撃だったのに、魔法で生み出された黒く輝く盾で受け止められてしまう。
分厚く長い剣を両手持ちにして強引に力で押し付けるが、ルシーカの力も全く負けておらず、逆に押し返す。
対格差からは考えられないルシーカのパワー。
背後はがら空きで無防備、そう見えたけもみみ騎士たちが爪で斬りかかる。
「あたしの腕が2本だけだと思っていたのかしら」
薄ら笑いルシーカの背後に太くて長い黒い腕が8本生み出され、けもみみ騎士たちを殴り飛ばす。
さらに8本の腕は辰馬も殴りつける、さしものヴェークラレイスも8本の腕の腕に殴られては後方へ飛ばされた。
2人同士に攻撃を仕掛けたローとエイダは、本物の手の指先から放たれた雷撃を受け床の上をのたうつ。
「敵を貫け、幾多の魔撃の矢、アクッロジーマ連!」
何発もの魔法の矢をココネは放ったが、目にも止まらないスピードで全て避けられてしまう。
「あっはははははははははははははははははっ」
勝ちを誇り笑い声を上げるルシーカ。
最強の神獣、獣王ヴェークラレイスでも歯が立たない、強すぎる魔女ルシーカ。
誰が見てもどこから見ても、辰馬たちには勝ち目がない。
絶望の中、あきらめかけた時、辰馬の心の中に玲の笑顔が浮かんだ。
そう、ここで負けてしまったら、玲も助けることが出来ない。
『諦めてたまるものか!」
強く辰馬が思った時、とんでもない妙案が思い浮かぶ。
成功するかは核心は持ってはいなかったが、妙案を実行するため、“力”を全身に漲らせる。
辰馬は新たに変身した。それは剛獣ヘルロムートでもない旋獣グーガサインでもない甲獣クラタスでもない翼獣ルーシグムでもない獣王ヴェークラレイスでもない、否、その全てである。
五柱の神獣を同時に変身して見せたのだ。
獅子の頭に背中には大鷲の翼、鎧のように外骨格を纏い、獅子と熊と豹の6本の腕、足に生えているのは大鷲の鈎爪。
合成神獣キメラ。これこそが辰馬の編み出した妙案、成功するかどうかは賭けてはあったがうまくいった。
「お手並み拝見させてもらうわ――よ!」
合成神獣キメラを目の当たりにしても余裕を崩さないルシーカ、雷撃を指先から放つ。
どこからともなく獅子の右手に現れた分厚く長い剣が、黒い雷撃を吸い込む。
分厚く長い剣を振い、吸い込んだ雷撃を返す。
慌ててルシーカは躱す、外れた雷撃は背後の壁に穴を穿つ。
「ふ~ん、中々、やるじゃない」
無数の矢を生み出し、一気に放つ。
獅子の腕で顔をブロック、クラタスの外骨格が矢をことごとく弾き、かすり傷さえも負わない。
太くて長い黒い8本腕が一斉に殴り掛かる。
豹の腕の両手に現れた細く長い剣を振るう。
振るわれた細く長い剣は蛇のようにうねり、絡みつき、黒い8本腕を切り刻む、
いつの間にかに熊の腕に握られていた大鉈が、ルシーカの頭目掛けて振り下ろされる。
黒く輝く盾で受け止めたのも一呼吸の間だけ、バラバラに砕かれる。
慌てて後方へ飛び、大鉈を避ける。
砕かれた黒く輝く盾の欠片は、霧状に霧散。
後方へ逃げたルシーカとの間合いを一瞬にして、詰める辰馬。
さらにルシーカが後ろへ逃げても、瞬く間に間合いを詰める。
分厚く長い剣で斬りつければ、ルシーカは空中に逃げる。
大鷲の翼を羽ばたかせ、空中に逃げたルシーカを追う。
剛獣ヘルロムートのパワー、旋獣グーガサインのスピード、甲獣クラタスの外骨格装甲、翼獣ルーシグムの翼、神獣を束ねる獣王ヴェークラレイス。
五柱の神獣の力全てを兼ね備えるキメラ。
空中でもみ合い落下、着地ともに距離を取るルシーカと辰馬。
詠唱なしでルシーカが魔法を放つ、本来ならば強力な攻撃魔法なのだろうが、ヴェークラレイスの咆哮が打ち消す。
「チッ」
舌打ちしたルシーカ、魔法で生み出したスピアを投擲。
風を切りながら飛来するスピアをまるで羽虫のように、ヘルロムートの腕が叩き落す。
スピアを叩き落され、ほんの一瞬、ルシーカは動揺を見せる。
その一瞬を辰馬は見逃さない。
6本の腕のそれぞれに分厚く長い剣、細く長い剣、大鉈を両手に持ち、五色のオーラを身に纏い、全力を持って突進。
「この私、魔女ルシーカをなめないでね!」
多重構造のバリアを張り、防御態勢を整える。
突進する辰馬、多重構造のバリアをまるで薄いガラスようにに割りながら、ルシーカに向かう。
すぐさま新たな多重構造のバリアを幾つも張るものの、辰馬の突進を止めることは出来ない。
全ての多重構造のバリアを割り、ルシーカを6本の腕に持つ6本の剣で斬りつけた後、体当たりを食らわせ、身に纏った五色のオーラを解き放つ。
悲鳴さえ上げることさえ出来ず、魔女ルシーカの体は木っ端微塵に砕け散る。
「!」
この時、辰馬は違和感を感じた。
砕け散ったルシーカの体は跡形も残さず、消えていく。
最初、あまり実感は湧かなかった。ただ、じーぃとけもみみ騎士たちはルシーカが消えた場所を見つめていた。
何も変化は起こらない、そこには激しい戦闘の痕跡があるのみ。
徐々に魔女ルシーカを倒したという実感がけもみみ騎士たちの間に広がり始め、
「……魔女ルシーカを倒したぞ」
一人のけもみみ騎士の発言をきっかけに、一気に歓喜の声が広がる。
沢山の犠牲者が出たが、今は勝利の喜びに浸っている。
「やったのか……」
ふらつきながらも、ローは呟いた。
「やったじゃねぇか、五獣勇者」
自身のダメージもものともせず、エイダも大喜び。
「やった、やったりです、五獣勇者様~」
飛びついてくるココネ、頬をすりすり、喉がゴロゴロ。
変身を解く辰馬、その顔を見たココネはすりすりを止めた。それだけ辛辣な顔をしていたのだ。
「魔女ルシーカは完全に倒せていない……」
絞り出すよう声で言った。
「それはどうゆうことだ」
その言葉は祝福をしようと近づいて来ていたローにも、エイダにも聞こえた。
「心臓が無かったんだ――。あの魔女ルシーカには心臓が無かった。心臓を破壊しない限り、魔女ルシーカを完全には滅ぼせない、いずれ必ず復活する」
それがルシーカを倒したときに感じた違和感の正体。
幸いこのことは勝利に喜んでいる、けもみみ騎士たちには耳には届いていなかった。
「じゃ、その心臓はどこにあるんだい? まさか、解らないって言うんじゃないだろうな」
絡んでくるようなエイダの問いかけに、首を横に振った。
辰馬には見えていた、ビジョンが脳内に飛び込んできた、ルシーカを粉砕した瞬間、心臓の隠し場所が。
「地球の日本にある俺の住んでいたところに」
魔女は自分の心臓をトランプに変えて隠し、それを壊さない限り魔女は倒せないと聞いたことがあります。




