表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第四話 宣戦布告?

 穏やかな春の日差しが、教室に入ってくる。朝はカーテンを閉めていないと眩し過ぎたが、今は日が動きカーテンを閉めていなくてもよくなった。

 開け放った窓から、緩やかな風が時折教室に入ってくる。カーテンを翻した風には、庭に咲き誇る花々の芳香が混じっている。春特有の緑の匂いだ。

「また、来たんか。つぼみ」

 疲れたような声音で、秀は自分の席の傍らに立ったつぼみを見上げた。つぼみはここ数日、昼休みを除く休憩時間に必ずと言っていいほど、秀のクラスに遊びに来ていた。

「だってー、カナエちゃんとこのクラスは遠いし、お昼は一緒に食べる約束してるし。ユメちゃんとテッペーんとこ行ったら、なんや幸せオーラにあてられてへろへろになるし。その点、秀ちゃんとこは隣のクラスやから来やすいねん」

 にひっと笑うつぼみに他意はないようだ。

 秀は一つ溜息をつく。

「悪いけど、俺んとこ今から体育やねん。着替えなあかんし行くわ」

 そっけなく言って立ち上がった秀に、つぼみは唇を尖らした。

「むう。秀ちゃん冷たい。もっとウチにかまってよー」

 秀の腕を掴んで揺さぶると、秀は珍しく満面の笑みを浮かべた。つぼみは秀が笑顔なのに目が笑っていないことに気づく。

「俺、今から体育やって言うたよな?」

「うん」

「教室帰れ」

「むぅ」

 頬を膨らませたつぼみを残して、秀は教室を出て行ってしまう。

 気づけば、いつの間にか教室は閑散としていた。教室に残っている生徒は片手で足りるほどの人数しかいない。一人残されたつぼみは、肩を落として教室を出て行こうとした。

 その背に、声がかけられる。

「なあ、ちょっと。野山さん」

 振り向くと、見覚えのある少女がいた。大きな目の可愛らしい少女だ。肩まで伸びた髪を花柄のピンでとめている。どこか可憐な雰囲気を持つ少女だった。女の子らしい女の子とでもいおうか。つぼみとは正反対のタイプに思えた。

 つぼみは、この少女に見覚えはあるのだが、名前は知らなかった。同じクラスになったことはないはずだ。小中と、同じ学校に通っている可能性が高いから、たまに廊下などですれ違ったりしていたのかもしれない。

「えっと、何? っていうか誰やったっけ」

 聞かれて、少女は顔をゆがめた。つぼみの聞き方が気に障ったようである。当のつぼみは全く気づいていないが。

「野山さんって、栗原君の何なん」

「何なんって、友達やけど?」

 いきなり、挑むように睨まれて、つぼみは当惑する。少女は、可愛い顔に嫌悪をにじませていた。

「はっきり言わせてもらうけど、かなり迷惑してるで、栗原君。毎日毎日休憩のたんびにくるなんてどうかしてるわ。同じクラスやないんやから、もうちょっと自重してもらわな」

 秀ちゃんが、迷惑している?

 つぼみは、少女の言葉を頭の中で反芻した。言葉の意味がゆっくりと脳にしみわたって、つぼみは声を上げた。

「ちょっと、何なん急に。秀ちゃんが迷惑してるわけないやん。ウチら友達やのに」

「友達って、そっちが勝手に思ってるだけちゃうん。いつも、あんたが来ると栗原君迷惑そうな顔してるやん。気づかんかったん?」

 言われて、つぼみは秀の顔を思い浮かべた。そういえばさっきも、秀は、また来たんかと疲れた声を出していた気がする。

 いつものことやから気付かんかったけど、ウチもしかして秀ちゃんに嫌われとったんやろうか。テッペーたちとおりたいから、仕方なくウチと一緒におったんやろうか。

 そんな嫌な考えが頭に浮かぶ。嫌な考えだが、それが真実のような気がしてならない。秀は、女の子らしい子が好きなのだ。たまに男の子に間違われるようなつぼみではなく、そう、目の前のこの子みたいに。

「ウチ、嫌われてるんかな」

 呟くようなつぼみの声を聞き、前に立つ少女はどこか勝ち誇ったような顔をした。

「やっと気付いたん? わかったんやったら、さっさと帰り。もう二度とウチのクラスに来んといてな」

 じゃあ、と少女は駆けて行く。

 つぼみは、誰一人として居なくなった教室に、休憩終了のチャイムが鳴るまで、一人佇んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。↓
cont_access.php?citi_cont_id=432008152&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ